表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

369/465

次なる目的地



 番人アストラを倒した後、ウェズンはこれからどうすればいいんだ……? と当然のように思ったし、結果としてしばらく周辺の建物を含め行けそうなところを彷徨う事となった。


 移動する間、やはり様々な媒体で番人に関する情報が流れていたが、改めてゆっくり見よう、とは思わない。

 というのも、ワイアットは番人が一人とは言っていなかったからである。


 最強の、とつくようなのが複数いる時点でそれもう最強でもなんでもないだろうとか言いたいが、のれん分けした店が元祖とか本家とか名乗るようなノリで他にもいる可能性を考えた結果と言えばそうだった。


 あとは四天王にありがちな、奴は番人の中では最弱……! みたいなパターンとか。


 それ以外にも、アストラというのは個体名ではなく守護者に与えられるもので、アストラという名以外で個体識別ができるとか、そういった可能性も考えていた。つまり、ウェズンが倒したアストラ以外にもアストラという守護者がいる説。


 とはいえ、それはこの都市の事をほとんどなんにも知らないウェズンの考えであって、実際のところ最強の守護者と呼ばれていたのはあのアストラだけだ。つまりウェズンのこの心配は杞憂ともいえるものなのだが、本人はそれを知るきっかけも何もないままだった。


 三人で転移したにも関わらず、ワイアットとルシアと到着地点が異なったという時点で、ウェズンはこの都市の情報を得る機会がほぼなくなったとも言える。

 もしまだ他にアストラと言う名の番人がいたとして、それらの情報がこの周辺で流れている映像や音声に含まれていたとしたら。

 そこらに貼られているポスターは最早完全に視界から消去できるくらいに気にしていないけれど、映像や音声はうっかりすると認識してしまいそうになるので、気持ち視線を足元に落としたままウェズンは現在ほぼ人のいない都市の中を移動していたのである。

 アストラが集めて演説を聞かせていた相手は、一向に目覚める様子がなかったので彼らが起きるのを待つ、というのは諦めた。

 そうでなくともアストラを殺しているのだ。

 彼らの目が覚めて、その事実を認識したら。


 アストラが彼らにとってどういう存在であるかにもよるが、まぁ、あまりいい結果にはならないだろう。

 人殺しと叫ばれて、集団パニックを起こされてしまうとウェズンも流石に対処できなくなる。


 彼らの目が覚める前にアストラの死体を処分すれば、話し合いの可能性はまだあるけれど、しかし気絶する前にいたアストラがいないという時点でそれを不思議に思う者は絶対に出る。その場合ウェズンは上手く誤魔化せる自信がなかった。下手なことを言って、それが彼らにとって致命的な嘘であると発覚した場合、その時点でウェズンは彼らから情報を得るのは不可能になると言ってもいい。


 用事があって立ち去った、なんてありがちな事を言ったとして、何処に行くと言っていたのか、とか突っ込まれては答えようがない。そうして言葉に詰まったり態度にそういったものが出た場合、信用される事はないだろう。疑うことを知らない、という者が一人くらいいたとして、それでも多くは疑問を持つ。その場の勢いで乗り切れる程、ウェズンはうまく立ち回れる気がしなかった。

 もう少しテラプロメに関して詳しい情報があったなら、多少納得できる嘘を吐くこともできたかもしれないが、自分にとって未知の場所で、それっぽい嘘を自然に吐け、となると流石にそれは難しすぎる。


 下手に周囲の情報を得て、もし他のアストラがいたならそちらが強化される形となったとして。

 そうなると、次のアストラにウェズンが勝てるかは怪しい。

 そもそもいないのだが、ウェズンはその事実すら知らないので。

 可能性を捨てきれず、現状動きあぐねていたのである。


 周囲の余計な情報を見ないように知覚しないように気を付けながら、ともあれワイアットかルシアのどちらかと合流できないだろうか、と考えて。


「あ、そうだモノリスフィア」


 ここで、今更のように思い出したのである。

 もっと早くに思い出していたならば。

 というか、それ以前に。


 向こうがどういった状況であるかはわからないが、それでもワイアットと連絡先を交換していたのであれば。


 アストラを名乗る番人が他にもいるのか、くらいは聞けたし、もし一人しかいないと判明したのであれば、周辺の情報を心置きなく集める事ができるはずなのだ。


 ところがウェズンはワイアットと連絡先を交換する事はないままに、このテラプロメにやってきてしまったのである。


 ルシアのモノリスフィアがあるだろうから、まぁどうにかなるだろ、みたいに楽観視していた部分は否めない。

 だが肝心のルシアも今どうなっているのかは不明だ。

 高確率でワイアットと行動し、何か囮みたいな扱いを受けてるんじゃないかなぁ、とは思うのだが。


 実際その考えで間違ってなかったし、現在は既にワイアットとルシアも別行動していると知らないウェズンは、それ故にルシアへの連絡も躊躇った。


 今ここでメッセージを送ったとして。

 それが結果的にあの二人を窮地に陥らせるような原因になってしまったら、と考えてしまったのだ。

 よくある展開で例えるならば、隠れている時にその場からこっそり逃げようとして小枝踏んで思った以上に大きな『ポキッ』という音が出てしまった時のような。

 小枝はまだ自分で注意を払えるが、着信音のようなものが出てしまった場合はどうしようもない。

 周囲が騒がしければヴーッというマナーモード状態の音なら気付かれないかもしれないが、周囲が想定以上に静かな場合その程度の音ですら死亡フラグになりえるので。


「ワイアットなら、なんかどんな状況でも問題なさそうではあるんだけどなぁ……」


 正直アイツがピンチに陥ってる図が想像できない。

 周囲を敵に囲まれていてもキル数稼げるやったーとか言い出しそうだし、強敵相手にして勝てないだろう状況に追い込まれた上で更に突然の連絡がきた、となっても何かどうにかなってそうな気がする。


(そう考えるとあいつがむしろ主人公なんじゃね? って気がしてくるな)


 ワンチャンありかもしれない、とか漠然と考える。


 イア曰くの主人公はウェズンで、そこから派生したゲームでの主人公はイアだけど。

 けれど、もしかしたら別の世界、別の時間軸でワイアットが主人公である何らかの話があってもおかしくはないのかもしれない。


 まぁそれを言っちゃうと、人生においての主役というのはそいつ自身、みたいになって収拾がつかなくなるのでその可能性をこれ以上広げるつもりもないが。


 ともあれ、モノリスフィアで連絡を取る、という手段はウェズンにとっては有りだった。


 瘴気汚染度も低いここなら、モノリスフィアが使えないという事もない。

 ただ、ルシアに連絡をするにしても、現状向こうがどうなっているかわからないのでもう少し様子見……というか、後で連絡をした方がいいとは思う。

 では、誰に連絡を入れるか、となると。


 イアしかいない。


 イアならば、ワイアットと連絡も取れるので何の情報も得られないという事はないだろう。

 なので早速メッセージを入力し送り付ける。


 アストラを名乗る番人を一人倒したものの、もし他に同じ名前の番人がいる可能性があるのか、というのをまずワイアットに聞いてくれないかという旨を送り、もし他にいないのであれば、これから自分はどうするのがいいのか、という事まで。できればワイアットに確認を取ってほしい。


 ざっくり要約するとそんな内容のメッセージを送り、待つことしばし。


 返ってきたメッセージには、ウェズンが思っていたものとは全然違う文面があった。


 駅の近くだというのなら、そこから移動して南の区画にある研究所へ行ってほしいというものだった。


「南、って言われてもなぁ……いやまぁいいけど」


 そもそも他に何をするでもない状況なのだ。

 やる事が新たにできたのなら、それをやるべきなのだろう。


 とりあえず、アストラという番人はこの都市には一人だけとの事なので、周囲そこかしこにある番人の力を強化するための情報媒体を目にしても問題はない、という部分だけは確定した瞬間であった。

 仮にも最強だったはずなのに、なんだかあっさり倒せてしまった時点で拍子抜けではあるけれど。

 別に強敵との戦いに心躍らせるタイプでもないのでウェズンは然程気にせず言われたとおりに駅へと移動し、やって来た列車に乗って南の区画とやらを目指したのである。


 他に誰一人乗客のいない列車は、正直薄気味悪くあったけれど。

 別にホラー展開が待っているとかでもなく、あまりにも普通に目的地にたどり着き、何事もないままにウェズンは列車を降りたのであった。


「なんとなく順調に思えるけどそれはそれで何かフラグ立ってそうなのがなぁ……」


 本当に大丈夫か? これ。

 そんな思いは常に付きまとっている。


 疑うのであれば、今のこの独り言さえも何かのフラグを立ててしまったのではないか。

 そんな気がしながらも、ウェズンはイアのモノリスフィアから送られてきたメッセージの、研究所とやらの場所を確認しつつそちらへ向かうのであった。


「えーっと、ここだな。

 なになに……住民精製所……いやもうほらー、どう考えても闇の深いとこじゃんかもおおおおお!」


 前世で暮らしていた都市の見た目にそっくりではあるせいで、闇が深い研究所みたいなのがあっても違和感がないのが嫌すぎた。だって前世ではまだそこまであからさまに倫理と常識をぶん投げた研究所なんてなかったけれど。

 創作界隈では嫌と言う程存在したので。

 あと、それらを実行できそうな感じの施設があってもおかしくないだろう文明レベルとか。


 魔法だとか魔術なんてものがなかった前世の世界でも、科学だけは発展していたからこういったものはやろうと思えばやれますよ、みたいな雰囲気があったわけで。


 あぁありそうとか思ってたところに、その前世と似た雰囲気を持つ都市でこれだ。


 ウェズンが叫ぶのも無理はなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ