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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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ある意味ゴーストタウン



 結構な規模の都市ではあるけれど、住民の数はもしかしたら案外少ないのでは? と思ったのは早い段階での事だ。


 人の気配が圧倒的に感じられないのである。


「正直ね、森の中より感じ取れない。生き物の気配が」


 ウィルに真顔で言われて、レイもまた真顔で頷いていた。


 とりあえず適当にこの都市の中でなるべく目立たないようひっそりと破壊活動に勤しんでテロ活動的な事をやればいいのだな、と思っていたわけだが。

 目立たないように、というのはまぁ、ウィルもレイも心得があった。


 レイはそもそも盗賊稼業と海賊稼業が合体している家の生まれなので、気配を消す事はむしろできて当然なわけで。

 都市全体に映像記録を残せるようなシステムがあれば、気配を消したところで監視カメラのどれかには映ってしまうかもしれないが、そうでなければレイが誰かに見つかる、という事はほとんどないと言ってもいい。

 そうでなくともレイは馬鹿みたいに感覚が鋭い事もあって、意図的に性能を落としている部分があるが、本気を出せばたとえ目の前に人がいても気付かれないくらい気配を希薄にすることは可能である。


 ウィルはといえば、レイと同じ船にいた事はあれど盗賊だとか海賊として行動していたわけではないため、レイと同じように気配を消して行動しろと言われてしまえば無理があるけれど、しかしウィルはかつて森の中で暮らしていた。

 エルフといえども、菜食主義者というわけではない。

 エルフだって肉は食べる。

 そりゃあイメージ的に森の中で採れた果物だけで生きてるような印象を持たれがちではあるけれど、普通に弓矢を使っての狩りだってするし、ウサギだろうと鳥だろうと狐だろうと猪だろうと熊だろうと仕留めて食べるわけで。


 そういった森の動物たちは、何も肉だけを使うわけではない。毛皮だって無駄にはできない。

 だが毛皮は仕留める際に綺麗に仕留めなければ場合によっては使い物にならないなんて事だってあるのだ。

 であれば、仕留める際に下手に向こうにこちらの存在を気取られてしまうと、狙った攻撃が僅かであってもずれる事がある。だからこそ、狩りをする際には気配を極力消していたし、足音だって立てないようにしていたのだ。


 普通の道と異なり森の中は音が出るものがたくさんある。

 それは落ちた木の葉であったりだとか、枝であったりだとか。

 木から落ちたまだ固い実をうっかり蹴飛ばして、草葉を揺らした結果動物に気付かれてしまう、なんてこともある。石ころも同様。

 何もない道であれば摺り足で移動すればある程度足音は消せるけれど、森でそれをやると場合によっては伸びた蔓に足を引っかけて周囲の落ち葉もろとも音を立てるだとか、転びそうになって踏みとどまろうとした際の音だとかを立ててしまう事もある。


 レイと全く同じとは言わないが、それでもウィルはウィルなりに足音と気配を消して行動する術は持っていたし、同時に周囲の気配を探るのだってそれなりにできていた。


 森の中は静かなようで、それでもたくさんの命が存在しているから、思っているよりも賑やかな事だってある。葉の裏に潜んでいる虫たちが音を立てる事はなくても、草むらを滑るように移動するトカゲが特に音を立てなくても。


 風に揺れる木々の騒めきに混じるようにして時折命の音が聞こえてくるのだ。


 森によってそれらの音は異なるけれど。


 けれど、確かにそこには数多くの命があるのだ。


「まぁ、ぶっちゃけ無人島でももうちょっと賑やかだぞ、って言いたい気持ちはある」


 レイもまたウィルの意見に否定などできるはずがなかった。

 だって本当に静かなのだ。


 これだけの都市なら、平日だろうと休日だろうとそれなりに賑わっているはずなのに。

 先程の場所では人が立ち入らないように、と事前に通達がされていたようではあるけれど、そうじゃない場所ならもうちょっと賑やかであってもおかしくないはずなのに。


 ビックリするくらい人の気配を感じ取れない。


 先程結局仕留める流れになってしまった男の死が何らかの形でテラプロメの中枢に伝わったと仮定して。

 その結果レイとウィル、二人が迷い込んだ危険人物である、とされたなら。

 そんな危険人物と遭遇するのはイヤだ、となって建物の中にこもって出てこない、というのはわかる。

 だがその場合、大抵建物の中で籠城を選んだ者たちは息を潜め自分という存在に気づかれないようにできる限り気配を殺して、その上で万が一を考えて窓の近くなどで外の様子を窺うのだ。

 もし自分の家の近くにそんな危険人物がやってきたら。


 戦う力がなくとも、逃げるなり警備を担う者へ連絡を入れるなりできる事はある。


 だが、家の中に閉じこもって外の様子に一切注意を向けなかった場合、気付いたらいつの間にか家に侵入されて、逃げ場も逃げるタイミングも何もかも失う、なんて事だって有り得るのだ。


 だから大抵は、外の様子がわかる場所で、安全が確認されるまで気が気じゃない状態で、恐怖を押し込めたような状態で警戒をするのだ。

 普通ならば気付けないような小さなそれは、しかしレイやウィルからすればわかりやすい。


 明らかにこちらに向けられる恐怖を含んだ感情は、殺気程ではなくとも戦闘中とかでなければ気付けてしまう。


 だが、そういった恐怖や警戒、自分の日常を脅かそうとしている危険人物へ向ける軽率な殺意といったものが含まれているであろうものは、一切二人には感じ取れなかったのである。


 テラプロメの住人達全員が気配を消すスペシャリストというのなら気付けなくとも仕方がないのかもしれないが、恐らくそれはないと二人は思っている。

 外からの来訪者がほとんどいない場所で、警戒すべきはいずれ世界を滅ぼそうとしている神、となれば、上の立場の存在ならともかくただ日常を享受するだけの存在は外敵のいない環境で過ごしているようなものだ。

 そんなぬるま湯のような環境で、気配を消してこちらに一切気配を察知させずじっと見る、なんて芸当できるはずがない。


 常日頃から戦いの中に身を置いて、感覚を研ぎ澄ませて少しの異変でも察知できなければ死ぬ、というような環境ならともかく、外敵のいない状態で、なんとなく気配を消したり感知する能力を高めてみようなんて思う物好きがいたとしても、できる事はたかが知れている。


 野生動物だって天敵がいない場所で生息しているやつは大体警戒心が薄い。完全に無いわけではないが、やはり天敵の有無は大きく違ってくる。


 危険らしい危険がないであろうこの都市で、そういった訓練を受けた者以外で、となれば。

 完璧に気配を消してこちらの様子を窺うなんて、果たしてできるのか? と思えるわけで。


「これだけの都市だから、魔道具や浄化機が常に動いてるっぽいのはわかる」

「おう」

「魔道具も、周囲に漂ってる魔力を吸収して使えるタイプもあれば、事前に魔力を込めて使うやつがあるわけで」

「そうだな」

「大気中に漂ってる魔力だけで賄えるとは思えないから、いるはずなんだよ魔力を注ぐための誰かが」

「レッドラム一族に任せてる、ってわけでもないだろうな。少なくともルシアからそういった話は聞いてねぇし」

「うん。大体生贄にするために育ててるわけでしょ?

 搾取という意味では魔力を奪うのもできそうだけど、疑似魔晶核として使うんだから、その相手から完全に魔力を吸収しつくすって事はしないと思う」

「まぁ、犠牲にする数が少ないうちであっても、いざという時に使える奴がいなかったらこの都市からすれば死活問題だろうしな」


「それに、この都市の番人とかいうのも多少は提供してたとしてもだよ?

 他にもそういった都市の治安維持とかする人とかも、まぁ少しは提供すると思う。ただ、有事の際に魔術とか使ったりするだろうから、そういった役職持ちの人は逆にあまり魔力を使ったりしないと思うんだよね。滅多にないとは思うけど、それでもいざという時のために温存すると思う」


「ま、安全だろうと高をくくって魔力を使い切った後で外敵が、なんて事になったら目も当てられないからな」


 毎日平和で何事もなければ、きっと今日も平和だろう、なんて油断は生まれる。

 だがそういう時に限ってイレギュラーな出来事というのは起きるわけで。


 今日は平和でも明日もそうかはわからない。

 もし提供できる魔力が最低ラインにすら届かなければ、最悪この都市の魔力ラインが途切れて都市が墜落、なんて事もあるかもしれない。

 であれば、間違っても魔力を切らすなんて事はしないはずだ。


「だから、特に何の役割もない普通の市民から魔力を毎日提供させてる可能性は高いと思うんだけど……」

「ところがその市民がどこにも見当たらない、と」


「ほかに魔力を生み出す機関とかあるのかなぁ……」

「あってもおかしくはないだろうけど、そういうのがある、とは聞いてないな」

「ルシアはウィルたちよりはここに詳しいかもしれないけど、でも、次に何かあったらルシアが魔晶核なんだよね? じゃああんまり重要な情報知らなくても仕方ないかなって思うから、そういうのがあっても知らないってのは普通にある」


「適当な建物に侵入しても、意外となんにもないからな」


 囮のように近くの建物の窓ガラスだとかに傷を入れたりして、別の建物をピッキングした後侵入したりもしたけれど。


 番人がすっ飛んでくるとまでは思っていなかったが、それでも自警団のような治安維持組織は来るだろうと思っていたのに。


「人の気配を探ってそこから重要度割り出すとか、そういうのは多分無理だな。これだけ移動してなんもねぇ」

「うん、となると、魔力探知の方が確実かもね」


 この都市に侵入して、その直後から敵が襲ってきて休む間もない、なんて覚悟もしていたというのに。


 アルイグマをけしかけてきた男以外は未だ誰とも遭遇していないのが現状だ。


 入れそうな建物にもいくつか侵入して中をあちこち見てきたけれど、そこも無人となれば油断まではいかないが、警戒心が薄れつつあるのは感じていた。


「魔力探知ったってなぁ……そこかしこに魔道具があるならどこもかしこも、って感じにならないか?」

「可能性は高いけど、やるだけやってみようかなって」


 そう言ってウィルが周囲の魔力の流れを探ろうと、集中するために目を閉じた直後だった。


 ボン、という何かが破裂するような音がして、すぐさまウィルは閉じたばかりの目を開けた。音がしたのは上の方だったので、すぐに上の方へと視線を移動させ――


「レイ!」

「はぁ!? あいつら何やってんだ!?」


 びっ、とウィルが指さした先は、少し離れた先にあるビルだ。

 その最上階に近いところの窓ガラスが割れて中から煙が出ている。

 そこから、豆粒のように見えた黒い影が落ちるのを、ウィルもレイも確かに見た。


 その黒い影が、人であると気づいた時点で。


 そしてレイにはその人が誰であるかが見えていたらしく、呆れが一割ほど含まれた驚きの声が上がっていた。


 相手が敵と思しき存在であるならばともかく、レイの口ぶりから味方であるのは間違いなくて。

 ウィルは咄嗟に魔術を発動させて宙に浮き、建物の間を縫うように、速度を上げて落ちていく誰かに近づいていった。


 二人がヴァンとファラムと合流できたのは、この直後の事である。

 普段から予約投稿してるわけなんですが、今日からちょっと入院するので誤字脱字報告系は言い回し関連は元々後回しにしがちなんですが、キャラの名前間違えてるとかこのセリフこいつが言ってるの? 別の相手じゃなくて? 系の致命的ミスもお知らせされても当分すぐの対処はできなくなります。

 PCでのログインしかしてないんだここ……

 一日おきに長編か短編の投稿を今月してるわけなんですが、今月はともかく来月最初の方は多分更新止まります。ストックが今月分だけで精一杯だったわ(´・ω・`)

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