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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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殺伐臨海学校



 洞穴は、恐らく少し前までは何かの動物が巣として使用していたのだろう。そこそこの広さがあり、少し奥に入れば外からイアたちの姿も見えないだろうと思われた。


 どこまで行けば最奥か、という疑問もあったけれど奥に行き過ぎるのも危険だと判断したため、結局は入って少し行った程度の場所で一同は腰を落ち着ける事にしたのである。

 奥まで行った方が見つかりにくい、とは思う。

 思うのだが、奥の方でもしここを利用している動物がいた場合、そしてその動物が縄張りを侵されたと判断して襲い掛かってきた場合を考えると下手に奥に行くよりはここら辺に留まった方が安全であるし、奥に何もいなかったとしても、集落の連中があの小屋から男が逃げた事に気づいた場合、探しに来る可能性も勿論ある。そうして、ここに逃げ込んだと考えた場合、生け捕りにするなら奥までやってくるだろう。いるかどうかの確認はするはずだ。

 しかし、生け捕りにする必要性を感じずその場で処分しようとした場合、入口を崩されて生き埋めになる可能性もある。


 この奥がどこかに通じていて別の出入口に、という可能性もあるにはあるのだが、行き止まりである可能性よりは低いだろう。


 イアたちがいる場所からはそこそこ外の様子が見えるけれど、外からはここまで見えないという絶妙な位置取りである。いる、と向こうが判断し仮にこの先に別の出入口があって挟み撃ちにしよう、なんて事態になる事は恐らくないと思いたい。

 外から見えなければいないと思われるだろうし、いない可能性があるにも関わらず挟み撃ちにしようとかするはずもない。

 人海戦術でこちらを探しに、とするにしてもだ、あの集落の規模とそこに暮らしているであろう人数を考えればそう多くはない。そして先程追いかけてきていた数名はイアが仕留めた。

 下手に少数でこちらを探すよりは、ある程度固まって移動した方が安全である、ときっと向こうも考えるだろう。あの小屋周辺で倒れている同胞を見たのであれば。



「それで、そいつ結局なんなわけ?」


 一先ず安全そうな場所を確保できたので、レイは入口に近い位置を陣取った。外からギリギリ見えないけれど、しかし誰かがやって来た時にすぐに気付いて行動できる位置。イアやイルミナをそこに座らせるよりは、自分がここにいた方が何かあっても対処できる。そう判断しての事だった。

 ちなみにレイが運んでいた男は今、レイから少し離れた位置に転がされていた。


「何、って言われても同じ学園の生徒よ」

「それはそいつが着てる制服見りゃわかるよ」


 イルミナが回復薬とやらを飲ませて意識が回復したはずなのだが、それでもやはりそこそこのダメージを負ったらしく、未だに彼はどこかぼんやりとしている。目は開いているけれど、焦点は合っていない。


 意識はあるはずだが、会話をするのは無理だろう。そう判断したからこそレイは男にではなくイルミナに再び問いかけた。


「彼が言うには、ここには課外授業で来た、との事なんだけど……」


 イルミナはそもそもどこまで話したっけ……? と思い返しながら言葉を紡ぐ。


 小屋に入って、既に死んでいた生徒二名。唯一生き残っていたエイワーズ。彼の口から聞けた事はそう多くはない。

 課外授業でここに来た事。

 内容は学園から渡された荷を届ける事。

 その際、ここの集落の住人との会話は成り立たないので余計なことは言わない事。

 取引を終えたら早々に戻ってくる事。


「……お前が見た時はもう荷とやらは渡した後か?」

「え? えぇ、私が見た時は何かを持っていた感じじゃなかったわ。リングから取り出してないって感じでもなく渡した後って感じね」

「中身が何かまでは?」

「それは彼も知らないはずよ。包まれていて、中身は見ていないって」


 小屋に潜り込んで、イルミナはすぐに彼を連れて外に出ようとはしなかった。できなかった、が正しい。

 姿は見えなくなっていたけれど、もしかしたらまだ近くを警戒している可能性はあったからだ。

 それなのに彼を連れて早々に小屋から出た場合、あっという間に他の仲間を呼ばれてしまえば。今度はエイワーズも無事では済まないだろうし、それはイルミナにも言えた事だ。


 だからこそ外の気配を探りながら、イルミナはエイワーズから少しずつ情報を集めていた。もし途中で小屋にあの集落の誰かが戻ってきたとしても、その時は一度に大勢を相手にする事はなかっただろう。

 とりあえず入口にいる一人か二人ならイルミナの魔術でぶっ飛ばすくらいは可能だと思っていたし、その一撃で騒ぎになったとしても隙は生じる。なら、どうにかなるだろう。そう、イルミナは考えていた。


 最悪、周囲の自然諸共巻き込む形で燃やせばいい。


 住処がなくなる? 知った事か。

 それくらいの気持ちはあったのだ。


 とはいえ、そうなった場合流石にイルミナも無事でいられるとは思っていなかったので、本当に最終手段だったのだが。

 小屋の外が騒がしくなって、住人が戻って来たのかと思いそっと様子を窺ったら本来探していた人物が見えたのでイルミナは小屋から顔をのぞかせたのだ。


「ふぅん」


 レイはイルミナの話を聞いて、とりあえず相槌を打った。

 先戻れっつったのにな……と思いはしたが、見捨てられなかったのだと考えるとこいつ案外いい奴なんだな、なんて思いながら。

 実際はここで一人先に帰ったら自分が人でなしみたいじゃないの、という自分本位な理由なのだが、イルミナとて当然そんな事をハッキリ言うわけがないので、レイはいい感じに誤解したに過ぎない。


「あの包みの中は、多分食料か何かだと思う……」


 かすれた声がしてそちらに視線を移動させれば、エイワーズがゆっくりと上半身を起こしているところだった。胸がムカムカする……と自分の胸をさするようにして、呼吸を何度も繰り返している。

「あ、それ回復薬のせいね多分。効果はあるんだけどどうしてもこう……副作用も出るから」

「意識の混濁と胸のむかつきが副作用っていうなら、使いどころ気をつけないとヤバイやつだな」

 う、ぐぇ、と何だかそのまま吐きそうな雰囲気を漂わせているが、気持ちが悪いだけで吐いたりはしないと言うエイワーズに、本当か……? とレイは訝しげに問いかける。胸をさすっていない方の手を軽くあげて、エイワーズはどうにか大丈夫だと告げる。


「食料? なんで?」

「それを渡した途端連中喜んでたっぽいし、何より集落のあの広場っぽいところ、見たか?」

「そういやなんかのお祭りみたいな感じだった気がする」


 疑問の声を上げたイアだが、あの集落の様子を思い返して何となく納得したのだろう。そっかー、となんとも軽い反応だった。


 上半身を起こしたエイワーズはしかしまだ苦しいのか、土と岩まじりの壁に身体を預けてゆっくりと深呼吸している。


「…………変じゃないか? いや、ある意味で考えたら別におかしくないのかもしれないけど」

「何が?」

 レイの言葉に即座に聞き返したのはイアだった。なんかあったっけ? みたいな顔をしている。

 イアとしてはこの展開、小説かゲームにあったかなぁ、あったとしても覚えてないなぁ、という感じなので原作に無い展開であれば、もうなるようになーれ、としか思っていない。とりあえず無事に帰る事ができればそれで充分だ。吊り橋から落ちた時は死を覚悟したけれど、助かった以上はここで更に死ぬような事にならなければもういいかな、くらいにしか思っていない。

 ゲームの方の主人公ではあるけれど、ゲーム内のイベントを思い出せる範囲で思い出しても序盤でいきなり死ぬような事はなかったはずだ。選択を間違えなければ。

 下手に誰かの好感度を下げまくるような事を連続してやらなければ、序盤はそう死ぬような展開にならなかったはず。


 ここに来る前の課題でも一応協力的な態度だったし、問題はないはずだ。

 とはいえ、ゲームなら大丈夫だったかもしれないが、いかんせん現実でもある今はどうだかさっぱりわからない。

 吊り橋から落ちた時点で見捨てられていた可能性もあったのではないか、と考えればレイが助けに来てくれただけ何らかのフラグは立ってるはずだと思いたいのだが……


「お前らさ、あの連中に何か言ったか?」

「何か、って何を? 会話が成り立たないからするだけ無駄って学園にいた時点で言われてるんだぞ。一応届け物だと言いはしたけど、それ以外は」

「そうじゃない。あいつらに向けてじゃなくて、あいつらを前にして仲間内で何言ったって聞いてんだよこっちは」


「え、何って……」


 レイの言葉にエイワーズはわけがわからないといった様子で眉を下げた。


「あいつらさ、多分こっちの言葉は理解してるぞ」

「え……?」


「本気で言ってる? レイ」


 イルミナが信じられないという態度で言う。けれどもそれは、レイの言葉を信じないというよりはできるならあいつらがこちらの言葉を分かったうえで謎言語を喋っているという事実を認めたくない、という心境の方が強かった。


「お前らの課題ってあの集落にその食べ物かもしれなかった包みを届けに行く事だったんだろ? 追加課題は?」

「え、追加……? あの集落にいる間は何も食べてはいけない、だったかな」

「それ課題って言えるか?」

「そう言われても、書かれてたのは事実だし」


 回復薬とやらの効果が段々出てきたからか、エイワーズの口調も先程と比べて少ししっかりしてきた。けれども会話内容が内容のせいか、口調はさておき態度はハッキリしないものだ。


「ね、レイ、なんであの集落の人たちがこっちの言葉を理解してるって言えるの?」

「じゃなかったら学園で届け物とかしないだろ。意思の疎通ができないところにわざわざ派遣する意味がわからねぇ」


 言葉が通じなくとも会ってどうにかしよう、という事が全くないわけではない。けれども、それは何らかのメリットがこちら側にあるから、という事になり得る。土地か、そこにある資源か、はたまた人材か。

 そうでなくとも、敵に回したくないからご機嫌伺い、という可能性もあるけれど正直あいつらを学園が脅威と認定するとはレイには到底思えなかった。

 ならば、友好的に接するメリットはなんだ、となるとこの土地に何かがあると考えた方がいい。


「恐らくは、本来ならば友好的な存在だった。じゃなかったらわざわざ危険な場所に入ったばっかの新入生を寄越す意味がわからん。危険度合いが高いならそれこそ去年とかその前からいるもうちょっとできる生徒にやらせるだろ。そういうの」


 まぁそうね、とイルミナが頷く。

 エイワーズもそれに対して反論はしなかった。


 ただイアだけが、前世でみた創作物のいくつかで、なんも知らん年若い奴に世界の命運任せてる話とかあるからな、油断はできないんじゃないかにゃあ……なんて思っていたが。

 正直この世界だって、ろくになんも知らんウェズンが魔王にならないといけない状態なわけだし。

 一応魔王にならないとこの世界が危ないの! とは言ったけど、魔王になるための具体的な案とかそういうの、全くこれっぽっちも覚えてないからほとんど行き当たりばったりである。


 これがもっとこう……現実的に考えて社会を裏から牛耳れとかそういうのならまたやり方も変わってくるだろうけれど、ここでいう魔王は別に世界を恐怖のどん底に叩き落すでもなくあくまで学園で次の神前試合で魔王に選ばれる事なので、一応成績が優秀であればいいのか……? とイアが意識を少しだけ飛ばしてるうちに、レイの話は少し進んだらしい。

 見ればエイワーズが顔を青くさせている。


「そういえば……荷物を渡す前の時点でもちょっとこう……あの二人が何言ってるかわからない言葉に対して色々と……や、小声だったよ!? だったけども、でも、間違いなく聞こえてただろうなぁ……」

「じゃ、それで相手の何か触れちゃいけない部分触れたんだろ。殺そうって思えるレベルまでの暴言って何かわかんねーけど」

「そんな……!」


 具体的に何を言ったか、まではレイも深く突っ込んで聞こうとはしていないようだ。

 聞いたところでリアクションなんて限られてるから聞かないだけかもしれない。

 そりゃ当然そうなるだろ、か、その程度の事で? のどちらかならイアもわざわざ何言ったの……? と聞くまでもないだろう。


「ともあれ、もう結構な時間だ。夜になったら夜陰に身を隠して、って感じの可能性もあるけどお前ら夜の移動って慣れてるクチか?」


 レイに言われ、イアは真っ先に首を横に振った。夜は危ないから、で今までお外に出された事がない。夜遅くに外に出る時は大体兄か、両親がいた。けれども、そのうち慣れた方がいいんだろうな、とは思っている。

 いるけれどもじゃあここで今練習していこう、とは思っていなかった。


 エイワーズも流石に夜はあまり外を出歩いたりはしていない……と言った。仮に出歩いていて慣れているとしても、完全に本調子でもなさそうな状態だ。無理はしない方がいいだろう。


「私はそこそこ夜も出歩く事があったけど、慣れてるって言えるのは自分の家の近所の森の中だけね」


「じゃ、下手に移動しないで明るくなるまで待った方がよさそうだな」

 レイの決断は早かった。

 正直さっさと帰りたい気持ちでいっぱいだが、神の楔がある位置まで移動するにしても今はあまりよろしくない。

 あの集落にあった神の楔が一番最寄りの神の楔だけれど、そこに行くとなるとこちらを敵対視している連中がいる。穏便かつ安全に帰れる可能性は低い。それでなくとも既にあの集落の人間を数名こちらも殺してしまっているのだから。今から何事もなかったかのように平和な関係性を築けるか、と言われたとして、この場にいる誰もが無理だろうなと思っている。


 次に見た神の楔は結界の向こう側。見えてるけど行けないので自動的に却下。

 そうなるとあとはレイたちが最初に訪れた小山だ。結局登山するしかないのか……という結論にうんざりする。

 だがしかし、既に暗くなりつつある現状、集落の人間に見つからないようにしつつそこまで行くとなるとかなり危険だ。魔物もいるし。


「一応見張りたてて順番に休むぞ。最初は俺が見張ってるからお前ら今のうちに休め」


 見張りの順番ごときで揉めてる暇もないとばかりに言い切られたので、イアもイルミナもエイワーズも、誰もレイに反対する事なくお言葉に甘えることにした。


「まさか最初の課外授業でいきなりこんなことになるなんて……」


 そう呟いたのは、イルミナだったかエイワーズだったか。

 声が違いすぎるだろうと突っ込まれたとしても、レイからすればどうでもいい事だったので完全に聞き流していた。

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