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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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最強の条件



 最強の守護者。


 空中移動都市テラプロメの番人。


 アストラは確かにそう呼ばれていたし、本人もそれを自負している。


 実際に最強ではあるのだ。限られた条件下で、という言葉がつくが。



 かつて、アストラもまた神前試合に参加した事があった。

 つまりは、最低限それだけの――神前試合に参加できると判断されるだけの実力は持ち合わせている。


 そしてそこで、神から力を与えられた。


 その力というものが、神をも打ち倒せるだけの強大なもの、というのであれば、神とて自ら面倒な敵を生み出すような事はしなかっただろう。

 だがアストラが願ったのは、故郷を守り抜くための力である。

 つまりは、故郷――この場合はテラプロメだ――を守るために使われる力であるのなら、本来の彼以上の実力を発揮できるようになる。


 テラプロメにいる限り、圧倒的なバフがかかっている状態と言ってもいい。

 それは逆に言うのなら、テラプロメ以外ではバフもないので大したことがない、とも言えてしまうのだが。


 その力もテラプロメにいるだけで無条件で与えられる、というものではなかった。

 大体無条件であるならば、いつか空中を移動せず地上に降りた後、世界全部がテラプロメの領土となりました、なんてことになればそれだけでアストラは世界最強となるし、世界を守るためという名目で神にも勝てる能力を得られるかもしれない。


 だからこそ神はあくまでも空中移動都市にいる間だけ、という制約をつけた。

 テラプロメが空中にある間だけの能力。そういう風にしたのだ。

 これならば、世界全部がテラプロメになる、という可能性は限りなく低い。

 勿論その条件の穴を突いて世界中でアストラが力を使える可能性も探せばあるかもしれないが、現時点ではそれも難しい。

 そもそもテラプロメ自体が世界各地とそこまで関わりを持っていないためだ。


 アストラが力を得られる条件というのも、実のところそう難しいものではなかった。


 テラプロメにおいて、広く名が知られている事。


 ただアストラ、という人物の名を知るだけでは大した力にならないけれど、テラプロメにおいて最強の番人である、という情報を加味された時点で途端圧倒的な力となるのだ。


 元老院は故にテラプロメのあちこちにアストラこそがこの都市の最強の番人、守護者であると知らせるべく様々な方法を駆使した。


 閉じた世界ともいえる都市で、それは絶大な効力を発揮した。


 外部から訪れた存在に対して、アストラは圧倒的な力を見せたのである。


 外部から訪れた存在は大きく分けて二つに分かれる。

 一つ、神の楔の転移事故で、テラプロメについてほとんど知らない場合。

 二つ、テラプロメに関して知っていて、どうにかここに来るために何度も神の楔の事故を引き起こそうとして、ようやくここまで来てしまった者。


 たまたま事故でここにやってきてしまった、という者ならば素直に地上に帰しても良いのだが、しかしその結果テラプロメの存在が大々的に知られるのは困る。

 一応この都市は神を探すためのもの。たとえ神が既にその存在を把握していたとして、下手に大々的に周知されたとして。

 その存在を邪魔だと思う者が現れる事になりかねなかった。

 神を探すための都市ではあるけれど、最早そんな事はどうでもいい、限られた時間をいかにして生きていくか、などに重きを置いた者たちからすれば、テラプロメに存在している浄化機は喉から手が出るほどに欲しいとなっても当然だろう。


 結果として、テラプロメの目的を邪魔するべく妨害に出る者が出る可能性が高くなるのも事実であった。


 転移事故でたまたま行ってしまって、結果戻ってきたとなればどうにかして直接行けるように神の楔を改造しようと考える者も出るだろう。

 実際テラプロメでは人工的な神の楔の製造もしていたけれど、その知識や技術が外に流出しないよう徹底している。ところがそこでちょっとした情報であっても持ち帰られてしまえば、いつかはテラプロメにとって問題が生じるかもしれないのだ。


 であれば、生きて帰すわけにはいかなかった。

 どのみち神の楔を使ってどこかに転移した、という事実を知る者がいたとして、その向かう先を正確に知る者ばかりというわけではない。

 行きついた先が瘴気汚染の酷い場所で帰ってこられないだとか、それこそ転移事故でどこかに行ってしまった、と周囲は思うだろう。生きて帰した結果テラプロメに関する情報が知れ渡る方が問題であった。


 テラプロメの存在を把握していて、どうにかしてたどり着こうとする者たちに関しては言うまでもない。

 生かして帰すなど以ての外である。


 そういった外部からの相手の対処のほとんどを、アストラはこなしていた。


 都市のそこかしこにある最強の番人を讃えるあれこれは、本来ならばどうしたって目に入るもので。


 既にテラプロメで暮らしている者たちにとっては常識である、というくらいに知られていてその時点でもうアストラはテラプロメにおいて圧倒的な存在ではあるのだ。

 そこに、更に外から来た者が実際にアストラという存在を知る事で更にバフは上乗せされる。


 一種の刷り込みのようなそれは、何せ神前試合で神が与えた力である。簡単にどうにかできるものではない。


 それに、テラプロメに来るつもりがあるにしろ、事故でそんなつもりはかなったにしろ、やってきてしまった以上はそこにある情報を本来ならばどうしたって目にするはずなのだ。


 アストラがこのテラプロメにおいて最強の番人である、という事を一度でも脳に憶えさせてしまえば。

 アストラの力は強化される。


 実のところ、それだけではなかった。


 その事実を知ってしまった時点で、神の力が作用するのかアストラと戦う相手の力は弱体化されてしまう。あからさまに弱くなればその事実に気付けるかもしれないが、そもそもアストラの力が圧倒的すぎて自分が弱くなってしまった、という事に気づくとなると、余程の事がない限り気付けることもない。


 アストラに攻撃が上手く通らなかった、という事にたまたま防がれただけと思い、逆に相手の攻撃がモロにはいったとしても、それもまたタイミングが悪かったのだと思わされる。

 知らぬ間にハンデを負わされているようなものだが、気付く頃には相当なダメージを食らった後、となれば気付いて逃げ出そうにも手遅れ、というのが本来の事であった。


 それだけの力があるのなら、元老院すら手中にしてアストラがテラプロメの支配者になれる……と思う者も中にはいた。実際元老院はそれを危惧してさえいた。

 だが、あくまでも番人、守護者としての力である、という部分によってアストラはテラプロメに危害を加えるような真似は封じられてしまったのだ。そこは元老院が上手く誘導した結果でもあった。


 最強といったところで、知能指数までもがそうなるか、というとそうはならなかったので。



 アストラは日々、テラプロメの住人達に何度かは自分への理解を深めるためにと集会を開いていた。

 そうして繰り返し己の軌跡を語ってきた。

 アストラという存在を深く知る事で、アストラの力はより増すためだ。

 基本的な事は大抵の住人が把握していたとしても、日々の細やかなエピソードまで把握している者は少ない。だからこそ、そういった細かな情報も与えて、日々何があってもいいように常に力を増すべく行動してきたのだ。


 故にアストラは。


 外から迷い込んでやって来た人物に対して負けるなどとはこれっぽっちも思っていなかった。


 かつて、この都市で暮らしていた者。逃げ出して都市の干渉を受けないようにと神に願った者たちの子。

 それについては元老院が目をつけていた。いつか、機会があればその身柄を拘束するつもりであった、とは聞いていた。

 あの二人の子である、というのを聞いてもなおアストラは戦いの場がテラプロメであるならば負けるはずなどないと信じていた。


 だが実際はどうだ。


「ぐ……っ」


 身に着けていた全身鎧は既に砕かれて、中身が露出してしまっている。

 守護者としての力の増幅は確実にあった。故にこの鎧もそれに伴い強化されていたというのに。

 砕けるどころか本来ならば傷一つつかないはずだったというのに。


 しかし鎧は砕け、ここ最近は晒す事のなかった顔をアストラはウェズンの前に晒していた。


「な、何故だッ!? 何故お前は……ッ」


 絶対的な力の差があるはずだった。

 今までアストラと戦った者たちは、それ故に負けてきた。


 守るための力であって、元老院には歯向かえないようにされたとはいえ、それでもここで戦う以上は圧倒的にアストラが有利のはずなのだ。

 元老院に逆らった場合は最強の守護者どころか単なる反逆者となり、守護者というものではない、とされてしまう。そうなった場合、神によって与えられた力は消滅する可能性があった。

 何せあくまでもこの都市を守るための力として願い、欲したのだから。


 守護者である以上、そしてここがテラプロメである以上、アストラが負ける事などあるはずがなかったというのに。


 アストラの攻撃が通ったのは、最初のうちだけだった。

 とはいえ、直接命中したわけでもなく、ギリギリで掠って致命傷などを与えられるような事にはならなかった。


 何度かアストラの動きを見て、その後ウェズンは反撃に出ていた。

 そして結果がこれだ。


 おかしい。

 あり得ない。


 学園の制服を着ているという事はまだ彼は学園の生徒で、神前試合に参加はしていないはずだ。

 少なくとも元老院から伝え聞いた情報から、両親はさておき息子が神前試合に参加した、という話はなかったはずだ。


 故に、同じく神から力を与えられたというはずはない。


 それなのに。



 どうして自分を上回る力があるというのか。


 その疑問を言い切る前に、ウェズンの蹴りがアストラの顔面に突き刺さった。


 呻き声と共にアストラの身体が吹っ飛ぶ。



「あー、はいはいそういう事ね、大体わかった」


 壁際にぶちあたり、一部の壁が崩れ、瓦礫に埋もれるような形になったアストラを見て。


 ウェズンはワイアットが情報を得るなと言っていた意味をなんとなく理解しつつあった。

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