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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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初期対応のやらかし



 アルティメットのアルとアライグマを合わせた結果アルイグマ、と呼ばれるようになったそれに関して、レイは突っ込みたい部分があるにはあった。その場合アライグマの言い方も別の言葉にならんか? と。

 いかんせん他の世界からの言葉も色々とこの世界には持ち込まれているので。

 全てを理解しているか、と言われるとレイだってそんなもん全部把握してられっか、となるのだがそれでもアルティメットという言葉とアライグマという言葉が同じ系列ではない、とは知っていたのだ。


 いやでもなぁ、他にもそんな感じで別の言語同士が組み合わさったやつ結構あるしならそれはそれでありなのか……?


 などと思い始める。

 突っ込みたいけれど、突っ込んだところで……となったのでレイはまず自分を敵と認識しているらしきアルイグマをどうにかするべく武器を構えた。

 見た目的に可愛らしい動物に見える魔物、というのもいたので戦う事に関して特に抵抗感はない。

 ない、のだが。


(でもこいつらは魔物じゃないから倒したとして魔物みたいに消えるわけじゃない)


 いいんだろうか……とついウィルへ視線を向ける。

 ウィルはと言えば、そんなレイの視線を受けて――やっちまいな! とばかりに親指を立てた。


 あ、じゃあいいか。


 そんな風に雑に納得して、レイは飛び掛かってきたアルイグマを今度は回避することなくナイフでもって切り捨てたのである。


「はーっはっはっは無駄無駄無駄ァ!!

 アルイグマはただのアライグマではない! 遺伝子に改良を重ねたまさしく究極の存在なのだ!!」


 屋根の上から男がこれまた得意そうに言ってくる。

 確かに、普通の動物であるならば今の一撃で動けなくなっていてもおかしくはないはずなのだが。

 しかしアルイグマはその身に傷をつけながらも、体勢を整え再びレイに襲い掛かろうとしている。


 見た目の愛らしさとは裏腹に獰猛な唸り声をあげているそれらは、普段こういった動物と関わらない者ならば恐怖を抱くのだろう。

 だが――


「究極も何も。

 失敗してんだろうがよ」

「なっ、なんだと……!?」


 男が動揺するも、レイとしては何でこいつ気付いてないんだ、と言いたい。


「そもそも愛玩動物として連れてきたくせに、戦闘要員扱いしてる時点で愛玩どこいった」

「見た目は愛らしいだろうが!」

「見た目はな」


 見た目は確かに。

 何も知らない者が少し離れた安全な場所で見れば、確かに可愛いと言えるだろう。

 直接対面しろと言われたら絶対にお断り案件だろうけれど。

 野生動物であるならば、どんな病原菌を持ってるかわかったものではないが、ここで管理されているなら噛まれたりした結果病原菌が傷口から、という可能性は低い。

 けれども、だから安心して噛まれてね、とはならないわけで。


「というか、そういった用途にしたいなら、素直に番犬とかに向いてるタイプの犬にしておけばよかったんじゃないか?」

 その方が間違いがなかったようにも思える。

 大体このアルイグマ、男の言葉を一応聞いている風ではあるけれど、男が屋根の上にいてしかもそこから動かないというのであれば。

 あれ多分、場合によっては男も攻撃対象に含まれてるんじゃないだろうか。


 レイのそんな予想は、悲しい事に当たっていた。


 その証拠に――


「はいどーん☆」


「うおわぁっ!?」


 こっそり背後から突き飛ばしたウィルにより、男は簡単にバランスを崩して屋根の上から落っこちる。

 そしてその落ちた時の音にアルイグマが一斉に反応し、何か知らんが獲物が倒れてる! 今だ!! とばかりに一斉に襲い掛かったのだ。


「うわ」

「ひっ、ぎっ、た、たすけっ、ああああああああああッ!?」


 案外鋭い爪により男が着ていたスーツは簡単に切り裂かれ、ついでにその下にあった肉もすぱっと切られたらしい。鮮血が飛び散った。

 そもそもアライグマは確か雑食性ではなかったか。

 そんなレイの疑問を目の前で解決するよとばかりに、男に群がったアルイグマたちは新鮮な餌だとばかりに男を貪り始めている。


 動物に生きたまま食われる、というのは中々にロクな最期ではないけれど。


 今から助けたところでなぁ……と思ったレイは突然の弱肉強食な世界をただ眺めるだけだった。



 ウィルは元々森で暮らす種族である。

 故に、森の動物と仲良く、までいかなくとも相手を刺激しないよう気配や足音を消して移動するくらいは余裕であった。更にレイというすぐ近くにウィルよりも大きな生き物がいるのだ。レイが動けば動いた分だけ、ウィルの存在感は薄くなる。

 その隙にこっそりと移動して、魔術で屋根の上に飛んで男にバックアタックを仕掛けたというわけだ。


 そしてアルイグマたちが満足したとばかりに男から離れようとしたその瞬間に、ウィルはそのまま屋根の上から魔術でもってアルイグマたちを一掃。

 あっけないくらいに、事は済んだ。


 レイが出張ったように見せかけて、その実レイの役割は囮だった。


 究極の生命体に進化した、とかなんとか言っていたが、魔術であっけなく死ぬ程度でしかなかったアルイグマたちのどこが究極だったのか。

 聞いてみたい気もしたが、聞いたところで理解できるかは謎だったのでレイはさっさと目の前の光景を見なかった事にして気持ちを切り替える。


「ねーレイ、どうしよっか。今の人生け捕りにして情報吐かそうと思ったけど、死んじゃったね」

「あー、いいよ別に。こいつ生け捕っても何か有益な情報持ってなさそうだし」

「そっか。じゃあ、次あたろっか」

「だな。ま、多分ここの連中が素直に情報吐くかって言ったらないんじゃないかと思うんだけど」

「それもそっか……えーっと、それじゃ適当にここら辺破壊して回る?」

「程々にな」


 住民が暮らしているのであれば、適当に術をぶちかまして騒ぎを起こせば誰かしら捕獲できそうではあるけれど。

 しかしここら一帯はそうではないらしいので。


 まずは人がいそうな区画へ行くところからだな、なんて考えて。


 レイはとりあえずあっちかな、と適当な方向へ移動を決めたのである。


 ウェズンやルシアと合流できればいいのだが、先程の男の様子からあの二人の存在はまだ都市に広まっていないのではないかと思われる。

 であれば、むしろこちらから騒ぎを起こした方がいいだろう。


「ウィル、術をぶちかますにしても後の事考えないといけないから、まずは移動して重要そうな設備とかありそうなとこ探そうぜ」

「それもそっか。了解~」


 確かにウィルの魔力にはまだまだ余裕があるけれど。

 だが流石にこの規模の都市をウィルだけでどうにかできるとは思っていない。

 適当に魔術を失敗させまくって瘴気を発生させてもいいが、浄化機がどういう状態で稼働しているかもわからないので、下手をすれば別行動をしているヴァンに影響が出かねない。

 であれば、まずやるべき事は。

「探検だね!」

「おう。目ぼしいものがあったら回収していこうな」


 やってる事はゲームの主人公ムーヴではあるけれど。

 まぁ普通に強盗である。


 だがしかしレイは元々海賊であり盗賊でもあるので。

 仮にそこを言われたとして、だから何だとしか言いようがない。

 更には本来ストッパーにならなければならないはずのウィルですら、レイを止める気がないので。


 こうなる事は必然であった。


 この時点で、レイとウィルの存在をテラプロメ側がどれだけ把握できていたかと言うと、正直なところ気付いたのは先程アルイグマにやられた男だけだった。


 元老院はワイアットがルシアを連れてくるという事は把握していたが、ワイアットがまさか神の楔に細工して他にもこのテラプロメに誰かを迎え入れるようにしてあるなんて気付いていなかったし、この時点ではまだウェズンの事も知らないままだ。


 来ようと思って来れる場所ではないからこそ。

 見知らぬ誰かがやってくるというのは、転移事故によるものでしかない。

 そしてその転移事故というのはそう頻繁に起きるものでもない。

 故に、レイとウィルを発見した先程の男も二人を発見しようとして見つけたわけではなかったのだ。

 彼は本日この区画の調査にやって来ただけで、その調査のために事前に人が立ち入らないようにしていただけ。決して二人と戦うために他の人を遠ざけたとかではないのである。


 もしあの男が二人を発見した時に、事故か何かで飛ばされてやって来た何も知らない外の人間だと判断し、この場で処分しようなどと思わず他の――この状況に適した相手に通報していたのであれば。

 騒ぎはもう少し大きくなっていたに違いない。


 けれどもそんな事をせず、自分一人でどうにかなるだろうと判断してしまった結果男は命を落とした。


 調査の際に一応使う予定だったアルイグマはそれなりに躾けられていたので、本来ならばこうなるはずではなかったのだ。

 だが、レイがアルイグマに傷をつけ血の匂いによってアルイグマたちは久しく忘れかけていた野性を取り戻してしまった。

 今までは多少狂暴であってもまだ制御できていたのである。


 全て。

 そう、全てがイレギュラーと言ってしまえばそれまでだ。


 そのイレギュラーで命を落とした男にしてみればたまったものではないが。


 ともあれ、レイとウィルの存在はまだ大っぴらにテラプロメに知られていないという状態だからこそ。


 二人は追手だとかに見つかるでもなく、警備の者に見咎められるでもないままに。


 テラプロメ側に大打撃を与える事になるのであった。

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