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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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場違い選手権



 小さな島。

 ロクに誰かがやってくるような場所ではない。

 実際ワイアットがいただけで、他に誰かがいるような気配はしなかった。


 ルシアはワイアットがウェズンを連れて戻ってきて、そこからしぶしぶと神の楔で転移する事になる。

 ここで嫌だとごねたところで、ワイアットが強制的にルシアの足をへし折って無理矢理連れていく、という事だってできるのはよくわかっているからだ。

 隙を突いて一撃入れて逃げる、というのも考えたけれど、しかし困った事にワイアットに隙が見当たらない。


 一見すると隙だらけなのに、いざ攻撃を仕掛けようとした上で見るとどこにもないのだ。

 うーわマジでクソ。とかそんな風に吐き捨てたい衝動があったけれど、しかし。



 ワイアットがウェズンを連れて少し離れた場所で何やら話を始めている間、ルシアは考えていた。


 死ぬ理由。

 それを与えるという意味。


 そのまま受け取るのなら、ここでお前の役目を果たさせて終わらせてやる、という意味にしか聞こえないけれど。

 儀式はもう少し先だと言っていた。

 だから、すぐに死ぬわけではない。


(違う、そうじゃない。理由と言っていた。

 理由……? 生きる理由、ならわかるけど、死ぬ理由を与える、っていうのは……)


 死ぬことにそもそも理由なんてあるのか? というのがルシアの率直な疑問である。

 生まれた時から既に決まっていた事だ。

 ただ、そこに至るまでが長いか短いかの違いであって。


 テラプロメで使われている浄化機の数は恐らく他の国に存在している物よりも多い。他の国は騙し騙し使っているという話だが、テラプロメではそれがない。

 だからこそ、あの都市は瘴気をどこよりも多く発生させておきながら常に浄化され続けている。


(まさかだけど、浄化機扱いで死ぬ以外の理由を……? まさかだろ?

 いや、でも、じゃあどうして他に誰かを誘えとか、ウェズンかアレスはいるなんて……)


 他の誰かであっても良かったはずだ。

 ワイアットがどうしてその二人を選んだのか。


 ちらりと見ればまだワイアットはウェズンと何やら話をしているようなので、もう少し考える時間がありそうだ。

 というか、ワイアットがウェズンの肩に腕を回して何やら囁いているようにも見える。

 そこまでしなくても、別に盗み聞きする事はないのにな、とルシアは思って。


 そこで、気付く。


 そういやあいつ、元を正せばあいつだってテラプロメが故郷になってたかもしれない奴じゃん、と。


 ウェズンの両親はテラプロメ出身だ。

 母親が生贄として、父親がその監視として。

 もし、都市から逃げ出せなかったなら。

 果たしてウェズンが生まれたかはわからない。その前に母親が死んでいた可能性は高い。

 けれども、ウェズンはこうしてここに今、存在している。


 いや、もしかしたら。

 母親が死ぬ前に、あえて産ませていた可能性もある。


 どうだろうか……なんて考えたりはしない。

 ルシアなら躊躇うような倫理観に背くような事であっても、テラプロメであるならばやらかしてもおかしくはないからだ。


 どちらにしても、ウェズンの母親には利用価値があった。


 そして父親にも。


 その二人から生まれた子を、テラプロメは密かに目をつけていた。

 神前試合で神から願いを叶えてもらえたけれど、その願いは一見すると安全を確保できるようなものだが実際は穴だらけで。

 やりよう次第ではいくらでもテラプロメはウェズン達一家に手を出せた。

 まぁ、下手に突いて両親を怒らせたならテラプロメだって無事で済まないだろうから、今の今まで手をこまねいていただけなんだろうけれど。


 だが、そんなウェズンが。

 自分からテラプロメに来たのであれば、それはもう飛んで火にいる夏の虫、というやつではなかろうか。


 ワイアットが何かをしようとしてルシアを連れてテラプロメに戻るついでに、その何かの一部を誰かに任せるとして。

 ワイアットが自分から目を逸らすために他に注目を浴びるような誰かを連れていくとなれば、確かにウェズンは最高の存在である。



 だが、では。

 ワイアットの話ではどうやらウェズンの他にアレスもご指名だったようだけれど。

 アレスは一体どういうつもりで選ばれたのだろうか。


 考えてみるが、悲しい事にルシアは今まであまりアレスと関わった事がないのでさっぱりわからなかった。

 ある程度親しい間柄であったなら、推測ももうちょっと頑張ってみたかもしれないけれど、ほとんどアレスに対して情報がない状態で考えたところで、わかるはずがないのだ。


 ワイアットは同じ学院にいたわけだから、ルシアよりはアレスの事を知っているのだろう。そしてその結果、ワイアットはウェズンの他にアレスを選んだ。


 何をさせるつもりで巻き込もうとしているのだろう。

 わからない。

 もしかしたら、と一瞬浮かんだ想像は、しかしあまりにも突拍子もないものなので、まさかね、と早々に打ち消した。



 そうこうしているうちにワイアットとウェズンが戻ってきて、ルシアが逃げられないようしっかりと捕獲された状態でルシアはワイアットに連れられてテラプロメへ転移したのだ。

 ウェズンは少し遅れて転移したようで、転移先に彼の姿はなかった。


「さ、行くよ」

「ちょっと待って、ウェズンは」

「あぁ、言い忘れてたけど、あの神の楔、手を加えてあるんだ。

 僕たちは当初の予定通りの場所に転移したけれど、彼が転移する先はここ以外の――どこか別の区画だ。合流するにもどれくらい時間がかかるかはわからないし、上手く合流できるかもわからない。

 とにかく、僕たちは僕たちのやるべきことをする」


 言うだけ言うと、ワイアットはルシアの腕をつかんだまま歩き出した。

 彼が進む先は間違いなく元老院だ。

 見上げて視界に入る光景に、ルシアの胃はキリキリと痛むようだった。



 ――ワイアットとルシアがテラプロメへ帰還して数秒後、ウェズンもまたテラプロメに転移していた。


 ここで下手に情報を得ようとしない方がいい、と言われていたけれど、学園の生徒が単身ここに来ることは果たして普通の事か、と問われればまぁ有り得ない話だ。

 そもそも普段はテラプロメに転移などできないはずなので。

 できないようにされている、はずだ。


 ただ、テラプロメ側で神の楔を新たに作る事が可能で、一部の神の楔にはテラプロメへ転移できるのだ、とかそんな風に聞いた気はしていたので、転移してしまった事に対しての言い訳はいくつか用意できない事もない。


 けれど、ワイアットはあくまでも事故を装えと言っていた。ここに来る直前で。


 そして、その為のアイテムを彼は親切にも……親切にも?

 まぁ渡してくれたのだ。

 ワイアットを知る者がいたならば、あいつにも人に親切にできるんだなと驚くだろうと思うけれど、しかし恐らくこの親切はどっかズレてる気がするな、とウェズンは思っていた。



 ウェズンが転移した先は、間違いなくテラプロメなのだろう。

 今までに行った事のあるどの街よりも近代的な雰囲気が漂っていた。

 高いビル。それこそ見上げても一番上が見えるかどうか、といったような高層ビルがずらりと並んでいる。

 道はコンクリートのようなもので舗装され、ビル以外の建物もなんというか前世のウェズンが生きていた世界にありそうなものばかりだった。

 今ウェズンがいる場所は、と問われれば、恐らくオフィス街とかそういう感じなのだろう。

 ただし、人はほとんど見当たらない。


 本来ならきっとここには働く誰かが大勢いて、賑わっているはずなのかもしれない。

 あくまでもウェズンの記憶の中の光景では、ここはそういった雰囲気の場所なので。

 けれど、ここではこれが普通の可能性もある。

 ウェズンは今日初めてテラプロメにやって来たので、そこら辺はさっぱりだ。

 前世の記憶のせいでとても違和感があるけれど、しかしこれがここでは普通なのかもしれないのだ。


 とはいえ――


「うぇーい、どうすっかな」


 初っ端から浮かれたみたいな声、かと思いきやその声はテンションが低すぎていっそ棒読みですらある。


 事故で、ここに来た感じで装えと言われていたので、目的の場所についたつもりが違うと気付いて途方に暮れる感じを出したものの、どのみち周囲に誰もいないからこの芝居必要ある? という気さえしてくる。

 いやでも、テラプロメはそこかしこ監視しているとかいう話も聞いたような気がするので、一応表向きやってみました感は出したけれども。


 えっ、これテラプロメの人今どっかで見てたりするんだろうか。

 もしそうならこの微妙なテンションまずったかも。


 なんて今更のように思う。


 いや、口調だけならまだ挽回可能かもしれない。


 内心テンション高いけど表に出ないんですよねぇ~とか言っておけばいいだろう、と雑な誤魔化し方を考える。


 今のウェズンは、ワイアットから渡されたアイテムによって。


 花の形をしたサングラスを装着し、ついでに腕には既に膨らませたカラフルな浮き輪がある。頭には麦わら帽子、制服はかっちり着込んでいたのを崩して、一部はリングにしまってある。

 靴なんかはまさにそれで、今ウェズンが履いているのはビーチサンダルだった。


 制服が限りなく減らされて、普段はもっとガッチガチに色々着てたものを最小限までにしたために、制服と言われてもそうは見えない状態である。


 それどころか、むしろ完全にこれから海に遊びに行く浮かれた青少年の姿と言ってしまえば誰も否定できないだろう姿をしていた。

 いやもうどこでこんなの見つけてきたんだ花柄サングラス。ジョークグッズとかネタアイテムじゃんこんなの。むしろこの世界にもあったんかい、とすら思えてくる。


「いやマジでここどこ」


 浮かれた設定を自分の中で意識して、ウェズンはちょっと途方に暮れた感じを出してみた。


 海だと思ったら全然違う場所なので、あれ何でこんな所に? という感じでいこうとしたのだ。

 本来ならそこで神の楔で戻ればいいだけの話だ。瘴気濃度の問題で場合によっては戻れないなんてこともあるけれど、しかしここは常に浄化機が使われているので、他の場所に比べれば汚染度はそう高くないはずだ。

 まぁそれを知るのはモノリスフィアで汚染度チェックする場合くらいなのだが。


 だが、仮に迷い込んだ相手だとしても、ここに瘴気がある、とはあまり思わないだろう。


 だからこそ無防備に、かつ好奇心につられたようにウェズンはきょろきょろと周囲を見回して、それから好奇心の赴くままに移動を開始したのである。


 まぁ、あくまでも表向きの演技だ。

 実際引き返すつもりはない。既にワイアットがルシアを連れてテラプロメに転移しているのだから。


(単独潜入ってこれ大丈夫なのかな……というか、普通こういう時ってもっとこう、攻略アイテムっぽいのがきてもいいと思うんだけど……どうすっかなこの浮かれ切った海水浴客ルック。水着で来なかっただけマシかもしれないけど)


 浮き輪はあくまでも浮き輪で武器に使用はできそうにないし、そのうちどっか適当なところで処分できればした方がいいだろう。

 まぁそれはさておき。


(番人とやらはどこだ)


 ここに来る直前でワイアットに言われたのは、テラプロメの番人討伐。

 ウェズン一人で!? と勿論ウェズンだって思ったけれど、ワイアットは自分には無理だからと言うし情報を一切落としてくれなかったので。

 まずは情報収集が基本なのかもしれないが、ワイアットにそれはやめておけとも言われているので。


 番人ってそもそも何? とか、どこにいるんだ、とかいう当たり前の疑問を抱えたままウェズンはオフィス街のようになってる区画を彷徨うのであった。

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