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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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乗った先で



 さて、時間というのは過ぎてほしい時には中々過ぎなくて、終わって欲しくない時にあっという間に終わりの時を迎えるものである。


 平和な日々は終わりを迎えた。

 というととても大袈裟だが、まぁ間違ってはいない。極一部ではあるけれど。



 学園の授業が終わり、生徒たちの休日がやって来た。

 今回は学外授業などで学園に戻ってきたりするのに時間差で、なんて事もなかったので、一斉にお休みである。

 クラスの中で一人だけ授業を受けるなんていうある意味虚しい事もない。


 休み。


 学生からするととても待ち望んでいたはずのそれは、しかし一名、これから地獄へ行くんだぜ……みたいな顔をさせるには充分すぎるものだった。


「大丈夫かルシア」

「だいじょばない。むり。しぬ。たっけて」


 現在地、学園。


 これからワイアットが呼びだした場所へ向かうのだが、出発前から車酔いして吐いた後みたいな顔色してるルシアに、ウェズンは無駄と知りつつも声をかけた。案の定返事がもう駄目だ。



 一応。


 本当に一応、今日ワイアットに呼び出されてルシアが出かけるという事は仲間内には伝えてある。

 もし数日経過しても戻ってくる様子もなければ連絡も通じないとなったなら最悪死んでるはずなので、その時はテラ先生に連絡をしておいてくれ、とかいうとても後ろ向きな伝言も頼んでおいた。

 死ぬつもりはないけれど、それでもワイアットが関わっているのである。

 あいつホントなんで呼び出したんだ……とウェズンは未だに思っているし、なんだったらルシアは今日既にそれを六回程口に出している。


 言葉にしたところで誰も答えを持っていないため、言うだけ無駄に終わった。


 レイやアレスにも声をかけてはみたものの、ワイアットが絡んでいるという時点でとても訝しげな顔をされた。参加に関しては、これがこちらをおびき寄せて一網打尽にしちゃうぞ☆ みたいなやつだったら終わるだろ、とか言われて結局集合時間までに出発するのはルシアとウェズンの二人だけだ。

 戦力的にとても不安しかない。


 ワイアットの話では、ウェズンかアレスのどっちかに参加してほしい、とは言っていたが、逆に誰それには参加してほしくない、みたいな事は言わなかったようだ。イアが連絡をした時に、どうやら彼女自身も参加していいのか? と聞いたら特に拒まれたりもしなかった。ただ、運が悪いと本当に一瞬で死ぬからそこんとこよく考えて、と返されたらしいのだけど。


 その対応からイアはワイアットの友人枠にいると考えていいのだろうか……?

 正直なんで友人関係になっているんだろうか、という疑問は今でもある。


 ルシアがワイアットを殺そうとして返り討ちにあった時はイアもついでに殺したところで何も困らない、みたいな感じだったような気がするのだが。

 イアが自作チョコレートで難を逃れた事でワイアットの興味を引いたにしても……まぁそれでも納得のいく感じではない。


 ともあれ、そろそろ時間であるのは間違いないのでウェズンはルシアを伴って学園の神の楔がある場所まで移動しているところであった。

「ほらルシア、もっとしっかり歩け」

「うぅ、いやだぁ……いやだぁ……まだ死にたくないよぉ……

 ルチル……ルチルゥ……」


 顔をしわくちゃにして今にも泣きそうな様子だが、だからといってそれじゃあここに残るといいよ、とは言えない。その場合ワイアットが直々に乗り込んでくるかもしれないからだ。学園と学院の合同授業扱いの強襲イベントの時点で多大なる被害が出たとはいえ、あれは制限時間があった。

 だがもし彼が今回普通に乗り込んできた場合、制限時間などないので、教師が強制的に彼を学院に送還するとか、こちらが実力で追い返すとかしないといけない……と考えたら果たしてそこに至るまでにどれだけの犠牲が出る事か……


 ルチルの敵討ちをする気はあっても、現時点ワイアットを出し抜いて仕留められる程の実力はルシアにはない。敵討ちをしようとして二度も返り討ちにあうのでは、不様すぎる。何より、一度目は一命をとりとめたけれど、二度目はないかもしれない。そうなれば敵も討てず無駄死にである。

 そりゃあ気乗りもしないだろう。

 頭に血が上って負けが見えててもせめて一撃いれてやらぁ! とか言い出す程の無謀さをルシアは持ち合わせていなかった。


「ま、なんだ。気ぃつけろよ」

「そんな気遣いいらないからどうせならついてきてくれよぉ~~~~!」

「あー。わり、ちょっと他に用事あんだわ」


 あまりにも憐れな様子からレイが声をかけるも、それがトドメになったらしい。

 ぎゃんっ! という効果音が聞こえてきそうな勢いでルシアが泣き喚く。

「ほら、レイにだって予定ってものがあるんだからさ」


 ウェズンに言われて、しぶしぶ諦めるものの一度泣いた勢いはそう簡単に止まるものでもなく。

 えぐえぐとしゃくりあげつつも、ルシアはウェズンに手を引かれ神の楔がある場所へとようやくたどり着いたのである。


 ワイアットに指定された場所は、特に何があるでもなさそうなところだ。

 行った直後からいきなり死の予感とかそういうのはないと思いたいが……


「うぅ、それでも不穏すぎる……!」


 いきなり死ななくても瀕死にはなりそう。

 そんな考えがいくら打ち消しても次の瞬間新たににょきにょき生えてくるのだ。

 あ、まって、お腹痛くなってきた……なんて言ったところで。


「もうこうなったらパッと行って帰ってくるしかないだろ」


 ウェズンは容赦しなかったのである。


 正直ウェズンも行きたくないなぁ、とは思っている。

 いるけれど、なんだか自分より酷い状態のルシアを見ているうちに、謎に冷静さが芽生えてしまったのだ。やっぱ自分より酷い状況の奴がいるのといないのとでは違うんだなぁ……なんてどこか暢気に構えつつも、パパッと神の楔を起動する。


「じゃ、行ってくる」

「おう、マジで気ぃつけろよ」


 一応見送りしてくれたレイに声をかけ、レイもまた雑に手を振って。


 神の楔が起動して、あっという間に視界は学園ではない別の場所を映し出していた。


 小島。

 そうとしか言いようのない場所。


 恐らくぐるっと一周するのにそこまで時間もかからないような、どうしてこんなところに神の楔があるのかもわからないくらい、何もない――あるのは自然くらいだ――場所。


 人の喧騒に疲れて、人の少ないところでゆっくりと自然に癒されたい、なんていうのであれば、まぁ、いいのかもしれない。一泊二日のキャンプして、それから帰るくらいなら、この島は訪れるのに丁度いいだろう。


 だが、そうでもなければここに来る用事などないと言い切れる。


 何となく周囲を見回して、思ってたより小さいところだなぁ……なんて感想を浮かべたウェズンは大勢を連れてこなくて正解だったかもしれない、と改めて思った。


 そこそこの規模がある島ならここでサバイバル訓練がてらお互い殺し合おうぜ、みたいな事を言い出されてもまだ対応できたかもしれないけれど、この島はそういったものには間違いなく不向きだ。

 身を隠すような場所もそうあるようには見えないし、大勢を引き連れていたならば、別の場所にスタンバイしている敵が強力な攻撃魔術をぶちかますだけで半分くらい戦力を削られそうな気がした。


 身を隠せるような場所は周囲になくとも、例えば上空とか……なんて思いながら空を見上げてみたが、仲間に支えられて浮いた状態で主砲扱いの魔術攻撃担当、みたいな誰かが……などという事はなかった。

 あったならこの時点で即座に対処していなければ人生が終了である。


 内心で安堵しつつも、ウェズンは未だしわくちゃな顔をしたままのルシアを引き連れてとりあえず移動する。

 神の楔からあまり離れたくはない。

 何かがあった場合、すぐさま神の楔で逃げ帰る事も一つの手段として考えていたので。

 けれど、離れない場合、下手に神の楔ごと攻撃に巻き込まれてもしまた神の楔の転移事故に巻き込まれるのも困る。


 滅多に起きないという話だが、滅多に、であって絶対にでないところが問題である。

 しかも転移事故で飛ばされた先は大抵馴染みがない場所なので、まず自分がどこにいるのかを確認する必要が出てくるし、人里から離れた場所に飛ばされた場合は情報を集めるのも一苦労だ。

 しかも転移事故で飛ばされた先で、すぐ近くに神の楔があるかというと、無いと考えた方がいい。


 人里が近くにあるならそこで情報収集できるけれど、場合によっては話が通じないタイプである事もあり得るので、見知らぬ土地での行動、それも事故で飛ばされて単独となれば相当気を付けて行動しなければならない。


 そう何度も転移事故があってたまるか、という話なのだが、ワイアットともしここで戦闘になった場合。

 彼の攻撃は神の楔にうっかり命中した場合、事故を誘発しそうな威力を秘めている。

 ちょっと小石がぶつかりました、とかそんな感じであれば神の楔だって転移事故を発生させたりはしないけれど、思った以上に強烈な衝撃がくれば事故が起きる確率は困った事に上がるので。


 もしワイアットと戦闘になるかもしれない、と考えたなら逃げ出す事を考えて神の楔の近くにいたいけれど、事故が発生しない程度に距離もとりたい……という何とも微妙な状況であった。



「それで、ワイアットは一体どこに……」


 既に先に来ているとは思うけれど、神の楔の近くには誰もいない。見回した範囲内にそれらしき姿は見当たらなかった。

 ふと、上空から奇襲攻撃……なんてほんの少し前に想像して見上げた時も、雲一つない青空が広がっているだけで、宙に誰かが! なんていう事もなかったわけで。


 見える範囲にいなくとも、まぁ小さな島だ。

 少し歩けば遭遇するかもしれない。

 そう思ってウェズンはここまで来てもまだしわくちゃな顔をしたままのルシアを引っ張って移動した。


 そしてワイアットの姿を見つけたのは、歩き始めて十分したかどうか、といったくらいの頃だ。


 まずは島の中心部へ向かう――のではなく、とりあえずぐるっと一周してみるか……くらいの気持ちで歩き始めれば、波打ち際でぼうっと突っ立ってるだけ――に見えるワイアットを見つけて。


「あれ、あっちも一人なのか……?」

「えぇ……嘘だろ、あ、いや、でもあいつの実力考えたら別に一人なのはおかしくないけどさ……」


 てっきり向こうもそれなりの人数揃えてるものだと思っていたのにそうじゃなかった、となってルシアもようやくしわくちゃな顔から普段通りの表情へと戻る。


「まぁいいや、声かけてみようか。何かもう気付かれてる気もするけど」


 だってあのワイアットだし。

 いくらこちらに背を向けてただ海を眺めているだけにしか見えなくても、気配を消して移動していたわけでもないのだ。

 気付いているに決まっている。


「おーい!」


 だからこそ、ウェズンはまぁ声かけたくらいじゃいきなり攻撃仕掛けてきたりもしないだろ、と思って普通に声をかけた。

 それこそ、田舎の親戚の家に遊びにきましたよ、くらいの気軽さで。


 きっとワイアットはもうウェズン達に気付いていて、だからこそ当たり前のように振り返るのだろうと思っていた。


 だというのに――



 まるで今気づいた、とばかりに少しだけ反応して、それからゆっくりとワイアットが振り返る。

 こちらを見た時点で裏がありそうな笑顔の一つでも浮かべているかと思ったのに。


 ウェズンにはそれが、迷子がようやく道を聞ける誰かを見つけたみたいな。


 そんな風に見えてしまったのである。

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