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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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意図の見えない誘い



 ウェズンの知る中でワイアットと直接連絡がとれるような人物と言えば一人しかいない。

 ワイアットの事を知っている者、であればもっといるけれど、やりとりが可能な人物となればほぼいないと言ってもいいくらいだ。

 ルシアが離れた事で多少身動きがとりやすくなったのもあって、ウェズンはリングからモノリスフィアを取り出した。


 直接相手のところまでいこうとすれば、ルシアの事だ。再びしがみついてどこに行くだとか見捨てるのかだとか喚き散らすに違いない。


 ともあれ、メッセージを入力する。


『ちょっとワイアットに確認してもらいたいことがあるんだけど』


 すぐに返事がくればいいが……と思っていたら、ウェズンの願いは通じたのかすぐに返事がやってきた。


『どったのおにい?』


『ルシアのところにワイアットから手紙が届いたんだけど、その内容について』


『手紙……? んーと、どういう内容か聞いてだいじょぶそ?』


 返事を見て、ウェズンはワイアットの手紙の内容をざっくりと入力した。

 時候の挨拶だとかはすっ飛ばしたところで問題はないし、本題をざっくり要約すれば、次の学園の授業が休みになるだろう日にワイアットが指定した場所に来いというものだ。

 その際友達を連れてきても構わない、とも書いてあった事を記して送れば、恐らくはその内容をじっくりと見ているのだろう。


 ややしばらくして、


『それで、何を確認すればいいの?』

 と返ってくる。


 それを見て、何となくウェズンの視線はルシアへ向いたが、すぐにモノリスフィアに戻る。

 ルシアに聞いたところで、まだ恐らく平常心を取り戻してなさそうなので、ぐだぐだな質問になりそうだなと思ったのだ。


 なのでざっくりとウェズンが疑問に思った事を入力していく。


『お友達は何人まで連れていっていいのか。

 命の保証はあるのか。

 まずはこの二つを確認してほしい』


 手紙を見たルシアとウェズンからすればどう見ても果たし状か何かだが、しかし内容を要約してウェズンがイアに送ったメッセージだけを見るなら、そうは思われない感じになってしまうので。


 本当にただどこかに誘っているようにしか見えないのだ。


 まぁイアもルシアとワイアットの間にあったいざこざ――と一言で言っていいかはわからない――を直接目の当たりにしているので、流石に遊びに誘っているだけ、とは思わないだろうけれど。


『しばしまたれよー』

 ともあれイアからそう返事がやってきて、ウェズンはやるべきことは全部やった気になってしまった。

 どのみちこれからイアがワイアットにメッセージを送って、そのメッセージをワイアットがすぐに見て返事をしてくれるかどうかはわからないので。


「……とりあえず、すぐに返事がくるとも思わないし、一度部屋に戻ったら?

 何かあったらこっちからモノリスフィアで連絡するし」

「本当か!? 本当だな!? このままうやむや放置とかないな!?」

「ないない安心しろ。流石にこれを放置するとなると僕も後々気になるだろうし、てか放置して当日とかになったら逆に色々と危険しかないだろ」


 ワイアットの真意はわからないが、放置してなかった事にしよう、とかそんなのが通じる相手ではない事だけは確かだ。

 もしそのままにした結果、出なくていい被害が発生する可能性もあるのでいくらなんでもウェズンとて無責任に放り投げるわけにもいかない。


 本当に本当だな!? としつこいくらい念を押してくるルシアに、はいはいと頷いてとにかく部屋に帰るように言う。

 あまり遅い時間までここに居座られても困るので。


 部屋の中に入れてもいいが、イアの返信次第では下手をするとルシアが自分の部屋に帰るタイミングを逃しかねない。流石に泊めてやる気まではなかった。だって自室がそこそこ近くにあるので。

 それなら素直に自室待機させておいた方がマシ。


 まぁ、遅くてもルシアの手紙に出した日程より前に連絡がくるだろうと信じたい。


 そう思ったウェズンはとにかくルシアを部屋に送り届けた。

 そうでもしないとウェズンの部屋の前に居座って待ち続けそうだったので。



 そうしてルシアを部屋に送り届けた後、自室へ戻ってくればイアからのメッセージがやってきた。


『お友達に関しては何人でもいいらしいよ。

 ただ、命の保証に関しては運が絡んでくるらしいから何とも言えないって言ってた』


「うわ」


 思わず上げてしまった声に、どうかしましたか? とばかりにそっとナビが様子を窺ってきたけれど、なんでもないとばかりに手を振っておいた。


『運が絡んでくるって、何させるつもりで呼び出してるんだよ……』

『さぁ? 聞いてみる』


 強ければ生き残れるけど弱かったら死ぬ、みたいな展開じゃないだろうな。

 なんというかその気配が濃厚すぎて嫌な想像しちゃったなあ、という気分になる。


『ちょっとした観光って言われた』

『はい嘘ー!』


 返信は秒だった。

 いや、だって、なぁ? と誰にともなくウェズンの口から何を言うべきかわからないような言葉が出る。


 だってあのワイアットだぞ?

 と、お前が一体ワイアットの何を知っているんだみたいなコメントが頭の中を通り過ぎていく。


『仮にそれってルシア一人での参加でも問題ないって事か?』

『聞いてみる』


 そもそも本当に観光なのだろうか?

 ワイアットが指定した場所は神の楔があるとはいえ、特にこれと言った特徴もなさそうな島だったはずだ。


 観光、という言葉が何かの隠語の可能性すら出てきている。


『できればそれなりの人数に参加してほしい、って。

 ただ、人によっては死ぬ可能性もあるから無理強いはしないとも言ってた。

 ルシアはともかくとして、おにいかアレスのどっちかは参加してくれるの希望とも』


「もう完全に厄介ごとのフラグなんだよなぁ……」


 むしろ確定演出と言ってもいい。


 ルシアの参加は恐らく確定だろう。

 ルシア本人に送られた手紙がそれを物語っている。

 もしルシアが行きたくないと拒否したところで、恐らくなんだかんだ彼は巻き込まれるだろう。


 では、ルシアが身の安全を確保したいがために、他の仲間を誘おうとしたとして。


 ルシアがアレスを誘う可能性がどれくらいか、となると。


(まぁ、僕よりも低いよなぁ……)


 実際ワイアットの手紙が来た時点でウェズンのところに泣きつきにきているのだ。

 仮に誰かを連れていかなければならないというのなら、ルシアが頼むのはアレスよりウェズンだろう。

 そもそもルシアはあまりアレスと関わっている感じではない。

 授業やそれ以外でも用がある時は話しかけたりもしていたはずだが、そうじゃない時に仲良く談笑するような間柄か、と問われると微妙なところだ。


 そんな相手にもしかしたら死ぬかもしれないけど一緒に参加してくれない? 何があるかわからないんだけど。なんて誘えるかという話である。

 誘う側も大概だが、それで参加をオッケーする相手がいたならそれもそれで大概すぎる。


『なんか、運が悪かったら死ぬらしいぞ。あとお友達は何人誘ってもオッケーだそうだ』


 とりあえずルシアにそうメッセージを送る。


(いやこれ見てルシア、やったー運が良かったら生存できるんだね! とか思うわけないし、お友達何人誘ってもってあたりからしてどうかと思うし、誘うにしても運が悪いと死ぬっていう部分説明しとかないと最悪どっかで仲間割れフラグできそうだし……え、どうするんだろこれ……)


 そして送ったメッセージを見返して、どうしようもねぇな……という感想を漏らした。


『ちなみに僕かアレスのどっちかは参加してほしいそうだぞ』


 追加で送れば、

『じゃあウェズン一緒に行ってくれ!』

 秒で返信がやってきた。必死すぎる。


 まぁ、ルシアがアレスを誘う光景がこれっぽっちも想像できなかったし、その場合自分の方が可能性高いよなぁと思っていたのでこれは予想の範囲内だ。


『まぁ仕方ないから参加してやるよ。感謝しろ』

『ありがたき幸せ。愛してるよ』

『後半はいらなかったかな』


 感謝しろと恩着せがましく言いはしたが、そうでもしておかないと割と本気で崇め奉りそうな勢いを察知したからだ。先にそうやって恩着せがましく言っておけば、必要以上に委縮というか、感謝しすぎる事もないだろうと思っての事だったのだが……

 結果として何か間違った方向に行った感は否めない。

 なんだ、新人ホストの接待ミスったメールか何かか? とすら思えてくる。


 何か可哀そうだし、とかいう気持ちもあったのは確かだ。

 その結果ウェズンも謎の催しに参加する事になったらしいのは、どうかなと思ってはいるのだが。

 今からやっぱ無かった事に、なんて言ってもルシアは引き下がらないだろうし、ルシア単体での参加になった場合彼が生きて帰ってくるかも謎なので。


 そうなると、まぁ、参加、するしかないんだろうなぁ……となるのである。

 見捨てるのは流石にちょっと……


 もっと色々とルシアの人間性がどうしようもないレベルでクズなら見捨てる事にも心が痛まなかったはずなのに。


 もっと言うならワイアットが物騒な人間じゃなくて、ルシアと仲が良くて本当にただのお誘いなら何とも思わなかったのだけれど。



 ……これ、学園の生徒の人数今から減らして神前試合有利に運ぼうとかいう陰謀もあるんだろうか……?


 なんて。


 今更のように思ったけれど、どういう状況でどういう展開になったとしても結局疑う事になる気がして。


「ま、なるようになるか……」


 ウェズンは考えるのをやめた。

 イア経由でもたらされる情報とて、ワイアットが本当に正しく伝えているか不明なのだ。

 あれこれ考えたところで結局裏をかかれる気しかしない。


 次の休みまでの日数を確認して、その間にできそうな準備だけはしておくべきだろう。


 早々に結論を出して、ウェズンはさっさとベッドにもぐりこんだ。

 あとは野となれ山となれ、という気持ちである。

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