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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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その情報がもたらすもの



 クロナから渡された書物はイア曰くの創世日記で、かなり古いタイプの古代文字が使われていた。

 中身はウェズン以外読めないようで、誰かに助けを求めようにも難しく。


 結果としてウェズンはちまちまと古代文字に関する本を図書館で借りては室内で解読に努めていたわけだ。

 他に誰かがいると開かないので、ナビには一時的に出てもらっている。

 部屋の外で待機している状態にちょっとびっくりして他の生徒が数名「何してんの?」と声をかけてきたりもしたが、ちょっと魔法関連の面倒な書物の解読、と答えればそれ以上は深く聞かれなかった。


 魔本という代物が存在しているので、下手に集中力を欠くような事になったら何らかのトラブルが発生しかねない本、というのは他にあってもおかしくないと早々に納得されたのだ。

 興味本位でさらにどういう本か、と聞かれた時にウェズンはこれ、と本を見せて、まず開かないから何らかのアクションが必要なんじゃないかと思って、と誤魔化す事にしている。

 実際ウェズン一人なら開くけれど、他に誰かがいる場では開かないのだ。

 だからこそ、そういった方面に興味を持っている相手が躍起になって本を開こうとしても無駄に終わるのを見て、ある人物から渡されたけどまだ手を付ける以前の話でさ、なんて言えば。


 知的好奇心旺盛な相手からすると興味が尽きない物ではあっても、中を見れないのでは仕方がない。

 自分ならそれを開ける! という根拠と自信があるならともかく、そうではない。


 だからこそ、気になるなと思っていてもこの時点で手助けできそうな事は何もない、と判断した者たちは。


 中開くようになったら見せてくれよ、なんて言って立ち去るのだ。


 実際ウェズン一人の時には開くけれど、他に誰かがいると強制的に勝手に閉じるので、中を見せる日はきっと来ない。

 けれどもそれを言えばまたややこしい事になりかねないので、ウェズンはそうだね、なんて言って部屋に戻るのだ。



 何か謎の本の解読しようとしてる、程度の噂はあれど、まぁそれだけだった。



 なのでナビが部屋の外で待機している光景も、気付けばすっかりお馴染みになりつつあったのである。

 他の生徒たちの場合、部屋を管理している存在が目につかないように、となればそれこそ他の――その部屋の状態にもよるが別室のようなものを空間拡張で作ってそっちにいてもらうだとか、最悪お風呂とかに移動してもらうとかなのだが、困ったことに創世日記はその程度の距離では開いてくれなかったので。

 だからこそ、ウェズンは仕方なしにナビに外で待機してもらっているのである。


 ナビに視力といった機能が存在せず、創世日記を認識できない状況であったならもしかしたら問題はなかったかもしれない。しかしナビの視覚は思っていた以上にずば抜けていたので。

 ウェズンがいる部屋の隣に作られたキッチンやら他の部屋にいても、創世日記が開かなかったのだ。

 個室に入ってドアを閉めればいいのかもしれないが、その場合トイレに閉じこもる結果になるのでそれはそれで気が引けた。



 空き時間に集中して調べた結果、運が良いというべきか、そこそこ進展した。

 といっても、中身を完全に理解できる程読めるようになったわけではなかったが。


 ただ――



 ウェズンが読み解いた範囲での情報には、どうやら神は複数名いたらしい事が窺えた。


(とはいえ、この世界に神が複数いた、という話は聞かない。となるとこれは他の異世界の神だろうか……?)


 既に異世界がある、という事を知っているので、早々にその可能性を考える。

 ウェズンの前世の世界に果たして神が本当にいたかはわからないが、他の世界にいたとしてそれは別におかしな話でもない。

 大体この世界だってはるか昔、他の世界からの来訪者が大勢いたのだ。今更他の世界の存在を疑うのはいかがなものかと思う。


 創造神が他にいたとして、日記の中でたまにみかける名前はきっとそういった相手なのだろう。

 別世界の神の名を知ったところで、とは思うけれど。少なくとも日記の中でみかける人名らしきもので、ウェズンが知るような名前はなかった。あったらそれはそれで恐ろしい気がする。


 少なくとも前世の神様といった存在と同じ名前はなかった。


 日記の中身は最初の内はそれなりに希望にあふれていたと思う。

 世界を作ることを許された。

 一人前の神を目指して素晴らしい世界を作るのだ、という決意というか目標というかが掲げられている。


 今いるこの世界の話でなければ、ただの創作物であるならウェズンも微笑ましく見ていただろう。

 けれど、今いるこの世界の話となると、この先で何か不穏な事になったりしないだろうな……という不安がよぎる。

 とはいえ、まだ全てを解読できているわけではない。

 言い回しの表現が現在使われているものとは大きく異なるような部分もあるようだし、そのせいで読めている部分であっても意味がさっぱりわからない、なんてものもある。


 少しずつ進めているとはいえ、流石にすぐ終わるものでもない。


 ある程度は向き合っていたが、これ以上根を詰めても仕方がないという判断に至って、ウェズンはそこでようやく日記を閉じた。



 日記の序盤はこれからの希望に満ちていた。

 それが、やがてこの世界を滅ぼそうという考えに至る。


 何があってそうなったのか。


(いやまぁ、普通に嫌になったとか、大した理由なんてなかった、なんてオチもあるけれど)


 あまり、期待しすぎない方がいいだろう。


 そう考えていた。

 実際日記に何もかも答えに至る何かが書かれてるなんて、ゲームの中だけなのだから。


 ……一応、この世界がゲームになってる世界線もあるので「ないだろ流石に」で流せないのが困りもの。



 そうやって、時間をかけてコツコツと解読し続けていって。


 途中で躓いた。


 まぁそうだろうな、とウェズンだって思う。

 大体自分は考古学だとかそういったものを専門に学んでいるわけでもないし、それを専攻しようと考えた事だってない。ロマンはある。あるけれど、それに人生を捧げようとまで思った事はなかった。


 むしろ途中まででもよくまぁ解読できたな、と思えたほどだ。

 そしてその途中までには、これっぽっちも役立ちそうな情報はなかった。



 ――ところがだ。


 とある日、予想もしていなかったところから情報がもたらされた。


『妙だな……』


 そう、時々ウェズンの脳内に語り掛けてくる存在――ジーク曰くの兄上である。


 イアですら表紙はさておき中身を見る事はできなかったし、ナビだって同じ部屋にいるとなると日記はピクリとも開く気配がなかったけれど。


 彼の存在はどうやらスルーされたらしい。


(そういやいたんだっけ……最近大人しかったからすっかり忘れてた)

『悲しい事を言うでない。泣くぞ』

(うるさいんでやめてください)


 室内にウェズン一人とはいえ、流石に声に出してのやりとりは避けたかった。

 傍から見たら間違いなく激しく独り言がうるさい状態である。

 だが、たった一人で本当にこの解読で正しいかどうかもわからない中進み続けていたところに、誰かしらもう一人あれこれ意見交換ができそうな相手ができたというのは、役に立つかどうかはさておきウェズンにとっては心強いものだった。


『いくらなんでもあいつがこんな殊勝な態度でいた時期があるとか思いたくない』


 ジーク曰くの兄上――名を、オルドフリードと名乗った――は、まるで神を知っているかのような口ぶりだった。


(知ってるのか? ってか、会った事が?)


 もしそうなら、神に対する情報はとても貴重だ。役に立つかどうかはさておき、この世界の神のくせにあまりにも情報が少なすぎて、考察しようにもヒントすらないと言ってもいい。


 ヴァンの弟がフリードと呼ばれているのもあって、ウェズンは彼の事をオルドと呼ぶことにした。別に、フリードと呼んだところで問題はないと思うのだが、ふとした瞬間脳内がこんがらがりそうだったので。


 それ以前にヴァンの弟とだってそう頻繁に会う機会などないだろうに。


『まぁ、会ったと言えば会ったな。言葉を交わした事はない。だが、奴は、奴にとって既にこの世界は廃棄すべき存在だ。途中で何があったかは知らんが、そうしようと思った切っ掛けがあったのは確かだろうし、故に現在に渡り神前試合などという事をしている』

(世界に絶望するような何かがあった、って事かな)


 仮にそうだとしても。

 だからなんだというのか。


 信じていた人に裏切られた、とか闇落ちあるあるだけど、世界に対して絶望するとかそれだってウェズンにとっては割とよくある展開である。

 そういう意味で考えるなら、この世界の神はもしかして理想がとても高かったのかもしれない。

 自分の中の理想に一向に追いつかない世界に見切りをつけて、一度何もかもリセットしよう、と考えたとして。

 まぁ、なくはないかなと思えてくる。


 だが、日記の中では少なくとも、相談相手がいたようではあるのだ。


 自分一人で考えて、煮詰まって視野が狭くなって最悪の選択をした、とかもあるけれど、相談相手がいたのであれば客観的な意見だってあっただろう。

 その相談相手が厄介だった、というオチもあり得るけれど。


(……結局考えたところでわかるわけがない)

『根を詰めたところでどうにもならん。少しは休め。あやつについての情報はそのうちある程度纏めて教えてやろう』

(……それは、どうも)


 礼は言うけれど、その情報も果たしてどこまで役に立つか……それ以前に、どうしてオルドは日記に拒まれていないのか。ジークの兄だと言われているものの、どうしてウェズンの意識に干渉しているのかも不明のままだ。

 果たして本当に信じていいのだろうか、という疑念もある。


 進展したような気がするものの、実際のところは進むどころか後退し続けている気がした。

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