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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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フラグが立ったというのなら



 ポーションに混ぜる材料といっても、そこまで突拍子もない物はない。

 リンゴ果汁とかオレンジ果汁とか果てはジュースから始まって、他のハーブやら。

 まぁ、驚いてつい声を上げるような「えっ、それ入れちゃうの!?」みたいな事はなかった。


 ただ、問題点が一つ。


 イアである。


 ポーションに薬草類をちょい足しするくらいならポーションはポーションのままであったけれど、ジュースと割った場合。

 お薬ではなく料理判定が出たのか知らないが、とんでもなく不味くなったのである。

 他の――錬金術同好会のメンバーが同じように混ぜた方は普通にポーションにジュース混ぜたやつ、という味しかしなかったのに、イアがやったらどうしてこんな不味くなったの? と言いたくなるくらいに不味かったのである。


 これには監督をしていた教師も首を傾げるばかりだった。


 なんでかうちの妹昔からそうなんですよね……とウェズンは言うしかない。

 薬のままだと思われる方は味に劇的な変化はなかったのに、ジュース成分強めになると途端に恐ろしいほどの不味さを発揮するのだ。知らないうちに死なない程度の毒でも入れました? って聞きたくなるくらいに酷い味がした。


 ただ、逆に言えば薬であれば問題ないわけで。


 イアが作って不味くなるのであればそれは薬という状態から離れつつある、と判断されたのである。


 だからこそ他のメンバーが作った物と同じようにイアが作って、味を確かめていく。

 結果として不味くなったものを成分分析などした結果、確かに味は飲みやすくなっているとはいえ薬効が大分薄れている事が発覚したのである。

 元々飲みにくい薬というわけでもないので、これ以上効果を下げるのは意味がない。


 薬草を大目にあれこれ混ぜた時に味の調整でジュースも入れる、というのを手段の一つとして考えるようになっていたけれど、どの味のジュースが一番ポーションに合うか、というようなところまでは検証されなかった。

 ポーションのジュース割とか後になって考えればどうかしている。


 だが、イアが作る物が美味いか不味いか、その境界線とでも言おうか。

 なんとなくウェズンは把握しつつあった。


(薬膳料理とか意外と成功しそう)


 とは思ったものの。

 生憎とウェズンは薬膳料理に馴染みがないので教えて作らせてみるのは難しく、また食堂のメニューにも流石に薬膳料理は置かれていなかった。

 思うだけで、試しに作ってみよう、というのはどうやらできそうにない。

 レシピがあれば……とは思うも、仮にレシピ通りに作ったとして。


 レシピ通りだから成功、とは限らない。

 前世、ウェズンの妹の一人がとあるレシピサイトを見て、どこそこの店の○○を再現! みたいなのにチャレンジしたのだが。


 作ったものは美味しかった。ただ、その店の、本場のブツを食べたことがないのでどれくらい再現されているのかはわからなかった、というオチがある。


 なので、レシピ通りに作ったとして、不味かった、なんて可能性も普通にあるのだ。

 薬膳とかなんか癖ありそうだし、という偏見もある。

 そうでなくとも自分の味覚に合わない、となれば仮にイアが薬膳料理を成功させていたとしても、美味しいと思えない、なんて事もあるわけで。


 そう考えるとやはり馴染みのない料理で挑戦されてもな……と思えてくる。


 なので薬膳料理チャレンジは思いついたけど秒でなかった事にされた。

 どうして不味くなるのか。

 その真相に迫りたい気持ちは勿論あるけれど、本当に真相にたどり着けるかもわかっていないのだ。

 こういった実験――と呼ぶのも微妙だけど――をしていると、なおの事そう思ってしまう。



 イアが真剣な眼差しでポーションに数種類のハーブを混ぜ込んでいるのを横目で見て、ウェズンは一応参加してる身だし……という事でとりあえず一つくらいは作っておくか、と重い腰を上げた。

 頭の中ではイアのどうして料理になった途端不味くなるのか問題を考え続けているものの、傍から見たらただぼーっと見学しているだけにしか見えないだろうな、というのもわかっていたので。



 結果として。

 ウェズンは薬草だとかジュースだとかを混ぜてポーションの効果を薄めたりするだけで終わったわけではなかった。


 ジュースやらお茶と割ってるのは見ていたけれど、ふと思ったのだ。


 経口補水液とポーション混ぜたらどうなるんだろう、と。


 そもそもこちらの世界に経口補水液がないわけではないものの、その存在はとてもマイナーである。

 前世、ウェズンが住んでいたところの夏は馬鹿みたいに暑かった。

 なんだったら室内で熱中症になって死ぬ人もいたし、外でも倒れて死んだなんてニュースが夏になるといやになるくらい流れていた。

 よくお年寄りが言う、昔は良かった……という言葉は、ただの懐古主義だろと思う事もあった前世のウェズンだが、しかしその時だけはその言葉を素直に受け入れていた。


 だって、その昔はまだ夏、ここまで暑くなかったらしいし。

 最高気温が三十度を余裕で超える日々が続くのが当たり前、みたいになりつつある今よりも、昔はそんな事もなかったと言われてしまえば。


 そこだけは確かに羨ましいなと思えたのである。


 お年寄りがクーラーだとかエアコンを使わない原因は恐らくそこに関わっているのだろうけれど。

 それでも、昔は外で元気に駆け回って遊んだりもできた、なんて聞けばそこは本当に羨ましかったのだ。

 別に外を駆け回りたいわけじゃなかったけど。だが、仕事でどうしても外に出なければならない時、馬鹿みたいに暑い中を行くよりも、まだ子供が元気に遊べる暑さで済むならそっちの方が圧倒的にマシ。

 現代っ子の体力がないとかいう以前に、ウェズンが憶えている夏は大体あまりの暑さに生きとし生けるもの全てがぐったりしていたくらいだ。


 まぁ、気温に関してはちょっと羨んでいたが、しかし昔ながらの水分補給は悪みたいな部分は馬鹿かな? とも思っているが。


 その点こちらの世界の夏は、確かに暑くはあるけれど、常にじっとりと熱が自分の周囲を包み込むような暑さとは異なる。

 暑いのは確かだ。けれど、湿度がそこまで高くないのだろう。暑くはあるけど身体の中の水分が全部汗になって流れていきそうな不快感はないし、汗をかいてもそこまでべたついたりもしない。

 前世の場合はあまりの暑さにシャワーで汗を流しても、その数十分後にはもう汗でべったりしていたくらいなので。エアコンが壊れたその瞬間が俺たちの死。


 擬人化文化もあった前世では、夏は特にエアコンは聖女が如く崇められていた。ただの家電に弟や妹たちは敬語でご機嫌伺いをし、室内を快適に保ってくれるエアコンに日々感謝していた。

 兄弟たちの中でエアコンは、マジで救いの女神扱いだった。

 あのままいってたら新手の宗教になっていたかもしれない。



 ともあれ、向こうではすっかり馴染みのある物になっていた経口補水液だが、こちらの世界ではそこまででもない。一年中暑い大陸などでは広まっているらしいけれど、学園や周辺の大陸ではそうでもない。

 灼熱の大陸出身者なら思いついたかもしれないが、現在この場にいる錬金術同好会のメンバーと教師はそうではないらしく、経口補水液の「け」の字も出てこなかった。


 なのでウェズンは一から経口補水液を作り、それをポーションと混ぜたのだ。


 別に脱水症状になったりしているわけでもないので、普通に飲めば美味しくない経口補水液ではあるけれど。

 ポーションと混ぜた事で、味が少しついた。

 味が付いた事で、もし脱水症状気味になっていたとして、果たして気付けるだろうか? という疑問もあったが、なんというべきか。


「なんか、浸透するの早い感じがする」


 試しに飲んでみての感想がこれだった。


 ポーション効果だろうか。

 体内に水分がすっと巡るような感じがしたのである。

 怪我もしていないから、ポーションの効果がどうなっているかも微妙なところだけれど。


 それでも何故だか、とてもよく効いている、と思えた。


 そんなウェズンの様子を見て、教師もまたその経口補水ポーションを口にする。


「これは……ちょっとまって、さっき作ってたやつって?」

「経口補水液です」

「またマイナーなものを……え、でもちょっと色々成分とか調べて吸収率とか……あ、今作ってた経口補水液のレシピよろしく」


 どうやら今の今までポーションに経口補水液を混ぜる、という事をした人はいないらしく、レシピまで求められた。

 水と砂糖と塩くらいしか使ってないのでレシピと言えるほどでもない。経口補水液だけならそこにレモン汁とかオレンジ果汁とか入れたかもしれないが、ポーションに混ぜる事を前提としていたのでそれすら入れていない。


 ポーションを水で薄めて売る、とかいう悪徳なやつも過去にはいたらしいが、その場合は本当にただ味がより薄くなって効果もちょっと落ちるポーションにしかならなかったのだが。

 塩と砂糖がちょっと入ったら逆に効果が高まるとか、一体どういう事なんだ……とウェズンは思ったのである。なんだったら「なんで?」と思わず疑問が口から出た。

 とはいえ、そこら辺はこれから教師や同好会メンバーが調べていくのだろう。

 ウェズンは自分で調べようというつもりはこれっぽっちもなかった。

 何せ他にもやらなきゃいけない事があるのだ。

 暇を持て余しているならともかく、そうでないのに余計な事に時間を使うのは……学園を卒業した後で、もし暇になったなら自分でやったかもしれないが、少なくとも今は無理だった。


「おにい……流石……やっぱ主人公パワー?」

「それ言ったらお前もその可能性あるだろ」


 小声で言ってきたイアに、ウェズンも同じく小声で返す。


 主人公だからフラグができた、とかそういうメタな読みをされるのであれば、イアだってゲーム版とやらの主人公なのだから――


(主人公……?)


 そこまで考えて、何かが、脳裏をよぎった気がした。


 だがしかし、今この場で何が気にかかったのかを考えても答えは結局でなかったのである。

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