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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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とても気軽な不安要素



「ようこそ錬金術同好会へ……」

「歓迎しよう、我らが同胞はらからよ……」

「くくく……」

「ふふふ……」


 帰りたい。


 イアに連れられてやってきた錬金術同好会であるが、ウェズンは早々にそんな事を思っていた。


 室内は閉め切られ窓にはカーテン。そのせいで室内は薄暗く、そして微妙に蒸していた。

 ちょっと閉め切ったくらいでそんな蒸し暑くなるか? と思い視線を巡らせれば、大釜が火にかけられていた。成程そりゃ暑いわ。


「てか、火を使うなら室内の換気をしっかりしろ」


 歓迎しようとか言ってる場合じゃねーんだわ、と思ったし、なんだったら室内に入ろうとしたイアの手を引いて思わず止めた。

 今は同好会の部室のドアが開いているからいいけれど、これ中に入ってドアも閉めたら大変な事になってしまうのでは。


「今日は客人が来ると聞いていたからな。これはただの演出だ……」

「客人?」

「おにいの事だよ、前に今度来る時誘うって言ってあったから」


「……もてなしの方向性が間違いまくっている」


「雰囲気重視だったがお気に召さなかったか……」

「多分大半の人のお気に召さないと思うよ」


「むぅ」


 むぅ、じゃねーんだわ。


 と内心で思いつつもこれ以上突っ込んだらますます収拾がつかない気がしてウェズンはどうしたものかと考える。いっそここで穏便にそれじゃ帰りますね、と言って立ち去ればいいだけなのかもしれないが、しかしイアがそれで納得するかどうか……


「まずは換気。お前らがどうなってもいいがうちの妹に何かあったらマジ怒る」

「シスコンかな?」

「親に心配かけさせたくないんだ」


 死んだって連絡じゃないだけマシかもしれないが、それでもどうしてそうなった、みたいな連絡は入れなければならない可能性はある。


「ちなみにうちの両親は怒るとめちゃくちゃめんどくさいタイプだから」


 そう言えば一体何を想像したのか。

 黒いローブをずるずる引きずりながらも一人がカーテンをシャッと開け、窓を全開に開け放った。


 まぁ、親が怒ったところ、と言っても正直ウェズンは知らない。

 今の今まで怒らせるような事をした覚えがないからだ。他者との関わりもそう積極的ではなかったのでウェズンやイアの前で親が怒っている、というのを見たことがそもそも無い。

 だが、あの二人なら怒ったら多分厄介な事になるだろうなぁ、というのもまた否定できないので。

 怒ったら怖いタイプ、と言わなかったのは、多分こいつらなら怒らなくても怖いだろうと思ったからだ。


 だってかつての魔王とその側近。


 ウェズンの両親がウェインストレーゼとファーゼルフィテューネである、という事を知ってるのは一部であって学園全体に知られているわけではないが、知ったら知ったでそれはそれで面倒な事になりそうなので。

 とりあえずこの場で名前を出すまではしない。


 窓が開けられた事で風が入り込んで、どうにか蒸し暑さは消えた気がする。

 これなら一応中に入っても大丈夫だろう、と判断してウェズンはしぶしぶではあるがイアと共に部室の中に入ることにした。


 室内の明かりも消したままだったらしく、そのせいで余計に暗く見えていた室内に明かりがともされた事で、ようやく他の教室と同じくらいには明るくなった。



「で、錬金術同好会に誘われてきたはいいけど、何するんだっけ?」

「今日は身近なもので作る魔法薬だよおにい」


「身近なもの、ねぇ」


 それはつまり、この学園の敷地内で手に入る物だけなのか、それとも学外授業に行った時に何となくリングに突っ込んだ適当アイテムだとかを処分するためなのか。

 どちらにしても、そこまで大したことにはならないんじゃないかなぁ、という気がしなくもない。

「そういえば魔法薬とか作るなら、教師も最低一人はいるはずだけど」

「くくく、それは私だ」


 なんと生徒に紛れて黒いローブを纏った一人が、教師だったらしい。

 いや先生何してんの? とウェズンは真顔で突っ込む。


 顔もロクに見えないので本当に教師か? という疑問はあるけれど。

 まぁ多分先生だろう。きっと。というか顔が見えていてもウェズンが知らない教師ならどうせ生徒が教師の振りをしているだけであったとしても気付けない。

 もうどうにでもなーれ、の精神でウェズンはひとまず「そうでしたか」と場の状況を受け入れた。


 全部に突っ込んでいたらいつまでたっても終わらないと思ったのだ。

 そしてきっとその考えは正しい。


 身近な物で作る魔法薬実験、との事だったが、実際聞けばそれは魔法薬か? と言いたくなるもので。


 ポーションあたりにあれこれ混ぜて薬効の変化を確認してみよう、みたいな本当に初心者向けの実験だった。

 ポーションに混ぜる材料次第では薬効が高まってハイポーションになったりする事もあるようだが、ポーションにあえてハイポーションになるだろう素材を混ぜるより、最初からハイポーションを作った方が手っ取り早い。もし安価かつ入手が簡単なものでハイポーションになるのならその方法は世間に広く知らせる事もあるだろうけれど、今の今までそういった実験を何度か過去繰り返してきたようなので、恐らくそんな都合のよい展開にはならないだろう。


 どちらかといえば、薬効が薄れる可能性の方が高い。

 だがそれも、場合によってはポーションとこの材料を一緒に摂取してはいけない、という注意喚起につながる場合がある。実験の結果はさておき、何もかも全てが無駄、というわけではないようだ。


 ちなみにこの世界のポーションの味はというと、ほんのり甘い気がしないでもないちょっととろみのある水、といったところだ。そのとろみも、餡かけ焼きそばだとかにかかってる餡ほどでもなく、どちらかといえば化粧水とかそっちに近いかもしれない。

 まぁ、化粧水と一言で言い切るのは微妙かもしれないけれど。


 甘さも、強いわけじゃない。ほのかに感じられるかな……? といったものだ。


 要するに、飲む分には何も問題がない。

 良薬は口に苦しという言葉を表すがごとく馬鹿みたいに苦いとか、そういう事はない。


 戦闘中に飲むことを想定するなら、下手に味が特徴的過ぎるのは問題しかないのでポーションの味に関して世間一般はこういうものだと受け入れている。

 大体戦闘中に飲むことになった場合、下手に辛いとか苦いとかだったら、途中でむせて吐き出して、なんて事になるかもしれないのだ。それなら一気にごくりといける範囲内の味であるなら文句など言えるはずもない。



 現状、ポーションの味を改良しよう、という方向性で世間が努力を重ねているという事はない、というのだけは確かだ。下手に美味しすぎるポーションを作ってしまっても、ジュース代わりに飲み続けるこどもだとかが出て、依存症だとか、あまりにも短期間でポーションを摂取しすぎて耐性ができて効果が薄れる、なんて事になっても困りものであるわけで。


 薬として超高級品、とかであったとしても、下手に富裕層が富の象徴のように無駄摂取しないとも限らない。土地によっては砂糖などは希少品だった時代があったりもするせいで、もてなしの際、お茶に大量に砂糖を入れる、なんてこともあったくらいだ。

 とても美味しい薬、しかも高級品、なんて事になれば今度はそっち方面で持て成しの道具になりかねない。


 高級品ではないために、一般市民でも普通に手に入るポーション。

 その味が馬鹿みたいに美味しかったら間違いなく本来の薬としての使い道ではなく、美味しい飲み物扱いになりかねない。そもそも薬に注意書きをしたところで、読まない奴は読まない。文字を最初から読めないとかじゃなくて、読めるけど見ないタイプは割と多い。


 まぁ、とウェズンは思う。


 まぁ、この世界だと一応そういった注意書きに目を通す人はそれなりに多いから、前世みたいに読まないでやらかすタイプは少ないかもしれないな、と。

 大体こっちの世界だと注意書きに目を通さなかった結果最悪死ぬとかありそうだなとウェズンは思っているし、実際に過去そういった事件があったのならそりゃ多くの人は目を通すのだろう。

 細かく調べるつもりはないので、実際どうか、は知らないが。多分そうなんじゃないかなぁ、とやや偏見まじりであってもウェズンはそう思っていた。



 ともあれ、味ではなく薬効の方に注目しているのであれば、ウェズンとしてもその実験に参加するくらいならまぁいいかと思った。


 下手に薬物依存の手助けをする結果になったら、流石にちょっと……



「それで、えぇと……何をどうするんですか?」


 既に用意してあるポーションに他の材料を混ぜるのか、それともポーションからして自分たちで作るのか。


 作り方に関しては去年の魔法薬学でほぼ最初に習ったようなものなので、ある程度の量産は可能だ。材料があれば、という前提は勿論だが。


 室内に設置されていた大釜で大量のポーションを作成するのだろうか、と思ったが、教師曰くあの大釜は今回の演出のために用意したただの飾りらしい。


 ……馬鹿なのかな?



 とは、ウェズンも口に出さなかった。

 一応事前にイアから今日行くという連絡は受けていたのだろう。

 それもあって黒いローブに身を包み、フードを目深にかぶり、室内にやたら場所をとる大釜を設置し、なおかつ火にかけてぐつぐつさせていたわけだ。密室で。


 ……一応まだ季節は夏といってもいい程度に暑い日が続いているので、もしウェズン達が部室にたどり着くタイミングが遅れていたら、彼らは室内で倒れていた可能性もあったかもしれない。

 命知らずどもかな? とウェズンは思わず生ぬるい目をしてしまった。


 教師曰く、今回は既に用意してあるポーションに各種で持ち寄った材料を混ぜるだけ、らしい。


 ポーションに関しては前日に彼ら錬金術同好会のメンバーがせっせと作った物らしい。

 一応リングの中で保存しておけば多少日数が経過していようとも問題はないが、やはりあまり古い物は気持ち的に使いたくないのでそれを聞いて安心したくらいだ。



 経口摂取なので、混ぜる材料は人が口に入れて大丈夫な物限定。

 そこまで考えて、ふとウェズンはイアを見た。



 彼女の料理の腕前は問題ないはずなのに何故か出来上がりは死ぬほどマズイ。

 材料にも製造過程にも一切何も問題がなくても、イア一人で作ると劇的なまずさを誇るのだ。

 多分、普通に料理を作ったのにどうしてもまずくなる選手権とかあったらダントツ優勝できるレベルで。


 途中で誰かしらの手も借りているなら問題はないのだが、しかし一人でやるととんでもないマズ飯になるのだ。


 既に完成しているポーションに材料を混ぜるだけの、どちらかといえば魔法薬学の子供向け実験みたいなものだから大丈夫だとは思うけれど……

 それに今までの授業で一人で魔法薬を作る分にはイアの作った薬がおかしな味になった、なんて事はなかったけれど……


 だが、薬ではなく料理判定が出るような場合においては結果は未知数。


 大丈夫なんだろうか……とウェズンは漠然と思ってしまったのである。

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