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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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同好会見学



 ――今年の交流会は、特に何か大きな事件が起きるでもなく終わった。


 なお隠されたコインに関してだが、一年は奪われてしまったようだが今年はウェズン達の学年とその上の学年が無事守り抜いたらしい。


 終わってから聞かされたが、ウェズン達の島のコインはどうやらウェズン達の罠ゾーンに隠されていたらしく、それを聞いて一同「あぁ、じゃあ、見つかりにくいよなぁ」と妙な納得をしたほどだ。


 あのぴょんぴょん飛び跳ねる罠と罠の微妙な隙間に埋められていたらしいのだが、その微妙な隙間はぶんぶんゴーレムが移動をしていたし、ちょっと触れるとすぐぽんぽん跳ねるのであの場所でしゃがみ込んで掘り返してみよう、なんて発想に至ったとして、そうなった場合まずあの罠を撤去しなければならない。


 そうなると魔術で一掃とかそういう物騒な解決方法になるのだが、そんな事をしようとすればウェズン達が阻止しに動くので、まぁ無理だっただろう。


 ともあれ今年も一応無事に終わったと言える。


 ウェズン達のクラスに関しては死者も出なかった事だし。


 悲しい事に他のクラスでは数名命を落とした者も出たようだが、それでも犠牲は少ない方だ。

 こちら側の犠牲以上に、向こうにも犠牲を出しているので完全勝利と言えなくてもコインも相手の手に渡らなかったのだから、まぁ一応勝ったと言えなくもない。


 去年は交流会の後留学生がやって来たけれど、少なくとも二学年目になってからの留学生というのはいたとしても少ない。学園や学院に鞍替えしよう、と考える両校の生徒がいたとしてもこの学年からでは厳しいものがあるし、他の学校に関して今から学園や学院に入ったとしても、神前試合は来年である。


 神前試合は十年に一度なので、もしもう少し先にあったのであれば二年だろうと三年だろうと他の学校で遅ればせながら才能が開花した、みたいな相手がいたのであれば、こちらで学べることはかなりあるのだけれど。


 いかんせん神前試合間近すぎて、今から来たとしても、周囲もあまり留学生にかまけている余裕がない、なんてこともある。


 なので二年目からの留学生に関しては、学校側で本当に熱意とやる気と実力があると太鼓判を押された者だけがやってくる……らしい。


 だが生憎と今年はそこまでの生徒はいないらしく、ウェズン達の学年に留学生がやってくる事はないのだとか。テラからの情報なので確かだろう。


 新入生の中で、学校に通っていて途中からメキメキ頭角を現すような生徒がいたのであればそちらは普通に留学生としてやってくるらしいのだけれど。


 まぁ今年は留学生と関わる事もないようなので、当面の間は授業に専念できると言ってもいい。


 交流会の準備を始めてから終わるまでが忙しかったのもあって、しばしの休息と言えるだろうか。まぁ授業は普通にあるので休み、とはまた違うけれど。



「そういえばさおにい」

「ん?」

「今あたし、錬金術同好会にいるんだけど」

「お、おぉ……?」


 授業が終わり、放課後である。

 放課後は各々好きに過ごしているのは今までとそう変わらないので、ウェズンも図書室へ行こうとしていたのだが。


「錬金術同好会……?」

「うんそう。授業でやるような内容とは違って、割と自由にあれこれやってる感じ」

「ふぅん……?」


 一応、学園にも部活動というものがないわけではない。

 ただ、ウェズンの前世にあったような運動系の部活に関してはあったとしても、他校との試合なんてほぼないし、そもそもいつ死ぬかもわからない身だ。授業でうっかりヘマやらかして死ぬなんてのは今でもいるので、あまり先の事は約束しても果たせるかとなると……といったところだ。


 なのでまぁ、大半の部活は同好会扱いである。人数に関わらず。


 趣味の領域と言ってもいい。


 中には授業についていくのがやっと、みたいな相手がこういった同好会での活動から授業の単位に加点してほしい、なんてのもあるらしいけれど、それなら普通に補習を受けた方が早い。

 本当に、趣味の範囲であった。


 部活動に必要な備品などは、大抵は申請すればどうにかなる。

 ただ、あまりにも申請数が多くなるとそこからは自腹でやれ、となるらしい。

 部費の獲得で揉める以前の話だった。ある程度まではどの同好会も学園からの援助が出るが、それを超えたなら後は自腹。とてもわかりやすい。


 趣味みたいなものなので、まぁ確かに趣味なら自腹切れという話だ。

 他の学校との関わりもないし、遠征だのなんだのというものもない。どうしてもやりたければ各々が連絡をとり自分たちで段取りを、というスタンスである。


 ウェズンの前世の世界であれば部活動は必ずやらなければならない、といった学校もあったけれど、しかしここでは趣味扱い。世界の違いがこんなところにも……とは思ったが、まぁそれだけだ。


「で、その錬金術同好会がどうしたって?」


 イアは割とあちこちの同好会に顔を出しているらしいので、以前から度々その手の話は聞いていた。ただ、ずっと同じ同好会にいるわけでもなく、その時の興味の赴くままに参加しているので話題に出る同好会が毎回異なるなんてのはザラだった。

 そして今は錬金術同好会とやらに参加しているらしい。


「おにいもちょっと見てかない?」


 なんで、という疑問は単純に浮かんだだけで、他意も何もない。

 こっちが興味を持ってそうなら誘ったかもしれないが、今回に限ってはまず興味以前の話だ。

 あ、今その同好会なんだな、という程度の認識。


「いやあのね? 魔法薬実験なんだけど」

「それ何か危ないやつか?」

「危険はないはず! 流石に授業でやった範囲の応用とかだから。事前知識も前提も何もないような無から有を作ろっか、みたいな事はやってない。バレたら怒られるし」

「……それもそうか」


 一応、薬を作るにしてもある程度の知識は必要なわけで。


 授業でやった応用で、たとえばこの材料をこちらに変えた場合どういった効果になるのか、とかそもそも薬として成功できるのか、とか。

 その程度のものなら教師も別にガミガミ言う程のものではない。


 だが、何かそこら辺で適当に集めてきた材料ぶち込んで作ってみようぜ! は問題しかない。

 そこら辺で入手できる材料はたかが知れているとはいえ、時折本当にその辺で入手したやつかそれ? みたいな謎のレア素材が混じったりした場合、とんでもなくヤバイ効果を発揮する可能性も出てきてしまうので。


 飲み薬のつもりで、飲んでも問題のない材料だけを使って作ったはずが、一つ紛れたイレギュラー的材料のせいで飲んだ途端爆発した、とかいう事件が過去にあったらしい。怖い。

 ゲームにありそうな元気爆発薬! とかそういう感じならまだしも、本当の意味での爆発である。


 飲んだやつは当然死んだし、その場は大惨事。


 学校でトラウマ作るんじゃない、と言いたいがいかんせん過去の事例なのでウェズンが突っ込んだところで今更であった。


 大体、飲み薬に使う材料であっても組み合わせ次第では最悪の結果になったりすることもあるので、本当に危険そうな実験はやってはいけないのである。


 そういった危険そうな何かが伴っている同好会に関しては、一応教師の見守る中でやらなければならない、とかそういう話だけならウェズンもだいぶ前にちらっと聞いた覚えがあった。


 まぁ、仮に何か薬を作ったとして。

 とりあえず飲んでみようぜ、みたいな無謀なチャレンジやろうとした奴がいたとして。

 その場で教師がいたのなら、内容次第でストップが入る事もあるだろう。

 だがその場にいないのであれば、とりあえずこれから先生呼んでくる! というところからのチャレンジだ。

 バカは危険に対する感覚も生存本能も何もかもすっ飛んでいたりするので、先生が来る前に飲んだ、とかいうのが出てもおかしくはない。

 食べて問題のない材料だけで作ったとしても、食べ合わせというものが存在しているわけで。

 一つ一つは問題がなくても、これとこれをかけ合わせたらだめ、という物は普通に存在しているのだ。


 前世のウェズンは幼い頃にお手伝いさんから聞かされて、迷信ぽいなと思っていた時もあったけど、ある程度成長してからネットで一緒に食べたらだめな組み合わせのあれこれを見て、あ、一応根拠があるんだなとなってからはお年寄りの知恵も馬鹿にできないものなんだなと思っていたくらいだ。


 ここは前世の世界とは異なりすぎているけれど、だからといってそういった部分まで軽んじるわけにもいかない。むしろ、軽んじた結果最悪死ぬとなれば軽んじられるかとなるわけで。


「……見るだけで、体験はしない」

「いいよオッケオッケ、じゃ、早速しゅっぱーつ☆」


 作る薬の種類によってはマトモに完成しても味がゲロマズとか有り得るので、ウェズンはあらかじめ防衛線を張った。たとえめっちゃ美味しいドリンクみたいな薬ができても飲まんぞ! という気持ちである。


 大体薬はマズイ物と相場が決まっている。

 そのせいでお子様からある一定の層にまで不評であるのはわかるけど、下手に美味しい薬なんてできたら依存者が出るのが目に見えている。そうでなくとも風邪薬を大量購入してオーバードーズとかやらかしてニュースになったなんてのが、前世ではあったのだ。

 下手にお菓子みたいに美味しい薬ができていたら、お菓子代わりにポリポリ摂取して、というのが目に見える。

 前世では一時期流行った病のせいで一部の薬には購入制限までできてしまっていたくらいなので、もしそんな美味しい薬なんてあったら薬局で買う時は薬剤師がいない時は売られないだろうし、買ったやつがネットで売買して、とかいうのも普通にあるだろう。


 どう考えても規制の流れしか見えない。


 まぁこっちの世界だと薬の飲み過ぎで死んだところで自己責任なので、規制もなにもといった話なのかもしれないが。


 浮足立ったイアのあとについていけば、普段あまりウェズンが足を運ばないようなところだった。


 あぁ、ここら辺そういや同好会の活動教室として割り当てられてるんだっけ……と漠然と思ったあたりで、イアが教室のドアを開け放った。


「こんにっちはー! 今日は見学者におにい連れてきましたー!」


 兄が参加せずとも見学してくれる、というのの何が嬉しいのかはわからないが、ご機嫌なイアにウェズンはまぁ、楽しそうだからいいか、と思う事にして。

 イアの後ろから――といってもイアの方が小さいので普通に見えるのだが――覗き込むようにしてみれば。


「……えぇと、錬金術同好会、だっけ?」

「そだよおにい」

「黒魔術同好会とかではなくて……?」

「錬金術だってば」


 イアはそう言ってのけるが、ウェズンにはそう簡単に信じられなかった。


 何故って、部室の中にいるメンバーの誰もが皆、これから何かの儀式でもすんの? って言いたくなるくらい真っ黒なローブに身を包んでいて、ついでにフードも目深にかぶっているので。

 いやこれどう見てもこれから呪いの儀式とかやる流れでは……? と思ってしまったのである。

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