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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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二度目の交流会



 今年も交流会がやって来た。


 事前の仮想空間ゴーレムチェックに関してはお察しである。

 むしろ想定通りに引っかかってくれる罠チェックゴーレムくんに関してはクラスメイト一同そこまで思う部分はなかった。あ、そうですよね先生もういいです、と早々に切り上げるくらいですらあった。


 どちらかと言えば、罠に引っかからず他の対処法をやらかしてくるような相手がいる事前提で今回の罠は設置したのだ。学院の生徒もまさか馬鹿ばかりではないだろうし、恐らく早々に攻略法を見つけ出すだろう。

 その上で、ウェズン達はそういった生徒たちを狙うつもりであったので。


 当日になってからあれこれと話し合うような必要もない。

 やるべきことはもう決まっているのだから。


 去年はフィールドにマトモに出ていたのはウェズンとレイくらいであったけれど。

 今年は他の生徒も参戦する形となる。

 今年はワイアットが参加しないという事前の情報もあって、フィールドに出る予定だった生徒の数も増えた。

 うっかりワイアットと遭遇したら間違いなく初撃で死ぬかもしれない相手は易々と出せないが、ワイアットが参加しないのであれば、他の生徒ならまぁ余程馬鹿みたいに油断してなければ一撃で死ぬことはないだろう。そう判断しての事だった。


 とはいえ、フィールドに出る予定の生徒が全員一度に出るわけでもない。


 ある程度時間差で、単騎出撃なんて事がないように数名で固まって行動する事にもなっていた。



 準備は万全。

 あとは学院の生徒が来たらそれら全てを迎撃していくだけである。


「……どうやら来たらしいな」


 今年ウェズン達のクラスが割り当てられた場所は学院の生徒たちが上陸してすぐにやって来れる場所ではなかった。だからこそ遠くから聞こえてきた音にレイが気付きそう言った事で。

 その場で待機していた者たちは気を引き締めたのである。



 ――今年、ワイアットは参加しない。

 それは他にちょっとした用事があったからだし、ワイアットの家庭事情的なものと言われてしまえば他の生徒は文句も言えなかった。

 特にこれといった家柄でもない生徒が大半ではあるが、それでも家の事情とか何やら複雑なものを抱えている生徒は一定数存在している。


 去年、大半の取り巻きという鬱陶しい連中を処理するべく参加していたワイアットではあるが、今年はそこまでそういった存在がいなかったのも不参加を決めた理由の一つだろう。


 仲間として役に立つならまだしも、ただただひたすら纏わりついて役に立つでもなく、どころか足を引っ張りかねないようなのがいつまでもいるのは邪魔としか言いようがない。

 適当な理由をつけて始末するにしても、学院の中だと同士討ちは流石にマズイとなって、去年はこういったうっかり命を落としても仕方ないよね、的な場面を活用したわけだ。


 去年大体そういうのを駆除したために、そしてワイアットが率先して新入生と関わる事もなかったために、今回はそういった者が出なかった。去年は新入生ということもあって、ワイアットの実力が周囲から頭一つどころか群を抜いて目立ちまくっていたのもあって、彼のそばにいれば安心だろうと思い込んだ連中が多くいたし、また彼の近くにいる事で危険をワイアットに押し付けて自分は安全に成果だけ得よう、なんて考えていた連中も大勢出たけれど。

 去年、交流会でそういった面々は綺麗さっぱり処分されたとなれば、二年に進級してから改めてワイアットのそばに行こう、なんて考えの温い者が現れるはずもない。

 何も知らない新入生ならばまたもや有り得たかもしれないが、ワイアットが新入生と関わる事もなければ、何か上の学年に滅法強い先輩がいるらしい、程度で話は終わる。

 そして新入生に対して他の先輩方がワイアットに気軽に近づくのはやめておけと忠告をすることで、今年はそういった人材は出てこなかった。

 まぁ、まったくのゼロではないあたりどうしようもないが。


 だが交流会はそもそも学年ごとの参加である。

 いくら強い先輩に擦り寄ったところで、交流会での学年が異なれば参加するステージも異なる。であれば、交流会に参加したとして先輩の助けは見込めない。

 それ以外であったなら頼りにできたかもしれないが、少なくとも交流会での参加に関しては一切頼れないも同然なのだ。


 それもあって今年の新入生は、そのほとんどが強いけれど色々と危険人物らしいと噂の先輩に近づこうとはしなかった。マトモな判断である。


 ザインとシュヴェル、そしてアンネは一先ずグループとして共に行動していた。

 去年はワイアットが邪魔な連中一掃処分するから、との事である者は不参加だったし、またある者はワイアットと関わらないよう別行動をしていたりもしたのだが、どのみちそのほとんどがアレスによって倒されてしまっている。


 ワイアットが今年参加しないのであれば、せめてワイアット陣営だと周囲からも思われているこの三名がそこそこの成績を叩きださねば、神前試合に選ばれる可能性が低くなるかもしれない。そう判断しての事だ。

 正直ワイアットが選ばれない可能性の方が低いとはいえ、その仲間として選ばれるかどうかはワイアット次第だ。

 今はいいが、いざその時が近づいた時に実力不足だと思うから、でハブられるのは流石に困る。

 いや、ワイアットなら正直一人で神前試合こなせるんじゃないかな、と思わないでもないのだけれど。

 そう、かつて学園側で最強と謳われたウェインストレーゼのように。


 ともあれ、ワイアットがいないからパッとしない成績しか出せませんでした、では話にならない。

 三人は途中で遭遇した学園の生徒をブチ倒しながらも進み、隠されているであろうコインを探す。


 そしてたどり着いた先――



「何これ」

「罠だな」

「アンタこれ罠だって見てわかんないの?」


「いやわかるっすけどぉ!? ただこんなあからさまにずらっと並べられたら何これって言いたくもなるでしょが!」


 ザインはその光景を見て思った事を口に出しただけで、まさかここまで言われるとは思わなかった。仮にも仲間だろその辛辣っぷりはどういう事なんだ……と言いたくなる。


 島に仕掛けられた罠は、それぞれの区画、クラスごとに分かれているとは聞いていた。

 だからこそ一区画の中の罠は統一感があるけれど、島全体で見れば統一感など無いに等しい。

 雑な罠仕掛けてんなぁ、と思ってこんなん引っかかるわけないでしょ、と思いながら移動していたら隣の区画に入っていたらしく、そっちは罠の仕掛け方が巧すぎて引っかかった、なんて事は去年別の奴がやらかしていた。雑な罠だなーと思って油断を誘われていたのだ。恐らく仕掛けた側はそこまで考えていなかったのかもしれない。精々隣の区画の連中の罠が雑だから、こっちはいい隠れ蓑になりそうだ、とか思った可能性はある。


 罠の仕掛け方で何となくここからここまでは同一区画なんだろうな、と察するしかないわけで。

 正直どこに罠が仕掛けられているか、というよりは区画と区画の境目がどこか、を気にしていた。


 そうじゃないと、知らないうちにとんでもない罠に引っかかって最悪命を落とすかもしれない状況だったのだ。そしてそれは、今年も同じである。

 方針としては罠に気を付けるのは勿論だが、区画の境目がどこであるかを把握する事。今までの区画と同じように進んでいたら知らぬ間に区画が変わりとんでもない目に遭った……なんて事を避けるのが、安全確保の第一歩である。


 だが大抵の区画は、そうあからさまにここからここまでが同じ区画でそっちからは違いますよー、というのがわかりやすいようになってはいない。

 それもあって三人はひとまず全体的に島を移動し、大体どこからどこまでが同一区画であるのかを調べ、その上でコインが隠されていそうな場所の目星をつけよう、と事前に話し合ってはいた。

 いかにもここら辺隠されてそうだな、と思ったところは逆に隠されていないなんてあり得るし、裏をかいてここはないだろ、みたいなところにある可能性も充分にある。

 毎年同じ場所に隠されているわけではないので、とりあえずこのあたり探しときゃ確実、みたいなのはないのだ。まぁそんな事になっていたら、その隠し場所に学院の生徒が殺到するのは言うまでもない。そうなれば、その隠し場所だけにやたら殺意の高い罠を仕掛ければいいだけになるのだが、逆に言えばそこを突破されてしまえばおしまいなわけで。


 とはいえ、隠し場所が最初から定まっているのなら、そこに至るまでの道筋が凶悪な罠だらけになるだけでもあるので、学園側もやりやすくなる可能性は普通にある。

 そこそこ長く学院にいる先輩曰く、昔はそういう事もあったらしいのだが……今は違う。恐らく何らかの不都合が学園側か学院側に生じてそうならなくなったのだろう、とは言っていたが、どうしてそうなったかという原因は不明のままだ。


 知ったところで……という話でもあるので、ザイン達は特に深く聞くつもりはなかったが。



 ともあれ、区画と区画の境目。そこを気にして移動していたのだが。


「こんなわかりやすい事ってあるぅ……?」


 明確にここからは別区画ですよ、と訴えていると言われたら、まぁ否定はできないくらいに。


 ここからここまで目一杯同じ区画ですよ、とばかりに罠がずらりと並んでいるのである。


 踏んだら明らかに発動するのが目に見えている罠がびっしりと。

 罠と罠の間がないわけではないが、そこを歩くのは少しばかり難しい。

 罠と罠の感覚が狭く、その細い道を移動するとなると移動速度は確実に落ちるし、そうなるとどこかに潜んでいる学園の生徒が攻撃を仕掛けてくる可能性もある。


 それどころか。


 その細い道にも目に見えない罠が仕掛けられているかもしれないのだ。気軽に罠を避けて歩こう、とは思えなかった。


「並んでる罠は全部同じタイプだけど……え、これ一個踏んだら連鎖して発動するとかそういう……?

 ちょっとシュヴェル、お前軽く振んでこいよ」

「ふざけんなてめぇがいけ」

「はぁ? お前の無駄に頑丈な肉体を活かさないでどこで活かすんだよ」

「少なくとも率先して罠に引っかかるために鍛えてるわけじゃねぇんだわ」

「うっせぇなぁ有効活用できそうな場面で活用しないとか有り得ないだろいいからいけ」

「てめぇが逝け!」


 これどうしたらいいんだろうなぁ、とザインが考えている間に、アンネとシュヴェルの言い合いがヒートアップし始める。ギャアギャアと喚くその様は正直言って見苦しい以外のなにものでもない。

 だがしかし、ザインは仲裁に入るつもりはこれっぽっちもなかった。

 今この場で口を挟めば、途端に手を組んでこっちを生贄にしようとするのが明らかだからだ。こいつらはやる。ザインはそれをよく理解していた。


 お互いにとっての共通の敵――実際敵じゃなくても――がいると結託しやすいというのは本当なんだなぁ……というのを随分前に体験しているので、ザインは今この場で何があっても二人の言い合いに口を挟もうなんて思ってもいない。何があっても、絶対にだ。


 だというのに。


「へっ!?」


 がしりと肩を掴まれて、ザインの喉から随分とすっとんきょうな声が出た。自分で自分の声だとすぐに認識できないくらいの間抜けな声だった。誰が肩を掴んでいるかなんて、言うまでもない。

 この手の大きさからして間違いなくシュヴェルである。


「とりあえず逝ってこいやああああああああ!」

「なんっでおれがああああああああ!?」


 ぶぉんと風を切る音がして、自分の身体が宙に浮くのを感じる。あ、これはダメだ――なんて思った直後には、ザインの身体は一面ぎっしり敷き詰められた罠ゾーンへ落下しつつあった。


 これ、爆発するとかならお前らもタダじゃ済まねぇかんな……! と被害に遭うのは自分だけとかじゃなく、やらかしたあいつらもであれ……! と、お前ら一応勇者側の存在だろ? とこの場に誰かがいたなら間違いなく突っ込まれそうなことを思いながらも。


 ザインの身体は魔法も魔術も間に合いそうにないがために。


 そのまま無防備に罠ゾーンに落ちて。


「えっ!?」


 ぼんよよよよ~ん!


 そんな音と共に。


「う、うわぁぁぁぁぁあああああああ!?」


 それはもう空高くに打ち上げられたのである。


「えっ、そういう罠なのこれ!?」

「てか罠って言っていいのかこれ、なんか楽しそうだぞ!?」


 アンネの若干悲鳴混じりな気がしなくもない声と、シュヴェルの思った以上にウキウキしている声が随分下の方でした気もしたけれど。


「っていうかこれ、また下に落ちたら打ち上げコースじゃないっすかああああああああ!?」


 態勢を整えるタイミングがまるでつかめそうにないザインの悲鳴は、とてもよく響いたのである。

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