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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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そこで我々が出会ったものとは



 さて、そういうわけで山の入口辺りに神の楔がないかを探し始めたイアとレイであったのだが。


 確かにあった。

 見えたのだ。だからこそ、あっこれは結構すぐに帰れそうだぞ、と思ったのに。


 バン、と見えない壁にぶつかるかのようにして足止めを食らった。


「えっ、何これ」

「……結界か」


 そうだ。テラが言っていたではないか。


 神の楔は転移門という単なる便利アイテムなどではない。

 結界を張り巡らせ閉じ込める役割を果たしているのだと。


 魔王と勇者の戦いの再現、というかはさておき、とにかく十年に一度の命がけの殺し合いをした上で、そうして各地の結界を解除させてきたのだと。


 だがしかし途中でやらかした奴のせいで再度結界が張られただとか、まぁ色々言っていたではないか。


 最初の結界は物理的に生物と瘴気を閉じ込めて、二度目にできた結界は基本的に出入りは可能だけれど瘴気濃度次第で出られなくなると。


 知らぬ間に瘴気に汚染されていたのだろうか、そう思って二人は浄化魔法を唱えて再度神の楔がある方へ行こうとしたけれど、しかしやはり向こう側に行く事はできなかった。


「……となると、ここ一度目の結界も解除されてないのか」

「うーん、確かに、ここ解除しても何かメリットある? って感じするもんね。解除する所選べるならここは後回しにされそう」


「にしたって神の楔多すぎないか? 山の上にもあっただろ」

「いっぱい設置した方が解除させるのに時間かかるからじゃない? 戦いは十年に一度なんだし」


 イアとしては思い出した小説の内容を口にしただけに過ぎない。


 そう、ゲーム内でも小説内でも確かに色んなところに神の楔はあった。

 大体、学園にもあるのだ。

 結界に覆われなかったはずの地にも。


 いやあれは確か神の楔は楔だけどアレとは別物なんだっけ……?

 思い返そうとしてみてもイアの記憶力はそこまで思い出してはくれなかった。先生に聞けばわかるだろうか。


 なんであんなあちこちに神の楔がグサグサ刺さってるのか。

 小説なら転移によって各地の移動時間を短縮したり次の巻で学園から外に出て新しい舞台で、なんて感じで話を進めやすいだろうから、だとは思う。

 移動中に騒動に巻き込まれて、っていう展開があってもおかしくはないけど毎回移動に距離を取られていたなら時間がいくらあっても足りやしないだろう。


 ゲームでもあちこち移動するのに転移できる場所が多い方がいい、というのはわからんでもない。


 けれども現実的に考えて、神の楔が多い理由を考えると嫌がらせ一択だろう。

 小説内なら話の都合上。ゲーム内ならプレイヤーにとっての便利機能。

 では、現実として考えるなら。


 十年に一度でしか結界を解除できる機会はないのに、しかし結界の数は多く未だに全てが解除されきっていない……そもそもこの世界を滅ぼすと決めた神が結界の数を少なくしておけば、結界なんてとっくに全てが解除されていたはずだ。人類側からすればその後いかに神に世界を滅ぼすのを思いとどまらせるかがカギになってくるのかもしれないけれど、神からすれば結界で瘴気ごと閉じ込めて世界の衰退・衰弱をさせての崩壊狙い。


 一気に神の力で世界丸ごとぐしゃ、っと壊さないのが証拠。いや、他に理由がある可能性も……


(あれ?)


 そこまで考えてイアは何か、何か忘れてる気がするなと思ったけれどいかんせん忘れてる事の方が多すぎて何がおかしいと思ったのかもよくわからない。

 思わず首を傾げてみたが、その程度のアクションで忘れていた記憶が蘇るはずもなく。


「確かに結界が多いせいで未だに、ってのは確かだからな。藻掻く連中を見て楽しむとか悪趣味でしかないけど」


 つい今しがた言ったイアの言葉にレイが頷いた事で、イアも何に引っかかったのだろうか、というのが更にわからなくなる。


「とりあえず、見えてても行けないんじゃ仕方ない。他探すかそれとも戻るか」


 戻るとなればここから頑張って登山である。

 しかもこの辺りは登山道なんてなさそうな、移動するだけで面倒極まりないのがわかりきった状態。


 イアたちがここに来た時の神の楔は小山の方だから、そこまでがっつり登らなくとも……とは思うが、だから気軽に行けるかとなればそうではない。


「お」

「どうかした?」


 魔物が出るかもしれない中で、そこそこ険しい事が予想される場所を行くのは面倒だな、という気持ちを隠しもせずにレイが周囲を見回す。

 先程までは気付かなかったが、ここから見ると木々の合間にちらりともう一つ、神の楔が見えた。

 神の楔はドシンプル極まりない槍のような見た目であるので、葉が落ちた後の木がそれっぽく見えた、なんてこともありえるのだが、周囲の木々は葉がたっぷりついているのだ。その中の一つだけ葉もなく枝を伸ばしているというのも考えにくい。


「あれも、多分神の楔じゃないか?」

「え? どれ? わかんぬい」

「お前ちっこいもんな……」


 あれ、と指さしたはいいものの、イアはその方向を見てついでにぴょんこぴょんこ飛び跳ねていたけれど、彼女の視界にはどうしたって周囲の木々の葉だとかで隠れて上手く見えないのだろう。


「けどあっちは多分結界の向こうじゃなくてこのエリア内だろうから、そっちから帰れそうって希望は出たな」

「山道行くのめんどいもんね」


 それはそう。


 体力的にまだ余裕はあるけれど、だからといって率先して疲れたいわけでもない。大体道中でまた魔物と遭遇した場合、下手に疲れて戦う気力はありませんでした、では話にならないのだ。


 ともあれ、レイが見た神の楔を目指して二人は歩き始め――



「ね、やっぱ山道行く?」

「いやお前それもう手遅れだろ」


 ある程度進んだ結果、イアの目にも確かに神の楔が確認できた。

 できたのだけれど、その時には色々と手遅れだったのである。


 神の楔のてっぺんがちらっと見えていた場所を目指して進んだ結果、その手前にそこそこ開けた場所があった。

 そこはどうやら誰かが暮らしている集落らしく、木で組まれた三角の家らしきものがいくつか点在していて、中央にある広場は何らかのイベント・祭事などで利用されているのだろう。

 大きな鍋があった。

 湯気が鍋から出ているので、中に液体があるのはわかる。

 とはいえ、二人がいる場所からは鍋の中身までは見えなかったけれど。


 うわぁ、と小さく声を上げたのは果たしてどちらが先だったか。


 レイからしてみれば、こんな場所で人が暮らしているという事が信じられないし、ましてやどこからどう見ても文明の気配がしない。

 そこらの町や村も見た目だけなら田舎だなと思うものはそこそこあるが、それでもあくまでそれは見た目だけ。ろくに文明も発展していなかった時代のように、水は川から汲んで来るだとか、火をおこすのに毎日必要な木の枝を集めてくるだとか、そういう事はほとんどないのだ。

 けれどもここは完全にそういった便利な道具がある様子もない。


 家、と先程表現したがどちらかといえば小屋、いや、もっと酷い。

 木を組んでその上に大きな葉っぱや草を集めたものをかぶせている。

 茅葺屋根の家、というものでもない。むしろそっちの方がまだマシに思えるレベル。


 イアとレイは最初こんな所で暮らしてる人とかいるのか、と思っていたが、見える範囲にヒトはおらず、とりあえず神の楔を使って帰ろうと思ったのだ。

 さっと行って使えばいいか、くらいのとても気軽なノリ。

 大鍋が設置されている広場より少し奥の方。比較的周囲の小屋に比べると立派……かなぁ? と言えなくもない小屋の横に神の楔はあった。


 だが、広場を突っ切ろうとした途端、長い木の棒に尖った石を括りつけたとても原始的な槍を持った連中が取り囲んだのである。

 そして尖った石の先は、イアとレイに向けられていた。


 そんな状況でイアがそんなことをいうものだから、レイとしては半眼で突っ込むしかなかったのだ。引き返すならせめてこいつらに囲まれる前に言うべきだったな、と言った所で今更すぎる。



「がらな、ぐあ、ごなりむ」

「ぐあ、ぐあ」

「せれめけ、むい、かのーしゅ」


「……なんて?」

「知るかよ」


 何を言われたのかさっぱりわからず、イアはとりあえず手近にいる言葉の通じる相手に問いかけた。とはいえ、レイだってそんな事聞かれても……といった感じだ。


 さて、この世界の言語、大昔はいくつかに分かれていたのだが、異世界から様々な者が訪れた時に当然言葉が通じない事もあった。

 当然それは不便でしかないので、お互い最初の頃は手探りでコミュニケーションをとっていたりしたのだが、この世界に残留した異世界出身者が翻訳できるアイテムを作成した。そしてそれらは各地に行き渡り、今ではどの国にも当たり前のように備わっている。


 とはいえ、長い年月が経過していくうちに、異世界から来た者はさておき、この世界の住人たちの言葉は少しずつ統一されてきたので今はそんな道具があるという事すら知らない者も多い。


 だからこそ、イアもレイも言葉が通じないという事態に困惑するのは無理もない事であった。


 レイは学園に入る以前、色々各地を移動する事が多かった。だからこそ、一部の地域で使われる方言のようなものとかならある程度わかる。

 わかるけれど……今自分たちを取り囲んでいる連中が口にした言葉は、マジで何言ってるか意味わからん! と言いたくなるものであった。聞きなれない単語を少しでも知っている何かに変換しようと試みたけれどそもそも自分が知っている言葉と彼らの使っている言葉で共通するべき部分があるかもわからない。


 イアに至っては前世、様々なメディア作品を見た事はある。中でも映画と呼ばれるものは、画面の下に字幕が出るものがあったりしていたけれど、実のところ言語が違うという認識すらしていなかった。サポートデバイスがその言語の意味を理解させていたからだ。聞こえてくる言葉の響きが違うけれど、あぁこれはこういう意味なのね、とするっと理解できていたのだ。そしてその下にある字幕を、こういう風に翻訳しているのか……なんてさも知った風に見ていた。


 だからこそ、今しがた聞いた彼らの言葉こそが、イアにとっては人生初の未知の言語だったのである。


 こっちに向かって何か喋ってるのはわかるけど、でも何言ってるかさっぱりわかんない!


 そんな気持ちでいっぱいだったので、イアは思わず困ったようにレイを見た。


「えめけれむ、ぐるううい、こらうあけ」

「ぐあ、ぐあ」


「わっ!」


 槍の先端を向けたまま、彼らはじりじりと接近してくる。


「ちっ、逃げるぞ!」

「ぅあはい了解ッ!」


「ごれめけ! せあばど!」


 できれば真っ直ぐ広場を突っ切って神の楔がある方へ行きたかったが、流石にそれは難しくレイはイアの手を引っ張ってとにかく人の薄い場所めがけて駆け出した。

 来た道を引き返すのであればまだ良かったが、謎言語に困惑しているうちに背後にも数名忍び寄っていたのだ。だからこそ逃げた先がどうなっているか、全くわからない状態で、それに対してレイは再び舌打ちをしていた。

謎言語は暗号とかじゃないので解読しようと試みないで下さい。時間の無駄です。

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