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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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言っといてなんだけど理解できない



 大丈夫かなぁ、と小さく呟く。

「何が」

「レイとアレスだよ」

「あぁ。知らない。運が良ければ帰ってこれるでしょ」

「それはそう」


 頷いて、ウェズンはちらりと隣にいる女を見た。


 名もわからぬ、謎の存在。

 ウェズンが最初、半透明骸骨と言われて思い浮かべたのはこの女だった。

 精霊もその気になれば半透明になれるだろうし、少し前に見かけた幽霊だってそうだ。

 だが、ウェズンの中で最初に見かけた半透明の存在は、この女である。

 とはいえ、今はもう半透明ですらないのだが。


 レイやアレスのメッセージを見て、なんだか大変そうだなぁと思ってはいたものの、その時点ではまだ素材を集めるべく学園の外にいたのだ。

 けれど、何回チャレンジしてもスタート地点にリスポーンされてクリアできる気がしない挙句リタイアもできねぇ! とばかりな二人の様子に、流石にウェズンもがんばえー! とかプ〇キュアを応援する幼女のノリで見守るのはどうかなと思ったので。


 素材集めもそこそこにウェズンは一足先に学園へ戻ってきたのである。


 そうして学園内を彷徨い、この女を探し回った。

 名前を呼べばもしかしたらもっと早くに見つけられたかもしれないが、名前がわからないのでおーいと声をかけて呼ぶにしても本人が出てくるかはほぼ運。

 ついでに他の誰かにこの女の事を聞こうにも、説明にとても困るのだ。

 下手に話が拗れて不審者が学園に忍び込んでいる、なんて思われても困るし、そのせいで他の要件を後回しにされるのも困る。


 だからこそ地道に一人でウェズンは女を探し回った。


 既に学園に戻っていたイアたちが探しものなら手伝おうか? なんて声をかけてくれたけれど。

 これも断った。


 もう一度言うが、この女に関して説明にとても困るからだ。


 探しているのは女、という点でファラムがなんだかとても悲しい顔をするかもしれない。自分を差し置いて他の女を探し回るとか、事情があるにしてもウェズンに好意を向けているファラムからすればいい気分はしないだろう。それくらいはウェズンだってわかっている。


 女との関係をハッキリと説明できれば誤解も何もないとは思うものの、まずウェズンにも女の存在が理解しきれていないのだ。初めて出会った時は半透明だったけど今は透けてない普通の女、とか言われても探す方だって困る。

 透けていない女が一体学園にどれだけいると思っているのか。


 半透明だった時期があるからもしかしたら人間とは異なる種族かもしれない、と言ってもだ。

 該当する存在をしらみつぶしにあたるにしても、この女にたどり着けるかも疑わしい。


 そもそも他の生徒の前にこの女が姿を見せた覚えがない。

 それに、女の口から他の誰か、知り合いらしき名前が出てきた覚えもほとんどない。


 共通の知り合いでもいるのなら、そっちから手掛かりを探すとか、取り次いでもらうとかあるかもしれないが、それすら無理。


 名前も知らぬ女を、ウェズンはどこにいるんだろうかととにかく必死こいて探し回ったのである。



 ただならぬ様子で一人彷徨うウェズンに、案外早く女は姿を見せた。

「何か困りごと?」

 なんてちょっと頼りにされてあげてもいいのよ? みたいな態度でそわそわしつつ出てきた女に、ウェズンは「探してた!」と即答したのである。

 えっ、そんな、とまさか本当に自分を探していたとは思わず女はそわそわしている空気を更にそわそわさせて、用事? 何かしら? と、隠し通せていないそわそわっぷりのまま、余裕たっぷりに微笑んでみせた。そわそわしているので余裕も何もあったものではない。



 そこでウェズンはモノリスフィアに送られていた、半透明骸骨を見せたのである。


「こいつら魔物でもないっぽくて普通の攻撃も魔術や魔法もろくに通用してないみたいなんだけど、どうすればいい!?」


 仲間のピンチなんだ。


 そう告げれば、女はきょとりと瞳を瞬かせた。


「あらぁ……」


 何かと思えば。


 そう言いそうな雰囲気で、女はまじまじとモノリスフィアに映し出されている半透明骸骨を見る。


「貴方には、これはどう映っているの?」

「半透明骸骨」

「ふぅん。そう」


 女の返答はそっけない。

 彼女の目には、ウェズンが言うような半透明骸骨が映し出されているわけではないのだが、それをウェズンが知る事はない。視界を共有だとかするような魔法を使えばウェズンにも女が見ているものが見れるとは思うが、女はそこまでするつもりはなかったし、ウェズンもまたそんな魔法は使えなかったので。


「殉教者」

「え?」

「巡礼者とは異なる。手向けが必要だな。そこに何もないのなら、せめて歌と踊りでどうにかしろ」

「んん? ちょっと?」

「こいつらを満足させるための物を用意するのは難しいだろうからな」

「物、だと何を用意する必要が?」

「酒は間違いなくいる。けれど、ワイン一瓶程度では到底満足しないだろうよ。樽で……十、いや、二十……五十もあれば確実だとは思うのだが」


「レイとかお酒飲めそうなタイプだけど、でも個人での所持品にワイン五十樽は流石に持ってないと思う」


 レイがその場にいたら持ってねぇよと頷いた事だろう。そりゃ飲めるけどな、と言うかもしれないが、持っていたとして精々ワインの瓶が数本といったところかもしれない。


「中途半端な施しは逆効果だ。下手に与えて足りぬもっと、となれば今までは安全であっても次は危うい」

「あぁ、うん」


 女の言いたい事が完全にわかっているわけではないが、それでもわからなくもない。

 お腹が減っている時に、美味しいご飯を出してもらったとして。一口二口程度しかまだ食べてないのにもうおしまい、なんてされたら。

 食べる前よりも余計にお腹が空くのと一緒だろう。

 相手が人間ならそれでもまだどうにか我慢をしようとするかもしれないが、これが動物であったなら、逆に狂暴になって襲い掛かってきたっておかしくはない。


 半透明骸骨は骨の形からして人間であったとしても、言葉が通じるでもなさそうなので人間としてカウントするのはやめておいた方がいいのだろう。

 魔物、ともまた違うが、人間と魔物の中間くらいの認識で想像してみる。

 女が言うように中途半端な施しは逆効果になったとしても、何もおかしくはなかった。


 物が駄目なら……というか、そもそもその殉教者とやらが満足するだけの物をアレスとレイが持っているとも思えない。であれば、歌と踊りでどうにかするのが一番無難な解決方法なのだろう。


 だからこそ、ウェズンはモノリスフィアにメッセージを打ち込んだ。

 歌と踊りに指定や決まりはあるのかと聞けば、女は特にないはずと返してきた。

 そもそも歌はどうにかなるように思うけど、踊りは果たして大丈夫なんだろうか。

 ウェズンはレイとアレスが躍る様子を想像してみたが、どうにもしっくりこなかった。

 ストリートファイトしてる姿は簡単に想像できるのに踊りとなると途端に難易度が跳ね上がるのだ。

 剣舞ならいけるかとも思ってみたけど、これも微妙だった。


 まぁ、変にダバダバした動きでも踊りと言い張ればいける気がする。


 とはいえ、それでも不安な気持ちがあるのはどうしようもなかった。



「君を探す時、名前を呼べないのは不便だなって思ったんだけど」

「そうか、では早く見つけるといい」

「一応探してはいるんだけどヒントもなんにもないからなぁ……」


 誰かに聞くにしても一体だれに……となってしまっている。

 女が自分から名乗るのが確実なのだが、それはどうやらできないらしいのでウェズンとしてはどうにかして彼女の名を探し当てるしかない。しかしどうやって見つければいいのか……一応何もしていないわけでもないのだが、未だに何の手掛かりも得られていなかった。


「暫定的にあだ名とかつけちゃダメなわけ?」

「それは困るな。結果そちらがメジャーな名として広まるかもしれない」

「そっかぁ」


 そもそもメジャーになる程広まるのだろうか、という疑問はあったけれど。

 本人が望んでいないようなので一応相手の意思を尊重しておく。

 これが野良猫なら好き勝手名前をつけて呼ぶのだけれど、彼女は猫ではないので。


「用が済んだなら戻る。何かあったらまた探し回るといい。運が良ければ会えるだろうよ」

「不便だけど一生懸命探す事にするよ」


 はは、と乾いた笑いが出たのは仕方のない事だと思う。


 モノリスフィアとか持ってないの? と聞きたくなったけれど、持ってないのだろう。

 持ってたらそもそもウェズンが見せたモノリスフィアがあるのだ、自分のもある、とか言って連絡先の交換くらいはできたかもしれない。

 持っていたとしても、何らかの理由で持っていない事にしている可能性もあるけれど、詮索はしない事にする。



 まぁ、あの二人なら大丈夫だと信じたい。

 そう思いながら、女の姿が消えるのを見送る。


「本当に、君は一体『何』なんだろうね」

 思わず呟くも、答えはない。


 人ではないとは思う。

 恐らくは精霊の類なのだろうとも思う。

 だからこそ、学園の図書室でそれっぽい本を探し回ればもしかしたら彼女の正体はわかるのではないか、と思って時間に余裕がある時にちまちま調べてはいるものの、今のところそれらしい手掛かりは何もない。


 もしかしたら閲覧制限のかかっている書物じゃないとわからない可能性もある。

 二年になって魔本とかいう存在を知ったのだ。来年になったらまた新たに解放される書庫があるかもしれない。


 けれど。


 来年になれば、神前試合がいよいよ目前だという実感が強くなってきて、のんびり読書なんてできなくなるかもしれない。

 もし、学園にいる間に彼女の名がわからないままなら――



(別にどうもしないとは思うんだけど。

 なんだろうな、わからないままだと駄目な気がする)


 困った事にこの世界に転生してからの自分の勘というものは、ほとんど外れた事がないのをウェズンはよく知っている。嫌な予感は確実に当たるのだ。


 だからこそ、彼女の本当の名前にたどり着かなければならない。


 それだけは、明確な理由があるわけではないけれど。

 きっと、間違いないのだ。




 ちなみにレイとアレスは翌日になってようやく戻ってきた。

 楽器を演奏しながら歌い踊って脱出を試みたそうだが、結局楽器がそもそも手元になかったのでサンバを基点としてランバダとケチャを混ぜ合わせたなんちゃって系ダンスで移動し、歌に関しては以前スウィーノがとにかくひたすらモテたいと心からの叫びを訴えていたのを情緒たっぷりマシマシにして適当なメロディにのせて歌ったのだとか。

 えっ、あのスウィーノのひたすら女性にモテたくてモテたくて泣いて訴えてたアレを歌に? とウェズンは困惑した。だってあれ、普通に聞いてるだけでも一時間以上あったのだ。

 ぶっちゃけ途中からほとんど聞き流していた。

 けれどもアレスは覚えていたらしい。記憶力の無駄遣いである。

 それに便乗するようにレイが合いの手を入れたりハモったりコーラスをいれたりしつつ、城内を移動し、地下にあった神の楔でどうにか脱出してきたのだとか。


 脱出直前、半透明骸骨はぽっかりと開いた眼窩から涙を流しスタンディングオベーションで見送ってくれたそうだ。


「ごめん、ちょっと意味がわかんないからもっかい説明してくれる?」


 ウェズンは思わずそう言っていた。


 ちなみに、もう一回された説明はやっぱり同じ内容で。


「うん、意味わかんない」


 ウェズンの反応としては、曖昧な笑みを浮かべて受け流すのが精一杯だった。


 正直何度説明されても理解できる気がしないので、三度目の説明はねだらなかった。英断である。

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