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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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再度、躓く



「これは」

「微妙」

「じゃあこれ」

「恐怖度が足りない」

「そもそもこいつら初めて見た時に恐怖した?」

「してない」


 そんな会話を経て。


 二人は半透明骸骨を撮影した画像の吟味を行っていた。牢屋で。


 なんか一番怖く見えるアングルを模索し撮影チャレンジをしていたのだが、どれもいまいちだったのである。


 というか、そもそも捕まっても牢屋に戻されるだけなので、命の危機も何もあったものじゃない。初回、何がなんだかわかっていなかった時だけが、何をされるかわからない恐怖があっただけで、捕まっても牢屋に戻されるとわかってしまった今となっては撮影するにしても、恐怖も何もという話だ。


 撮影者の緊迫した空気だとかが、画像に一切存在していない。

 今にも食い殺されるかもしれない恐怖を持ちつつもそれでも死の間際、せめてもの証拠に……! というような命がけさも何もないのだ。

 例えば演劇で、ホラーたっぷりな内容であったとしても。演者が常に半笑いでへらへらしながら「こわ~い」とか「殺される」「死にたくない」というようなセリフを言ったとして、怖いか、となると……というのと似たようなものだ。そこはせめて嘘でももうちょい必死になれよと。

 ただの棒読みでもやる気の有無で多少は違ってくるものだ。まぁその違いに気づける者は少数かもしれないが。


 ともあれ、そうやって一番いい画像をとあれこれチェックして、最終的にここら辺だなとなった画像をアレスはクラスメイトのトークルームに送り出したのである。

 反応としては、最初はそれなりに驚かれたようだけど、その後は本当に半透明で向こう側透けてるだとか、これ魔物じゃないの? 本当に? だとか。

 襲い掛かってきてないの? なんで? とかこっちが聞きたいような疑問がぽんぽんとコメントされてくる。


 物理的な攻撃も魔法も魔術もロクに効果がないせいで、捕まると城の上の方にある牢屋に戻されるのだと伝え、そこからの脱出をするのに下の階に行くしかないがこいつらが邪魔をするとかとにかく事情を書き連ねていけば、仲間たちも一応どうにかするべく考えてはくれるようだった。

 というかだ、むしろ半透明骸骨の画像を要求したウェズンだけが反応がない。


 おい言い出しっぺ……! と思いつつも、まさかただの興味本位で送ってとか言ったわけではないだろうと信じる事にする。

 普段のウェズンであれば、多分何かしら考えてはくれるはずなのだ。日頃の行いからしても。なんだかんだ仲間を見捨てないって信じてる! とかいう気持ちだった。


 とりあえず今までウェズンの足を率先して引っ張ろうとした事もないし、妨害しようとしたことも特にないので、あっさりと見捨てられる事はないと信じたい。ここから出られる案が出てくるかどうかは別としても。


『有識者曰く』


 そうして待つこと更に数分。

 本当にただ半透明骸骨が見たかっただけでは? と疑いを持ち始めたあたりで、ウェズンのコメントが送信されてきた。


『歌と踊りで切り抜けろ、だそうだ』

『有識者誰だよ』


 咄嗟にレイがコメントを打ち込む。


『精霊とか、なんかそういうの詳しそうな奴』


 数秒と経たないうちに返信がきた。


 精霊、と言われて真っ先にレイが思い浮かべたのはイフだ。

 他にも学園に精霊がいるというのはわかっているが、顔と名前と種族がハッキリしているという点でレイが把握できている精霊は学園ではイフだけだった。もう一人、旧寮で戦った事がある女も精霊だったと思うが、そちらとはあまり関わっていないのでディネの事をレイが思い浮かべる事はなかった。


 アレスに至っては学院から学園に転入という形でやってきたので、学園の精霊に関してはもっと詳しくない。精霊と言われて真っ先にアレスが思い浮かべたのは学院にいたリィトである。だが、彼がわざわざこちらの助けになるような事を言うとは勿論思っていない。なので学園の精霊かぁ、とほわんほわんと何とかそれっぽいものを思い浮かべようとしたが、案の定マトモなビジュアルは浮かんでこなかった。


 まぁ、テラよりは、あいつの方がもしかしたら……とレイが呟いた事でアレスもふわっと納得する。


 テラも一応学園にいるのなら、それなりに詳しそうな有識者の意見を求める事は可能だろうけれど、同時に彼は教師でもあるのでまず最初に情報を求めるとしたら同僚である可能性の方が高い。何故ってそっちの方が身近にいるから。他の教師もわからん、となったならその更に上に情報を求める事もあるだろうけれど。


 だがウェズンはその手の有識者として詳しい教師がいたところでそれが誰かまではわからない。

 それもあって、一足飛びに精霊あたりに話を聞きにいったのではないだろうか。

 もし仮に、レイがウェズンの立場だったとして、自分もまぁ、教師に聞いて駄目そうだなとなったら旧寮あたりに乗り込んで精霊に話を聞きにいったかもしれない。


 なので、二人は特にそのコメントに疑問は持たなかった。

 それなりに説得力があったためである。


 ウェズンが話を聞きにいったのが、旧寮にいる精霊の誰かだと信じて疑わなかったのだ。



「……歌と踊り」

「まぁ、一応あれだ、よくある昔話で神に捧げるとかであったよな。歌も踊りも」

「あと生贄」

「それはもうある意味神前試合で死ぬ奴らがそうだろ」

「それもそう」


 アレスがいやでもそれで本当にいけるか? みたいな雰囲気で呟くものだから、レイもなけなしの知識を引っ張り出して確かにそれっぽくはあるけどよ、と絶対的な肯定はしないまでも、否定もできないと言わんばかりの反応をする。


 神楽、とかそういうものがないわけではないのだ。

 ただ、大陸ごとにそれらの歌や音楽、踊りといったものは大きく異なる。


「まず歌はまぁ、どうにかなるんじゃないかと思う。でも踊りとなると、踊りながらあいつら切り抜けるために移動しないといけないだろうし、そうなると歌は難しくないか?」


 走りながら会話を続けるのだって、それなりに負担がかかる。

 それを、踊りながらとなると……いや、案外どうにかなるのか?

 武術の達人ともなれば、型を一つ一つ実行するだけでもまるで舞っているようだ、なんて事も言われるくらいだし、それっぽい動きをしながら移動すれば、もし本当にどうにかなるなら半透明骸骨も手を出してこないかもしれない。


「歌うやつと踊るやつで分担するにしても……歌は途中途切れる場合があるからな。その間がどうなるかわっかんね」


 間奏の間もそれっぽい音を鼻歌なり口からなり発していれば音楽としてみなされるかもしれないが、無言になった時点で歌が終わったとみなされたなら面倒である。


「楽器で演奏しながらいけば間奏もクリアできるんじゃないか?」


 歌がなくても演奏が続いているなら、まだ終わっていないと思われるだろう。


 だがしかしレイは思わず片眉を跳ね上げて、楽器ぃ? とやや否定的な態度だ。

「持ってねぇぞそんなん。あ、いやまてよ? 適当な道具組み合わせれば打楽器くらいならどうにか」

「打楽器で演奏っていうのもどうかな」

「カスタネットっぽいものができれば、フラメンコ踊りながら移動くらいはできるだろ」

「生憎フラメンコは踊れなくてね。俺が踊れるのはタップダンスかフラダンスくらいだぞ」

「それこそなんでだよ」


 お前の見た目からしたらしれっと社交ダンスとか言いそうなツラしてるくせに。

 そう呟けば、レイだってブレイクダンスとか激しい感じのやつしか踊らないみたいな感じだろうと返される。


 ブレイクダンスはできなくもないが、正直ここでやれと言われるととても微妙である。

 あと音楽がないととてもシュール。


「お前、楽器は?」

「うん? 俺? リングの中に一応トランペットは入ってるけど」

「それこそなんでだよ!?」

「ただ、演奏はできない」

「ホント何で入ってんだ」

「俺が演奏できるのは、一部の弦楽器だな」

「バイオリンとかか?」

「いや三味線」

「ホンットなんでだよ!?」


 お前見た目の印象裏切り過ぎだろ! と思わずレイは叫んだ。そう言われても、と言われたがだからといって発言を撤回するつもりはこれっぽっちもないのである。


「一応、打開策みたいなのが出てきてとりあえず駄目元で実行してみるか、ってところまではきたのに、その実行の段階で躓くとか……え、これ、どうすんだ」

「下手に型にはまろうとするからダメなんじゃないかな。

 踊りのジャンルにこだわるのも、歌の選曲に悩むのもナンセンスではないだろうか。どこぞの大会に出るわけでもあるまいし」

「言ってる事は間違ってないんだろうけど、そういうのが言えるのはある程度の実力を持った奴なんだよな。

 ド素人がそんな事言っていざ自由に演奏したところで不協和音にしかなんねぇぞ」

「いいんじゃないか? それで」

「あん?」

「だってここ、神様を信仰していると言ったって、どの神かもわかってないし。俺らが神前試合で見る事になるかもしれない神なのか、はたまた他の――それこそあの黒い物体が言っていた神の子こそが信仰対象かもしれない。もしくは、それ以外の別の神である可能性もある。

 正直どの神であってもロクなもんじゃないんだから、マトモな神楽が受け入れられるかもわからない」

「いや、普通に考えたらど下手くそな演奏聞かされた挙句それを神に捧げるとか言われてもブチ切れ案件じゃね?」

「気持ちだけはこめろ」

「一番駄目なやつだろそれ」


 正直な話、レイは歌も踊りも人一倍得意か、と聞かれると別にそうでもない。

 人並に音感は持ち合わせていると思っているし、踊りもまぁ、身体を動かすのは得意なのでできなくもないとは思う。ただ、あくまでも仲間内で楽しんでやるのと、こういった場でやるのとでは色んな意味で違うのだ。


 だというのに、あまりにも堂々とアレスが言い張るものだから。


 あれ俺が間違ってんのかな……? という気がしてきたのもまた事実であった。

 ウェズンがいたなら目を覚ませとか突っ込んだかもしれない。


 ちなみに、アレスが所持しているというトランペットではあるが。


 生憎レイもトランペットは演奏できないのでリングから出されるような事にはならなかった。

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