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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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所在地不明の



 廃墟といっても一応雨風を凌げる程度には建物は形を残していた。

 だが人が住まなくなってから数年単位で時間が経過しているのは間違いない。


 どこぞのお屋敷かと思って周囲を少しばかり見てわかったのは、ここが城だったという事だ。

 誰もいなくなってしまった城。

 国が滅んだ後ずっと放置されたままだった、というところは実のところそこまでなかったはずだ。学院の授業で聞いた記憶がある。


 いくら結界が阻んでいたとして、自由に行き来ができなくとも。

 それでも学園や学院の生徒が学外授業という形である程度各地を見回るし、そうでなくとも浄化魔法を扱える冒険者たちがいるのであれば、人里が滅んだままずっと放置、という事は滅多にない。


 瘴気汚染度の度合いによって立ち入る事ができる者が限られている土地も勿論あるけれど、誰も立ち入れない土地というのは存在しない。あるとするならば、神がいるとされている場所だけだ。結界で各地を封鎖されていたとしても、神がいるとされている土地でなければ人が踏み入る事は可能である。



 であれば、この城は実際に国としての象徴的な城ではなくどこぞの貴族が建てた物と考えた方がいいのかもしれない。現在地がわからないのでどの国のどの地方か、とかわからないからそういう推測しかできないけれど。


 帰るにしても、ともあれ神の楔を見つけない事には話にならない。

 城の中にあるとは思えないので、どうにかして外に出なければならなかった。


 がらんどうの城の中を移動して、そうして――


 古い建物だからと気を付けていたにもかかわらず、アレスは床の一部を踏み抜いた。

 石材でしっかりしていたはずのそこは、しかし長年放置されたことで古くなっていたのは言うまでもない事で。木造だったらもっと気を付けていたかもしれない。けれども思った以上にしっかりした足場だったから油断をしていたのも否定できなかった。


 足元が崩れる感覚。精々やっても膝より下くらいで止まるだろうと思っていたが、崩れた部分が一気に広がってアレスはあっという間に下の階に落下する形となった。

 そして落ちた先――そこは、牢屋だった。


 地下牢ではない。

 小窓にも鉄格子がはまっているが、それでも外の景色が見えないわけではない。

 だがしかし、窓ではない方――それこそ牢に人を入れる際の出入り口にあたる部分は、驚くほどに頑丈だった。


 格子を掴んで揺らしてみる。ガッシャガッシャと音が鳴れども、そのまま脆くなってボキッと鉄格子が折れてくれるような気配はこれっぽっちもなかった。

 仕方ないな、と思ったアレスはとりあえず魔法をぶっ放せばいいかとサクッと判断した。

 どこの誰の建物かは知らないが、どうせ放置したままのようだし一か所二か所破損部分が増えた所で今更だろう。文句があるならそもそも無断で誰かが入り込めないようにするべきだった。


 いや、アレスだって別に自分の意思でここに忍び込んだわけではないのだが。

 あの魔女は果たしてどこに飛ばしてくれたのか。

 命に別状はないとか言っていたけれど、確かに飛ばされた当初はなかった。だが、このままここから出られなければ、衰弱死の可能性は充分にある。

 リングの中に食料や飲み物があるとはいえ、それでいつまでも食いつなげるわけでもない。いつか、終わりはやってくる。


 念のためモノリスフィアを取り出して瘴気汚染度を確認してみれば、多少高いがどうにかモノリスフィアが起動するのは可能だったらしい。

 では、これ以上瘴気が強くなる前に一応救援要請しておくべきだろうか、と考えて。



 助けてくれと言うのは簡単だが、現在地がわからないままだ。

 どこの大陸のどこにいます、とかそういうのもわからない。

 アレスが訪れた魔女の家は、そもそも学院の生徒だった時、それもウィルやファラムとは別行動だった時の話で。

 今現在アレスが助けを求めたとして、アレスを飛ばした魔女の情報を知る者が困った事にいないという事実に気付いてしまった。


 困ったな、助けを求めようにも説明のしようがない。

 あの魔女のところに行って、一体どこに飛ばしたのかを聞ければどうにかなるだろうけれど、あの魔女は見知らぬ相手と容易く会ってくれる程優しくはない。アレスが知り合ったのだって学外授業で偶然出会ったからこそであって、そうでなければ噂を聞いてきました、なんて言って会おうとしたところで絶対に会ってはくれなかっただろう。


 しかも魔女との会話で和やかに世間話をしたという事もない。

 ある程度お互いに必要な会話しかしなかった。なので、相手の好きな物だとか、相手の交友関係だとか、そういったものをお互いが把握しているかと言われれば勿論――否。

 アレスの知り合いですと名乗り出ていったところで、相手をしてくれるとは思えない。


 おっともしかしなくてもこれ詰んだかな、と思いつつそれでも頭の中でどうすれば助けがくるかを考えて。


 そうこうしているうちに、遠くの方で何やら声が聞こえた気がして思わずモノリスフィアをしまい込んだ。瘴気汚染度的に少々ギリギリではあるものの外部とまだ連絡がとれる貴重なアイテムだ。奪われたとして第三者がホイホイ使えるわけではないが、それでも壊される――かどうかはさておき、これ以上瘴気の濃い所に持ち去られたりするだとかは困る。


 モノリスフィアの強度はそれなりにあると聞いてはいるが、それでも瘴気汚染の高い場所へ持っていかれてそのまま長期間その場に置かれたならば、何らかの不具合が生じないとも限らない。


 というか、こんな見るからに廃墟になった城に一体だれが……? と思っていれば、声はどんどん近づいてくる。大きな独り言ではないだろう。という事は複数名なのは間違いないわけで。


 この建物の持ち主、が久々に戻ってきて城のぼろ具合を同行者に嘆いている、と考えたがどうにもそれとは違う気がする。

 では、城なのだから何かしら金になりそうな物があるかもしれないと思い侵入した盗掘団みたいな奴だろうか。学園や学院である程度保持している遺跡もあるが、だがしかしあの手の遺跡もこういった誰かの所有物であっても、そこまで金になりそうなモノはない、とアレスは思っているのだがまぁそれが世間一般常識だとは言い切れない。


 物語を読んで、ふと古代遺跡や洞窟といったものにロマンを感じてあわよくば、を夢想する者はいつの時代にも存在する。


 けれども、そういったお宝に夢と希望を持った会話でもなさそうだな、と近づいてきた事でさっきより聞こえるようになった声から判断する。


 離せとか、触んなとか、そういう言葉が多い。


「ちっくしょ無駄に頑丈なのマジ腹立つー!」


 そしていよいよその声がより一層はっきり聞こえてきたところで。


「あれ、レイ?」

「は? アレス!?」


 アレスは声の主と対面したのだ。


 ギィガッシャン、と錆びついた音を立てて鉄格子が開けられて無造作にレイが放り込まれる。アレスと同じ牢に。その隙に出ればよかったのかもしれないが、アレスはそうしなかった。

 何故ってレイは自分から牢屋の鍵を開けて入ってきたわけではない。放り込まれたのだ。

 どこからどうみても骸骨に。それも半透明。


 骨が動いてる時点で魔物のスケルトンとかそういうのを思い浮かべたが、しかし半透明なのである。幽霊がいるのは知っているけれど、スケルトンの幽霊というのは聞いた事がない。というか魔物は倒された時点で跡形もなく消えるものなので幽霊になった魔物、というのはまず存在しないはずで。


 レイを放り込んだ半透明骸骨は、こちらが脱出を目論もうとするよりも先に鉄格子を閉めてカギをかけてきた道を戻っていってしまった。


「えぇっと……どうしてここに?」

「こっちのセリフだなんでお前がここに!?」


 お互い知り合いで、敵対している関係でもないとはいえどうにも気まずい。

 これが普通に町中でばったり、とかならこうはならなかっただろうに。


 誰が見たって廃城の牢屋の中だ。

 再会するには少々どうかと思う場面である。


「どうしてここに、と言ったものの。まずここがどこかわからないんだ」

「は? じゃなんでいるんだ……あ、あー、いい。わかる。何となく想像つく」


 見知らぬ土地に何故かいる、という状況は本来ならばそう無い事ではあるのだが、しかしそういった事がないわけではない。事故や事件といった形でならいくつかの話は聞かされている。


「知り合いの魔女の魔法罠というか罠魔法というか、まぁともあれ飛ばされて。この上の方に出たんだ」

 上、と指を頭上へ向ければアレスが落ちてきた穴が開いているのをレイも確認したらしい。なんだ簡単に脱出できそうだな、とか言い出した。


 まぁ、牢屋の中に落ちたとはいえ焦っていないのは確かにあの穴から戻れば出られるから、というのは否定しない。ただ、上の階を全体的に確認したわけじゃないから絶対的に安心できる材料ではないのだけれど。


「それで、レイは?」

「俺は事故だ」

「事故」

「おう。前にウェズンの奴が神の楔の転移事故やらかした事があるんだけども」

「あぁ、それは知ってる」


 アレスと出会う切っ掛けになった件ではなかっただろうか、とアレスは思いながらも頷いた。


「今回の俺も大体それ」

「って事は」

「俺もここがどこかは知らん」


 助けを呼びたくても現在地がわからないのは相変わらずだった。

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