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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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使い道に悩むもの



 モノリスフィアに流れてくるメッセージを見て、レイは「ま、いいんじゃねぇの?」と素人を見守る玄人みたいな感じで鷹揚に頷いた。

 そんなレイを呆れたように見たのはアレスだ。


 本来ならば、二人は別に一緒に行動するつもりはなかったし、そもそも一緒になる事もなかったはずだった。


 罠に関してレイは実家で何か情報がないかと確認するべく戻るつもりだったし、アレスもまた実家ではないがそういった情報がありそうな所で調べてくるつもりだった。

 アレスの行動範囲とレイの行動範囲は間違いなくかすりもしなかったはずなのに。


 それでも何故だか二人は今、共にいた。



 これについては偶然である。

 偶然、とも不測の事態ともどちらとも言える。



 レイは去年のように今年もちょっと身内に罠に関して聞くつもりだった。

 今までの人生で聞けるだけ聞かなかったのか、と突っ込まれるかもしれないが、そもそも罠というのは奥が深い。そんなもの、一度で全部理解できるかとなれば、土台無理な話なのだ。


 罠を仕掛ける相手というのは、まぁわかりきっている事だが生きている。

 生命体である。

 中には暴走したゴーレムの動きを止めるだとかの場合もあるかもしれないが、大半は生きている動物や人、時として魔物だ。


 相手によって引っかかってくれるかどうかも異なるし、罠次第では効果がなかったりもするわけで。

 必ずここにこの罠を仕掛けたら全員が引っかかりますよ、というような単純な話ではない。


 適当に仕掛けて、誰かが引っかかればラッキー、くらいのものならともかく、確実に罠に嵌めたい相手がいるのであれば、仕掛ける側はその相手の事をある程度理解していなければならない。何もかもを把握しろとは言えないが、相手の行動パターンがわかっているのとそうでないのとでは、罠を仕掛ける場所も仕掛ける罠の種類だって異なってくるので。


 今回罠を仕掛ける相手は、学院の生徒だ。

 それも、去年交流会に参加した者や今年になってから参加を決めた者もいるだろう。

 そして去年交流会に出た者や、そうでなくとも先輩方から色々な情報を得ているはずだ。


 実際体験したことがない生徒がいたとしても、知識だけはある程度万全であると考えて間違いではない。


 何もわかっていない相手なら罠を仕掛けるのももうちょっと楽かもしれないが、少なくとも向こうは罠がある事を知っているし、その上で警戒もしているのは確実で。


 そういった相手を罠にはめるためのあれやこれやを、経験者から教えてもらうというのもあった。


 そもそもレイはどちらかといえば罠を掻い潜る側であって、仕掛ける事に関してはまぁそれなりである。素人よりはマシだけど、プロには負ける。

 罠を掻い潜るのであれば、自分の体験から引っかかりやすい罠とそうでない罠の差もそれなりに詳しいのでは? と思われそうだが実際は違う。

 交流会では最初から学院の生徒を狙った罠であるのに対し、レイが今まで掻い潜ってきた罠は財宝が眠っていると噂されている遺跡やかつて誰かが隠したであろう何かを守るため、洞窟だとかに自然を装って仕掛けられたものが多い。


 少しばかり方向性が異なるのである。



 交流会での目的はあくまでも敵の数を減らす事。

 レイが今まで体験してきた罠は、不特定多数の誰かを目的の場所に近づけないためのもの。


 似ているようで少しばかり違うのだ。



 なのでまぁ、そういうのに詳しいだろう相手に話を聞きにいったものの。


「魔法罠か……あれはそもそもそこまで馴染みがないからなァ……」


 と、聞きに行ったものの大半がそんなリアクションだった。


 魔法罠はそれなりに高価な物だ。魔法の道具であるために、普通の道具よりもお値段がするのは言うまでもない。故に仕掛けるとなると、そういった相手は限られてくる。一定の財を持つ者でなければ無理。日々の暮らしで精いっぱい、みたいな奴が仕掛ける事はまずもってない。

 そしてレイの実家は盗賊も海賊もやってるようなところだけれど。

 別にどこぞの金持ちの家に忍び込んで……なんて真似はしていなかった。いや、絶対にしていないというわけではないのだけれど。


 そしてほんのりと魔法罠が本来魔女が用いる罠魔法を再現したものである、というような事を聞かされた。


 彼らは、魔女相手に喧嘩を売るような事もなかったので、魔法罠も罠魔法も体験する機会はほぼなかったのである。

 まぁそれでも。普通の罠だろうとなんだろうと、長年の経験もあるので簡単に引っかかってやるつもりはないのだが。


 ともあれ、今回に限ってレイの実家はあまり情報という点で役には立たなかった。

 ただそれでも、そういうのに使われている素材だとかはある程度知っているらしかったのでそれを聞いて、じゃあ材料調達と洒落こむかぁ……となったのである。


 そうして向かった先は、瘴気汚染度が低くはなかったが、高いわけでもなく。まぁちょっと微妙かもしれないな……くらいの土地だった。モノリスフィアはギリギリ動く。あとちょっと瘴気汚染度が上がったら恐らく使い物にならないだろう、というような、そんな土地だ。



 そしてアレスもまた、魔法罠について情報を集めるべく学院時代の学外授業で遭遇した事のある魔女にちょっと話を聞けやしないだろうかと考えた。

 魔女という存在の知り合いはそう多くはないけれど、それでもその魔女に関しては比較的話が通じるタイプで、それなりに気が合う感じだったのもあって何かあったらまたおいでと言ってくれていたので。

 その言葉が社交辞令である可能性は高かったけれど、相手は魔女だ。わざわざそんな社交辞令を言うとも思えない。大抵の魔女はそういった面倒を嫌うので。


 だからこそ、その魔女に会いに来たのだけれど。



 話は少し遡る。


 本来アレスがやって来たのはここではない別の場所だった。

 魔女の隠れ家。

 入る時に声をかけて、挨拶をして、敵ではないことをアピールし魔女に迎え入れられた。


 そしてそこで、魔法罠について聞きたいのだと目的を述べた。


 ここまでで何か問題があったか、と問われればアレスは何もなかったというだろう。


 魔女も魔法罠については一応教えてくれたけれど、学園で魔法罠を使おうという話が出た時と比べて、なんというか……もしかしてあまり使えないのではないか? と思い始めていた。


 学園で話が出た時は、割といい案に思えていたそれらは、単純にこちらが魔法罠について詳しく知らなかったが故にそう思えたのだなとも。

 魔女が罠魔法を使うのであれば、それは自分のテリトリーに忍び込んだ相手に対するものか、もしくは自分を狙ってやって来た敵対者である。

 忍び込んできた、というのであればまぁ確実に入るだろう部屋のあたりに仕掛ければ大半は引っかかるし、そうでなくとも外で自分を狙ってやって来た相手との戦闘となった場合であれば。

 攻撃の応酬をしている間にひっそりと仕掛ければいい。そんな余裕もないくらい相手が強者であるのなら逃げの一手だが。


 魔女にとっては罠魔法は手段の一つであるけれど、それらをメインにした事はない。

 そして、魔法罠はそんな魔女が使う罠魔法を見た者が便利そうだという理由で再現しようとした代物に過ぎない。恐らく魔法罠に関して調べに行った他の生徒たちもこの情報は掴んでいるのだろう、とアレスだって薄々気付いていた。


 皆してまんまと踊らされたな……みたいな気持ちにもなってくる。


「魔法罠に使う材料は、まぁ他の魔法道具にも活用できるから材料集めは無駄にはならないと思う。ただ、まぁ、あまりにも上級者向けの罠を作るとなれば材料を集めるだけで馬鹿みたいに苦労するからお勧めはしない」


 上級者向けのもの、に限定されたのは魔女からすれば親切心からだろう。

 初心者が作るような魔法罠は、こうやって魔法罠を作るんだよという基本的なものであって、それらを対人戦で使うとなると本当によっぽど上手に仕掛けなければならない。だが、罠を仕掛けるという事に対してプロ級の相手がいるのであれば、正直魔法罠じゃなくたって普通の罠で充分だったりもするのだ。

 そして中級者向けの罠も、まぁ役に立たない事はないだろうけれど、正直な話作って使うとなると労力に見合うものとは言いにくい。


 ただ、己の魔法道具作りの腕を上げたいのであればいい訓練になるだろうけれど、出来上がった魔法罠を有効活用できるかどうかはまた別の話。

 確実に相手を仕留めるだとか、深手を負わせるだとかの効果を望むのであれば上級者向けの物が確実だ。

 何せそこまでいけばもうそれは罠というより兵器レベルの威力になるので。

 ほんのちょっと掠っただけでもそれが命取り、とかそういう事になるようなのがゴロゴロしている。


 一応、魔法罠について知る範囲で纏めてみたけど見るかい? なんて言われてアレスは魔女が纏めたらしい、人が再現した魔法罠についての書物を見せてもらったのだけれど。

 魔女がそう言うのも納得の代物ばかりだった。


 使うタイミングがドンピシャであれば効果的なんだろうなとは思う。

 思うのだが……

 交流会で使うには向いていない。

 魔女が纏めた書物にあった魔法罠の大半は、少数の人間が忍び込んできた場合に関して使うのであれば有効だろうなと思える物が多い。

 交流会のような開けた場所で、大勢がやってくる場所で仕掛けるとなると明らかに向いていない物ばかりだった。

 狭い室内とか限られた空間内であればまだしも。


 魔法罠というのは仕掛けた相手の任意での発動ができるものではあるけれど、つまりそれはそこに相手がいて今なら確実に罠にかけられる、と判断した上で発動させなければならないわけで。


 交流会で、島ではなく教室で待機している生徒たちは島の様子を見る事もできるからそこで誰かが罠にかかるのを待って、魔法罠を発動させる事は可能である。

 けれどもそこをずっと見張っているわけにもいかないし、たとえ一人一つ魔法罠を与えられてそれらを発動させるためにじっと担当の場所を見続けていたとしても。



 それらすべてが無駄に終わる可能性は普通に存在しているのだ。


 一人に一つの罠、とか流石に数が少なすぎるのでもし活用するのであれば複数の罠をそれぞれに割り当てるだろう。となると、仕掛けた場所のチェックだって一か所で終わるはずがないし、あっちを見てこっちを見て、とやってるうちに他の場所でタイミングよく今仕掛けていたならば、なんて展開もあり得る。



 まぁ普通にぐだぐだになるな、と思った。

 今年はアレスも学園側なのでそう考えるととても困るなとも。

 学院にいたままであったなら、このまま学園側がこの方向性で突っ走ってくれたらきっととても楽だったに違いないとも。


 普通の罠ならともかく魔法罠はマジックアイテムの一種だ。仕掛けられているというのであればそれを探し当てる方法がないわけでもない。というか、普通の罠もそうなのだがどちらかといえば魔法罠の方が探しやすいと言えなくもない。


 罠探知の魔法を覚えている相手がいたならぶっちゃけ普通の罠だろうと魔法罠だろうと……という話になるので。



「結局のところ罠魔法をいつでも発動できる魔女ならともかく、魔法罠を仕掛けるのならそれこそそこかしこに魔力の気配があってもおかしくない限られた空間に仕掛けるのが一番なんだよね。例えば――魔女の住処とか」


 魔法罠について教えてくれた魔女がそう言った時、別に他意があったとかではないのだろう。けれども何故だかアレスはギクリとした。

 相手が魔女で、しかし敵対の意思はないけれど。確かに言われてみればここには複数の魔力を帯びた道具の気配が存在している。生きた存在とは異なるが、それでも仄かな存在感のあるそれらは、いずれもマジックアイテムなのだろうなと思っていたし、魔女がいるところにそういった物があったところで何も不思議ではない。だから、そこにしれっと魔法罠を仕掛けてたとしても疑問にも思わないだろうし、マジックアイテムが複数あるならそういうものかと魔法罠があるという警戒を薄れさせるのもそうだった。


 自分がここで何かを盗みに来たのであれば罠を警戒しただろうけれど、アレスの目的はそれではない。だからこそ、罠が自分にという可能性を知らず切り捨てていた事実に気付く。


 そしてアレスが気付いたという事を魔女も理解したのだろう。くすりと笑う。


「そうだね、一つ体験してみればいい。何、命まではとらないはず」

「え、あの」


 まさか自分が今いるその場所に、魔法罠が仕掛けられていると気づいた時には遅かった。

 パッと床が一瞬光って、そう強い輝きではなかったはずなのにアレスはそれでも思わず一瞬目を閉じてしまった。どういう罠かわからないけれど、衝撃に備えようと思った結果だ。


 目を閉じるという行為そのものが命取りになる可能性も勿論あったのだけれど。


 ほんのわずかな一瞬ともいえる時間。

 目を開けた時、そこは魔女のいた家ではなく全然知らない場所だった。



 強制的にどこかに転移させる罠、とアレスが理解したものの。


「……どこだここ」


 見渡す限り廃墟みたいな場所だったので。

 アレスは思わず途方にくれたのであった。

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