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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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それは一つの無駄足



 メニューにないドリンク問題については解決した。

 ついでにウェズン達が巻き込まれた事件に関しても、命の危機とかそういうものではなさそうだというのもあって気持ち的に一段落ついた気にさえなっていた。


 他の皆はまだ戻ってくる気配もない、とくれば、今日はもう休んで明日から何か頑張ればいいか、みたいな気にもなりつつあった。


 そこでふと、思い出したのだ。


「そういえばイア、貴方も魔法罠について心当たりあるって言ってたけど、モノリスフィアの連絡見る限りそれとは違う情報を得た、みたいな言い方だったけど……貴方の収穫は?」

「んぐぬぅ」

「一体どんな感情から出る声ですの、それ」


 イルミナの問いに、寝起きにありったけの梅干を口に詰め込まれたみたいな表情を浮かべ、更に何とも言えない声を出したイアにファラムが思わず突っ込む。

 その反応で、まぁロクでもないというか役に立たない感じの情報しかなかったのかもしれないな……とは思ったのだけれども。


 イアは何となく周囲を見回して、

「ここじゃなんだから場所変えよ」

 言いながらもそそくさと食堂から出ようとする。


 食堂で働くゴーレムたち以外にも、生徒はいる。ただそれはイアたちのクラスメイトではなく、他のクラスや学年の生徒であって見渡した限り顔見知りと呼べる者もいない。

 それにこちらへ注意を向けているような相手もいないはずだ。少なくともそういった気配は感じられない。


 なので、イアの報告がとてもしょぼかろうとも、あえてこちらに声をかけたり、ギリギリ聞こえるところで嫌味のように嘲笑うようなのはいないと思うのだが、それでもイアは首を横に振った。


 仮に、そういった相手がいたとして最終的にボコボコにすればいいという結論に至るのだが、イアとしてはそういう意味で場所を変えようと言ったわけではなかったので。

 話をする以上場所を変えるのはイアの中では決定事項であった。



 ――そういうわけで教室である。



 ジークがまた戻って来たのか……みたいな顔をしていたが、それだけだった。

 ちなみにまだ他の生徒は戻ってきていないらしい。まぁ、色々と難航しているだろうからそう簡単に戻ってこないだろうなとはわかっているのだが。



「えっとね、魔法罠に関して詳しいだろうなって思って、マミーに話を聞きにいってきたの」

「お母さん?」


 イアの言葉にイルミナが聞き返せば、イアはこくりと頷いた。

 そんな会話の出だしにジークが一瞬「うわ」とか言い出しそうな顔をしたが、それも一瞬だった。


「ダディでもよかったんだけどさ、ダディはなんていうか、直接的にこっちに手を貸してくれない感じがしたから」

「えっと……イアのご両親というとウェズン様の……えっ、あのお二方に!? それ下手したら最終手段とかじゃないです?」


 学園の卒業生にして成績優秀者なんてもんじゃない相手だ。一つ上の学年の先輩に話を聞いてくる、とかいうのであればまだしも、卒業してそこそこ経過しているとはいえ今でも恐らく現役で通じるような相手。神に出禁を言い渡された男、それがウェインストレーゼである。

 学園を卒業した後、二度ほど生徒が不作時代であったがために卒業後に駆り出されたのだからさもありなん。


 卒業後それなりに時間が経過しているのもあって、下手をすれば色々な部分が記憶からすっぽ抜けた、なんて事だって有り得たかもしれないのに。

 実力だけは確かなので、まぁ、仮に今話を聞いたとして、正直もうほとんど覚えてないんだけどな、とか言われてもそれでも何らかのヒントは得られそうな気がする。

 学生時代の思い出話で終わろうとも、それでもそこから何らかの情報は得られるのではないか。


 ファラムもイルミナもそう思えてしまった。


 ファラムの実家にあった魔女の知識の絡んだ書物や、イルミナの祖母より余程マトモな情報を落としてくれそうではある。


 けれどもイアが言うように、ウェインは率先して彼らの手助けをすることはないだろう。


 あいつの立場からすると、まぁそうなんだけどな、とジークは声に出さないまま小さく鼻を鳴らした。


 何せ神から出禁を言い渡された男だ。

 それが、じゃあこれからは間接的にサポートに回ります、となったとして。

 それすら下手をすれば神の機嫌を損ねる可能性が高い。

 余計なことをして、と神が思って更に厄介な無理難題を吹っ掛けてくるかもしれないし、勇者と魔王の殺し合いなんていう悪趣味な戦いの場ですら――


 下手をすればそれすらもういらないと言われて、あっという間に世界を滅ぼす可能性すら有り得るのだ。


 今はまだ、そうではないけれど。

 だがそれもいつまで続くか……

 この世界は困った事に神の機嫌の上に成り立っている。世界を滅ぼすと決めた神の、だ。

 人々はそこにあるかもわからないような希望に縋っているが、神からすれば余興みたいなものだろう。

 その余興に水を差すような真似をした、と受け取られてしまえば本気で世界が一瞬で終わりかねない。



 だが、出禁を言い渡されたのはあくまでもウェインだけなのだ。

 その妻であるファーゼルフィテューネは三度も神前試合に参加したわけでもないし、出禁を言い渡されてもいない。

 故に、アドバイスを求めるのであれば確かにそちらの方がマシだろう。


 イアがそこら辺をどれくらい理解してそうしたのかはジークにはわからない。

 何せイアが何をどこまで知っているのかすらジークは確認してすらいないので。

 普段の言動が若干おバカな感じ漂わせているイアではあるが、しかし頭の中身までそうというわけではない事はジークも既にわかっている。

 なので特に考えたわけじゃない、と言われても、考えた上でそうしたよ、と言われても。

 どちらでも納得できるものではあった。



「交流会の話をしてね、マミーに魔法罠に関して聞いてみたんだけど。

 そんな使えない物に時間を割くのはやめなさいって言われちった」


「つっ……」

「使えない……!?」


 凄いバッサリいったな、とジークは素直に感心した。

 確かに使い道がないわけじゃないけれど、正直な話滅茶苦茶有用と言う程でもない。

 使い方次第では確かに活躍するものではあるのだけれど、使い方次第ではゴミ同然である。

 余程上手く使いこなせる者以外なら、まぁ正直罠を使うより直接的な手段に訴えた方が……とジークですら思っているくらいなので。


 いや、使えないゴミとまでは言い過ぎかもしれないが、ぶっちゃけるのであれば、格下相手なら結構な勢いで効果的な事は多い。ただ、仮にウェズン達がジークに魔法罠を仕掛けようとするとしよう。

 多分大体の魔法罠無効化できるし、折角作って用意した罠は無駄に終わる。


 地域によっては下手な魔物よりも厄介な獣相手に使う事はあるけれど、対人戦で使うとなれば格上の相手にはちょっとした小手先の誤魔化し程度にしか効果を発揮しない場合の事の方が多いし、自分と同レベルくらいの相手でも一応ちょっとした隙を作る事ができるくらいだと思っておいた方がいい。

 ストレートに相手を罠にはめて魔法罠で仕留められるのは、それこそ最初のまだ相手がこちらの出方を把握しきれていないうちだけ……かもしれない。


 ジークの見立てでは、交流会で魔法罠をメインに使ったとして、最初の数名はどうにかできると思うけれど、後半になれば直接戦って仕留めた方が手っ取り早いとすら思うだろう。多種多様に罠を用意できればいいが、そうでなければなおの事。


 恐らく最終的に用意した魔法罠は、罠というより攻撃用・威嚇用の魔法道具くらいの認識で使われるだろう。使い道が残っていれば。使い道すら残されていなければ、後はもう生徒たち自らが相手を倒すしかない。


 そんな風にジークが思っている間に、イアはファムから聞いた話を淡々と語る。

 それは実際ジークが今しがた思っていたようなものと似たようなものだった。

 罠なんて初見で、もしくは油断しているところで引っかかるから効果があるのであって。

 罠を使う、という認識がされてしまえば相手は警戒するし、そうなれば罠は攻撃手段の一つくらいの認識になるだろう。

 であれば、正直魔法や魔術をぶちかます方が余程手っ取り早いし、そうでなくても暴力で解決する方が確実である、との事。


「ウェズン様のお母様ったら案外武闘派な答えですのね……」

「てか、それじゃ折角の罠の準備とかしようとしてるけど、この方法あんま意味ないって事?」

「失敗も一つの経験だろうから、やるだけやってみればいいんじゃない? ってマミーは言ってた。最悪死ぬかもしれないけど、気付きを得て逆境をいかに乗り越えるかってとても大事、とも」

「乗り越えられなかったら死ぬのよねそれ……」


「だからね、魔法罠って基本的に相手が油断してる場合に限るって締めくくられて。

 罠魔法として魔女が使うのであれば、また話は違ってくるらしいんだけど」

「まぁ、魔法ってくらいだから。威力とかえげつない……かどうかは別として、普通の攻撃系魔法や魔術がくると思ったら搦め手で、ってなるわけでしょ? まぁ、確かにそうなれば効果はあるとは思うけれども」


「魔法罠も罠魔法も運用の仕方としては同じようなはずなのにこの差は一体何なのかしら……」

「魔女か否か……ってコト?」

「わかんないけど奥が深いんだなって思ったよ」


 イアの結論がとても大雑把。

 素人が手を出すにははやすぎたんだ、とか言い出した。果たして本当にそういう問題だろうか。


「でね。魔法罠に関してはびっくりするくらいマトモな情報もらえなかったんだけど。

 その代わりにって事で別の魔法を教えてもらったの」

「へぇ、どんなの?」

「ゴーレム作るやつ」


 ゴーレム、と言われてイルミナもファラムも思わずつい先程までいた食堂のゴーレムたちを思い浮かべる。


「マミーも家で家事をゴーレムに任せたりしてたし、使いこなせれば役に立つのは確実なんだけど……

 その、あたしじゃ使いこなすにはまだ早いって言われちゃって。

 一応マミー監修のもと精霊と契約を試みたんだけど……

 ぶんぶんゴーレムしか作れなくてですね」


「ぶんぶんゴーレム」

「なんですのそれ」


 普通のゴーレムとは違うものなのか。違うとすればどう違うのか。

 生憎ゴーレムに関しては授業でもそこまで詳しくやっていないので、二人は思わず困惑した。


「えーっと……なんていうかね、学園でお仕事してるゴーレムみたいに色々できるわけじゃなくて、両腕を振り回して掴んだモノを全力でぶん投げるゴーレム」


「思った以上にその名のとおりね」

「というか……それはそれでまた微妙な感じがしますわね……」


 それって下手したら獲物を捕まえられなければひたすら腕をぶんぶん振り回すだけのゴーレムでは。


「使い道がとても微妙。でも流石に他のゴーレムがいるところでそれを言うのは悪口になるかなって……」

「あ、だから場所変えようって言いだしたのね」


 イルミナが言えば、イアはこくんと頷いた。


 ゴーレムたちが自分たちの事をどういう風に思っているかは知らないが、もしゴーレムにとってそのぶんぶんゴーレムも等しく仲間だと思っているなら、仲間を悪く言われている、と受け取ってしまう可能性は存在する。

 どうでもいいのであればスルーされるかもしれないが、もしゴーレムたちの中で仲間意識だとかがあって、挙句そこに階級制度みたいなものまであったなら、そんな役立たずと一緒にしないでもらいたい、とか言い出して怒らせるかもしれない。


 いや、そもそもゴーレムに感情はあるのか? とかの疑問はあるが、意外と個性豊かなのでそういう風に術が発動していると思うよりは、個性があると思うべきなのかもしれない。

 となると、確かに食堂でその話題は何となく気まずくなる恐れがあった。


「よりにもよって伝説の大先輩に魔法罠とか使えないと言われ、いざ魔法罠に関しての情報を求めたもののわたしたちの収穫は乏しく、挙句何か別の能力を持ち帰ってる人が既に二名……

 これ、下手したら他の皆さんも微妙な結果になるのではなくて?」


 素材はいくつか集まっているとはいえ、肝心の罠がどうにかならなければ意味がない。

 だがしかし、現時点作れる罠の種類は本当に乏しすぎて、そうなれば確かにファムの言うように使えない結果となるだろう。


「……時間をこれ以上無駄にしないためにも、まずはクラス全員に相談しましょうか」

「そだね」

「賛成。一応期日まで余裕はあるけど、正直こういう相談は早い方がいいと思うわ」


 とりあえずモノリスフィアを取り出して、各々進捗報告を開始しだす。


 ちなみにファラムの報告が真っ先に終わったものの、イアの報告はファムの言葉を伝えるのもあって中々に文章量が多く、ところどころに誤字も多発したために。

 代理でファラムが文字を打ち込む事となった。

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