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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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無事に帰るまでが課外授業です



 さて、ウェズンたちはサクッと課題を終わらせていたわけだが。


 イアたちの方はそれなりに難航していた。


 イア、レイ、そしてイルミナ。

 この三名が与えられた課題は、メジーナ山地と呼ばれる所にあるルウェッテ遺跡に行き、そこに罠を仕掛けてくる事だった。

 ちなみにこのメジーナ山地、ウェズンたちが行ったセルシェン高地がある大陸から見て北に位置している。

 地図を見る限りではセルシェン高地のある大陸から二つ程島を超えて、そうしてその先にある大陸だ。


 もし神の楔の転移もなしに行けと言われたら、行くだけで数か月はかかるだろう。


 転移できるから気軽に遠く離れた大陸に赴けるけれど、そうじゃなかったら課題一つこなすのだけで一年経過するなんて事もあり得たかもしれないわけだ。流石にそうなったら、そんな遠くに行かせるような事はないと思いたいが……


 とはいえ、いくら神の楔があるとはいえ、目的地目の前にぽんと行けるわけではないらしく最寄りの神の楔からそこそこ移動しなければならなかったのである。


「そもそも、何で山奥にあるだろう遺跡に行ってそこに罠仕掛けなきゃならんのだって話だよ」


 レイの疑問ももっともだった。


「先生が言うには、定期的に仕掛けておかないといけないらしいけど……」

「そういうものだって納得しろ、だけだったもんねぇ」


 幼児のなんでなんで攻撃に面倒になってそういうものなんだよ、っていう言葉でごり押しした時並みの言葉だった。幼児よりは理解力があるだろう三名に対してこれ、という事はきっと特に理由がないか、はたまたくっそ面倒な裏事情でもあるのかもしれない。

 どちらかといえば面倒な雰囲気を察知したレイは聞いたら秘密を知った以上……的な展開を想像したので深く聞こうとはこれっぽっちも思わなかったが。


 ルウェッテ遺跡について、イルミナは昔、少しだけ聞いた事がある。


 別にもう財宝があるだとかではないけれど、なんでか定期的にそこは盗掘者が湧くのだとか。そんな虫みたいな言い方……と思ったこともあったが、虫も犯罪者も大差ないのだろう。どっちも邪魔で、始末するべき対象と考えれば。


 あの遺跡はあるだけで意味があるらしいので、下手に盗掘者に好き勝手あちこち掘ったりされて遺跡が崩壊すると厄介な事になる、イルミナにルウェッテ遺跡の事を話してくれた人物は確かにそう語っていた。


 そこにあるだけで意味がある……もしかしたら他にも同じようなものがあって、何かの礎にでもされているのだろうか。イルミナはそんな風に考えたけれど、話をしてくれた人にそれを聞く事はできなかった。

 お前が気にする事じゃないと言われてそれ以上聞けなかったのだ。それでも己の好奇心を満たすべく聞いていたなら。

 もしそうしていたならば、次にくる言葉はきっと――


 嫌な想像を振り払うようにイルミナは軽く頭を振った。


 神の楔による転移で出た場所は、目的地である遺跡より離れた小山の洞窟付近であった。

 洞窟の中に入る必要はない。洞窟を背に進み、少し山を下りそうして隣の山が目的のルウェッテ遺跡がある場所だ。

 山を完全に下る必要はなかった。途中、吊り橋がありそこで隣の山と繋がっていたからだ。


 とはいえ、それなりの高度にある吊り橋を渡るのは中々に勇気がいった。

 うっかり落ちたとして、下は川が流れているから運が良ければ死なないかもしれないけれど、その『かもしれない』は何の救いにもなっていない。


 魔物が出るというし、吊り橋を渡っている時に襲われたら……そんな嫌な想像をしながらも慎重に、それでいて速やかに移動したからなのか最悪の事態は起こらなかった。


 先頭を行くのはレイだ。

 その次にイア、そして最後尾にイルミナがいた。


 本人の自己申告もあったがレイは目がいいと言っていた。ならば、もし魔物が近づいて来た時に早々に気付けるのではないかと思ったからだ。あと長身なので後ろにいられるよりは前にいてもらって目印になってもらった方がはぐれる心配がない。

 逆にイアはこの中で一番小柄だ。うっかりすると見失うかもしれない。

 そう思ってしまったので真ん中にいるように告げたのである。


 俺山道はあんま馴染みないんだけどな、なんて言いながらもレイは散歩でもするような足取りでするすると進んでいく。一応後ろの二名に配慮して多少速度は落としているようだが、いかんせん歩幅が大きい。


 足の長さ……おのれ……という呟きがイアから聞こえてきた。

 別にイアの足が短いわけではないが、小柄なのでどうしたってレイの一歩とイアの一歩には差があった。言えばイアが傷つくかもしれないとは思うが、正直な話大人とこどもくらいの差がある気がしている。

 イルミナはイアを後ろから蹴飛ばしたりしないように注意しながら歩いていた。

 歩幅とか速度順に並んで移動していたら、間違いなくイアは最後尾になっていたし、知らないうちに置いていってしまったかもしれない。そんな感じで並ぶ順番を決めなくて良かったと思う。


 ルウェッテ遺跡は外側から見る限り、ほとんど破損もなく綺麗なものだった。

 目ぼしい財宝などはない、と聞いているがしかしこれだけ外観に特に破損も見受けられないのであれば、未発見の遺跡だと勘違いされたりするのではないか。そうなればまだ見ぬ財宝に期待する者が足を踏み入れるのは想像するのも容易かった。


 内部に入ってみれば中もそこそこ綺麗で、一瞬とはいえイルミナはここに何をしに来たんだっけ? 社会見学? なんて本来の目的を忘れかけたほどだ。


 罠を仕掛ける、という課題内容ではあるが、罠に関して自分たちで考えて何もかもをやれというわけではなかった。あらかじめ仕掛ける種類と場所を定められている。だからこそ、仕掛けた罠が実は誰も引っかからないだろう場所に設置してしまった、なんていう失敗はないと考えていい。


 ついでにざっくり中の掃除もしておくというのが追加課題であったため、しぶしぶではあるが清掃活動に勤しんでそうして罠を仕掛けていく。

 とはいえ、あまりにも大掛かりな罠は存在しない。何かが通った時点で発動するものと、魔力感知型の罠と。

 魔力感知型についてはすぐさま発動させてしまうとイルミナたちが危険に晒されるので、遺跡を出る時に操作して出るようにと言われていた。


 遺跡の中に魔物まで出るようならもっと時間がかかったかもしれないが、そんな事もなかった。精々、以前ここに入り込んで罠にかかり死んだであろうヒトの骨だとかがあったくらいだ。

 もし、もしもイルミナたちが来る直前に遺跡に入り込んだ者がいたならば。

 生きていればまだしも、死んだばかり、はたまた死んで少し経過した後、などであれば片付けも手間だっただろう。

 そうじゃなくて良かった、と思いながらも作業を終わらせて、そうして何事もなく帰るはずだったのだ。


 周辺に休憩できるような町だとかがあるわけでもない。だからこそ来た道をそのまま引き返して神の楔がある場所まで戻るつもりであった。


 この時点で、課題は何事もなく終わりを迎えていたし、三人とも特に何事もなく終わった事に安堵すらしていたくらいだ。

 帰りはちょこちょこ魔物と遭遇したけれど強い魔物ではなかったため、レイが簡単に仕留めていた。


 そう、何事もなく帰れるはずだったのだ。



 そうならなかったのは、吊り橋がある地点。行きも中々に肝を冷やした吊り橋だが、帰りもここを通るとなるとそれなりに覚悟がいった。

 とはいえ、通らないという選択肢はない。

 山を下りて、そこから川を渡ってこちらの小山に行けるルートを探し、そして小山を登り神の楔まで、と考えるとちょっと我慢して吊り橋を行く以上に時間がかかるわけだし。

 下山してどこか他の神の楔から転移するにしても、どこに神の楔があるかまでは把握していなかったのだ。


 ぎぃぎぃと不吉な音をたてる吊り橋の半分ほどまで進んだところで。


 魔物が襲い掛かってきた。

 それも上空から。鳥のような魔物はけたたましい鳴き声を上げて鋭い爪で襲ってくるも、動きが素早すぎて反撃に出るタイミングが中々ない。肉をえぐられては堪ったものではないので、精々牽制するように武器を手にしたレイが頭上で腕を振り払うようにして、じわじわと吊り橋を移動していく。

 魔術で攻撃を仕掛けてもよかったのだが、あまりの素早さに当てられる気がしなかった。


 魔物もどうにかしてこちらを仕留めようとしているのか、退いてくれる様子はなく。


 一気に駆け抜けようにも、その瞬間魔物はきっと嬉々として襲い掛かってくるのがわかっているので、下手に隙を見せられない。


 ぎーぃ、と何度目かの軋む音がして、隙を見つけたのか魔物が滑空してくる。

「ちっ……!」


 レイの舌打ちが聞こえたと思った次の瞬間――


 パスッ、と思った以上に軽い音がした。

 そしてその直後、グェ、という声になり損ねたような音も。


「わ、当たった!」


 先頭にいたレイの陰になっていて見えなかったであろうイアの攻撃が、魔物に命中したらしかった。イルミナは自分の前にいたにもかかわらず、魔物に意識を向けていたのでイアが何をしたのか全くわかっていなかった。


「え、何それ」

「お母さんが送ってくれた武器」


 イアの右手には見覚えのない物がくっついていた。少なくとも遺跡にいた時は無かった物だ。右手の甲を覆うような形状だが、手を完全に覆いつくすといった感じではない。手甲と言えなくもない形状、そこにキラリと輝きを放つ石が埋め込まれている。


「今何したの」

「えっとねぇ、何か糸が射出されたよ」

「糸」

「うん、場合によっては足場にもなるって」


 足場、と言われてもイルミナにはピンとこなかった。だって糸でしょ? という気持ちであったのだ。

 そこまで頑丈なものを想像できなかったというのもあった。


「ともあれ、どうにかなったな。助かった」


 凄まじい速度で射出された糸が魔物の頭を貫いた事で、魔物は即死。その身体はすぐさま消滅してしまった。これで攻撃を警戒しながら移動しなくて済む。あとはさっさと吊り橋を渡って、そうして神の楔がある場所まで戻るだけ。


 そう、思っていたのだ。


 バキッ、という音がして、

「お? おにゃあああああああああああ!?」

 イアの身体が落下していく。


 ぎしぎしと軋んだ音を立てていた吊り橋の、よりにもよって足場の板部分が割れた。

 そしてあっという間にイアは下に広がる川へと落ちていく。


 板が壊れ、ついでに橋を吊っていたロープ部分も寿命がきたのかぶちっという音がして千切れ、橋は真っ二つになって崩壊していく。イルミナは咄嗟に切れていない無事なロープ部分につかまって落下を防いだが、レイは――


「あぁもう畜生ッ!!」


 レイは、いや、レイもイルミナ同様に数本無事であったロープ部分をつかんで落下を免れるはずだった。しかし彼はイアを追い、自らも落下していったのだ。


「え、ちょ、ちょっと!?」

「てめぇは先戻ってろ!」


 落下しながらもレイはイルミナに向けてそう言葉を残す。

 その数秒後にはもうイアはもとよりレイの姿も見えなくなっていた。


 真っ二つに割れるように崩壊したとはいえ、それでもどうにか無事なロープ伝いに移動すれば向こう側に行く事は可能だ。とはいえ、突然ロッククライミングを強要されるような状況になっているのでイルミナも本当に無事に向こう側に辿り着けるかわからなくなってしまっているが。

 とはいえ、レイのようにイアを追ってここから飛び降りる勇気はイルミナにはなかった。

 どうにかまだ腕力に余裕があるうちに、ロープをしっかりつかみながら移動する。力尽きての落下だけは避けたい。


 そうして普通に吊り橋を渡る時以上に時間がかかったものの、どうにか向こう側へと辿り着く。

 あとはこのまま小山を進んで神の楔へ行けば、学園に戻れる。


 戻れるのだが――


「私一人で戻れっていうわけ!?」


 それが、きっと最善なのはわかっている。戻って、救助を頼めば……いや、死んでも自己責任とか言うような学園だ。救助に人を割いてくれるかわかったものではない。

 レイ一人だけなら仕方ないわね、とイルミナも見捨てたかもしれない。

 しかしイアを見捨てるのは何となく、こう……自分より小さな子である以上、とても罪悪感。


 大体学園に戻ってどう報告しろというのだ。


 イアが吊り橋から落ちて、それ助けるのにレイも一緒に落下していきました。

 私は先戻ってろって言われたから帰ってきました。


「……は? ありえない」


 それじゃ私が人でなしみたいじゃない!!

 場合によっては正しい行為かもしれないけれど、思い返せばあの教室には、イアの兄もいる。ウェズ……なんとかなんちゃらとかいう長い名前の。ウェズンでいいとか言ってた奴だ。初日の殴り合いで最後の一人になり勝利をつかみ取った人。


 え、仮に私一人で戻ったとして、そしたらあいつに私、妹を見捨てた奴、って認識されるわけ?

 仕方ない事だとしても、どう考えたって禍根が残るじゃない。

 しかも真っ先に精霊と契約結んだ奴でしょ?

 多分、あの教室でもかなりの実力者だろうとわかる相手が、下手するとこれから先敵になるかもしれないわけだ。


 えっ、えぇー、気まずいなんてもんじゃない。

 やめてよ肝心な時に敵対して殺されるかもしれない可能性とか……


 これがあのイアという子がくっそ生意気でこいつここで殺してやろうか、と思えるような人物であれば別に見捨てたところでこれっぽっちもイルミナの心は痛まないのだが、遺跡の中ではせっせと行動し、時として率先して汚れた場所を掃除したり、時々イルミナのサポートに回ってくれたりもしたのだ。イルミナがイアの手伝いをした事も勿論あるしそういう意味ではお互い様。

 妹がいたらこんな感じなのかな、とふと思ってしまった程度には、イルミナの中のイアの存在は好意的に思える人物であった。


 脳内で今後起こりうる可能性の数々を想像すれば、どうしたってここで帰ったら不味いという結論に至る。


 だからこそ。


「あんな男の言いなりになって大人しく帰るとかないわ!」


 イルミナは、とにかく川のある場所まで山を下りる事にしたのである。

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