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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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傍迷惑な魔物



 何度だって言うが、ファラムの故郷はのどかで平和なところである。

 立ち並ぶ家、その合間に点在する畑。ファラムが住んでいたのは領主の館であるがゆえに、そんな町の奥まったところにあった。

 ファラムの家へ行く手前に冒険者ギルドをはじめとして店が並び、図書館があって、そうしてその更に向こうがファラムの家だった。


 ファラムの家の更にその向こう側は、となると林があってその先は湖がある。


 神の楔で一時期は閉ざされていた土地だとしても、ファラムが住んでいた町以外にも同じ結界内にいくつかの町や村があったので足りない物は他の所と物々交換だったり金銭のやり取りでもって得る事ができていた。

 もし結界内部に他に町や村といった人里がなかったなら、町の周辺の土地をもう少し潰して畑を広げたりしていなければ、きっと生きていくのもやっとだったかもしれない。


 ……とは、お年寄りの言葉だ。


 ファラムが生まれた時点ではそんな不安に思うような事もなく、とっくに結界が解除された後だったのでそういう話を聞いてもそこまで危機感を持つ事もなかった。


 のどかで平和な町なので、人によっては少々退屈だと感じるかもしれない。

 けれどもファラムはそんな故郷が好きだった。


 同年代の子とはとにかく話が合わなかったのでお友達の数は少なかったが、それでも。


 そんなのどかで平和な町を気に入ったらしき魔女が一人、時々ふらりと訪れていた。

 ファラムにとってその魔女が、一番の友人だったのである。


 なのでまぁ、ファラムが魔女が使っていた言語のいくつかを知っていたのはそういった方面からの知識である。ファラムのご先祖様の中にも魔女と友人関係を築いていた者がいたらしく、屋敷の古めかしい書斎には、そういった事が記された本もあった。


 魔女もまた、ファラムに対して知識を与える事を惜しんだりする事がなかったからか、正直に言えば魔女の家で生まれ育ったはずのイルミナよりも魔女『らしく』見えるのかもしれない。

 ファラム本人は魔女ではないというのに。


 ともあれ、そういった魔女が残した知識を纏めた本であったりだとか、ご先祖様の伝聞で残された手記だとか。

 まぁ何か一つくらい役に立つようなのがあるかもしれない、とファラムは思ったわけだ。

 自分に罠魔法を使いこなせる事ができなくても、魔法罠に関するあれこれはもしかしたらあるかもしれない、と思ったとして、そこまで的外れな事でもなかったと思う。



 なのでまぁ、そういう事もあったからこそ、久々に実家に帰省したわけだ。

 実家に何かそれらしいのがあったかもしれない、と言わなかったのは、あるようなないような……というくらいに曖昧なものだったからだ。

 あると思って戻ったら結局収穫ゼロでした! なんて事になると流石に申し訳がない。


 家に何もなかったとしても、友人である魔女の所へ行けばもしかしたら……とも思っていた。

 まぁ、家に行ったとしているかどうかはわからないのだが。

 彼女はいつも事前連絡なんてなしにふらっとやってきてふらっと立ち去っていくし、家に行ってもいない時の方が多いくらいだ。

 彼女を動物に例えるならばきっと間違いなく野良猫だろうとファラムは思っている。



 そして、そんな故郷ではあるが。

 神の楔は大抵の町の入口にあったりするのだが、ファラムが暮らしている町の神の楔は少々離れていた。


 神の楔で転移して、そこから少々――大体十五分くらいだろうか――歩く事になる。


 小高い丘の上にあるわけでもなく、平地にぽつんとある神の楔なので。

 最初ファラムは故郷の異変に気付かなかった。


 少し近づいて、それからそこで気付いたのだ。


 故郷全体が燃えているというわけではなかったが、それでも入口から町の真ん中あたりまでは燃えていた。

 その先にある冒険者ギルドや商業施設、ファラムの家といった部分はまだ被害に遭っていないようだが、それでも手前に広がっていた家や畑は燃えていた。


 自分の家が無事だから何も問題なーい☆

 とか言える程ファラムは町の住人に対して無関心というわけでもない。

 話が合わず、気も合わない同年代の子が住んでいた所も、それ以外のご近所さんも。

 流石にこんな状況になっているとなれば、普段はちょっとした挨拶だけで早々に立ち去っていたとしても、無視していくわけにもいかなかった。


 何故ってそこで魔物が暴れまわっていたからだ。


 ギルド所属の冒険者たちも応戦しているところを、見なかった事にしてスルーして通り過ぎるとか流石にできるはずもない。

 たとえばこれが、自分の父が既に襲われていて、一刻も早く会いに行ってあげて! とか言われたならその場を任せて……という事になったかもしれないが。

 父はというとどうやら魔物より燃えている建物から避難と救助の指揮をとっているらしいので、ファラムが急いで会いにいったところで……という話だったのである。


 そんな事よりも暴れまわる魔物が元凶なのは言うまでもないので、そちらをどうにかするのが事態の解決につながるのでそちらを手助けするのは当然だった。


 人様の故郷で何してくれてるんですの!? という気持ちでもって暴れまわっていた魔物に攻撃を仕掛けていく。

 魔物は、最初人の形をしていたように見えたけれどしかしいざ近くで見ればそうではなかったと気づいた。

 人というよりは猿だったのだ。

 遠目で見ていた時には燃え盛る炎に包まれてその熱から逃れようと暴れ藻掻いている人かと思ったが、実際にはそうではない。

 白い毛並みの猿だった。

 燃えていると言っても本体が燃えているわけではないとなったのも、白い毛並みのせいだ。

 もしこれで本体もろとも燃えているのであれば、毛並みの色などわかるはずもなかっただろう。赤い炎による色か、はたまた燃えて炭化して黒ずんでいるか……けれどもハッキリと毛の色がわかる状態だったので。

 燃えているというよりは、炎を纏っている、というのが正しいのだとファラムも理解はした。


 その、炎を纏った猿が町の住人たちの家が立ち並ぶ区画でもって暴れまわっていたのである。

 普通に迷惑。


 猿を燃やさないくせして家屋は燃える。いっそ平等にその猿も燃やせよ、ときっと家を燃やされた住人は思ったに違いない。ファラムは咄嗟に氷系統の術を猿めがけてぶちかましていた。


 学院に入ったばかりの頃は、正直ちょっとしたコントロールが苦手だったのもあってこういった術を使えばうっかり周囲を巻き添えにする可能性もあったのだけれど、その後でコントロールを必死に学んだ事で今ではそういった心配もない。

 仮に術が外れ――というか回避されたとしても、燃えてる家に命中するので消火活動になる。

 家が壊れるとかそこら辺はもうどうしようもない。

 既に燃えてるのだ。消火したところで黒く燃えてしまった部分をそのままにはしておけないだろう。

 どうしたって一度建て直す必要が出てくる。


 思った通りに素早い猿を仕留めるのに少々手間取りはしたけれど、ファラムが攻撃を仕掛けてからは周囲への被害もそこまででなくなった。

 運が良かった、と言えるかはわからないが、魔物が一匹だけだったのも被害がそこまで大きくならなかった事の原因だろう。もしこれでもっと複数いたのなら、今頃町全体がとっくに燃え盛って全てが火の海に沈んでいたに違いないのだから。



 町の被害は結局のところ、半分、とまではいかず四割程度で済んだ。

 町全部じゃないだけマシとはいえ、被害に遭った家は良かった、で済むはずもない。

 燃えた家はともあれ一度建て直す必要があるし、その間の仮の住居も必要になる。

 ファラムの家はお屋敷であって多少なりとも部屋の数に余裕はあるけれど、しかし被害にあった全員を受け入れる程の部屋の余裕はなかった。


 結局のところ、お隣の町や村に親せきがいる者たちは一時的にそちらで寝泊まりをする事が決まって、あとわずかに残った者たちも同じように他の家のご近所さんが面倒を見る形になった。

 お屋敷が開放されなかったのは、町の人たちの話し合いによる結果だ。


 命が無事であったとしても、家が駄目になって中の物も全部じゃなくたって駄目になっている物があるのは言うまでもない事なので。

 もしそこで自棄を起こしてお屋敷で金目の物を奪って新しい土地へ、なんてやらかす奴がいないとは思いたいが、それでもこういった状況だ。

 万が一を考えての事だった。


 そういった疑いを持ちたくはないが、万一そうなった場合の事を考えるなら最初からお屋敷を開放しない方がマシだという結論に至ったらしい。


 疑うつもりはなくとも、もしそういった人物が一人、もしくは複数名出てしまったら、色々と裏切られた気持ちになるだろうし、町の人たちの意見はファラムとしてもわからないでもなかったので。

 無理にうちの空き部屋を、とはならなかったのである。


 ただ、結果として燃えた家の中からある程度無事だった家具や荷物を運び出した後の一時的な保管場所としてお屋敷の空き部屋を開放する事にはなった。

 冒険者やファラムのようにリングを所持している者ばかりならそういう必要もないが、町の住人全員がそうというわけでもなかったので。

 荷物を必要な時に運び出すだけなら、不必要に屋敷の中をうろうろする事もない。荷物を置く部屋もカギをかけてしまえば、他の誰かが……という心配もほぼ無い。家の中に一時的に人を招き入れるのであれば、トイレや風呂といった場に移動したりもするので屋敷の中をあちこち歩きまわられる事は当たり前だが、荷物であれば部屋に置くだけだ。部屋の鍵をかけてさえしまえば、他の誰かが……という事もほぼない。


 四六時中使用人が世話をするわけにはいかないが、荷物だけであるのなら。

 鍵をかけてある部屋で保管し、運び出す時には使用人が立ち会えばいい。


 ――というのも、ある程度町の人たちの提案だった。当初はファラムの父が部屋を貸し出そうかと言い出したものの、流石に色々と気後れした結果でもある。

 自分たちが悪さをするつもりはないが、それでももしその中の誰かがやらかしたら……と考えたら、申し訳なさとか色々と精神的にくる、というのが町の人たちの訴えであり、結果として落としどころが荷物の一時預かり所であった。



 と、まぁ、ここまでならちょっとしたハプニングである。


 ある程度自分たちで持ち出せる荷物はさておき、どうしたって持ち運ぶには向かない物だけお屋敷で預かってもらって、各々がやるべき事に取り掛かっていく。


 魔物をどうにか倒したファラムもまた、何でこんなことになったのかを確認するべく自宅へと戻った。


 そこでどうにか一段落した父も戻ってきて、話し合って。



 とんだ里帰りになってしまいましたわ……なんて思った矢先。


 しれっとファラムの家に、リィトが現れたのである。

 完全に油断していたファラムが飲もうとしたばかりの紅茶を吹き出したのは不可抗力であった。

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