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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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有効活用はまだ先の話



 イルミナは恐らく知らないだろうな、とジークは思ったが、まぁ別にわざわざ言う程のものでもないなとも思い直したので結局それを伝える事はなかった。

 妖精たちはしばらくの間貸してやると言っていた。


 そのしばらく、が果たしてどれだけの期間であるかをイルミナは確認しなかった。

 聞けば、恐らくイルミナにとってあの妖精たちへの認識が変わっただろうとは思う。


 ジークはドラゴンであるが故に、魔力が関わるものに関して、周囲と比べればそれなりに詳しい。

 それは知識という意味もあるが、長年の経験というのもあっての事だ。


 あの時妖精たちがイルミナの手のひらへ自らの手を打ち付けた、あの瞬間。


 イルミナにしてみれば何の予測もないままに痛い目に遭わされたという認識だろうけれど、実際そうではない事も確かである。


 あの瞬間、妖精たちは自分たちが使う悪戯魔法の一つをイルミナに貸した。

 手から手へ、まるで道具を手渡すような感じで。

 イルミナの手のひらに叩きつけられたそれは、決して目に見えるものではないけれど、だがジークはそれを見て、こいつらは一体何を想定したんだと聞きたくなった。


 イルミナからすれば、精々今度の交流会が終わるまでの間貸してくれるくらいの認識だったのだろう。

 とんでもない。


 妖精たちの手から渡された魔力の痕跡。

 一つ一つは小さなもので、多少魔法に詳しい者が見たとしてもそこまでわからないかもしれないが。


 年単位。

 下手をすれば数十年はイルミナにその魔法を貸し出している状態なのだ。


 これは、破格の扱いと言える。


 そこらの人間に妖精はそんな事をしない。

 貸したとしても精々回数制限されているだろう。一度きりだとか、三回までだとか。

 それを、よりにもよって数十年。

 ある意味使い放題と言ってもいい。


 イルミナの寿命はそれよりももっと長く生きるだろうとは思うけれど、だが悪戯魔法が使えなくなる頃には彼女の魔法や魔術だってもうちょっとはマシになっているはずで。

 きっとその頃にはもう悪戯魔法を使う事もないだろう、とジークも思う。

 学習能力も向上心も何もないままならどうなっているかはわからないが、少なくともやる気はある娘だ。

 歩みの速度が遅かろうとも、成長はする。


 それを見越して、妖精たちはその上で悪戯魔法の世話にならないだろう年数分、悪戯魔法を貸し出したのである。


(知らないというのは恐ろしいものだな)


 などと声に出さずにジークは思った。

 教えてやれよ、とウェズンあたりなら突っ込んだかもしれないが、生憎この場にいないのでその突っ込みが実際にされる事はない。


 妖精たちの態度と、イルミナの反応からなんとなく両者の間柄は良好とはいえないのだとはジークでも察せられた。だが、妖精たちのあの態度は妖精なりの好意だったのだろう。妖精は基本的に素直そうに見えてどいつもこいつも捻くれてるし無邪気そうに見えて単なる性悪なのが多いので。


 ジークがそんな風に妖精たちを思っていると知れば妖精たちも風評被害だ! と反論したかもしれないが、困った事にジークが過去に関わった妖精がそういった連中ばかりだったので、一度や二度の反論で意見が翻る事はない。


 ともあれ、あの捻くれて素直にお喋りできない系フェアリーどもは今まで酷いことを言った件を謝罪する気はないが、それでもそれなりの歩み寄りを見せようとしたようではある。

 イルミナがそれに気づくのは、恐らくもっとずっと先の話だろうけれど。


(多分そうなったとしても仲良くはならんだろうな。精々悪友どまりか)


 他人事のようにそう判断して、ジークは貸し出された悪戯魔法をいくつか試してみる、と現在絶賛チャレンジ中のイルミナを見た。


 他にこの魔法を有効活用できそうな相手に相談しようにも、現在どいつもこいつも出払っている。

 それもあって、ジークは仕方なしに付き合わされているのが現状である。


 そしてそのイルミナはというと。


「使いこなせる気がまるでしない……!」


 と、これまた見事に打ちひしがれていたのである。


 まぁ確かに突然落とし穴を作る魔法あたりならまだしも、物の位置をちょっとだけずらす魔法とか対象者の肩をぽんと叩く魔法とか、相手がいないと使い処のないような魔法が多い。

 落とし穴に関しては小さなものから大きなものまでそれなりに使えるようだけれど、だが果たしてそれをいざ実戦に用いるとなったとして、どこまで役に立つかという話だ。


 落とし穴ゾーンを作って歩くたびに足が埋まるとか、腰まで埋まるとか、深さもマチマチ、という感じでやったとしてもだ。

 そんなもの、最悪空中を浮遊する魔法を使えば回避できてしまうわけで。


 最初の一度や二度くらいは誰かが引っかかったとしても、その後は恐らく無理だろう。



 ドラゴンの姿の時のジークなら流石にそんな小さな穴に埋まる事はないけれど、こうして今のような人型の時であればどうだろうか、と考えて。


 一つ目にはまった時点で、周辺の地面吹っ飛ばすなという結論に至る。そうして周辺を更地にしてしまえばもっと深く作られた落とし穴以外はなかった事になるだろうし。


 何度も引っかかる間抜けは、そもそもそこに落とし穴が沢山あるはずがないと考える者くらいだろう。



 イルミナが使いこなせる気がしないと嘆いている原因は、それだけではないのだが。

 何せ悪戯である。

 悪戯というのは自分が誰かにするかされるか、というものなので、相手が誰もいない状態でできるわけもない。

 自分で自分に仕掛ける悪戯など、それこそ仕掛けた後で記憶を一時的に忘却する魔法薬でも飲まなきゃ引っかかるのは難しいし、かといってわざわざそんな事をしてまでやる奴はいない。


 なので現在イルミナはジークに向けて悪戯魔法を試しているわけだが。


 まぁ、通用するはずがないので。


 これっぽっちも何一つとして通用しない相手で試しているから余計に使いこなせる気がしていないというのもあった。


 それだけではない。


 イルミナはそもそも魔女の家に生まれ、そうして育てられた。


 そしてそこはジークのお察しの通り、人里からやや離れた所でもあった。


 つまり、だ。


 他人に悪戯を仕掛ける、という行為をイルミナは明らかに慣れていない。

 近くに同年代の子がいて、そうして一緒に遊んだり悪ふざけをしたり喧嘩をして仲直りをしたり、というような事がほぼなかったとみて間違いない。


 そうやって周囲との関わりが希薄であったが故に、今更悪戯を仕掛けてみろ、と言われても何をどうしていいのかわからないのだ。

 仮に実行してみても、なんというか躊躇いがある。


 確かに落とし穴なんて、一歩間違ったら大怪我をすることもありえるので、その気持ちはわからないでもないのだが、ジークからしてみればその程度の悪戯に一体だれが引っかかるのかという話である。


 そりゃあ妖精たちもお前に罠魔法とか千年早いとか言うわけだ、ととても納得した。


 同年代の友人たちと幼い頃に遊んだ記憶がなかろうとも、だからといって誰とも関わらなかったわけではないのだろう事はジークにもわかる。

 一応最低限の礼儀は弁えているし、そういうものは事前に教えられたからといっても、教えられただけでできるものではないから。


 魔術の具体的なイメージも壊滅的であったという話からして、イルミナに足りていないのは間違いなく遊び心とかそういうやつだ。

 だがしかし、それをジークが言ったところで、ジークがイルミナに遊び心を伝授しろ、と言われても無理だ。


 なんというか、規模が異なるので。


 今はさておき、ドラゴンとして活動していた頃のノリでジークが遊び心満載で何かを仕出かすと、大体何らかの種族が滅亡したりその一歩手前に陥ったりもしていたので。

 そのノリでイルミナに教えたら、間違いなく彼女はもっと委縮して罠魔法はおろか悪戯魔法すら使いこなせなくなるかもしれなかった。



 なのでジークはイルミナの悪戯魔法の餌食に――まぁ一切ノーダメージなのだが――なりつつ、イルミナに悪戯魔法を使いこなせる気がしないと嘆かせているのである。


 とりあえず誰かクラスメイトが戻ってくれば、そっちに押し付けよう。

 まだそっちの方が望みがある。

 こういうのは適材適所なのだ。


 とはいえ、戻ってきてもすぐに別の場所に移動する者もいるので、押し付けるにしてもタイミングが重要である。


 モノリスフィアを確認すれば、クラスのグループトーク部分でそれぞれがさらっとではあるが状況を報告していたりするので、近々誰が戻ってくるか、とかそういうのは予想がつくのだが……


 ギネン鉱石を入手したらしきウェズン達は、ついでにちょっと近くの別の場所で他に何か使えそうな素材を探してから戻るとあったし、他の材料を調達に出かけた者たちも似たような感じだった。

 すんなり入手して戻ってくるかと思いきや、ついでに周辺探索して他にも何か見つけてきます、というのが多い。

 逆に入手できるかと思った素材が思っていたより数がなかった事で、もう少し数を調達するのに時間がかかりそう、という報告もあった。


 魔法罠に関して詳しそうな相手をあたってみる、と言っていた生徒からはあまり報告があがっていない。

 恐らくはロクな収穫がなかったか、まだ話を聞いている真っ最中か、使えない情報であってもせめて何かに応用できないかとあれこれ試行錯誤しているのだろう。

 であれば、報告しようにも成果も何もないのでできない、というところだろうか。


 まぁ、まだ情報も集まりきっていないし、罠の作り方もふわふわしたままだし、あと数日は好きにさせておいても問題はないだろう。

 いい加減戻ってこい、と連絡を入れる事になる前には戻ってきてもらいたいものだが。



 ――さて、そんな中、次に学園に戻って来たのは魔法罠に関してちょっと調べてくると言っていたファラムである。


 学園に戻ってきたものの、しかしクラスメイトたちのほとんどはまだ戻ってきていないし、学園にいても図書室にこもってあれこれ調べものをしていたりするので顔を合わせようとするなら、意識して相手を探さなければならない。調べものに没頭している場合モノリスフィアの連絡も気付かない事があるので。


 戻ってきたファラムの表情は決して明るいとはいえず、あぁ、ロクな手がかりもなかったんだな、とジークじゃなくてもわかるくらいであった。


 イルミナの方も成果ゼロ、というわけではないが、得られたのは妖精からの悪戯魔法なのでこれを成果と言っていいかは謎である。

 そしてファラムの浮かない表情。


 なんか面倒な事になりそうだな、と思いつつも。


 困った事に学園に戻ってきた直後にテラにしばらくの間頼むと言われてしまったのもあって。

 面倒ではあるけれど、放置しようにもできない状況だったのである。


 だからこそ、ジークは仕方なしにファラムに向けて声をかけた。


「成果がなさそうなのは顔を見てわかるのだが……何かあったのか?」


 成果がないだけでここまで落ち込んだりはしないだろう。

 そう思っての事だ。

 ファラムは確かに真面目と評していい生徒であるので、成果がないだけでも落ち込んでこんな風になるのかもしれないが、しかしそこまで精神的に弱い者でもなかったはずだ。

 だからこそ、他に何かあったのだろうと思って問いかけたのだが。


「何か、えぇ、何かあったといえばそうですわね。

 ちょっと、故郷が炎上しておりまして」


「炎上」

「えぇ、燃え盛っておりましたの」



 まぁジークだってドラゴンだった頃、やらかした事はあるけれど。


 こうやって聞かされると、正直どういう反応をするべきなのか。


 長い年月を生きてきてもわからない事ってあるものなのだなぁ……なんて、どこか現実逃避気味に思ったのだった。

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