使い道はわからないけれど
魔法罠に関して知りたかっただけだったのに、魔女が使うのは魔法罠ではなく罠魔法で、魔法罠の作り方なぞ詳しくもない、と言われてしまったために。
そういう意味では収穫はゼロ。
けれども、何故だか妖精たちから悪戯魔法を複数レンタルされた。
――というのをウェズンが聞けば何そのお伽噺にありそうな展開、と言い出しそうではあるものの。
イルミナはそういったものに詳しくないので、特にそう思う事もなく。
「いやでも、悪戯でしょ? 本当に役に立つのかしらこれ……」
何があるでもない自分の手のひらを見つめて、そう呟く。
妖精たちとはとっくにお別れしてきた。
使い方を細かく聞くべきだったのかもしれないが、あいつらやる事と言う事済んだらさっさと森の奥に引っ込んだのだ。
方々散り散りになって飛んで行ったので、誰を追いかけるだとか思う間もなく。
「あ、めんどくさっ」
となってしまったのだ。
というか、追いかけたらむしろそこで悪戯魔法実戦形式、みたいな事になるんじゃないかとも思ったのだが。
悪戯する事に関して圧倒的に有利なのは妖精たちだ。
相手が有利なフィールドに突っ込んでいこうと思う程イルミナはやる気に満ちていなかった。
魔女として経験を積むつもりはあるけれど、一方的に貸し出された悪戯魔法を妖精たち相手に使ったとして、果たして効果が実感できるかは定かではない。
あいつらが貸した魔法だ。
何を貸したかを把握している相手。手の内を晒す前から知ってる相手。
そんなの相手に、効果を実感しろと言われても……という話である。
手のひらに何らかの証が浮かぶだとかそういった事はないけれど。
それでも、なんとなくどういった魔法が与えられたのかを感じ取る事はできた。
「妖精たちの悪戯魔法か、まぁ、使い方次第ではそこそこといったところだろうな」
イルミナの呟きにジークがそう言うも、
「それって慰め? 貸してやるよってすっごく自信満々で言われたけど、でもなんていうか正直役に立つ気がまるでしないんだけど……」
落とし穴を作る魔法とか。
悪戯魔法としてわざわざそんなもの作らなくても、土属性の魔法や魔術で地面に穴を開けるのなんて簡単にできるというのに。
同じところを延々ぐるぐる回っているように錯覚させる迷子にする魔法とか。
これだって、幻惑系の魔法や魔術でできるものだ。
あえて『悪戯魔法』というカテゴリにしてまでやる必要はあるのか? とイルミナはとても疑問に思っている。
だって本当に悪戯でしかないのだ。
ナイフとフォークの位置をすり替える魔法とか。
妖精たちの前で思い切り「しょっっっっっっっっっぼ!!」とか叫ばなかっただけ自重したと思いたい。
あんな連続で手のひら叩きつけられて結構な勢いで痛い思いをしたというのに、貸してくれた魔法とやらがとてもこう……微妙なのである。
交流会で、学院の生徒たちに仕掛けるにしても、これ、ホントに使えるの? 大丈夫? むしろ使う機会なくない……? と思えるものしかない。
「甘く見るな、妖精たちの悪戯に関する能力は馬鹿みたいに高いぞ。お前がしょぼすぎて半笑いしかできない、とか思っているようなものであっても使い方次第で本気で厄介なものになるのは確かだ。
悪戯に関してはあいつらの発想が突拍子もなさすぎるからな。
しょぼい、使い道がない、そう思っているのはつまりお前にそういった柔軟な発想がないからだ。
魔法や魔術に関しての想像力も欠落しているなら、余計そう思うのだろうよ」
「ぐっ……ぬぅ……」
確かに魔術の明確なイメージができなくて、ちゃんとした属性をもった術が発動できなかったのも事実なのでそこは言い返せない。
でも最近はようやっと形になってきているのだ。人並以下が人並みレベル程度には。
学園に入る前は何をどう頑張っても上手くいかなかったのに、学園に来て一年ちょっとでそれだけレベルアップできたのだから、それをそこまでボロクソに言われるとそれはそれで……という気持ちでイルミナは反論しようとしたものの。
悔しいことに言い返せなかったのである。
だって確かにしょぼくて使い道あるの? これ。
と思ってしまったので。
他に何かいい使い道なんてあるのかしら? と考えてもわからないままだし。
「自力でどうにかしろと言っても、そう簡単に思い浮かぶはずもないなら、他に意見を求めればいい」
「って言われても……」
この悪戯魔法とやらをいかに有効活用できそうな人物、と言われてもイルミナにはピンとこない。
「知者を頼ろうとするな。そもそも悪戯なのだから、そういうのが得意な相手を頼れ」
妖精以外でな、と付け加えられたが、今更引き返して妖精たちにどうやって使えばいい? と聞くつもりはイルミナにだってない。
知者、という点でジークはイルミナ以上に色んな知識や知恵を持っているのは確かだけど、遠回しに自分を頼るなと言われてしまったのでジークに問うのはできそうにない。
そもそも、ジークはドラゴンだ。
圧倒的強者である存在であり、悪戯なんぞというちんけな行いをするくらいなら、目の前の邪魔な存在はその圧倒的な力でねじ伏せてしまえばいいだけの話であって。
そう考えると、悪戯を仕掛けるという点に関してジークはあまり得意ではないのかもしれない。
嫌がらせに関してはそれなりに得意そうではあるんだけどな……とは思うものの。
何というか罠にはめるという意味で凄く得意そうではあるんだけども。
けど自分に聞くなよと暗に言われてしまえば。
他を頼るしかない。
えーっと、他に誰かいたかしら、とイルミナは自分の身近で悪戯に関して右に出る者はいないと言えるだろう相手を思い浮かべてみる。
レイはどうだろう。
真っ先に思いついたのは彼だったが、しかし彼は盗賊だとか海賊として罠に関してそこそこ詳しくはあれど、悪戯が得意か、と言われると何となく違う気がした。
レイを思い浮かべた時点で連動してウィルの事も思い浮かんだけれど、この二人は確かに昔、友人として一緒に遊びまわった事もあるようだけど、でも悪戯を仕掛ける事があったとしても恐らく常識の範囲内なのではないかとも思えた。
それというのも学園での二人の様子を見ての事だ。
昔は多少やんちゃだったとしても、今、この妖精たちから貸し出された悪戯魔法を駆使して使いこなせる程の悪戯マスターとして頼れるかは微妙な気がする。
何故って、あの二人もなんだかんだそういった小手先の技に頼らず己の実力でどうにかしそうなので。
ウィルを思い出した次に浮かんだのは、元学院繋がりでファラムとアレスだがこちらも悪戯に関して得意か? となるとそうではないような気がした。
それよりもどちらかと言えば、学院にいた時の話からワイアットとかそういう人に対する嫌がらせとか超絶得意そうだから妖精の悪戯魔法も使いこなせる気しかしない。
けれども本人に話を、とはいかないだろう。
敵対している相手だ。今回交流会に参加しないという話は聞いているが、だからといってアドバイスを……というのは無理がありすぎる。
そもそもイルミナはワイアットとそこまで関わりがあるわけでもない。あくまでも話を聞いてお噂はかねがね……とか言える程度だ。
アクアやハイネ、ルシア、ヴァン……とクラスメイト達の事を思い浮かべるもやはり何かが違う。
そうして最後に浮かんだのは、魔術の師匠的立場になったウェズンとその妹のイアだった。
ウェズンは悪戯を仕掛けるという事をあまりしそうに見えないが、しかし時々どうしてそんな発想を? というような事がある。もしかしなくても、悪戯を仕掛けるとなればとても凄い事になってしまうのではないか……? と思える。
イアも、学園でそういった悪戯を仕掛けるようなタイプではないけれど。
けれど、なんというかやろうと思えば無自覚にえぐい事ができそうな気が凄くするのだ。根拠らしいものはないけれど、この勘ともいうべきものは間違っていないような気がする。
頼りにできそうな相手を思い浮かべた事で、イルミナの心も決まる。
とはいえ、ウェズンはギネン鉱石とやらを確保しに行っているし、イアもまた魔法罠に関してイルミナ同様心当たりがありそうな相手とやらを訪ねる事にしたらしいので、今すぐ学園に戻ったとしてもまだ二人はいないだろう。
となると……
「わかったわ、学園に戻りましょうか」
「そうか」
「えぇ、戻ったら、ちょっとこの魔法試したいから付き合ってね」
「何故そうなる」
「居合わせたのが運の尽きよ。ウェズンが戻ってくるまでの間、よろしくね」
ジークとしては付き合う義理などないのだが、居合わせたのが運の尽きとまで言われてしまえば逃げるわけにもいかない気がしてくる。
こいつ、一応母親の姿してる相手にそういうの仕掛けるの躊躇わなくなってる程度には割り切ってるのか……とジークが学園に来たばかりの頃と比べると大分吹っ切れてる事に関しては、ともかくとして。
面倒ごとにこれ以上巻き込まれたくないジークとしては、正直そこまで面倒見たいとも思わないのだが、でも臨時教師でしょ、とか言われてしまえば全力でお断りするわけにもいかない。
「仕方ないな、少しだけだぞ」
なので、まぁ。
しぶしぶ。
本当にしぶしぶではあるが、もう少しだけ付き合う事になりそうなのである。




