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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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苦手分野



 気まずい瞬間というのは多々あるとは思うけれど。


 人生でもトップクラスに入る勢いで今、とても気まずいとイルミナは思っていた。


 現在地、自宅。

 同行者、ジークフォウン。


 お分かりいただけるだろうか?


 一見すると親子で自宅に帰ってきたかのように思えるけれど、実際は異なる。


 母の姿をした別人格。母の魂を消滅に追いやった張本人。

 そしてその本性はドラゴンである。


 直接母を手にかける事を避けたかったが、その結果母の魂は消滅した。いっそ自分の手で殺すべきだったのだ、と後から言われたところで、それでもきっと何度だってイルミナはその選択肢だけは間違い続けただろう。どうしたって自分の手で母を殺す事はできなかった。


 だが、母を殺した敵討ちをしようにも、相手が相手だ。

 今のイルミナには勝ち目がない。

 そうでなくとも、外側は母の姿のままなのだ。


 結局のところ、中身がどうであろうと母なのだ。イルミナにとっては。

 そんなの殺せるはずがないじゃない……! と開き直ってみっともなく泣き喚く事すら必要に応じてやるだろうなとイルミナは思っている。

 まぁ、中身がジークだというので、殺すまではできずとも、何かこう、一発ぶん殴るくらいは抵抗なくできるのだが。というかそれくらいはできなかったら授業での戦闘訓練でこっちが死ぬ。


 ギリギリでトドメを刺せるかどうかの瀬戸際で躊躇う事はあったとしても、そうじゃないうちなら普通に攻撃を仕掛けるくらいはできるようになったのだ。成長と言っていいかは謎。



 ともあれ、イルミナは外側お母さんと一緒に実家に帰って来たのである。


 そして現在向かいにいるのは祖母だ。


 イルミナが自宅に戻って来たのは魔法罠について知るためだ。

 祖母は魔女だし、そういうの詳しいだろうなと思ったので。

 祖母はイルミナが魔女になる事を望んでいないようだけど、それでもイルミナは魔女を目指し学園にだって行った。母が残した魔女の試練も一つは終わらせて、もう一つは……ジークがいる時点でお察しだが、それでも、どれだけ歩みが遅かろうとも一歩ずつ前へ進んではいるのだ。


 今のイルミナは祖母から見て魔女とは到底呼べないだろうとわかっている。

 それでも、いつか。

 もし祖母の寿命がやってきた後であっても。

 いつか、きっと。

 イルミナは魔女になるのだ。それだけは、諦めるつもりはなかった。


 事情を聞いて、祖母は溜息を吐いた。

 深い、それはもう深~~~~い溜息である。


 かつて才能もなんもねぇ、と判断されたイルミナがそれでも魔女を目指すとのたまった日にも溜息は吐かれたけれど。

 あの時と比べて更に深い溜息だった。



 なんでジークが同伴しているかというと、正直そこまでの理由はない。

 ただ、祖母の家に戻ったとして、魔女の試練について問われた時、素直に答えたとして果たしてどこまで信用されるだろうか……? とイルミナが疑問に思って、ちょっとジークに話をしたのが原因である。


 ジークとて今の自分の姿が本来の自分のものではなく、イルミナの母であった魔女の身体であるという自覚はある。中身までイルミナの母親代わりをしてやろうとはこれっぽっちも思っていないが、まぁそれでも無関係でもなく、若干の当事者、くらいの認識はあったので。


 こうしてわざわざイルミナと共に、この身体の持ち主の実家へと立ち寄る事を受け入れたのだ。

 イルミナがウェズンとそこそこの仲であるというのも理由の一つだ。そうじゃなかったら適当な理由をでっちあげて行動を共にすることなど断っていたかもしれない。

 一応イルミナに親切に対応する事で、ウェズンの中のジークの評価がちょっと上を向けばいいかな、くらいの算段だった。全く信用されていないわけではないが、それでもまだ若干の警戒心があるなとは思っているので。


「魔法罠と魔女が使う魔法の罠は別物だよ馬鹿孫娘」


 深い溜息の理由が見た目は母だが中身が別である事、だとかそっちかと思いきやどうやらこっちが主な理由だったらしい。


「オリジナル魔法と言っても過言じゃない。魔法は本来精霊の力を借りて使えるようになるものだけど、魔女はそれを自在にカスタマイズできたりもするからね」


 その魔女の魔法で作られた罠を見て、他の種族があれを再現できないだろうか、と考えた結果魔法の道具で似たような物が作られたりする事はあった、とも言われて。

 そこまでは知らなかったイルミナはぽかんとした表情を隠す事なく浮かべてしまったのである。


「つまりそれって……」

「精霊と新たに契約して罠を作る魔法に協力してもらえれば可能だけど……アンタそれができるのかい?」


 スパッと切れ味よく返されて、イルミナはむぐぅと口を噤んだ。


 魔法に関してはともかく魔術がちょっと前まで色んな意味でアレ、としか言えなかったので、魔法契約はできたとしても果たしてでは罠魔法を上手く使いこなせるのか、となるととても自信がなかったのである。

 ある意味で己の実力を理解していると言えるが、つまりこうして祖母のところに話を聞きにきても成果らしいものはゼロ、という事になってしまう。


 他の生徒がそういった契約を結べば……と思ったけれど、祖母はそれも難しいと思うけどねぇ、とまるでイルミナの心の中を読んだみたいに切って捨てた。

 アンタならわかるだろ? とジークに目を向けて言う祖母に、ジークもまた「あぁ、そういえばそうだったな」と何かを思い出したみたいな感じで返すものだから。


「それってどういう……?」


 イルミナとしては気まずさを覚えつつも問うしかなかったのだ。


「魔法罠をマジックアイテムとして消費するだけなら基本使い捨てだから、そう乱用はされない。

 それなりに高価な代物でもあるからな、本当に必要として使うやつのが多いわけだ。

 金持ちの道楽で仕掛けるにしても、仕掛けた場所によってはその仕掛けた奴が罪に問われる」


 普通の罠ならば、例えば害獣相手に、とかで設置されるのはわかるけれど、金持ちの道楽で仕掛けた場合その被害は害獣で済まず下手をすれば何の罪もない一般市民になる事もある。

 魔法罠の効果がみたい、とかいう理由で下々の命など知ったことかと思い上がった一部がやらかしたという話はどの大陸でも存在していた。


 けれども魔法罠は普通の罠と異なり威力がありすぎる物が多く。

 故にやりすぎれば、周辺住民がこいつのせいで次は自分が犠牲にさせられるかもしれない……という恐怖に駆られ、最終的にこいつを殺せ! みたいになる場合もあるのだ。

 実際過去にそういった案件が複数存在している。


 人というのは学ばないものだな……と呆れたように言うジークではあるが、まぁそれはさておき。


「人というのは愚かで同じ過ちを複数世代にわたって何度も繰り返すどうしようもない生き物だが。

 その失敗を糧に前に進む事もできる種族である。

 昔ほどではないが、今でもまだ人間だと言われている者の中には、かつての人間のような柔軟な発想でもってとんでもない事を成し遂げる者もいるわけだ。

 長寿種族だと考えもつかないような突飛な事を仕出かす。それが良い方に転がるか悪い方へ進むかはその時次第だが……人間相手に魔法罠契約を結ぶととんでもなく凶悪極まりない代物が生まれる事が多くてな。

 それ故に精霊たちもこれはちょっと……と問題視するようになり、最終的に自分の身を守る事に使いがちな魔女のみとそれらの契約を結ぶようになった、という話だ」


「魔女だって柔軟な発想で何かこう、凄い罠作るかもしれないじゃない!」

「まぁそうなんだが。ただ、多くの魔女は基本的に積極的にその罠を使って人を大量虐殺しようとはしないから、目こぼしされている部分がある。実際隠遁生活を送っているような魔女など、侵入者相手にしか使わないしな。

 あえて人の多い所でいきなり罠魔法使って大量虐殺、なんて仕出かそうと考える魔女がそもそもいなかった」


「まぁそれは……そう、かも?」


 たとえ何らかの事情があってあの町に住む人間どもを根絶やしにしてやるッ!!


 みたいな復讐心に燃えるような展開に見舞われたとしてもだ。


 その場合普通に攻撃魔法や魔術を用いる気しかしない。

 そっちの方が手っ取り早いし確実なので。


 どこぞの権力者相手に攻撃を仕掛けるのであれば、最大火力で反撃も回避もできないような状況を狙って一発で仕留めるべきだろう。

 それも難しいなら罠魔法に頼る可能性もあるけれど、なんというか効率的な手段とは言い難い。


 そもそも魔女が権力者に喧嘩売るとか復讐するような状況がそう簡単にあるのか? という話になってしまうのだが。



「どのみち運よく契約したとしてもアンタに使いこなせるとは到底思えないね」


 祖母にズバッと言われて、イルミナは反論できなかった。

 最近は魔術でもきちんとした属性が扱えるようになってきたとはいえ、それでも咄嗟の状況だと未だにどろっとした闇みたいなのが出る事もあるのだ。

 罠魔法は己の想像力でこういう罠を、と一から作り上げなければならないというのであれば。

 ある意味で、イルミナとの相性は最悪である。



「それなら……いっそお前は始まりの場所へ行った方がまだマシだろうさ」

「始まりの場所……」


 イルミナがその言葉を繰り返せば、祖母はふんと鼻を鳴らして「それ以上は自分でどうにかしな」としか言わなかった。


 始まりの場所、と言われても。



 それが何を意味しているのかもわかっていないイルミナに、これ以上のヒントはないらしい。

 一体何の事なのだろう、と思いつつ困ったようにジークを見て。


「あ」


 確かに始まりと言えばそうだけど、でもどうして今になってそこへ? という思いがあった。

 とはいえ、祖母も無駄足を踏ませにいかせるために言い出したわけではないはずなので。


「わかった。行ってみる」


 イルミナはとても前向きな気持ちでもってそう答えた。

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