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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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なんのフラグが立ったのか誰か教えてほしい



 鉱山に行ったところでギネン鉱石を加工しなければ意味がない。

 というわけで、鉱山よりも既に採掘したギネン鉱石を加工して使える状態にしてある工場へ行く事になったのだが。


 採掘してる男たちの誰も彼もが筋骨隆々すぎて、ウェズンは思わず圧倒されるように口を開けて眺めていた。


 うわー、腕とか丸太みたいにぶっとい。

 てか、体幹凄くないか? え、トロッコに積まれてきた鉱石袋に詰めて抱えあげてるけど、あれ一体何キロあるんだ……? 身体強化の魔法とか使ってるわけじゃないみたいだし……何、ここの人たち前世の自分が住んでた世界だったら全員一流のアスリートとか目じゃないぜ的な肉体してるんだけど……?

 というか生身で猛獣と戦っても勝てそう。


 と、ある意味で現実逃避みたいな事を思いながらも、足だけは動かす。

 そうしてヴァンが入り口にいた人に要件を伝えて中に入れば。


 そこには、仮面をつけた道化がいた。


「えっ」


 いやあの、さっきまで筋骨隆々なおじさんたちが働く姿を見てたけど、えっ、この道化師みたいなのは何? ここのマスコット……?


 と、絶対違うだろう事を考えて。


 えっ、あの、何?

 と困惑しつつヴァンへ視線を向ける。


 正直、直接相手に尋ねる度胸はなかったのである。

 自己紹介がてら聞けば答えてくれるかもしれない。


 けれども、そもそもここがサーカスならまだしも、ギネン鉱石を加工する工場だ。

 まず仮面をして顔もわからない道化がいる、という事態がおかしい。

 あまりに不審すぎて、声をかけるのが憚られた。

 声をかけた瞬間噛みついてくる、とまでは思わないけれど、でもなんというか関わったらダメな気がしたのだ。


「やあやあ元気そうでなによりだよヴァン」

「教授も元気そうですね。お久しぶりです」


 教授。


 さっきヴァンが言ってた相手。


 ここに来る手前の森に植物栄養剤改良したの試してみるとかで馬鹿みたいに巨大な森にしちゃった張本人。


 脳内にそういった情報は浮かぶのだけれど、ウェズンは中々それをのみ込めなかった。


 あと、教授という言葉から前世の大学とかそっち系統でお目にかかったタイプを想像していたので、あまりの差にやっぱり現状をするっと受け入れられそうにない。


 ちらっと視線を移動させてルシアとハイネを見れば、二人も突然の道化に困惑しているのが見て取れる。そうだよね、それが普通の反応だよね、と内心でちょっと安堵した。


 平然としているのは教授がそういうものと理解しているヴァンとフリードリヒだけだ。


 王族二名があまりにもそれが当然であるとばかりの態度のせいで、受け入れられない自分たちがおかしいのかとも思えてくる。



 というかだ。



 教授と呼ばれてはいるけれど。


 この人、一体男女どっちなんだろう……? と疑問に思うも、聞いたところで答えてくれそうな気配がまるでしない。

 身長はそこまで高くもないが低いとも言えない。

 男女どっちでも有り得そうな身長で、声も仮面越しとはいえ高くも低くもない。

 男性ならば若干高めかもしれないが、女性ならば低めに聞こえる。どっちだ。マジでどっちなんだ……?

 ヴァンやフリードリヒとの会話の合間でそれっぽいヒントとか得られないだろうかと思って注意深く観察してみたりもしたけれど。


 何一つとしてわからなかった。


 少し前に見かけたペストマスクの不審者と同じくらい怪しいに満ちている。

 ペストマスクの不審者と異なるのは、あっちは身元がハッキリしていない最初から最後まで不審者のままだったけれど、教授は一応身分や肩書がこの国できちんと存在しているという事だ。

 社会的地位が存在しているのである。見た目あまりにも怪しいのに。


 そんな教授はウェズン達を見て、いっそ仰々しいまでのお辞儀をしてみせた。


「やぁやぁ、初めましてだね。お話はヴァン王子から聞いてるよ。

 ワタクシはまぁ、しがない研究者さ。気軽に教授と呼んでくれたまえ。

 本名は引くほど長いから、名乗ったところで誰も呼ぶ事がないんだ。ははっ」


 声は笑っているものの、表情は仮面の下なのでわかるはずもない。

 これは一体どういうテンションで返せばいいのだろう、と思い、ウェズンは結局「あ、どうも……」ととてもおとなしい反応しか返せなかった。

 流石にここでノリノリで同じテンションにはなれなかった。


「さて、それはそうと、持ってるんだろ、きみ」


 すっと教授が差し出してきた手を、握手かなと思って同じように手を出そうとすれば。

 その一瞬で教授がウェズンとの距離を詰めてきて、がっしと首筋に腕を回された。

「出したまえよ」


 そうしてウェズンの首に回していない方の手をウェズンの前に差し出す。


「出す、って何を。えっ、これカツアゲ?」

「そんなわけないだろ。ほら、出したまえよモノリスフィア」

「あ、あぁ、モノリスフィアね」


 財布じゃなかっただけ安心するべきなのだろうか、と困惑しつつも、まぁ別に悪戯されたり壊されたりはしないだろうと思ってウェズンは言われるままにモノリスフィアを取り出した。

 すると教授も自分のモノリスフィアを取り出して、さっさと連絡先の交換を済ませる。あまりにもあっという間で、今なんでモノリスフィアを出したんだっけ? と思うくらい一瞬の出来事だった。


「で、ギネン鉱石だったっけ。魔法罠に使うやつ。うんうん加工してすぐ使える状態になってるのいっぱいあるから、持ってっていいよー」


 用は済んだとばかりに教授はパッとウェズンから離れてくるりと踵を返す。

 ついてこいとばかりに歩き出したので、ウェズン達は一瞬遅れて教授の後をついていった。


 ギネン鉱石をそのまま入手できたとして、それを使えるように加工するとなれば学園の人員だけで上手くできたかは果たして不明だ。

 探せば加工できるよ? とかけろっとして言い出す者もいるかもしれないが、見つからなければ加工できる相手に依頼をしなければならない。

 交流会までにはギネン鉱石を使える状態にして更に魔法罠にしなければならないので、そう考えると最初から加工されているのをくれるというのは大助かりではあるのだが……


 けれども国にとっての財源なのではなかろうか、と思うわけで。


 えっ、いいのこれ。本当に大丈夫?

 と思いつつもウェズン達は事前に大体これくらいは確実にいる、という必要量をリングに遠慮なく突っ込んでいく。ここまできて遠慮するのもどうかと思ったからだ。

 それに、ヴァンが率先してじゃんじゃんリングの中にしまい込んでいくので、ウェズン達が遠慮するのも今更だと思ったのもある。


 それに、交流会で使うつもりの分を確保したといっても、本当に大量にあったのだ。

 あまり数がないところから必要量を確保しようとなれば、すっからかんにした可能性はある。けれども、ウェズン達が必要な分を、とせっせとしまい込んでもなお、工場で加工されてあとはすぐ使える状態になっているギネン鉱石はまだまだたっぷりと存在していた。

 そのせいで、罪悪感が薄れたとも言う。

 こんだけあるならちょっとくらい……とか魔が差す時のアレに近い。


 まぁ、魔が差して以前に許可を得てもらっているので問題はないのだが。



 道中、宰相が雇った殺し屋が襲ってきたというハプニングはあれど、それとて数が多くてちょっと面倒だったな、と思う程度で苦戦したわけでもない。

 確かに何か馬鹿みたいにでっかい木々が乱立した森の中とか、やりにくさはあったけれど、けれども正直に言うならば授業でテラが言い出す無茶振りよりは余程マシだった。


 学院の生徒との殺し合いを想定するなら、確かに不利な状況に突然陥っても慌てず騒がず対処できるように、というその考え方は間違っちゃいないのだけど、本当にあまりにも突然すぎて、むしろ学院の生徒そんな襲い方する!? となるので。


 すっかりそういうのに慣れた……とまではいかないが、それでもちょっとした襲撃程度なら「なんだ普通に襲ってきたな」で済ませられる程度にはなっていた。感謝するべきかは微妙なところである。

 そう、森の中とか殺し屋からしたら結構有利なステージであったはずなのに、ウェズン達が既にその程度の事では動揺する要素もなかったからこそ。

 結構な数が襲ってきたというのにあっさりと撃破してしまったわけなのである。



 ヴァンとフリードリヒが道中でお互いをこう、憎みあった結果殺し合いに発展する、とかそういう事にもならなかったし。

 それどころか普通にフリードリヒも襲ってきた相手をぶん殴って仕留めていたので、兄弟がお互いに「やるじゃん」みたいな雰囲気を出してすらいた。


 実力的に弟は常に兄の下である、みたいに言われていたが、フリードリヒもかなり強かった。

 本人曰く、頑丈なのが取り柄で、との事だ。

 ……ぶん殴って殺し屋の頭粉砕してたのを頑丈で済ませていいのかはとても審議したいが。



 この国に来た時点から、ここまでをゲームあたりで例えたとして。

 大きなイベントこそなかったが、ミニイベントはいくつか発生したと考えていいだろう。

 ぶっちゃけるとこの後学園に戻ったら魔法罠に関する資料とか色々と調べものもまだあるので、ここででっかいイベント始まるよー☆ とかされても困るのでむしろこの程度で済んで良かった、とウェズンは内心で胸を撫で下ろした。

 超大作RPGあたりなら、間違いなくウェズン達がこの国に来た時点で内乱とかクーデターとか起きて王位をめぐるいざこざに巻き込まれるとかあってもおかしくはなかったので。

 これから交流会もあるというのにそんなとんでも大事件に巻き込まれたらたまったものではない。



 なので、よし用事は終わったからさっさと帰ろう! と思ったウェズンに。


「メッセージ待ってるぞ」


 とか工場を出る直前で教授に言われた言葉は。


「いや何を言えと」


 思わず考える間もなく口からぽろっと言ってしまう程度には突拍子がなかったのである。

 困ったようにヴァンを見れば、

「相手してやってくれ」

 とか言うし。


 ヴァンとは親友フラグが立ったからまぁわからないでもないし、フリードリヒもヴァンの弟なので、そこ経由でとなればこれも理解はできる。

 実際、学園での兄の様子とかどうでしたか? なんて森の中でも聞かれたし。


 けれどもこの素顔もわからぬ、性別もわからぬ、名前さえわからぬ、といった誰に説明するにもとても困るような不審者と一体どんなフラグが立ってこんな事を言い出されたのかは。


 ウェズンにはさっぱりわからなかったのである。

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