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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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艱難辛苦という程でもなく



 朝食を済ませてから宿を出れば、明らかにこちらに注意を向けている気配を感じた。

 あからさまに姿を見せているわけではない。

 けれども、視線が。


 間違いなく自分たちに向けられているとわかる視線が四方八方からビシバシと感じるのだ。


 宰相が雇った殺し屋とやらは、果たしてどれだけいるというのか。


 あまり多すぎてもそれはそれで今度は報酬目当ての連中がお互いに牽制しあって身動きがとれなくなる、という可能性も考えて、少数精鋭で来る可能性を考えていたのだ。ウェズン的には。


 暗殺が目的である、と知らしめるように数を多くして実は本当の目的は別にあった、とかそういった意味での陽動も無いとは言い切れないが、しかしどう考えても今回の件に関してはそれは当てはまりそうもない。


 ともあれ、いつまでも街中でただ突っ立っているわけにもいかず、ウェズン達はヴァンの案内のもとギネン鉱石があるという場所へと向かう事になったのである。


 壁で囲まれた街を後にすれば、見える景色は荒涼とした大地だ。

 乾いた風が吹いて、なんというかいかにもな終末感すら漂っている。


 一時的に人の気配が途絶えたけれど、それも無理はない。

 身を隠せるような場所がほとんどないのだ。そこで堂々と姿を見せればさっきまでずっと見てたのは自分ですと証明するようなもので。


 それもあって、外に出た直後はまぁ平和だったと思う。

 だがしかし、それでも大分距離を開けて追跡してきたのだろう。進んでいくうちに、背後からの気配が増えていくのを感じ取った。


「もう少し先に行けば少し小さいけれど森があって、その先に鉱山がある。目的の場所はそこだ」

「って事は森のあたりで襲撃されたりする感じかな?」

「充分に身を隠して襲撃できるかって言われたら微妙な気がするけど……まぁ、その可能性は高いかな」


「えーっと、兄さん。その森なんだけど」

「なんだい弟よ」


「少し前に教授が」


 その言葉でヴァンの足がおもむろに止まった。


「は? 教授が? あいつがなんだって?」

 そしてとても嫌そうな表情を浮かべる。


「教授って?」


 話の腰を折る事になるとわかっていながらも、それでもウェズンは問いかけていた。聞くタイミングを逃せば襲撃とかでそのまま聞かないままどんどん状況が進んでいきそうな気がしたのだ。


 そんな問いかけにヴァンは表情を変える事なくこたえる。


「なんて言えばいいかな……教授は教授としか。宰相補佐とかの地位についてたとは思うんだけど他にも肩書がいくつもあって結局どれが正しい身分なのかもさっぱりなんだ。

 ただ、色々とオールマイティにできる人であるのは確かだよ。

 天才っていうか天災っていうかな人と言えばいいだろうか。悪気があってやってるわけじゃなくて、無自覚でやらかすタイプでね。

 一応、幼い頃の僕の浄化薬を作っていたのもその教授」


 通常の浄化薬よりも効果の高いやつを改良して作ってくれたのが教授であるので、ヴァンにとってはそういう意味で恩人でもある。

 ある、のだが……

 同時に彼が巻き起こしたトラブルにも色々と巻き込まれた思い出が同時によみがえってくるのでどうしたってヤな顔をしてしまうのも仕方のない事だった。


「その教授なんだけど、ちょっと前に植物の栄養剤を改良しようと思い立ったみたいで。

 作ったやつを試した結果森が……」


 まさか枯れたのか!? と思ったもののフリードリヒがそっと指さした方角へ視線を向ければ、砂も飛び交うような風に吹かれたその向こうに何やら巨大な影のようなものが見えた。

 といってもはっきりと見えるわけでもなく、それはどちらかといえば霧に覆われたその先の景色、くらいのぼんやりとした感じでしかなかったのだが。


 ウェズン達は最初、向こうに山でもあるのかな、くらいにしか思っていなかった。けれどもヴァン曰くそっちにそんな巨大な山はないと言う。

 では、あの大きな影は一体……と思いながらも進んでいけば。



 小さな森とはなんだったのか、と言いたくなるくらいに巨大な森が広がっていたのだ。

 先程までは赤茶けた砂まじりの風の向こう側でシルエットだけ、みたいな感じだったけれど近くに来てみればマジで森。誰が何と言おうと森。


 バカみたいに巨大な木がドドンと聳えているのだ。


 それは、去年交流会絡みで訪れる事になったレイとウィルにとってある意味で因縁の土地であった島で見た木よりも巨大なものだった。

 木の幹のどこかをくりぬいて中で暮らしている種族とかいるんじゃないか? と思える程度には巨大なのである。


 これね、何の木かわかる? これね、世界樹。とか冗談でも言われたらうっかり信じてしまいそうな規模の巨木がドドンと存在しているのだ。


 栄養剤を改良した結果がこれ、というのなら正直ちょっとどうかしている。

 何となくウェズンは前世で見た、ぶっちゃけこれインチキじゃねぇの? みたいな雑誌の広告を思い出していた。貧弱な坊やが何かあれこれした結果今ではすっごいマッスルに! とかいうやつだ。

 トレーニング器具なら頑張ればそうなるかもしれないが、サプリ系のもあった気がする。

 なんというか、その疑わしいなと思ってるサプリがマジで本物だった、みたいな気がしたのだ。


 少なくとも自分が知ってる植物の栄養剤じゃないな……とウェズンは思わず戦慄した。


 小さめの森って言われてたのが実際お目にかかったらコレ、となれば無理もない。


「で、この先なんだよね」

「そう」

 ヴァンもまさかこんな事になってるとは思っていなかったみたいで、今でも信じられない……みたいな目を木々へと向けている。何というか幼い頃にお別れしてしばらく会わなかった幼馴染と再会したらびっくりするくらい成長してた……とか言い出しそうな雰囲気すらあった。嘘だろお前以前は自分よりチビだったじゃん……とか言い出しそうとでも言えばいいだろうか。


 まぁ、仮にウェズンがその立場になったとしても多分同じ反応をしていたかもしれない。


 田舎だった故郷を出て数年後戻ってきたら都市開発でガラリと変わってた、とかそれくらいなら可愛いものだ。心境的には何というべきだろうか……故郷でもある田舎を出て数年後、久々に戻ってきたらそこにかつての故郷の面影はなく――かわりにスペースコロニーができていた。


 嘘やん!? と言いたくなりそうなビフォーアフター具合。

 きっと、そんな感じなのかもしれない。


「で、えぇと、この先?」

「そう。森を抜けた先に小さいけれど鉱山があってね。ま、目的地は鉱山手前の採掘した物を集めたり加工したりする方なんだけど」


 曰く、魔力を吸収する性質を持っているギネン鉱石は、確かに周辺に漂っている魔力を吸い込むが、自然の状態ならそこまで問題はない。人為的に魔力を注いだ場合、スポンジのようにぐんぐん吸収して容量を超えた途端に爆発する、という取扱注意な一面を持っている。

 実際に何らかの道具に使うのに加工するにしても、何かの拍子にポンポン爆発されてはたまったものではない。

 だからこそ、爆発しないように加工する必要が出てくるのだとか。


 浄化機とはまた違うけれど、魔法の道具には割と使われる事があるギネン鉱石は意外と世界各地に普及している。ただ、鉱石が採取できる場所は限られているので、国によっては自国で使うだけで他所に売る程はないのだとか。


 その性質を聞けば、なんとなく電池みたいなエネルギーを集めておく物なんだろうな、となるのだけれど。加工した後更に手を加える事もできるという事だし、道具の形状をそういう意味では気にせず扱う事ができるとなれば電池よりも使い勝手は良さそうというか、幅広くアレンジできそうではある。

 ただ、事前にきちんとした加工、というか下処理をしないと魔力を吸収するだけしたら爆発するので、知識のない者が扱うのは危険なのは言うまでもない。


「加工されて使い勝手がいいのは金属板みたいにされたやつかな。それをカットして道具に組み込んだり、あとは飾りみたいな感じで見た目もどうにかできるから、割と需要があるんだ」


 ヴァンの説明を聞きながらも森に足を踏み入れて。


 木々がとても邪魔だな、と思った。


 森の中を移動する事は何度もあったけれど、普通の森ならまだ木がたくさんあっても森だから、で納得できたし気にする事もなかったのだが。


 一本一本がやたらと巨大になってしまった木の幹はとても太く、場所によっては迂回しないと通れそうにない部分がある。けれども森の中は道があるわけでもないし、ましてや舗装などされていないので。

 うっかり折れて落ちたであろう枝もかなり大きいので乗り越えていくのも一苦労。一体どこのアスレチック施設だよと言いたくなるくらいには足の上げ下げが要求された。



 更には、そんな状況の中いよいよウェズン達を――というかヴァンを狙っていた宰相が手配した殺し屋らしき連中が動き出したのも移動に苦労する結果となった。


 実力的には大したことがない、と言える程度であったけれど。


 数が多い。


 ウェズンは宰相を見た覚えがないけれど、そいつ一体どれだけヴァンの事を始末したかったんだよと言いたくなるくらいにはやってくるのだ。

 一人二人くらいならまぁ、凄腕を雇ったんだろうな、と己の中で納得させたかもしれないが、ここまで大量にやってくるとむしろ殺し屋同士を競わせて賞金独り占めさせるための争いを誘発させようとしているのでは……? とか状況的に勘繰りたくもなる。報酬というか景品というか、宰相が本当に持っていたかもわからないブツが目的なのかもしれないが、宰相は既に死んでいるようだし、そのブツがどこにあるかなどウェズン達が知るわけもない。


 完全に襲われ損としか言いようがなかった。


 厄介、と言えば厄介ではあった。

 けれども宿から出た時点で「あ、見られてんな」とわかる程度には存在を認識できるような相手だ。

 これで気配も何も感じられない、とかそういう手練れが相手であればもう少し苦戦もしただろうけれど、そうではなかった。ただ数が多すぎて面倒だっただけだ。


 狙いがヴァンなのは勿論の事、ウェズンにも向いていたせいで余計に面倒さを感じただけかもしれない。


 ともあれ、森の中なら身を隠せるし襲うにはいい場所だ、とでも思ったのか早速行動に移ってくれたようだが、特に大怪我をするでもなくウェズン達は襲いに来た刺客のほとんどを倒したのである。

 正直苦戦したのはどちらかといえばそこらにある木にだろうか。思った以上に場所をとっているので木というよりは壁に塞がれているような感覚があった。木の上から攻撃を仕掛けてきた相手からすると、木がとてもしっかりしているから安定感は抜群だっただろうけれど。



 ともあれ、どうにかこうにか森を抜けたその先に――


 ちっぽけな山とその手前に、工場らしき建物がぽつんと存在していたのである。

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