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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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明かされた身分



 ヴァーンリヒ・ティル・グランゼオン。


 それが確かヴァンの本名だったはずだ。……間違っては、いないよな? とウェズンは脳内で何度か思い返してみる。何せまともな自己紹介なんて入学して早々にやっただけで、それ以来フルネームで呼ぶような事なんてなかった。

 それなのにむしろよく覚えていたなとウェズンは内心で自画自賛したくらいだ。


 何故って、正直自分の本名だって学園に入る直前に知ったようなものだったので。

 そんな自分のフルネームだってぶっちゃけてしまえば馴染みがないのに、学園に入って知り合ったばかりの他人のフルネームなんぞ、覚える余裕があったか? という話であった。


 確かに、思い返せば何となく。


 ちょっといいところのお坊ちゃんなのかな? と思うような部分はあった。

 言動が、というよりは、普段の行動の際の所作だとかが。


 たとえば昼食を一緒に、なんて時の食べる様子だとか。

 ナイフやフォークだけではない。箸までもが綺麗な使い方だった。


 かつて、色々な世界から来訪者がやってきたこの世界、それはもう色んな文化や文明が入り混じっている。ウェズンにとって馴染みのあるものだけではない、それどこの世界出身なんです? と言いたくなるようなものまでもがだ。


 とはいえ、食事に関してはどちらかといえば洋食寄りな気がしている。

 地域によっては和風がメインだとか、中華がメインなところもあるらしいし、なんだったらそれ以外の国の料理もちらほらと耳にするし食堂のメニューでも見かけるけれど、箸を使う事というのはそう多いような気がしなかった。


 実際学園の生徒が食堂で食べている光景を見た時に、箸の使い方が微妙な者もいたのだ。一人二人どころではなく。

 なので、まぁ箸というのがあったとしても、そこまで主流という感じではないのかもしれないな、とウェズンは思っていた。主流だったところ出身の者もいるだろうけれど、そうじゃないのも学園にはそれなりにいる。

 その程度で流していた。


 その中で、なんだか箸の使い方なんて教えてもらった事もありませんけど? みたいな雰囲気のヴァンがあまりにも当たり前のように箸で食事をしていた時に、随分とまぁ、綺麗な箸使いだなとは思っていたのだ。


 とはいえ、それをわざわざ話題にしようとは思わなかったけれど。


 ヴァンに限った話ではない。他の生徒だって、自分から自分の事を話す分にはいいかもしれないが、こちら側から聞くのはどうなんだろうか……? というようなのがちょくちょくいるのだ。

 聞けば答えてくれるかもしれないけれど、下手に答えにくいものを聞いてしまうととても気まずい。


 わかりやすく例えるなら、両親について、といる事を前提に話しかけたら普通に昔死んでもういないんだ……とか言われた時のような。


 ある程度の年齢になればそりゃあ親も寿命なり病気なりで死んでてもおかしくはないのかもしれないから、そこら辺になれば話題もそれとなく避けるか事前に失礼かもしれないけど、と前置くか、答えにくかったら答えなくていいとか言えるけれど、まだ生きてるだろうと思われる年齢で話題にしたら既にいませんとなれば余計気まずい。


 ウェズンだって正直な話、自分に関して聞かれたところで面白い返答はできないし、かといって親や幼い頃の話題も微妙なところ。

 大体親があの歴代最強とか言われてる魔王やってた人です、とか答えたところで、ウェズンは自分の父についてそこまで詳しく知っているわけではない。


 なんか色々と抱え込んでそうだなー、とは思っても聞いていないので。

 表面的な事を答えるだけなら問題はないが、下手に踏み込んだ質問をされたら返答にとても困る。


 自分がそうなので、下手に相手の藪を突いて自分も同じ目に遭うのは困る。

 だからこそ、というわけでもないが、割と意図的にそういった個人に関する内容の話は避けていた部分もあったかもしれない。


 だがしかし。


 思い返してみればなんというか……


 一部は確実にヴァンの身元は把握していただろう。

 教師であるテラは知っていてもおかしくはない。

 ただ、相手がどんな相手だろうと知ったことかこのクラスの生徒になった以上は俺様の生徒なんだよ、っていう態度なので相手がどんな権力を持ってようとテラにとってはそんな事より実力はあるんだろうな? となるのかもしれないが。


 そういえば、ウェズンの部屋の管理をしているナビも何気に知っているような態度だった。


 仲良くしとくといい、みたいに言われていたのを思い出す。

 まぁ、権力者を敵に回すよりは味方につけとけ、という意味なのかもしれないが、なんというか含みはあった。


 他に知ってそうな相手といっても、他の教師も知っている可能性は高いけれど、生徒の中でヴァンについて知っている人がいるかは謎だ。


 レイのように、ちょっと世間的に悪名が高いとかで知られている相手はいたとしても、そもそもそこまで大っぴらに話題として広まったりしていなければ知りようがない。

 わざわざ自分からこそこそ嗅ぎまわる真似をするつもりもないし。


「えぇえーと、もしかしてヴァンって」

「ここの王子」

「やっぱりか」

 ミドルネームがあって、ついでに家名がこの国の名前と同じであればそりゃそうなんだろうけれども。


 ミドルネームがある奴大体どっかいい家の印象。

 そういやファラムもそうだったっけ、あ、イルミナもか?

 レイに関しては二つの家名が合体した結果とか言ってた気がするので、そこは例外だろう。


 ウェズンは残念なことにこの世界でのミドルネームの意味がよくわかっていないので、もしかしたら別の意味があるのかもしれない。とはいえ、ヴァンに聞くにはちょっと今そのタイミングじゃないなと思ったのでその話題はそっと心の棚に放り投げた。


「お、王子!?」


 予想していなかったのかルシアが悲鳴じみた声を上げた。


 まぁそうだろうなとは思う。

 一年ほど同じクラスで一緒に行動してきたクラスメイトが王子でしたとか、普通予想はしないよな。

 精々ちょっといい家のお坊ちゃんくらいだよな。

 ウェズンだって一歩間違えばめっちゃ驚きました、みたいなすっとんきょうな声を出していたに違いないのだ。


 ただ、そのタイミングがことごとく消えてるだけで。


 けれども、とふとウェズンは思い返す。


 そういや少し前に魔本に事故で入った時、ヴァンに割り当てられた役は王子だった。

 その時のヴァンの反応は、どうだっただろうか。


 王子「役」という部分に含みを持っていたように思える。

 あの時は自分はそんなガラではない、という意味かとウェズンは思っていたが、しかし今思うと。


 役っていうか実際に王子なんだけどな、という意味だったのだと気づく。


 嘘だろこいつ自分の身分とか一切隠してすらいなかった……だと……!? と思うも、今それを言ったとしてどうだというのだろう。

 というか、一国の王子に親友呼ばわりされているという事実がむしろ恐ろしい。

 知らないとはいえとんでもねぇコネができてしまった。


 ナビが仲良くしておくといい、みたいに言ってたけど、精々ちょっと大商人の家の子とかそこら辺ならまだしも、王子は流石に気軽に仲良くしていい相手なのだろうかと思える。

 いかんせん馴染みがなさすぎるのだ。

 ウェズンの前世、暮らしていた国は天皇はいたけれど王族だとか貴族といったものは海外の話だった。

 大昔は貴族がいたとはいえ、パッと浮かぶのは平安時代という大昔。平成令和あたりを生きてた前世のウェズンに貴族との付き合いはなかったし、海外のそういった身分の人と知り合う機会もなかった。



「まぁ王子っていってもそこまで重要な立場でもないからさ。気軽に今まで通りで大丈夫だよ」


 さらっと言うけれど、その今までどおりが難しいのだ。

 今までは知らなかったからちょっといい家の人なんだろうな、程度で深く考えずに接していたけれど、流石にいくら今まで通りと言われても相手が王族なので下手をすればいつ不敬である、とか言って首を刎ねろとか言い出すか……いや、こっちの王族はそうじゃないのかもしれない。

 ウェズンの中の王族が大体創作物の世界の代物なので、基準がさっぱりだった。


 だって王族キャラが多すぎる。

 仲間になって一緒に世界を救う王様もいれば、世界を滅亡させようとした王族もいる。

 下手したら平民に紛れても何の違和感もない王族もいたし、オーラありすぎて離れてても何かわかる、みたいなのもいた。


 ゲームだと主人公が王子とかいうのもあったけれど主人公を操作してるのが自分であるせいで、どうにも所帯じみた感じがしてしまって、他のキャラに「王子!」とか呼ばれても何かそういうあだ名なんだな、みたいに思い始めていたくらいだ。



「今まで通り……って言われても」

「難しく考えすぎなんだよ。いいかい? 王子だろうとなんだろうと学院と戦う時はそんな肩書なんの役にも立たないんだから、気にするだけ無駄なんだよ」


 そこはそうかもしれないけれど。


 そりゃあ学院の生徒はヴァンの事など知らないだろうし。

 王族と知った上であえて殺しにくる奴もいるかもしれないが、大半はヴァンの身分なんて知らないはずだ。

 そうなれば確かに仕留めるべき学園の生徒の一人、という認識であるのは確かなのだけれど。


 でもなんか違う気がする。


 それはそれ、これはこれ、とかそういうやつではあるまいか?

 ウェズンは訝しんだ。


「まぁまぁまぁ、細かい事は気にするだけ無駄無駄。ほら行くよ。ここに来た目的は別に自分の身分を明かすためじゃない」

「わっ」


 肩を組んでた状態から腕が首に回ってぐいっと引っ張られる。

 正直とっても歩きにくい。

 ウェズンの頭が危うくヴァンの顔面にぶつかるのではないか、と思われたところで。


「他はともかくきみだけは一人別行動をしない事をお勧めするよ」


 小声でそう告げられて、なんだかとてもトラブルの予感がしたのは決して気のせいではないのだろう。

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