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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
七章 何かが蠢くその先で

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工作の下準備



「やぁイア、そっちはまだ授業中だと思うんだけど一体どうしたのかな? 誰かにはめられて冤罪でも吹っ掛けられた? それとも殺して欲しい相手でもできた?」


「初手物騒」


「ん? もしかして他にも誰かいるのかな?」


 イアのモノリスフィアから聞こえてきたワイアットの声に、というか内容に思わずウェズンは呟いていた。

 前にイアがワイアットと遭遇したのは留学生と一緒の時だった。結局イアが行動を共にしていた留学生たちは全員死んだしその中の一人はかつてのイアが暮らしていた集落出身だった。

 同郷――クイナは結局のところワイアットに利用されていたというよりは、遊ばれていたようではあったけれど。


 その時は普通にワイアットと戦ったとして勝ち目などあるとは思えない状況で。


 どうにか機転を発揮してその場を乗り越えたとはいえ、正直二度と遭遇したくなーい、と思うような出来事だったはずだ。


 だがしかし、少し前の課題でイアはワイアットと不幸にも遭遇した。

 以前はよくも、となったかもしれなかったが、しかし幸運にもイアは生き延びた。

 どころか連絡先を交換している。


 それくらいならまだ、昨日の敵は今日の友ってか……と無理矢理納得させられたかもしれないが、今の態度を聞く限りそれだけではない気がし始めている。

 そっちはまだ授業中、と言っていたように学院だって授業中だろう。

 そんな状況で通話に出るとなると、ウェズンの思考では身内に不幸があった説だとかがありそうな相手くらいなら、まぁ、わからないでもないのだ。

 けれどもそれ以外であったなら、授業が終わってから折り返す事の方が多いと思う。

 メッセージだけのやりとりなら授業中であってもどうにかなりそうではあるけれど、通話は流石に……

 思念式タイプのやつならテレパシーだしいけるのでは? と思うが生憎モノリスフィアは所有者の思考を読み取ってそれを伝えたりする程のテクノロジーは持ち得ていない。


 なので、ワイアットは現在教室にいないか、いても自習だとかが考えられる。普通に授業やってる中でこんな平然と通話はしないと思いたい。


「えーと、イアの兄です。その節は妹がお世話になったようで」

「あぁ、お兄さんね。ん? その声どこかで……あ、あぁ! 君かぁ」

「くそっ、認識されてた……ッ」


 微妙に個体認識されているという事実にウェズンは頭を抱えたい衝動に駆られていた。

 識別されていなければそこらのモブとして、取るに足らない存在だと思われていただろうに、存在を把握されているとなると次に遭遇した時に面倒な事にしかなりそうにないではないか。


 ただウザ絡みされる程度で済むならいいが、ワイアットの場合ウザ絡みの後に※ただし命の危機とかくっついてくるやつなので、ウェズンとしては存在を認識されたくはなかった、というのが本音である。


「それで、一体何の用かな? まさか声が聴きたかった、なんて言うはずもないだろう?」

 どこか揶揄うような声音であったが、それが冗談であるというのはこの場にいる全員が理解していた。


「えーっとね、今年の交流会にワイアットくんが参加しないって言ってた、って言ったら皆全然信じてなくて」


 イアが言えば、ワイアットは「あぁ、それか」ととてもあっさりとした声だった。きっと向こうでは軽く頷いたりもしているのだろうな、と想像がつく。

 そうして直後に、

「本当だとも」

 と返ってきた。


「ブラフじゃないだろうな」

「あれ? その声アレス? 久しぶり。元気してる?」

「おかげさまで。それで、本当にその言葉に嘘はないだろうな」

「勿論。とても残念だと思っているよ。本当だったら参加できてたはずなのに。ま、できないものは仕方ないから、今年は皆に任せる事にしたんだ」


 自分がいなくとも成果は出すだろう、と軽く言われて声を出さなかったクラスメイト一同は、若干ではあるがカチンときた。


 確かに、去年は運よく自分たちの学年はコインを奪われなかったけれど、他の学年は違っていた。


 今年の学院での新入生たちの活躍はどうだか知らないが、今年はワイアットが不参加であるならなおの事張り切るだろう。

 去年、ワイアットが発見できずに終わったコインを、彼がいない交流会で発見できれば少なくとも自慢できる……かもしれない。

 上級生たちに関してはさっぱりなのでこちらも何を言えるでもないが、今年も皆やる気満々みたいだよ、という言葉が聞こえて、同時にその声がどこか残念がっていて。


 それ故に、あぁ、一応本当ではあるのだな……と納得したのである。


「それだけ? そんな事のためにわざわざ?」

「お前の存在はそれだけ脅威なんだ」

「ふぅん?」


 アレスの返事に、しかしワイアットはそこまで興味を示した様子もなかった。


「ま、健闘を祈るよ。頑張って」


 その言葉を最後にモノリスフィアの通話が切れる。


 がんばれ、は学院の生徒たちに言う言葉ではなかろうか、と思ったものの突っ込むタイミングは見事に逃した。



「ね? 不参加だって」


 ね? と言われても正直それでも未だに信じられなかったが、しかし信じるしかないのだろう。



「話は分かった。あいつが不参加。それはいい。

 だが、だからといって雑な仕事はできないわけだが」


 レイの言葉にまぁそうなんだけど、とルシアが頷く。


「確かにワイアットは学院の生徒の中で群を抜いて警戒すべき相手だ。正直今でもあいつに勝てる気がしない。そんな奴が不参加ってだけで、あいつと戦って死ぬかもしれない可能性は消えた。

 だがしかし、だからといってそれ以外の生徒と戦う事になった時、死なないと決まったわけじゃない」


 レイの言う通りだった。


 むしろここでワイアットがいないのだから、と油断しまくった結果普段なら負けないような相手にコロッと負けて死ぬ可能性すら有り得る。


「ワイアットがいないなら、今回参加する交流会参加者全員ぶち倒すくらいの気持ちでやらかすべきだろうね」

 手加減などもとよりするつもりはないが、しかし最大の難敵であるワイアットがいないのなら向こう側の戦力を大きく減らすチャンスでもある。

 ワイアットがいるならば、彼一人にその目論見が阻止される恐れもあるけれどいないのであれば。


 彼がいない事によるデメリットは、交流会であわよくば仕留められるかもしれなかった機会を逃してしまう事だが、彼がいない事によるメリットの方が大きい。

 何より来年もある、と考えるのならば、今回のワイアットの不参加はよりメリットが大きく思えてくる。


「今年は去年みたいに一部だけが囮になるよりある程度出向いて直接仕留めにかかった方がいいだろう。万一勝ち目のない相手と遭遇したとしても、罠に誘導しつつ逃げれば生存の道はある」


 去年はそもそもレイとウィルの事もあったし、ワイアットという存在もあったしで、クラス全員で出向くなんて真似はとてもじゃないができなかった。

 けれども今年はそうではない。

 学院側でどうしても話し合いに持ち込まないといけない相手がいるわけでもないし、遭遇した時点で死を覚悟しなければならないワイアットは不参加であると本人の口からも言われたのだから。


「それはそれとして、ワイアットの不参加に関しては他のクラスの連中にも知らせた方がいいかな?」

「やめといたほうがいいと思うよ。ワイアットがいないってだけで何もかもイージーモード、みたいに油断でもされて死なれたら困るし」

「それもそうか。いると仮定した方が他のクラスの連中も変に気のゆるみを起こしたりしないだろうしな」


 クラスメイトがそんな会話を繰り広げ、ワイアットがいなくとも通常の罠は回避される可能性が高いので魔法罠メインで仕掛ける方針で固まった。



「大体の方向性は決まったな。今年はある程度遊撃して倒していくスタイルだ。

 とはいえ、問題はまだある」

「魔法罠の材料だね」

「あぁ、物によってはリングにしまい込んで持ち運んで直前でぶちかますってのもありだが、そうじゃないタイプの罠はそうもいかないし、罠によって作るための素材は異なる。

 そして魔法罠ともなれば、相応に素材も色々と複雑になってくるわけだ」


 一応去年の砦みたいに設計図を組み込んだ魔法陣で材料を用意すれば後はオートで作成できる、みたいな事もできないわけではないらしいのだが、その魔法陣をまず描かなければならないとなれば、果たして普通に作るのとどちらがマシなのか……そこまで詳しくないウェズンにはさっぱりわからなかった。

 ただ、去年散々細かい作業として魔法陣に関わっていたルシアはとてもうんざりした表情を浮かべていたが。


 当然だが作る罠によって必要な材料も異なる。

 だからこそまずは事前にある程度用意するべき魔法罠をわかりやすいようにボードにファラムが書きだしていった。


 魔法の効果を高める薬草だとかは学園近くで入手可能ではあるけれど、それ以外はやはり遠出をしなければならない。

 そしてこの時点で発生した問題はというと。


 魔法罠を作る際の材料はわかっていても、その材料をどこで調達していいのかわからない物があったのだ。

 どこかの店で売っていればまだしも、そうでなければある場所に行って確保してこなければならない。


 そしてできればこんな感じの魔法罠が欲しいな、と思っても肝心の作り方も材料もさっぱり、なんていう物も。


 困ったときの図書室だ、とばかりに移動して調べてきたものの、中々に前途は多難であるようだった。

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