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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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大体全部謎



 幸いな事と言えば、森にまでは炎が燃え広がらなかった事だろうか。

 と言うかそうなる前にウェズン達が必死こいて消火活動にあたったからなのだが。


 実際火をつけろと言われたとしても実行したのもウェズン達であれば火を消したのもウェズン達となれば、なんというかとてもマッチポンプ感が凄かった。


 ザインとシュヴェルに関してはただ居合わせただけです、と言い張ってもどうにかなりそうではあったけれど、相手側にアレスがいる以上、どんなとんでも風評被害が出てくるかわかったものではない。

 なので他人の振りをすることはしなかった。


 シュヴェルたちも学院に提出するレポートの内容には困っていたところなので。

 ここで自分たちは関係ありません、という態度に出た場合、ではなぜそんなレポートを? となるのは目に見えていた。

 仮にこの場にいない学院の教師たちを欺くかのように、さも当事者でしたよとばかりにレポートを書いて提出したとしても、アレスが渾身の嫌がらせで暴露してこないとも限らない。


 ザインとシュヴェルだけであればアレスだってわざわざそんな嫌がらせをしてくるとは思っていないが、いかんせんシュヴェルたちはワイアットの仲間と言ってもいい間柄だ。

 そしてアレスとワイアットの仲は最悪である。


 つまり、ワイアットが関わる事であればアレスは嬉々としてシュヴェルたちの人生を滅茶苦茶にするのも辞さない構えなのである。なんて傍迷惑な、と思ったところでもうどうしようもない。



 森の奥深くに宗教施設として存在していた建物がまだ残っていた、という事実に町の人たちは大いに驚いた。

 森の奥深くで起きた火事は、森に被害を及ぼしてはいなかったけれどそれでも、湖のあたりで散歩していた人たちは空気が乾燥して空がかすかに赤くなっているのを見て急遽町の自警団へと連絡をとったのだ。

 ついでに冒険者ギルドからも人が派遣された。


 消火活動をしていたウェズン達のところにつまり、それだけの大人たちがやって来たのである。


 前日にウェズンは一部の町の人に身分を明かしていたので、お前ら一体何者だ!? なんていう誰何はされなかったけれど、まぁ事情は当然聴かれるわけで。


 ウェズンはそこに公民館の管理人の姿も確認できたので、大真面目に言ってのけた。


「おばあさんに頼まれたんです……」


 と。


 大層深刻そうな顔をして森の中で会ったおばあさんに、この先の建物をなんとかしてほしいと頼まれたのだとウェズンは語った。


 まるで森の中で言われたような言い方だが、実際は建物の中での出来事である。

 けれども些細な事だ。というか、おばあさんの幽霊と出会ったのは森の中なので大まかに嘘はついていない。


 植物に覆われて普通に入れそうになかった建物の中に、どうにか入ってそこでおばあさんに案内されて地下へ行き、そこでとんでもないモノを目撃したのでおばあさんに言われるままに燃やしたのだと。


 実際おばあさんの幽霊は言うだけ言ってさっさと姿を消してしまったが、そんな事はその場にいなかった町の人たちには知った事ではない。


 なんというか全部が全部嘘ではない、というのが余計にタチが悪いと思えるのだが、かといって正直に言ったところで何の意味があるのか、という話でもあったので。

 ザインもシュヴェルも余計な事は言わないようにして、適当なタイミングでウェズンの言葉にうんうんと頷いていたのである。


 学園側の生徒だけならともかく学院の生徒までもが同意を示していたので、町の人たちからはそこまで疑われる事もなかった。


 というか、一応これがその時撮影したやつです、とウェズンがあの地下での画像をその場にいた大人たちに見せたので。

 信じるしかない、という雰囲気になったのは言うまでもなかった。


 信じるも何も、といった話でもあるのだが。



 あの地下には、大量の骨があった。

 部屋の中心にいた何かはぬるぬるてかてかした肉のようなものがついていたけれど、しかし明らかにそこから漂う腐臭は生きているとは到底言い難く。

 周囲にあった骨は恐らく人の物だろうと察する程度にはわかりやすく残されていた。

 一人や二人分なんて話じゃない。もっと大勢の人たちが、少なくともそこで骨になっていたのだ。


 仮に、事前にこういった画像を用意して騙そうとした、と判断するにしても。

 それをやってどうする、という話でもあるのだ。


 学園の生徒のいたずらで、というのなら学院の生徒が頷いているのがわからなくなるし、学院の生徒も同じくいたずらで町の人を騙そうとしていると考えたとしても。

 色々とおかしな点が浮かんでくる。


 いたずらにしては悪質だけど、しかしこんな画像を事前に用意してわざわざここまでくるか、と言われると流石に面倒が過ぎるし手間もかかるしで、やろうと思う者はまずいないのではないか、と大人たちとしては考えるわけで。


 それでも若気の至りでやらかす可能性もゼロではないとはいえ、これが嘘である、とバレた後町の人はともかくとして学園か学院のどちらかは何らかの罰を与えるだろう、とは冒険者たちの考えである。

 学園にしろ学院にしろ、その他の学校にしろ、武力を与えるような教えをする場所で、その力を悪いことに使うようなやつをのさばらせるのは後々自分たちの首を絞める結果になりえる。だからこそ、そういった事に関してはそれなりに厳しい処置が下されるし、学校を卒業した後で犯罪者として手配された時点でそういった人物の人生はその先大体お先真っ暗である。



 最終的に完全に信じられる結果となったのは、燃えた後の建物からすぅっと半透明の人たちが浮かび上がって次々と上空へ上って行ったからだろうか。

 ウェズンからすればただの成仏シーンだが、町の人たちからすると、今までここに魂だけとはいえ囚われていた人たちがようやく解放された……と思えるものだったらしく。


 ついでにその中に老婆もいて、こちらに手を振っていったので。


 老婆を見上げてウェズンは思ったのだ。



 散々半透明じゃない普通の姿で出てきてたくせに、ここは半透明なんだな……と。

 色々と台無しであった。


 突然姿を消すくらいで、それ以外は普通のおばあさんにしか見えなかったのだ。

 なので、幽霊だと思いつつも実は違うのではないか、という疑いだって完全に捨てきれていなかった。その場合はおばあさんがどれだけ凄腕の者なのかという話になってしまうわけだが。



 最終的に、燃え落ちた建物は後日町の人たちで撤去作業を行いつつ、その後はここに墓地を作る事に決まったらしい。

 地下に大量に人骨があったとはいえ、最早誰が誰かもわからないくらいだったのだ。発掘したところで個人での墓を作るなど難しい話であるし、かといって何もしないままというのも……となったのだろう。最終的に共同墓地にする事で話はまとまったようだった。


 こんな、瘴気濃度も低くどこからどう見ても平和な町で、まさか事態がここまで大きくなるような出来事があるとは思っていなかったがともあれ、レポートに関してはこの一件を纏める事でどうにかなるだろう。

 考え方が割とどうかと思う、と思いつつも成績がかかっているので仕方がない。


 何もネタがないから無から有を生み出して自分たちで作り上げるぞ、なんてやらかしてないだけマシな方だ。


 もう流石にこの町で何か事件めいた出来事が起きたりはしないだろう、と思いつつも滞在する日数はまだちょっとだけ残っているので、ウェズン達はその期間でレポートを纏める事にした。


 と言っても、あの建物の中で見た事をそのまま書いたところで数行で終了しそうな薄っぺらい内容だ。


 だからこそ、一応あの建物で一体何があったのかを推測というか考察した内容で文章を増量する結果となった。もうレポートとは? と言わんばかりである。



 この世界での通常の宗教とは、神に祈れどもその祈りは我らをお救い下さいなんてありがちなものではなく、どうかこの世界を滅ぼすことを考え直して下さいという一種の懇願である。ある意味でお救い下さいと言っているようなものだが、ふわっとした救いを求めるのではなく、割とガチめに願われている。


 前者の祈りは最悪「では、救ってしんぜよう」で世界中の人間が殺される可能性もあるのだけれど、後者はそうではない。生きるか死ぬかはまだしも、ともあれ世界が存続すればその先は自分たちでどうにかするという意志が垣間見えなくもない。


 だが、あの宗教施設はそういった普通の教会ではないために、恐らくは別の意味での救済を目的としてできたものだと思われる。

 と言っても、詳しく調べるにしても既にこの町の人たちもほとんどその存在を忘れていたようなもので、詳細はさっぱりだったのだが。

 あった事は事実として記録されているが、詳細はほとんど残されていなかった。

 その情報を意図的に抹消したのか、最初からそこまで残されていなかったのか……考え始めると疑うばかりなのでその考えは一度横に置いておくことにする。


 別の意味での救いをもたらすためには何が必要か、となるとまぁ恐らくは力だろうか。

 神を超える、とまでは無理だろうけれど、それでも大いなる力を持つ者に人は神を見出し縋る事もある。

 あの地下で見た巨大なアンデッドもどきは、ウェズンの目から合成獣に見えた。

 周囲にあった人骨は、間違いなくあの宗教施設の人たちのものだろう。

 無関係の人たちまでもがあの建物に連れ去られて犠牲になっていたのなら、町の人たちだってもっと色々と詳しい情報を知っていたはずだ。



 推測ではあるけれど、あれはきっと、一人では無理でもみんなと一緒なら大丈夫だよ、的なコンセプトだったのではないだろうかとウェズンはうっかり口に出したらニチアサ女児アニメに土下座しろとか言われそうな事を考えていた。


 一人の力はちっぽけだけど、みんなの力を合わせたらもしかしたら奇跡だって起きるかもしれない。


 と、まぁ。そう言われれば聞こえはいいが、実際雑魚が何匹集まろうとも所詮は雑魚なので。

 ちっぽけな人間が集合したところで、神を超える力を持つには余程はっきりとした方法、手段がなければ無理でしかない。

 みんなが一つになる、を物理的にやらかしたのがあの巨大アンデッドではないか、とも思うのだが。


 元の誰かがいたのか、それともあれは最初からそういう風に作られて皆が後から食べられてしまったのかはわからない。どっちでも最悪である。


 肉体は食べられてあの巨大アンデッドの血肉となって一つになった。

 だがしかし、魂までは吸収されなかったのだろう。その結果が、あの幽霊である。


 肉体がなくなって魂だけになったなら後は勝手に成仏でもできそうな気がするけれど、なんというかあの巨大アンデッドを見る限り邪法くさいので魂は囚われて自由に動くにしても範囲が限られていた可能性は高い。


 建物の中でウィルが聞いた言葉も、恐らくは……と言った感じである。もっとはっきりと何を言っていたかがわかれば、この考察をもうちょっと補強できたのかもしれないが。



 ともあれ、あの巨大なアンデッドは建物の地下に半分埋まるように存在していたからこそ、外に出る事はなかった。もし出られていたのなら、今頃町は存在していたかどうかも疑わしい。

 だからこそ、倒すだけならば火をつけて燃やすのが最適解だった。老婆はそれをわかっていた。

 そして、炎で浄化した事で自分たちの魂もようやく解放された……というのが、ウェズン達の大まかな考えであった。


 宗教施設がある建物が森の奥深くであり、また町の人たちもその存在をうっかり忘れていたこともあって何故そこに行きつく形になったのか、という理由として森で遊んで帰ってこなかった少年の事もレポートには組み込んだ。タックである。


 その時に幽霊の老婆を目撃したようなものなので、まぁ、一応町で人助けとかもしましたよ、というポイント稼ぎでもあった。


 ペストマスクかぶった不審人物に関してはレポートに盛り込みようもなかったので書いてはいない。

 結局それだけが、この町に残された謎である。



 ともあれ、適度に休憩をはさみつつ、時々町を散策し、湖の近くでバーベキューしたりしながらレポートを皆でああでもないこうでもないと纏め上げて。



 ようやくウェズン達は学園に帰る事となったのである。

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