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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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きっと燃やすのが手っ取り早かった



 気はとても進まないのだけれど、しかし戻るという選択肢も存在しない。

 別にここで引き返したってそれも一つの選択だと思うのだが、しかしそうなるとレポートの内容にとても困るので。

 中途半端な出来のレポートを提出したら後が面倒だし、お茶を濁すような内容で書くとなればそれなりに体裁を保たねばならない。ありきたりな内容のレポートであれば、それはつまりその分完成度だとか、人とは異なる着眼点の一つでも入れておかなければとてもじゃないが合格点はもらえないだろう。


 というのをウェズン達生徒は困ったことに理解していたので。


 それならば、昔あった宗教施設とやらに突撃して内部調査をしましたよ、というレポートの方がまだマシだと考えたのだ。実際その読みはそれなりに正しかった。


 気は進まないながらもウェズン達は建物の出入口とも言える玄関がある場所まで移動した。かろうじてドアがあるのが見えるのでここが玄関で間違いない。


 だがしかし、ドアにもこれまた植物が絡みついていて、普通に開けようとしても開きそうにないのが一目瞭然である。

 とりあえずこの植物をどうにかするべく刃物あたりで切断すればいいだろうか、とザインがナイフを取り出した矢先――


 ガッッッッン!!


「よし開いたな」


 凄い音を立ててウェズンが扉を蹴った。

 その勢いで植物がぶちぶちと千切れ、扉が開く。


 物凄い音がしたけどその時にガチャン、みたいな音もしたので恐らく鍵がかかっていた。そして今の蹴りで壊れたのがわかる。


 えっ、とか言い出しそうな顔をしてザインがウェズンを見ていたが、ウェズンはザインがどうしてそんな表情をしているのか理解できなかった。


 確かにナイフで切って、というのはこの場において正しい選択肢だったかもしれない。

 けれどもちまちまと切っていくだけで時間がかかるし、もっというなら燃やすなど以ての外。植物どころか建物ごと燃えてしまう。


 扉が開いた事でできた隙間によって、まだ絡んでいた植物が若干、本当に気休め程度ではあるがたわむ。

 それから改めてザインのナイフでもって邪魔な部分を切って、そうしてウェズン達は建物の中に足を踏み入れたのである。



 正直な話、ウェズンだってこれが普通の、それこそ町の中にある普通の建物であったなら初手蹴破り、なんて手段をとらなかったとは思う。

 その場合は所有者を探してカギを借りるだとか、許可を取ってから、と穏便な手段を選んだだろう。


 だがしかしここは森の奥にして、今はもう町でも存在を忘れられつつあるような宗教施設だった場所である。これだけ植物が絡みついているところからして、町の人だってここに足を運ぶことはないのだろうと一目でわかるような所だ。


 故に多少乱暴な手段だろうとも時間短縮を目的としてウェズンは手荒い方法を選んだのである。



 内部は、思っていたよりは酷くなかった。


 入ってすぐの所はロビーと言われればまぁわからんでもないな、みたいな感じだった。テーブルと椅子がいくつか並んでいるのは、信者が憩いの場としていたのか、それとも訪れた新たな信者候補を迎えるための場所だったのかまでは知りようがないが。


 宗教施設だと言われなければ、ホテルのロビーと錯覚したかもしれない。

 と言っても、長年放置されていたことで敷かれているカーペットもボロボロで色も随分と褪せて元の色がなんだったのかわからないし、椅子やテーブルも埃をかぶっているので座ろうとも思わないのだが。


 建物の中は、そこまで植物に侵食されていなかった。ただ、古くなった拍子に壁に亀裂が生じてそこから植物がぴょこんと生えていたりだとか、割れた床からちょっと見えているだとかはあったが、通路の中央にどんと木が生えているだとかではない。歩いている途中でいきなり床が抜ける、というような心配だけはなさそうだった。



 なんとなく空気がこもっているような気がしたので一度室内全体を風の魔法でもって行きわたらせて、それから移動を開始する。


 宗教施設、と言われているから色々と身構えてしまったものの、ウェズンが思っているようなものとは大分異なっていた。

 てっきり、謎のご神体とかがあるんだろうなと思っていたし、修行の場と称して何かこう、いかにもな部屋があるんじゃないかと思っていたのだ。


 だがしかし室内を一つずつ見て回って思ったのは、宗教施設というよりは保養地のような……それこそ小さめのホテルか何かだと言われた方がしっくりくる代物だった。


 客室のような部屋がずらりと並んでいるが、もしかしてここで生活していた信者の部屋だったのだろうか、とは思うものの建物自体が使われなくなってもう随分と経つので生活していたのかもしれないな、とは思えてもここで本当に生活していたかどうかがわからない。

 もうちょっと早い段階で来ていたら、もっと生活していた感があったとは思うのだが。



 そのもうちょっと、がざっくり考えて数十年単位であるというのもどうかと思うが。


 キィ、パタン。


 案の定なんもないな、と思いながらもとりあえず一通り見て回ろうと思っていたら、突如として自分たちがいるところから離れた場所から音がして、ウェズン達は思わず足を止めた。


 明らかにドアを開けて閉めた感じの音だった。


「えぇ、嘘でしょだってここ完全に封鎖されてたじゃん誰かが中にいるとか有り得ないでしょ」


 ザインが呟くのも無理はなかった。ザインがそう言わなかったらウェズンが言っていたに違いない。


「仮に誰かがいたとしてだよ? 外に出ないでここで自給自足できそうな感じだった?」

 ウェズンが問えば、一同ほぼ同じタイミングで首を横に振ってくれた。ザインもシュヴェルもだ。意外にノリがいいのかもしれないな……とウェズンはちょっと場違いな事を思ったくらいだ。


 とはいえ、ウェズンだって自分がそんな事を言わなければ、かわりに誰かが言っていたならやっぱり首を横に振っただろうなとは思うのだ。

 何故なら今まで見てきた部屋のことごとく、生活していた痕跡はあっても自給自足でどうにか生活を賄っていたようには見えなかったので。


 誰かしら外で食べ物や衣類を調達してきただろう感じがするのだ。といっても、そういった生活用品だってほとんど残ってはいなかったけれど。

 精々簡素な家具があるくらいで、そこに細々とした雑貨が置かれていたりはしたがしっかりがっつりした生活の痕跡と言うほどのものでもない。


 生活はしていたけれど、しかしここでの生活に限界を感じて荷物をあらかた持ち出して出て行ったあと、と言われた方がしっくりくるような部屋だってあった。


 室内でも日当たりのよさそうなところでプランター栽培してました、みたいな感じの何かがあったなら、最後の方で残った誰かが自給自足を試みたのかもしれないな、と思ったりもしただろうけれどそういった物も今のところは見ていないのだ。



 正直面倒ごとは勘弁してほしいな、と思わないでもないけれどここで見なかったことにしても結局後になって気になるだろう事も明らかで。

 だからこそウェズン達は今しがた聞こえた物音の方向へと移動し始めたのである。


 今まで見てきた部屋のどれもがきちんとドアが閉じていたけれど、しかし物音がしただろう部屋と思しき場所だけが不自然に開いていた。

 閉め忘れただとか、閉めたつもりでちょっとだけ開いてしまっていた、どころではない。

 半分以上開いているのだ。

 もうここまできたらあえて意図的に開けてますよと言われた方がしっくりくる。


 あまりにもあからさますぎる。


「一応、気を付けような」


 何に、と聞かれると困るのだが。

 それでもウェズンはそう言いながら率先してそのいかにもな部屋へと向かっていく。



「………………」

「………………」

「………………」

「…………」


 近づくにつれて、何やら声を潜めたような音が聞こえてきた。

 といっても何を言っているのかまではわからない。

 ただ、ぽそぽそとまるで内緒話でもしているかのような音。

 しかもそれが恐らくは複数。


 いや嘘だろ、と先程ザインが言った時のような反応をしながらも、ウェズンはそれでも進むのを止めなかった。部屋には確実に近づいている。そしていよいよ開いたドアの向こう側、つまりは室内の様子がはっきりと見えるだろう所まで近づくと――


 忽然と、音が消える。


「いやうん、いかにもすぎんか?」


 ホラーゲームとかでこういう演出あったなー、とまでは流石に声に出して言えないけれど、部屋の中には案の定誰もいなかったのである。

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