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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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昔の建物



 翌日。


 ウェズン達は早速森へとやって来た。

 宿で朝食を食べて、それから出てきたので朝早いと言っても日が出たばかりの早朝というわけでもない。一応通りにはちらほらと人が出歩いていた。


 湖周辺にはまだそこまで人もいない。

 昼くらいになるとそれなりに増えるようだが、まだ早い時間なせいか精々犬を連れてのんびり散歩してる人だとか、仲睦まじく寄り添って散歩をしている老夫婦などが視界に入る。


 どこからどう見てもとても平和な光景であった。


 そんな空気に感化されたのか、ふとファラムは手を伸ばして、思わずウェズンの手を掴んでいた。


「ん?」

「あ」


 完全に無意識だったからか、慌ててパッと手を離し思わず両手を肩のあたりまで上げた。


「あの、今のはえぇっと……」

「あぁ、うん」


 何かを言わなければ……! と内心で焦りつつあるファラムであったが、ウェズンは何となくファラムがやりたいことを察したので改めて手を差し出す。

 ずっとは無理でも森の手前くらいまでなら問題ないだろうというくらいの気持ちで。


「いい、んですか……?」

「森の中に入ったら離すかもしれないけど」


 森までの距離はあとちょっと、といったところなので長々と手をつないで歩くわけにはいかないだろうけれど、それでもいいよと許可が出たのでファラムは遠慮なく差し出されたウェズンの手を握る。


「あっ、ウィルも! ウィルも!」

 そして何故だかその場のノリでウィルも手をつないだ。

 もう片方があいているファラムの手と。


「……繋ぐ?」

「いや、遠慮しとく」


 もう片方の手があいているウェズンが一応といった感じでアレスに聞くが、案の定断られた。



「なぁ、あいつなんなん?」

「ん? ウェズンか? 俺たちのクラスメイトだが」


 そしてそんな仲良し三人組とばかりのウェズン達を見ていたのは、何もアレスだけではない。

 なんでか一緒に行動する事になってしまったザインとシュヴェルもいたのである。


 そしてザインがウェズンを見ながら問いかけた事で、アレスはさも当然のように答える。


「や、それでも君ら一応元は学院の生徒だったわけでしょ?

 なんであんな和気藹々としてんの? こっち側に来たっていったって元は敵だったわけっすよね?」

「そう言われてもな」


 そもそも学院にいた時からウェズンと知り合っていたので、元が敵だろうと何だろうとある程度こちらの事を知っていたというのもある。

 ポッと出の学院からやって来た生徒と仲良くしろ、と言われれば難しいかもしれないが、アレスたちが学院に居た頃から既にそこそこ関わっていたのだ。であれば、そんなアレスたちが学園に来ましたよとなっても態度がガラリと変わるわけでもない。


「だからってあんな和気藹々するか? あいつ危機感死んでんの? 生きてる?」


 どこか馬鹿にしたようにシュヴェルが言う。

 ちなみにウェズンにばっちり聞こえているが、危機感生きてるって反論したところで意味がないのであえて無視した。


 そもそも、ウェズンの認識とザイン、シュヴェルの認識というか前提条件が異なっているのだ。


 ザインたちからすれば敵が手のひら返してやって来た、程度でしかないが、ウェズンからしてみればそれ以前から交流はあったわけで。

 いきなり何か知らん敵だった奴がやってきた、というわけではないのだ。


 ファラムの時はさておきウィルと出会った時は確かに敵対している状態だったが、それだって別に最初からバチバチに殺しあおうか、というような状況ではなかった。

 ウェズンがウィルと最初に出会った時にウィルがもっと殺意と敵意をバシバシに出していたらまた違った展開になっていたかもしれないが、そうはならなかったので。

 アレスと出会ったのだって、まぁ、なんというか……お互い色々不幸な事故だったね……としか言いようのない状況だったし。


 そんな、学院と学園が誂えた戦場で出会ったわけではないので。ウィルはさておき。


 必ず敵を倒せ、と言われているような状況だったならともかくそうじゃない時に出会って、話がある程度通じるならば無駄に敵対する必要もない。


 だが、ザインもシュヴェルもそういった出会いを知らないので。


 だからこそ、当たり前のように仲良くしているウェズンがおかしく見えているに過ぎなかった。


「生きてる生きてる、そうじゃなかったら今までのどっかで死んでるだろ」


 アレスも大分雑にシュヴェルに言い返した。

 大体、ワイアットと遭遇して生き残ってる程度には悪運か運かはわからないが持ってはいるし、ワイアットと遭遇しておいて五体満足でいられる程度にはどうにかなってるわけなので。


「少なくとも俺が学院で殺してきた連中よりは強いよ」


「人は見かけによらないっすねぇ……」


 しれっと言うアレスにザインが嘘だろ、みたいな顔をしているが悲しいことに事実である。

 それにわざわざここで言う必要を感じないから言わないが、ウェズンの両親はあのウェインストレーゼとファーゼルフィテューネだ。血筋的な意味でも相当だ。

 とはいえ、教えて下手にこいつらが学院に戻ってウェズンの事を要注意人物みたいに情報を回しても面倒なので言わないが。


 手をつないで歩く三人の後ろをアレスとザイン、そしてシュヴェルがついていく。

 そんな状態で移動して、湖を通り過ぎまたもや森である。


 まだそこそこ早い時間だと言うのに、どんぐりを拾い集めている少女がいた。


 幽霊ってこんな朝から行動するものなの……? と思ったが、見た所半透明に透けているわけでもなければ彼女は移動するときにサクサクと草葉を踏む音もしているので、知らなければ一生少女は生きている人間だと思っていた事だろう。


「おはよう」


 幽霊らしくない幽霊に、ウェズンは当たり前のように声をかけた。

 幽霊のくせに幽霊らしくない、と思いながらもそこはそれである。

 会話がある程度通じるなら、ウェズンとしては情報をもらえるなら相手の生死とか最早問わないくらいの気持ちだった。

 何せ、レポートの出来に直結している。


「あらおはよう。また来たの」

「うん。なんかこのあたりに宗教施設があるとか聞いて」

「あぁ、あれ」


 中腰状態になっていた少女がぐっと伸びをする。

 そうして腰のあたりに手をやって何度か叩いているのを見ていると、本当に死んでるんだろうかという疑問すら出てくるのだが。流石に本人にホントに死んでるの? とは聞けない。


 けれども幽霊であるのなら、ウェズンが彼女にとっての地雷的な話でもしない限りはちょっと下手なことを聞いたとしても町でおかしな噂になったりはしないだろう。

 そういう意味ではとても気楽に話しかけられる相手でもあった。幽霊だけど。むしろ幽霊だからと言うべきか。



「それなら森のもっとずっと奥の方ね。でもホントに行くの? あそこ、正直ヤバイと思う」

「あぁ、うん。気は進まないんだけどね。でも学園の授業の一環で……」

「学園ってあれでしょ。大変なのね」

「ははは」


 ずっと奥、と少女が指し示したのは前日タックを探しに行った方角とはまた別の方向だった。


「ホント結構奥の方だから、行くだけで時間かかると思うけど」

「ま、行くだけ行ってみるよ。ありがとね」

「気を付けて」


 幽霊に気を付けて、と言われるのもある意味レアな体験だなと思いながらもウェズンはあっちだって、とアレスたちに言う。

 ザインとシュヴェルはこの少女が幽霊だと知らないようなのでなんの反応もなかったけれど、アレスたちはそうではない。

 何となく微妙な気持ちになりつつも、一応それぞれが少女に会釈だけして移動する。


 学園の歴史は無駄に長いので、死んでしまった幽霊少女であっても知っているらしい。

 これで知らない状態であったならその説明から始めなければならなかっただろう。まぁ、説明するにしたってそこまで難しいものでもなく、ざっくりと話を纏めようと思えばどうにでもなるとは思っているが。


 森のずっと奥、と言われて進むことしばし。


 ホントにこの先にあるのかよ……とシュヴェルがぼやいた頃、それは見えてきた。


 外壁はボロボロになり間違いなく人が住んでるとは思えない見た目。

 生い茂った植物が建物に絡んでいるものの、誰も手入れなどしていないので一見すると植物が建物を取り込んでいるかのよう。

 所々植物の隙間から見える建物は、外壁も屋根もボロボロである、とわかるけれど。


 いやもうこれ完全な廃墟じゃん……としか言えないものだった。

 むしろ下手をすれば廃墟の方がマシかもしれない。

 建物が朽ちて壊れた物と比べればこちらの方がマシかもしれないが、内部に入り込めて雨風をしのげるような廃墟であればこちらの方がどうかと思われる。そんな見た目であった。


 森の奥にどどんと屋敷が、と思われていたが、実際は違う。

 外観は案外シンプルだったかもしれなかった。

 植物がわさわさ絡みついていなければ普通にそう思ったかもしれない。


「……これ中大丈夫だと思う?」

「途中で壊れても何もおかしくないな」


「でも、ここまで来たのだから行くしかないのでは?」

「そだね。建物崩れたら困るから事前に障壁だけ展開して中に入るのがいいんじゃない?」


 ウェズンの問いにアレスは溜息と共に答えたし、ファラムも引き返すという意思は見せなかった。

 ウィルに至っては万が一を考えて念のための障壁まで提案してくる始末だ。


「え、マァジで入るんすか?」

 ザインがドン引きしたように言う。


 なんというかだ。


 仮に入ったとして、なんというかここまで植物がわさわさしている状態だと、建物の隙間から内部に虫が侵入して巨大な巣にでもなっているのではないか、と思えるのだ。気のせい、と言われてもいかんせん場所が場所なのでその言葉を素直に信じられる要素もない。


 もっと都会の虫とかそこまで生息してなさそうな場所だったならその言葉も信じられたかもしれないが、ここは森の中である。しかも割と深い場所まで入った状態の。


 事前に虫除けの魔法をかけてあったので周囲をぶんぶん飛び回られて鬱陶しい、という事にはなっていないけれど、それでも全く見ないわけでもないし下手をすれば木の枝と別の木の枝とを繋ぐような場所に巣を作ったせいでうっかりクモの巣に突撃しかけた事もあった。

 虫除けの魔法はあくまでもこちらに飛び掛かってこようとする虫を遠ざける程度であり、既にその場にいる虫が勝手に逃げてくれるほどのものではないので。



 ともあれ、もうここまで来てしまった以上今からやっぱり引き返そう、などと言うような人物は誰もいなかった。


 入るのには確かに躊躇う。

 けれどもだからといって引き返すとなれば、完全な無駄足。


 ウェズン達はレポートがあるのでこうなったら何かそれっぽいネタになりそうならもうなんでもいい、くらいの気持ちであったしザインたちも似たような事情がある。

 それにここでウェズン達が入ると言うのにザイン達だけが入らない、となれば。


 後々、自分たちが困る気がしたのだ。


 アレスたちに揶揄われる程度で済めばいいけれど、学院でこいつら腰抜けなんだぜ、みたいに噂が回るのは避けたい。

 シュヴェルは売られた喧嘩はきっちり買うタイプだし売られてなくても場合によっては積極的に営業に出て売りつけるタイプだけど、ザインは違う。

 できるだけ波風を立てたくないのだ。


 なのでそういった噂が流れた場合、間違いなく面倒な事になる。

 生徒に絡まれるだけで済めばいいけれど、ワイアットがどういう態度に出るかで面倒度合が決まると言ってもいい。


 下手をすればワイアットの手によってザインの命が終焉を迎えないとも限らない。


 だからこそ、一同割と気は進まないのだけれども。


 この得体の知れない宗教施設だったらしき建物の中に入らないわけにもいかなかったのである。

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