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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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肩透かしの結果



 結論から言うのであれば。


 監視者とやらはテラプロメとは無関係っぽかった。


 嘘だろあんだけ何かこう……それっぽい雰囲気出しといて!? とウェズンは思わないでもなかったが、そもそもテラプロメの存在は周知されているわけでもない。いや、割かし大勢が知ってる公然の秘密扱いなのかもしれないが、だからといって必ず皆が知っている、とかではないのは確かなのだ。


 冒険者ギルドで不審者に関する情報を届け出た管理人は、そろそろ夕飯時だから、という事で深夜まで営業している食堂へとウェズン達を連れてきた。

 ウェズン達もそろそろ夕飯を、と思っていたのでそれについては問題ない。


 料理が運ばれてくる前、簡単に話を聞いた。


 どんぐりを拾い集めている少女に関しては、恐らく弟に渡すためだろうという事。

 といっても弟は病弱だったらしく、とっくに死んでいる事。

 ある程度話は通じると思うけど、あくまでも少女が生きていた時に準じるものなので彼女が知らない事について――とりわけ彼女が死んだ後の話については、あまり通じないだろうという事。


 とはいえ、タックの事を聞いた時は一応会話が通じていた気がするのだが……思い返せば知らないとか見てないと言われただけだ。

 そんな子は知らない、と言っていたらまた違ったかもしれない。

 あの時の少女の反応は普通にタックなど見かけてすらいない、といったものだったので。


 まぁどんぐりを拾い集めているだけなので、別段害はない。

 ただ恐らく、彼女と会話をして彼女の弟に関して知ったとして、そこでとっくに弟は死んでいるとかそういう事実を突きつけた場合は何が起きるかわからないのでお勧めしないとは言われた。


 言われずともそんな事をわざわざ言うつもりはウェズン達にはない。

 そんな目に見えた地雷を踏みに行くように見えているのだろうか……と思いはしたが、まぁウェズンが管理人の立場であっても多分言ったな、と思ったのであまり気にしない事にした。



 少女曰くの老婆だが、こちらも随分昔に亡くなった人らしい。

 管理人はあまり詳しく知らないのだけれど、と前置いて話してくれた内容は、なんというかとても微妙なものだった。


 当時この町には宗教施設があったらしい。


 らしい、ととても曖昧な感じなのは管理人はまだ当時幼く、子供は知らなくていい事よ、と親に言われていたのもあったからだ。

 どういった宗教だったか、と聞かれれば普通にそこらにある教会とは異なるタイプ、としか言いようがないと言われた。


 一応この世界にも教会は存在する。

 といっても、そもそもこの世界の神様とやらはとっくの昔にこの世界に見切りをつけて滅ぼそうとしているわけで。

 そういった神を祀る教会であるので、足を運ぶ人間というのはそういないように思えるが、意外にもそこそこいるらしい。


 祈ったところで神がこの世界を滅ぼすことをやめようと思うような心変わりなど、そう簡単にするはずもないと思うのだがそれでも奇跡を願うのが人なのだろう。

 というか、正直他にやる事がない。一部は神と相まみえた時に倒して自由を勝ち取るぞ! みたいに考えてるようだけど、それができるのは限られている。そうでない人たちが何かをしようとしたとしても、できる事はほとんどない。

 無駄とわかっていても祈るくらいしかなかった、と言えなくもない。


 気持ちは、わからないでもないので何とも言えない。


 いやだってほら、ウェズンの前世のおっさん時代に、ちょっと通勤ラッシュ時、電車の中で突然の腹痛とかこようものなら、とりあえず祈ってたし。別にろくでもない人生送ったりしてたとは思わないけど、何か知らんがとりあえずお母さんに謝ったりこれからいい子になりますとかこう……祈った事ならあったわけだし。

 母親に縋るような年齢でもなかろうに、あのとりあえずお母さんに許しを乞うみたいな祈りはなんなんだろうか、とウェズンは今でも疑問に思っている。


 こちらの世界だとそもそもそういった状況にはならなさそうなので、次のトイレにたどり着くまでの時間をざっと目算してその上で祈るような事はないと思いたいが。



 ともあれ、普通の教会とは異なる別の宗教がかつてこの町にあったらしい。


 本来ならそういうの、邪教扱いになったりするんじゃ……? という気がしないでもないが、管理人にもその宗教がどういうものだったかはわかっていないのでこれもまた何とも言えない。


 神様お願いしますどうか世界を滅ぼすのをやめてください、と祈るのがこの世界での本来の宗教であるのであれば、それ以外となればもうお前を殺して俺が神になる、とか、自分だけでも助けて下さいというとても自分本位な感じのやつか。


 祈れば救われる、と謳うにしてもだ。

 ウェズンの前世の世界であればそういったちょっと得体の知れない怪しげな宗教でなら通用するかもしれないが、こちらの世界でそれが通用するかとなると……

 なにせ本家本元の神がいるわけなので。


 その手の宗教を立ち上げた場合、では教祖様が新たな神になって世界を救ってくださるのですね! みたいな展開になってしまいかねない。最悪神に挑む結果になりそう。


 口先三寸で信者を丸め込んでお布施だなんだと金だけ毟り取るにしてもだ、なんというか早々に破綻しそうな予感しかしない。


 管理人曰く、おばあさんが言ってた監視者っていうのは、その宗教関係の人の事らしい。

 勿論、現在はこの町にそんなものはいない。



「……てっきり、あのペストマスクの変質者がそれかな、って一瞬でもチラッと思ったんだけどな」

「タイミングが神がかってたしな。あの流れなら俺もそう思う」

 しかもテラプロメの関与だと思ってた、とは管理人に聞こえない程度の小声であったが、ウェズンには聞こえていた。



「――結局のところ、これからどうします?」


 とは、食事を済ませて管理人ともお別れした後のファラムの言葉だ。


 どうする、と言われてもな……とウェズン達は思わずお互いに顔を見合わせていた。


 幽霊に関して調べる、というのはある意味クリアだ。

 クリア、ではあるのだけれど、こんなんレポートに書いたところで……という話である。


 まず間違いなくそのレポートを読んだテラの反応は、

「ふーん、で?」

 になるだろう。


 ちょっと捻って幽霊って半透明じゃなかったんですよ、みたいな流れから話を広げたところで最終的には、

「だから?」

 に行きつく。必死こいてレポートを仕上げてもそういう反応しかないとなれば、書く前から心折れそう。


 どれだけ一生懸命書き連ねたところでレポートの成績がまずもらえそうにないとなれば、書く前からやる気も失せようというもの。

 むしろロクな評価がされないとわかっていてレポートに時間を費やすくらいならせめてもうちょっとマシなテーマを見つけてこいとなってしまう。


 監視者についてもテラプロメ無関係っぽいので、ウェズン達が調べる必要性が大分下がってしまった。

 宗教関係の、とついた時点で、今はもうこの町にその宗教施設がないのだから幽霊だったおばあさん曰くの監視者に目を付けられる云々も……となってしまう。


 そうなると次に調べてみる価値がありそうなのは、あのペストマスクの不審者だ。


 とはいえ、既に逃げられているし再び目撃できるかは謎。


 なんであの時窓から魔術でもって空中移動して直接建物の屋上に乗り込まなかったんだろう……と若干後悔したけれど、しかしあの時はそこまで考え付かなかった。

 そもそも、魔法を使ってダイナミックお邪魔します! をやらかすにしてもだ。


 アニメならありがち演出だけれども、ウェズンは自分がそれをやる事になる、とはこれっぽっちも想定してすらいなかった。これは前世の記憶があろうとなかろうと、同じことだと思われる。


 それにもし、下手に魔法を使って屋上に乗り込んだとして、その後建物の管理人にしこたま怒られる可能性もあり得たわけで。

 この世界、魔法がある時点で割と色々な犯罪に用いられたりするわけだが、それをやった時点で勿論罰は重くなる。

 司法が完璧、というわけでもないので場合によっては現地の人間の判断によって処分が下される、なんてことも普通にある。


 つまり、現行犯逮捕された場合その場で私刑リンチも普通にあり得るのだ。

 一応、事情くらいは弁明できるとは思うけれど。


 のっぴきならない事情があった、とかであればいいが、もしあの不審者を捕まえようとして魔法で屋上に直接乗り込んだくせに逃げられでもしたら、ウェズン単独で忍び込んだ扱いになりかねない。

 恐らくそういったあれこれも含めて、ウェズンは無意識にその方法をセルフ却下した。


 だからこそ、今更のようにそんな案が浮かんだのだ。



「不審者調べるにしても、目撃者とかいそうにないしあのマスクつけてなかったらもうわかんないよね」

「そうだな。あれはちょっとインパクトが強すぎた。服だって別のに着替えてしまえばわからないだろうな」


 体格すら隠すような感じだったので、そこらの一般市民が着るような服に着替えられてしまえば、まず間違いなくわからない。

 他に何か特徴があった、とかであれば探しようはあったかもしれないが、思い返してみてもそれらしきものは浮かばなかった。



「現時点では不審者というだけで明確な被害は出ていないからな……躍起になってそれを探すよりは、もう一度明日森に行ってみないか?」

「んえ? なんで?」


 アレスの言葉にウィルが首を傾げる。

 正直あの森にはもう他に見るようなものなんてなさそうだ、というのが顔にはっきりと出ていた。


「さっきの管理人の話からして、今はもうないとはいっても宗教施設があったのは確かだ。

 ただ、町中にあったわけではない、とも受け取れた。ではどこにあったか。

 町から離れすぎても不便だろうし、あまり堂々とある事を主張するのも問題があると考えたのなら……森の中かな、と思っただけだよ」


「あるかな。昔の話なら、あったとしても取り壊されてるんじゃない? 残ってたとしても、見るようなものなんてある気がしないけど」


 ウィルとしてはあまり乗り気ではなさそうだった。


「地質調査の延長だと思えばいいんじゃないかな。困ったことに他にやる事がないのもホントの事だからね」


 ウェズンとしては、数日ここで無為に滞在するよりは……といったところだった。

 仮に補習を受ける形になったとしても、何もしない事でとんでも補習になるよりは、ある程度やったけどいかんせん微妙だったからちょっとだけ補習な、くらいのところで落ち着いてほしいという願望もある。


 困ったようにウィルはファラムを見た。


 今のところもう一度森に行く事に賛成しているのは提案者のアレスとウェズンだ。

 ファラムがここでウィルについたとして多数決で決まりはしないが、まぁそれでも他の案を考える猶予くらいはあるだろう。


「いいんじゃないかしら。危険はなさそうですし」


 だがしかし、ウィルの望みを砕くようにファラムがあっさりとアレス側についた事で。



 明日、もう一度森へ行く事が決定されたのである。

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