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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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溶け込む率はいかほどか



 不審者がいた建物は、公民館的な代物だった。

 決してどこぞの会社というわけではなく、また一見すると学校のようにも思えたけれど実際は異なる。

 町でのイベント事などで使用されるのは勿論、個人での集まりなどでも事前に予約申請すれば館内の部屋を利用できるようになっていた。


 とはいえ本日は特に建物の利用申請はきておらず、故に誰も使用はしていないとの事。


 でもいたもん! 不審者いたもん!!


 と、建物の管理者に説明すれば管理人は「またまたぁ」とどこか信用していない雰囲気であったが、でもそこの宿の部屋から見えたもん! とほら! あれ! あれ!! とばかりに自分たちが泊まっている宿を示せばまるきり嘘だと思えなかったのだろう。


 確かにそこの宿の三階からなら、うちの建物の屋上が見えてもおかしくはないし……となればハイ嘘! と断じて聞く耳もたないわけにもいかない。


 だからこそ管理人はウェズン達を伴ってカギをかけてあった館内に足を踏み入れたのである。


 本日はどこも使用していないとの事で、建物の中はとても静かであった。

 そもそも仮に利用していたとしても、時間帯的にはもう使用する時間だって終わっていても何もおかしくはないので、どっちにしても静かなのに変わりはなかっただろう。


 普段はどういった事に使われてるんですか? なんて聞いてみれば、奥様方がダンスの練習するのに借りたり、将棋っぽい感じのボードゲームの大会――ただしこの町限定なので参加者の顔触れはいつも同じである――だとかであったり、はたまた集団での予防注射をするのに病院だと狭いのでここを使用したり、と聞けば聞くほどウェズンの前世でもありそうな内容だった。

 場合によったら同人イベントとかにも使われてそうだな、なんて思ったけれど。

 そもそもこっちの世界の同人イベントってあったとして果たしてどんなものになるのか想像つかなかったので、ウェズンは特に何を言うでもなく大人しくしていたのである。


 そうして屋上へとやってくれば。


 まぁ当然ながら怪しい人物が待ち構えているなんてこともなく。

 だがしかし、あからさまにペストマスクが置かれていたのである。


 これにより、ほらーやっぱ誰もいなかったでしょー、と気軽に言える状態ではなくなってしまった。


 明らかに、誰かがここにいたのは確実である。

 建物を利用していたのは昨日の事だが、管理人は建物の使用時間が終わった後、閉館する際に一通り見回りをしている。そこには屋上も含まれていた。


 とはいえ、雨が降った日など天候の状況によっては確認しない場合もあるらしいのだけれど、しかし昨日も今日も天候は良好。故に管理人が昨日、閉館時間になって最後の見回りをした時、屋上もしっかりと確認している。そして昨日はこんな怪しげなマスクなんぞ落ちてすらいなかった。


 見落とすにしたってこんなもん、どうやって見落とせと言うんだという話である。


 不審物ではあるのでこのままここに放置するというわけにもいかず、管理人はとても嫌そうな顔でそのマスクをつまみ上げた。

 念のためにと屋上もぐるっと見て回ったが、屋上には身を隠せそうな場所などそうあるわけでもないのですぐに確認は終わってしまったし、結局収穫と呼べるものは得体の知れないペストマスクだけだ。

 これを収穫と言うのはとても抵抗があるけれど。


 そのマスクどうするんですか? とは聞かなかった。

 聞いてどうする、という思いが強い。


 見た目からして不審物極まりないペストマスクであるけれど、別に毒が付着しているだとか、呪われているだとか、そういう事はないはずだ。とはいえ、あからさまな不審物なので何となくそういうものがあってもおかしくないぞ……!? という思いはどうしたってあるのかもしれない。



「では、心当たりはないのですね?」

「あるわけないでしょう」


 そんなペストマスク装着した人物なんて。


 と管理人は吐き捨てるように言った。

 他の町の人に聞いても? と聞けばそもそもそんなんいたらもっと話題になってるわ、と返ってきた。まぁ確かにそれはそう。


 タックを探す以前に町で情報収集でも~なんてのたまったりしていた時にでも、そんな不審者がいたのであれば噂の一つにでもなってとっくにウェズン達の耳に入っていたに違いない。


 何故って基本的にこの町は平和なところなので。


 毎日何らかの事件が巻き起こるようなところなら今更ペストマスクつけた不審者くらい話題にも上らないかもしれないが、しかし平和な町ともなればそんな不審者がいたらそれこそ秒で噂も駆け巡ろうというもの。

 よそから来た人間に適度に警戒もしただろうし、場合によっては何も知らないよそ者がうっかりそんな不審者と遭遇して万が一のことがあれば、というのを考えれば、まぁ警告の一つもされたかもしれない。


 だがしかし。


 なんにもなかった。

 レストランで昼食をとった時、その後宿でタックの母と会話した時。

 ついでに宿の主人とも話をしたけど、そういった不審者が出た、もしくは出る、といった噂はこれっぽっちもでてこなかった。


 タックが帰ってこなかったのは空腹の結果うっかりメランジェの実を見つけて食べ過ぎたのが原因ではあるけれど、もし不審者の話が広まっていたならばタックの母はもっとたくさん心配していたことだろう。

 不審者、と一言で言ってもそれがどういう不審者かまではわからないのであれば、それこそ幼い子どもを狙う犯罪者の可能性だって大いにあるわけで。

 これが単純に全裸で町中を走り回るだけの変態であったならば、タックが森から帰ってこなかったとしてもそこまでの心配はしなかっただろうし、不審者情報をウェズン達に言う必要もないと判断されたとしてもおかしくはない。

 だが、今回の不審者はどういう傾向の不審者かも不明のままだ。


 というか、出没したのは割と最近なのかもしれない。だからこそまだ目撃者もそういないからこそ、噂になっていないだけなのだろう。


 まぁそんなもん見ちまったウェズン達からすればたまったものではないのだが。


「えーっと、僕らちょっと学園の課題で数日はここに滞在する予定になってるんですけど」


 どうすっかな、と思いつつもウェズンは言葉を選び、とりあえず軽く事情を説明する事にした。

 ただの観光客ではない、というのを明かしておけばもうちょっと詳しく踏み込んだ情報を得られるかもしれない、というのもあった。


 一応今日あった出来事も軽く。

 といってもタックを探しに出かけて、その後森の中でおばあさんを見た気がして、時間的にそろそろ帰らないと危ないかもしれない、と思ったからもう一度森に行った事だとか。

 そしてそのおばあさんが監視者に目を付けられないように、と言い残し突然消えた事だとか。


 公民館を管理しているこの人はそれなりに町に長い事住んでいるようなので、何か詳しい情報とかないかなぁ……? という思いもあった。

 正直な話、情報収集をするにしてもウェズン達が行ける範囲は限られているし、そこで得られる情報から本当に有益なものがあるかは微妙だった。


 とっくにウェズン達が成人していて酒場にでも平然と足を運べるのであれば、適当に酒でも振舞って情報を集める、というのも可能ではあるけれど現状ウェズン達は学生なので。

 あまり遅い時間に酒場に行っても軽くあしらわれる可能性が高い。

 制服でなければ溶け込める可能性もあるけれど、しかしやはり行き慣れない場所というのは雰囲気からして浮く。下手に酔っ払いに絡まれて面倒ごとに発展するのが関の山だろう。


 冒険者ギルドで情報を集めるにしても、それだって場合によってはご近所さんの井戸端会議と同レベルくらいにしか集まらない、なんて可能性も充分にあった。

 平和なところだと物騒な話題がそう転がってるわけでもない。噂が若干変化して同じ内容でもちょっとだけ違う、程度の差はあるかもしれないが、あくまでもその程度だ。


 管理人はウェズンの話を一通り聞いて、あぁ、と小さく頷いた。


「あの子もまだいたのか」

「あの子?」

「森でどんぐりを拾い集めているんだろう? 十年前に死んだんだけどね」

「は?」


「いやちょっと待って? 死んでる? え、幽霊?」


 管理人の言葉に「は?」とアレスが言った直後にウェズンは突っ込んだ。

 ちょっと待ってほしい。

 おばあさんも消える直前までは全然幽霊だなんて思わなかったけど、あのどんぐりを拾い集めていた少女も幽霊? えっ? 全然幽霊っぽくなかったんですけど?


「そもそもどんぐりが落ちていない季節でもずっと集めているからね。それに、それくらいだから騒ぐほどのものでもないんだ」

「えぇ~……?」


 どんぐりの季節っていつだっけ……? とウェズンは思ったが、正直よくわからなかった。

 多分秋じゃないかな、と思うけれど、秋の間に動物にも拾われたりしなかったどんぐりが雪が積もった後、雪がとけて春になってでてくる、なんて事も割とある事ではあるので。

 そういう意味ではオールシーズン落ちてる気がするのだ。


 なのであの森でどんぐりを拾い集めている少女が幽霊だとは勿論思わなかったし、どんぐりを探していると言われても何もおかしいと思いもしなかった。


 えっ、そんな幽霊少女から幽霊老婆の話聞かされたの……?

 人口密度っていうか幽霊密度どんだけあるのあの森……という気分である。


 某害虫は一匹見たら三十匹、と言われているくらいなので、幽霊だって一人見かけたら他にもいると思え理論が通用するはずなのだ。

 しかも気付かないうちに二名にも遭遇している、というのであれば、正直もっとたくさんいると言われたって驚きようがない。


 色々と話を聞きたいのは言うまでもないのだが、管理人はまず建物を施錠し、冒険者ギルドに行くと言ったので。


 一先ずウェズン達もついていく事にした。

 ペストマスクだけ落っことされていったとはいえ、不審者がいる事に変わりはないので。

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