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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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そして不審者



 観光客で賑わってそう、とは言うものの実際はそうでもない町なので、日が沈みつつある時間帯ともなれば家路につく人も増え、案外外は静かなものだった。

 湖のあたりにいた恋人だろう人たちも、まだ数名残ってはいたけれどそれでも昼間に見た時に比べればその数は少ない。


 バーベキューやらをしていた人たちもとっくに片付けて撤収したらしく、そこそこ賑わっていた湖は随分と静かになっていた。


 一部の酒場などはこれからが本番だとばかりに賑わう様子を見せていたが、それ以外の場所は徐々に落ち着きつつある。これから家に帰るだろう人たちが移動している道はまだ騒がしくもあるけれど、そうでない場所は昼間の賑わいが嘘のようだった。



「――で、どうする?」


 宿に戻り、とりあえず一度ウェズン達の部屋に集まって話し合いを開始する。


「この場合のどうする、っていうのは」


 自分のベッドに腰を下ろして言ったアレスに、ウェズンは椅子に座っているウィルとファラムに一度視線を向けてから指をピッと立てた。


「まず一つ、あのおばあさんが言っていた監視者とやらを調べる。

 二つ、あのおばあさんが本当に幽霊かどうかを調べる。

 三つ、何かやばい感じがする事には首を突っ込まず、お茶を濁すようにここら辺の水質、もしくは地質調査だとかをして課題をこなした事にして数日後に帰宅する。

 ……の選択肢のどれを選ぶか、で合ってる?」

「大まかにはそうだな」


 うむ、とばかりに頷くアレスにウェズンは何とも言えない顔をした。

 学園に戻るまでまだあと数日はここに滞在しなければならない。

 だからこそ、何かはしなければならないのだ。

 何もしないで戻れば課題は失敗とみなされて、成績に響いてくる。ある程度わかりやすい補修で済めばいいけれど、場合によってはとても面倒なお使いを押し付けられないとも限らない。

 自主的に面倒そうな課題に自ら取り組むか、はたまた学園に戻ってから補習と言う名目で面倒なお使いをさせられるか……最悪課題が不可判定くらって両方、なんて可能性もある。


 考えれば考える程面倒だな、という感想しか出てこなかった。


「町中調査、と考えればどれも同じようなものではある。監視者、幽霊かもしれない老婆、それらを調べるというのは地質や水質調査とは方向性が異なれど、まぁ調べものである事に変わりはないわけだし」


 そう言われると確かに……という気がしてくる。

 いや方向性が異なるだけで結構な違いだよ、という気持ちもあるのだが。


「ですが、調べ方次第では最悪町を追い出される可能性がありますわよ」


 ファラムが言う。


「おばあさんの幽霊、はまぁ、大丈夫だと思うのです。実際に消える瞬間を見て、気にならないとか嘘ですもの。大抵の人はそれなりに真相を求めるでしょう。

 ですが監視者の場合は……」

「何を監視しているかによる、ってことだよね」

「えぇ、そうです。町の警備を担っている、とかであれば悪事を働こうとしている者を監視している、とかそっち方面なので、まぁ、場合によっては警告だけで済みます。

 ですが、町そのものを監視している、と言う場合」


「同じじゃないの?」

「違いますよ。町を監視している、という立場としては同じかもしれませんが、町を守るために監視しているのならともかく、町の人が何かおかしなことをしないか、を見張っている場合の監視者であったなら背後に別の存在が浮かんでくるわけですし」

「別の」

「たとえばそう、ほら、あったでしょう。テラプロメ、でしたかしら」


 ここでその言葉が出てくるとは思わなかったウェズンは思わず「あ」と声を漏らしていた。


 両親の故郷だとか、何かこう色々闇の深いところという認識はしていたけれど、それ以上の事は考えていなかった。もしかしたらいつか行く可能性があるかもしれない、とは言われていたし、ウェズンとしても何となくそんな気はしているのだけれども。


 こんな、平和そのものな町でその都市の名が出てくるような事になるとは思ってもいなかったのだ。


 空中を移動して世界の各地を観察というか観測しているとか。

 探しものに長けている、とか。


 聞いてはいた。

 空中を移動する都市とか、近未来要素のあるファンタジー作品にありがちだな、なんて思ったりもしていた。

 だが、その存在は大っぴらなものではない。

 あくまでもごく一部しか知らない事になっている。


 そんな存在が、ここで名前が出てくるなど想像すらしていなかった。


 だがしかし言われてみればその可能性はゼロではないな、と思えてしまって。


 父から――ウェインから聞いた限りではテラプロメは神を探しているのだったか。

 神前試合がある時だけ、道が繋がると言われているがその時以外でも神へ通ずる道を探せば。

 神を倒してしまえば。

 そうすれば、この世界は少なくとも神が滅ぼすために手を下したあれこれからは解放される。


 神が死んだと同時に道連れとして世界が滅ぶ可能性もあるのだけれど、そうなったらその時はその時だろう。

 ともあれこの世界最大の敵は現状神である、それは確かなのだから。


 そんな、神様がいるだろう場所へ通ずる何か、を探すためにテラプロメが各地に人材を派遣していないとも限らない。レッドラム一族なんていう生体浄化機を駆使してまで存在し続けているようなところだ。

 ただ空中を移動するだけの都市だけで探すなどしているはずもないだろう。


 各地の異変を現地で調査し、その情報を都市へ送る。それくらいはやっていても何もおかしくはない。


 だが基本的にテラプロメの存在はあくまでも秘匿状態にある。

 下手にこちらがその存在に探りを入れていると知られたら、向こうだって何らかの手を打ってくる事は容易に考え付いた。



「その可能性はゼロ、じゃないなぁ……困ったことに」


 だからファラムの言葉をウェズンは完全に否定できなかった。


 基本的に向こうからウェズンにちょっかいかけたりはしない、と言われているが、しかしこちらから手を出した場合は話が別とも言われている。


 ウェズンはどちらかといえば父側の血の方が濃いだろうと言われているので、生きた魔晶核扱いをされるかは微妙なところだが、自分を人質に母をおびき出すとかはされそうだなと思わないでもない。


 いや、母も母で守られているだけのタイプではなさそうだから、もしかしたらあっさりとウェズンを見捨てる可能性もあるかもしれないのだけれど……ただ、見捨てるにしても相応の理由がありそうなのでその場合は恨むつもりはない。


 ウェズンが生まれ持った立ち位置とでも言おうか。

 それがこんなところでじんわり足を引っ張る事になるとは思ってもみなかった。


 だが、まだテラプロメが関わっていると確定したわけでもないのだ。

 実は無関係という可能性も勿論ある。

 それなのに勝手にテラプロメの存在を考慮してこの町での何もかもに関わらない、という選択を選んでしまうのもどうかと思える。


 テラプロメが関与しているかどうかの有無さえハッキリしていないので、こちらとしても今一歩踏み出し切れない。


「……とりあえず、監視者がどういう存在なのか、この町公認なのか非公認なのか、本当にテラプロメが関与しているかどうか、調べるにしてもそこら辺慎重にならないといけないと思う。

 まずはあのおばあさんについて調べた方がいいんじゃないかな…………ってぇええええええ!?」


「なになにどったのウェズン!?」

「どうしました!?」

「突然叫んで一体何、が……」


 テラプロメが関わっているのであれば、こっちの行動もそれなりに慎重さが求められる。

 初っ端から町の人に監視者について聞くのはあまりにもリスキーだと思ったので、まずは森で出会ったおばあさんについて、幽霊説もある事だしそちらから調べていくのが無難なのでは、と意見を述べたウェズンであったが、見てしまったのだ。


 本当にたまたま、偶然だった。


 言いながらも窓の外に視線をちらっと移動させただけだった。そこに深い意味なんて何もない。

 けれども。


 窓の外から見えるのは、何の変哲もない町並みで、先程から比べれば家路についた人たちもそれなりに落ち着いてきたのか通りを行く人の数だって大分減っている。

 薄暗くなってきたからか、街灯がぽつぽつと淡い光を照らし、それが余計に寂しさを強調しているように見えた。


 だが、通りはそんなものだったが、ウェズンが見たのは立ち並ぶ建物の方だ。

 あまり高い建物はこのあたりにはないけれど、それでもその建物の上の方に誰かがいるのが見えた。


 屋上に誰かがいたとしても、それは別におかしなことではない。


 あまりにも高層系の建物であったなら流石に危ないのでは……? と思うけれど、バカみたいな高層マンションだとかビルがあるわけでもないところだ。精々アパートとかマンションとかで言うところの五階建てくらいの高さがこの町にある建物の一番高いところと言えなくもない。


 そういう意味では、学校規模の建物と同じような感じかもしれない。

 建物によっては天井の高さが異なるものもあるので、集合住宅の四階と学校の四階だと学校の方がやや高かったりする事もあるので。


 ともあれ、そんな建物の屋上に人がいた。


 時間が時間なので、もしかしたら屋上を施錠するため一応点検してそれから戻ろうとしているところ、と思えなくもない。

 ない、のだが。


 恐らくは違うだろう。



 ウェズンが何を見ているのかとその視線を追うようにアレスたちも窓の外に視線を向けて、そうしてそこで黙り込んだ。


 屋上にいるその人物は、ポンチョなのか外套なのか微妙に判別つかない布にくるまっていた。おかげで体格もよくわからないし、服の下に武器を仕込んでいると言われれば納得するような出で立ちである。

 首から下はそういう感じで、場所によってはちょっと不審者に思われる可能性もある。


 だが、そこまで怪しいかと言われれば別にそうでもない。

 学園は黒を基調としたコートだが、学院は白を基調としたポンチョが支給されていた。まぁ、聞けばコートもあるとの事だったが。


 冒険者を名乗る者たちだって、一応見た目あからさまに武装していたら周辺住民の不安をあおる、とかそういうのも考えて外から見えないように、みたいな配慮で隠すような事もある。

 どちらかといえば敵対する相手に自分の武器を把握させないためとかそっちの理由が強いかもしれないが。


 だが、その人物は違った。

 ウェズンが思わず叫んだ原因は首から上にある。


 いかにも怪しいマスクをかぶっていたのだ。


 鳥の頭に見えなくもない。あれは確か……ペストマスクと言っただろうか。ともあれそんな見た目のブツを装着しているのだ。

 真昼間に見ても怪しいが、日が沈みかけたこの時間帯だと尚怪しい。むしろこれからが活動時間だとして、一体どんな悪事を働くんだと思ってしまう。偏見と言われようとももうそうとしか思えないのだ。



 そんな怪しい人物を見て驚いて固まったのはほんの数秒だった。


 ウェズン達はそれぞれが何を言うでもなくお互い顔を見合わせて、そのままこくんと頷く。


 そうして速やかに部屋から出た。


 おばあさんが幽霊かどうかだとか監視者がどうだとかいう以前に。

 まずはあの不審者についてはっきりさせなければならないと判断したのだ。


 もしあれが監視者であったとして流石にテラプロメとは関係ないだろうと思う。だってあまりにも怪しすぎて目立つのだ。そんなもん普段存在を公にしていないテラプロメが良しとするはずもない。


 ある程度今後の方針を固めてから夕飯にするつもりだったが、とりあえず夕飯はお預けになりそうだった。

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