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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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森アゲイン



『そういえばさっきの森に老婆がいたんだが』


 と、ウェズンの脳内で突然声が聞こえたのは本当に何の脈絡もない状況での事だった。



 一応、以前にもこの声は頭の中で響いている。


 やれ力が欲しいかだのとそこはかとなく中二病みたいな感じの事を言ってみたりだとか、ジークと戦った時に身体を貸したりだとか。


 ジーク曰くの兄上らしいのだが、ウェズンはそういやこの声の主の事をこれっぽっちも知らなかった。


 むしろ、あれ以来うんともすんとも言わなかったのでその兄上とやらはジークが兄恋しさに見た幻覚とか何かだったんじゃないか? とまで思っていたくらいだ。


 ウェズンの中にいる、とはとてもじゃないが思えないし、今こうして声をかけてくるまでその存在をウェズンだってすっかり忘れていた。


 町の中をぶらぶら歩きながら、そこら辺の人たちの会話に耳を澄ませつつ、何か事件の匂いがあったら一応話を聞かせてもらったりしていたものの、とても平和な町なので。

 何らかの事件の予感がしても、既に解決した後だとか、改めて聞いてみたら全然大した事なかった、なんてオチばかりだったので、マジでレポートどうしよう、という空気すら漂い始めていたくらいだ。


 だがそこで、突然ウェズンの脳内でジーク曰くの兄上がそんな事を言い出したので。



 思わずウェズンはぴた、と足を止めてしまったのである。


「ウェズン様? どうかいたしましたの?」


 ウェズンが立ち止まった事で、すぐさまファラムが問いかけてくる。


「あ、いや、えっと……さっきの森でさ、おばあさん見た人いる?」

「おばあさん、ですか?」


 きょとん、とした顔をしているのでファラムはきっと見ていないのだろう。

 見ていたならばそんな反応をせずにそういえばいましたね、とか言っているに違いないのだから。


 ウェズンとファラムがそんな話をし始めた事で、アレスとウィルも少しばかり先を進んでいたけれどあえて引き返してきた。


「どうかしたのか?」

「それが、ウェズン様がさっきの森でおばあさんを見たか聞いてきたので」

「老婆? いや、記憶にないが……いたのか?」


 アレスも見ていないらしい。ついでにアレスはウィルに視線を向けたが、ウィルはそっと首を横に振った。

「ウィルは見てないよ。あの時はタックを探してたわけだし、それっぽい声が聞こえてそっちに意識割いてたから」


 まぁそうだろうな、と思う。


 ちなみに一度こうして戻ってきた時点で、ザインとシュヴェルとはお別れしている。

 故に、この場にいるのは四人だけだった。

 まぁ往来なので周囲には町の人たちが行き来しているのだけれども。


 とりあえず邪魔にならないように道の端に寄ってウェズンは誰も老婆を見ていない事を確認する。


 ザインとシュヴェルは見ただろうか。いや、恐らくは見ていない気がする。

 見ていたならば、それはそれで何かこう……言ったんじゃないかな、と思うのだ。

 そうでなくともタックを連れて帰ってきた後か、途中で見かけたならば何らかの反応があって然るべきだと思われる。


 だがそういうのはなかったので。


(誰も見てないっぽいけどほんとにいたの?)


 と思ってしまう。


 けれども兄上が、ジークが何かもう尊敬してるんだか何なんだかわからんけど、ともあれ兄上がだ。

 突然そんな冗談を言うとも思えない。


 なのでまぁ、


「見た、気がするんだよね……気のせいかもしれないんだけど」


 兄上の事を説明しようにも、正直ちょっとどう説明すればいいのかさっぱりなので。

 ウェズンは自分は見ていないけど見た気がする、というふわっとした発言をする羽目になったのである。


 ジークがウェズンの事を兄上だのなんだの言ってたのはアレスたちも知ってはいるけれど、しかしウェズンの脳内で声が聞こえるだとかの説明はしていないので、まずそこから説明するとなると最悪ウェズンは頭の病気を疑われかねない。流石にそれは勘弁してほしかった。


 大体他の誰にも証明しようがないのだ。

 ジークなら一も二もなく信じるだろうけれど、それ以外が信じるかとなると流石に厳しい。

 だってその兄上の声とやら、ウェズン以外には聞こえていないのだから。


 一体この声どこから……いや、自分の脳内に直接語り掛けてきてるのはそうなんだけど、自分の頭の中に脳みそが二つになってるとかでもあるまいし……なんて、実際にあったら割と怖い事を想像しつつも、この事自体はウェズンも受け入れている。

 大体異世界転生した挙句魔法がある世界だ。この時点で何でもありでは? と思っている。


 まぁ、だからといってなんでも有りだからこの世界の人たちが何でも信じてくれるとは思っていないのだが。


「じゃあもう少し森の中を探索してみようか」


 正直町で誰かに話を聞いたところで、これといった情報が得らえる気がまるでしない。

 それもあってアレスは早速とばかりに森へ向かう事を提案した。


 タックを探すのにもう少し時間がかかっていたならば、そろそろ夕方になって日が沈むから……とか言ったかもしれないが、思った以上にあっさり発見して連れ帰ってしまったので、正直まだまだ明るい時間帯である。

 もし本当に老婆がいたのであれば、これから暗くなるだろう森の中にいるのは危険な気がするし、見間違いならそれはそれで。他に優先してやるべきこともないから、とりあえずじゃあ探してみよっか、という流れになった。



 森に入ってすぐのところで、どんぐりを拾っていた少女と遭遇したのでお婆さんを見ていないか聞いてみる。


「……おばあさん? 森の中に? さぁ? そもそもそのおばあさん、生きてる人?」

「怖い事言うのやめてもらっても?」

「えぇ……? そう言われても……だって森の中におばあさんの幽霊が出るって噂は昔からあるもの」


「あるのかよ」


 正直今初めて聞いたわ、としか言いようがないのだが、アレスたちの視線が一斉にウェズンに向けられる。


「つまり、その……見たのか?」

「気のせいだと思いたいなー」


 ウェズン本人は見ていない。

 見たのは兄上だ、と言いたい。

 だが言ったところで……という話である。


 生きてるおばあさんじゃない可能性が出てきて、なんというか確認しに行きたくねぇー……という気持ちが大きくなる。


 でも万が一生きてるおばあさんだった場合、そろそろ暗くなるし森の中は舗装された道があるでもないので、足場が悪い。暗くなってきてうっかりそこらに躓いて転んで怪我をして帰るに帰れない……となった場合を考えると見なかったことにして帰ろうと言うのもなんとなく気が引ける。


「大丈夫よ」


 少女が言う。


「噂のおばあさんの幽霊は今のところ誰かを殺したっていう話ないから」


 にこ、と微笑んで言っているが、しかしそれ、本当に安心していいやつか? とも思うわけで。


「とても嫌な事言うけど、殺人事件って死体が出ないと殺人事件にならないんだよ」


 つまりおばあさんの幽霊が誰かを殺したとしてもその死体が出ない限りは殺していないという理屈が成り立ってしまう。

 まぁ、森の中で誰かが死んだとかいう物騒な話がないのは薄々察しているが……


 もし誰かが殺され――たかはさておき、死んでいたのであればタックやチェザといった町の子どもたちが森の中で遊ぶなんて事、禁止されているはずだ。もっとも、禁止されていたとしてもタックは何か行きそうな気がしている。


 ともあれ、ここでぐだぐだ言っていても仕方がない。

 ここまで来たのだ。一応ざっくりと確認だけはするべきだろう。


 そんな気持ちでウェズン達は再び森の中に足を踏み入れたのである。


『ちなみにさっきのメランジェの実があったあたりから少し離れたあたりだったな』


 ウェズンの脳内で兄上の声がする。


 それが事実なら、誰も気づかなかったとしてもおかしくはない。

 瘴気汚染度が低く魔物の心配もそこまでないところだ、そしてそこでタックを見つけてしまえば、意識が周囲に向いていなかったとしても仕方がない。


 兄上が気付いたのは完全に他人事だからなのだろう。


「タックを見つけた場所にもう一回行っても?」

 ウェズンが言えば、他に目的地があるでもない三人が反対する事もなく。

 確かあっちだったね、なんてウィルが言いながらサクサクと進んでいく。

 そうして進むことしばし。タックを回収しただけで別段周囲を綺麗に片づけるだとかをしたわけでもなかったので、折れた木の枝とちらばるメランジェの実、というわかりやすい所まであっさりと到着したのである。

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