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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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救出劇



 湖へ近づけば、涼しい風が吹いてこれまた心地よい感じであった。


 あー、普通に旅行として来てたならなー、なんて思わないでもなかったが、ともあれ彼らは更に奥――眼前に広がる森へと視線を向けた。


 まぁ、普通の森だ。


 別段昼なお暗く鬱蒼としている……なんて感じでもなく、確かにこれくらいの森なら子供が遊びに行くにしてもそう危険もないだろう……と判断されそうな感じではあった。


 現在瘴気汚染度は低いので、魔物も発生することはないだろうし遊びに行かずとも何となく森林浴で軽く中に立ち入る大人もそれなりに居そうではある。


 実際、少し入ったところでどんぐりを集めていた少女がいた。


「えぇと……すいません」

「なに?」

「僕ら頼まれて人探しにきたんですけど、タックっていうこの町の子供見てませんか?」

「見てないわ。あの子なら普段もうちょっと奥の方で遊んでると思うから、見かけるとして帰る時かこれから森に入るときくらいだと思うし」


「そうですか、ありがとうございました」


 ぺこり、と頭を下げて少女が示したもうちょっと奥とやらへ移動する。


 進めば進むだけ、どこまでも普通の森だった。

 魔物の気配も何もない。

 割とこういったところでトレントだとかの擬態が上手な魔物がいる事が常識、みたいになりつつあったウェズンにとって、何もない平和な森というのはとても新鮮だった。


 まぁ、瘴気問題が解決すればそもそも魔物は発生しないのだろうし、これが本来の状態なのだと思えば……

 なんて思いながらも、そもそも劣化した魔道具からの瘴気発生は今でも普通にあるわけなので、完全に解決するとなると更に時間がかかりそうだとも思い直す。


 魔法を使わず科学文明に変更したとすれば瘴気は発生しないかもしれないが、その場合今度は大気汚染とかが問題になるんだろうな、と前世の記憶があるウェズンとしては思うわけで。

 それなら浄化魔法で瘴気を浄化した方がマシな気がするので、世界がガラリと変わることは恐らくウェズンが生きている間はないだろう。


「どうする? 分かれて探すか?」

「効率を考えるならそれもいいけど、でもこの森の規模がわからないから下手すると僕らも迷う可能性あるよね」


 ザインの言葉にウェズンは何となくそう返していた。


 勝手知ったる近所の森、とかであれば別に今更迷子も何もないだろう。

 タックはまさにその状態だ。


 けれどもウェズン達は違う。

 ここに来たとはいえそう何度も訪れたとかではないし、瘴気汚染もほとんどない平和な場所とはいえ、だから絶対的に安全と言うわけでもない。

 魔物という脅威はなくてもうっかり森で怪我をしないとも限らない。

 しかも大勢でタックの名を呼びながら探したとして、果たしてタックはすんなりと出てくるだろうか?


 知らない大人――まぁ、世間的にはまだ未成年みたいな認識をされているけれど、タックの年齢からすればウェズン達など大人とそこまで変わらないだろう――が名前を呼んでいるとして、母親に頼まれたとか言ったとしてすぐに信じてもらえるかも微妙な気がする。


 大人の言う事を素直に信用するような子であるならば、そもそも親との約束であるご飯の時間までには戻ってくる、というのも普通に守られている気がしたからだ。

 チェザの話からしても、タックはどちらかといえばやんちゃなタイプだろうし。


 見知らぬ相手だしもし本当のことを言っていたとしても、それなら自分に危害を加えてくる心配はない、と判断したら勝手に遊び相手として認識されそうだ。

 もっとも、それだけの元気がまだタックにあるかは知らないが。


 お腹空きすぎて動けない、とかであれば素直に戻るだろう。その場合は誰かがタックを運ぶ事になりそうだが。


 どちらにしても、別行動で捜索した方が確かに効率的ではあるのだけれど、タックを見つけたからといって仲間内ならモノリスフィアで連絡もできるかもしれないが、ウェズンからはザインとシュヴェルに連絡は取りようがない。

 アレスたちならモノリスフィアに彼らの連絡先とかあるのだろうか……? と思いはしたが、学園に来る時点で、しかもどうやらアレスたちは彼らを攻撃して殺したつもりでやってきているので、連絡先を残している可能性は低いな……とウェズンは思い直した。


 これが死んでも大好きな親友で、とかなら連絡先も中々消せない、なんてあるかもしれないが、そうでもないならいつまでも残そうとは思わないだろう。知り合いの数が少なくて別に残してあっても支障がないならともかく、クラスの連絡網としても使っているのだ。

 大勢の連絡先が登録されているとなると、個人で連絡をとる時になんというか目当ての相手の連絡先を探すのにも無駄に時間がかかりそう、となればどうでもいい相手の連絡先などさっさと消している。


 別行動して仮に誰かがタックを見つけたとして。

 その場合モノリスフィアで連絡が取れる相手、つまりこの場合は学園側と学院側に分かれるわけだが――そうじゃない方はどうするのか、となると別行動するのにも……となるのはお互いに理解できた。


 大声で見つけたぞー! なんて叫ぶにしても、その声が届く範囲に誰かしらいればいいがそうでなければ延々大声を出さなければならなくなるし、正直腹から声を大きく出せそうな相手ならいいが、ファラムやウィルが離れた相手にも聞こえるほどの大声で皆に知らせる、というのはどうにも難しい気がした。

 悲鳴だとかであればともかく、普通の言葉だとそこまで聞こえないのではないか、と思える。


 かといって、ザインとシュヴェルをそれぞれこちらのグループの組み分けにまぜるにしてもだ。

 ウェズンは最初から学園側、つまりザインとシュヴェルにとって敵対する相手である。

 ではそれ以外。アレスたち元学院側。

 こちらも学院を出る時にワイアットの仲間と見なした相手を攻撃して大半を仕留めているので、まぁザインとシュヴェルからすれば普通に敵である。


 現時点で死ぬまで戦うつもりはないようだけど、何かが切っ掛けになって……という可能性がないわけではない。


 正直全員で行動した方が安全な気さえしてきた。


 それにいくら平和な森とはいえ、入ってしまえばこれといった特徴がある目印が見えるわけでもない。

 似たような景色が続くので、地元民ですらないウェズン達が迷子になる可能性は本人たちが考えている以上にあるはずだ。


 まぁ、迷ったとして、魔法あたりで空を飛んで上空から移動すれば無事に帰れるけれども。

 だがしかしそれをやると、町の人たちに無駄に注目を集めてしまうかもしれないし、他の面々から「あ、迷ったんだ」と思われるのでできるなら最終手段。

 ザインやシュヴェルがそれをやれば、アレスたちはにこやかに「迷ったんだね。英断だと思うよ手遅れになる前に戻ってこれたなら」とか言いそうな気がするし、仮にウェズンがそれをやった場合アレスたちは何も言わないかもしれないが、ザインとシュヴェルのどっちかは揶揄ったりしてくる可能性が高い。


 ……考えれば考えただけ、このメンバー色々と終わってないだろうか。


 結局それぞれが考えた末に、距離を開けつつもお互い横一列で進むこととなった。

 離れて、といっても肉眼でしっかりとお互いの姿が確認できる程度にしか距離は開けない。

 そうしてそれぞれがまっすぐ進んでいけば、まぁ、誰かしらタックを見つける事になるかもしれない。見つからなかったら位置を調整してまた同じように移動するしかないだろう。


 それぞれが適当に声を出しながら探すにしても、ふとした瞬間見失うだとか、木を避けて移動していたらいつの間にか随分と一人だけ離れてしまっただとか、そういう状況は普通に有り得た。


 ロープやリボンを目印に木に結ぶというのも考えたけれど、最悪他に森に入った誰かがそれを解かないとも限らない。そうなれば目印があるはずだと思っているこちらは目印がないからここはまだ来ていないと錯覚する事になってしまう。



 そうしてそれぞれが慎重に進む事しばし。


「なんか今聞こえたー!」


 というウィルの声が離れた場所から響いた。


 ウェズンの隣は片方がアレスで、もう片方がファラムである。

 ファラムの隣がウィルで、その隣はいない。端っこである。


 一同足を止めてとりあえずウィルの方へと近寄る。


「聞こえたって何?」

「なんか人の声? うめき声みたいな感じの。とにかくあっち」

 びし! と指さすその先は、ウェズン達が進んでいた方向からやや横にずれた方角だった。ウィルの耳がその誰かの声らしきものを捉えなければ真っすぐ進んでいてもその誰かに気付けるかは微妙なところだったかもしれない。


 森に入ってすぐの所でどんぐりを拾っていた少女のような、タック以外の誰かかとも思ったがしかしあれきり他の誰かを見る事もなく。

 進んでいくと、ウェズン達の耳にも小さなうめき声が確かに聞こえたのである。


 声からしてこどもで、それも男の子である、と気づいて。


 思わず全員が早足になった。

 お腹が空いて動けない、であればまぁ、可愛いものだがもし怪我をして動けず帰るに帰れない、のであれば急いだほうがいい。


 そうして向かったその先でウェズン達が見たものは。


「うぅ、う……」


 折れた木の枝の下敷きになっている少年の姿であった。ついでに、その周辺には枝に生っていたのだろう赤い実が散らばっている。


 なんとなく、何があったかを察した一同であった。

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