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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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捻じれた童話



 スウィーノは早々に後悔し始めていた。


 確かにちょっと、組み分けする際にクジに細工をして自分以外のメンバーは皆女性になるようにはした。

 ちなみにどういう細工をしたかは企業秘密である。バレたら次から使えなくなるので。

 自分以外の登場人物が全員女性であるならば、どうにかすればまぁ、ハーレムとまではいかずとも両手に花、くらいにはなるんじゃないかなぁ、と淡い希望を抱いたのである。


 スウィーノは黙ってさえいれば顔は悪くない、という評価をされていたが、いかんせん女子にモテたすぎて色々と拗らせ、あいつ顔はいいけどそれ以外はね……という評価を女性陣から下されていた。

 ガッツきすぎて女性からドン引きされる典型であった。


 あまりにもアレすぎてスウィーノの知り合いの女性などは、ちょっとはその下心をもうちょいでも隠せ、と忠告まで親切にしてくれたのだが、その言葉を参考にできた試しがないのは現時点でお察しであろう。

 色んな意味で哀れな男、それがスウィーノである。


 ナレーションという役割、つまり話を進める相手がイアだった事もあって、スウィーノは話が始まった時点ではまだそこまで後悔などするはずもなかった。

 見た目も言動も割と素直なイアなら、事前にスウィーノがハーレムを築きたいとかどうしようもなくクソな頼みであろうとも、もしかしたらちょっとくらいは汲んでくれそうだなぁと思ったので。


 よくわかんないけど現実でそれができないから、お話の中だけでもせめてって事? とか鋭い言葉のナイフが飛んでこようとも、それでもイアなら何かうまい事どうにかしてくれそうな気がしていたのだ。


 これが別のナレーターであったなら、まず間違いなくうるせぇてめぇにハーレムは億年早いとか言ってバッサリ切り捨てられていた事だろう。特にスウィーノと同じクラスの女子生徒なら猶更。


 スウィーノに対する不満たっぷりの視線と、イアに対するそいつの言う事聞かなくていいからね? という目線がたっぷりと交わって、そうしてイアは何かを察したようにぐっと親指をおったててくれた。

 誰に向けてのものかはわからなかったけど、それを最初スウィーノは自分に向けられたものだと思っていたのだ。


 流石に登場人物全員が王子のハーレム要員になれるか、となるととても微妙だけれども。

 まぁそれでも最低三人から五人くらいは話の運び方次第でいけるんじゃないか? と期待もしたわけで。


 ところがいざ魔本を発動させて登場人物として本の中に入ってから、スウィーノはなんとなく嫌な予感がし始めていたのだ。具体的に何がどう、というわけではない。

 ただ、なんというか、水妖の姫が人間になる薬をもらいに行くために海の魔女の元へと出向くのだが、それが少しだけ本来のストーリーより早いのが気になった。

 普通に話を進めれば王子が最終的に結ばれるのは隣国の姫だ。

 しかしそれは普通のハッピーエンドで、ハーレムとは言い難い。


 水妖の姫からすると恋焦がれた王子と結ばれないが故の悲恋であるが、王子目線で見れば一応お互い好きである相手と結ばれるのだ。そういう意味ではハッピーエンドだ。その陰で、結ばれない恋によって儚くなった水妖の姫がいようとも。


 王子の二度目の登場シーンは、再び船の上だった。ここから嵐がやってきて、突然の大波に船は大きく揺らいでその拍子に王子は海へと落っこちる。

 話の流れとはいえ、流石にちょっと精神的にきついシーンである。

 ここで死ぬことはないとわかっていても、流石に足もつかないような深い海に落ちるのだ。

 ここで助かる事もわかっていても、それでも怖い物は怖かった。


 ここで水妖の姫に助けられ、どうにか陸地に戻されて、そこで自分は水妖の姫に助けられたことに気づかないまま別の誰かに救われたのだと思い込み、数日後にその救ってくれた人と出会えたりしないだろうかと思いながらも浜辺に行き、そうしてそこで人の姿になった水妖の姫と出会う――のが本来の話の流れであるのだが。



『海に投げ出された王子を水妖の姫は荒れ狂う海の中をすいすい泳いで助けました。人間が水の中で呼吸が出来ない事を水妖の姫は知っています。だからこそ、彼女は事前に用意してあった魔女からの薬を王子に飲ませました』


 ナレーションに従って、水妖の姫がスウィーノの口に魔女印の特性薬を突っ込む。口移しで飲ませるなんて優しい対応はない。瓶ごといった。


『するとどうでしょう、王子の身体はみるみるうちに水妖の姫と同じような形へと変化していくではありませんか』


 ナレーションの言葉に反応し、スウィーノの身体が水妖の姫と同じように、上半身はそのままに下半身だけが魚のようなものへ変化していく。

 これには内心でスウィーノも焦った。


 実際に本当に身体がそうなってしまった、というわけではない。魔本から出ればきちんと人の形をしているのは確かなのだが、しかし話の内容の中でとはいえ突然の種族チェンジ。

 しかも本来の話にはない流れ。

 えっ、これどうなるの!? という気持ちになるのは当然の事だった。


『水妖の姫は王子が何度か船に乗ってこのあたりを移動していたのを知っていました。だからこそ、会う機会はまたあるのだと信じてその時のための準備をしていたのです。

 人から水妖へと変化させられた王子は海の底へと連れていかれ姫のお相手として丁重に持て成されました』


 本来の流れにはない展開。

 王子がそうなる、というのはなかった。


 本来の流れだと、水妖の姫が人になった姿と出会い、そうしてその美しさに惹かれ行くアテがなさそうな姫を王子は城で面倒を見ようと連れていく。

 しかし人の姿を得るための代償として声を失った水妖の姫とのコミュニケーションがうまくいかず、最初は良かったがそのうち意思の疎通ができないことに苛立つようになっていった王子は水妖の姫を疎むようになる。

 城から追い出そうにも自ら連れてきた挙句、人の世界の事に疎い姫は最初からそうであったので。

 わかった上で連れてきたものだと思っていた城の者たちから自分が悪く言われるのを恐れたのである。


 最初のころと比べると会う時間は減ったけれど、それでも少しずつどうにか理解しようと試みていた王子であったが、しかし隣国の姫と出会い気付くのだ。

 会話ができて、意思の疎通が円滑にできるというのはなんと素晴らしき事なのか……と。


 相手の言いたいことを探り、自分が伝えたいことを本当に伝わっているか気にしながらの水妖の姫とのコミュニケーションは、思っていた以上に王子にとってストレスであった。

 結果として水妖の姫とはますます心の距離が開いてしまい、その間に隣国の姫とはどんどん仲睦まじくなっていく。そうして、王子は決めたのだ。

 どこの誰とも知らぬただ美貌を持つだけの、言葉も通じない女よりもやはりまともに会話が成り立つ相手こそを選ぶべきだと。


 水妖の姫が海の魔女からもらった人になる薬は王子と結ばれなければ彼女の存在を消滅させる事にもなりえるものだった。

 何せ種族を変えるというのはそう簡単なものではない。

 しかも姫が人になるとなれば尚の事。姫の幸せを願う者は大勢いたが、しかしそれはあくまでも水妖としての姫の幸せであり、人になって本当に幸せになれるのか? という思いを持つ者は大勢いたので。


 魔女は姫に確実に幸せになるための勝算はあるのかと薬を授けるときに問うたのである。


 姫は、絶対に結ばれてみせると意気込んではいた。けれど今まで大事に大事に育てられていたからこそ、そうなればいい、という願望こそあれどもし上手くいかなかった場合というのは意識の外だった。無意識にそんなことにはならないと思い込んでいた、と見ればそれまでだ。


 だからこそ、王子が隣国の姫と結婚を決めたという事実に酷く傷ついたし、このままでは王子と結ばれない事で自分の存在は消滅してしまう事が決まってしまった。

 今からでもどうにかならないかと足掻いた姫ではあったものの、その頃には王子の気持ちはすっかり隣国の姫に向けられていて、水妖の姫の事は言葉も通じず行くアテもない哀れな娘という認識でしかなかった。人間の世界に疎いが故に、そしてその美しさ故に、どこかで閉じ込められていたのではないか、という推測も王子の中ではあったので手酷くして追い出そうとまでは思わなかったのだ。


 この時点で王子は水妖の姫の事を疎みつつあったけれど、別に殺してやろうだとか死んでしまえばいいだとか、そこまでは思っていなかった。ただ、もしかしたらその美しさ故にどこかの家で愛玩動物のように閉じ込められていたからこそ、世間知らずのままであったのだろうだとか、何かがあって外に出る事ができたが今まで閉じ込められていたのであれば行くアテなどなくても仕方がないのだろうな、とか。

 そういう風に思っていたのだ。鬱陶しいと思う事が増えても、それでも一般常識を教えて独り立ちできるようになれば、穏便にお別れできると思っていた。



 ところが水妖の姫がこのままでは消えてしまうと知った姫の家臣たちの一部が海の魔女に懇願し、どうにかその未来を回避できないかと慈悲を願ったのである。

 恋に恋する乙女の暴走だった、と把握した海の魔女はこのまま姫が消えるのは確かに酷かも、と一片の慈悲でもって一つのアイテムを差し出した。

 王子と結ばれなければ姫の存在は消滅してしまうけれども、その呪いに等しい力をすべて無に帰すための物。


 これで王子を殺せば王子という存在が消滅し、姫の薬の効果も消滅するという一振りの刃物であった。

 刃物、といってもナイフのようなものではなく、どう見ても刺し貫く方向に特化した代物である。


 姫はそれを手に王子を仕留めようと試みた。

 好きな相手だけれど。でも自分の物にならないのであればいっそこの手で――

 そんな想いと共に振り上げ、振り下ろそうとした刃物はしかし王子に刺さらなかった。


 王子も普段は護衛に囲まれたりしているが、しかし自分の身を守れないわけでもない。

 明確な殺意というわけでもなかったが、それでも不穏な何かを感じ取り王子は咄嗟に身を守るための行動に移っていたのである。

 その結果、姫の王子暗殺は失敗した。


 王子からしてみれば、それは裏切りだった。

 声も出せずマトモに話もできない、行くアテもないらしき女。

 確かにその美しさに目がくらんだのは否定しないが、それでも彼女の事を見捨てず保護したのである。

 だというのにこの女は自分を殺そうとした。


 どこかの国の刺客であったのか、聞こうにも声の出ない女が何かを答えるはずもない。


 失敗を悟った水妖の姫は咄嗟に身をひるがえして逃げようとしたのだが――



 実のところ、この話はその先の展開がいくつかに分かれていてどれが本当のエンディングかは知られていない。昔からこの世界にあった話だとも、異世界から伝わった話だとも言われていて出自が曖昧なのだ。


 王子に返り討ちにあって殺された、という説が有力だが逃げ切った先で姫の存在が消滅した説、はたまた何がどうなったかはわからないが最終的に王子と結ばれた説、それ以外のどうしてそんなオチに? というような終わり方もいくつか伝わっている。



 本来の流れであれば、スウィーノの望むようなハーレムエンドにたどり着くはずもない。

 頑張っても水妖の姫と隣国の姫の両手に花エンドになるかどうかも疑わしいのだ。


 ところがスウィーノは本来の流れからサクッと外されてこうして今、まさかの自分が水妖になるというルートに進んでしまったので。


 あれこれ隣国の姫出番ある? と心配するところはそこではないような事を思っていたのである。

 ハーレムとは言ったけど、その逆に水妖の姫と結ばれて終わるオチになるのかな、とややガッカリしながら。

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