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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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ある種の肩透かし



 女の事はアンネに任せる事となった。

 というか、アンネが自分に任せてほしいと言ったので譲ったとも言う。


 アンネにあの女を渡せば、恐らくあの女はロクな目に遭わないだろうことは容易に想像できる。

 けれども、ウェズンはそれを止めようとは思わなかったし、ルシアやヴァン、イルミナもまたアンネに対してお手柔らかに、などと言うつもりはこれっぽっちもないようだった。


 ウェズン達からすれば、あの女は依頼者であったようだけれども。

 魔女を偽り本当の魔女を始末させようとしていた相手を、あえてアンネと敵対してまで守ろうとは思わなかった。

 それに、アンネから見ればあの女は友人を殺したも同然の相手だ。


 なので余計に自分の命を危険に晒してでもあの女性を守るんだ、などと言う気はこれっぽっちもなかったのである。

 女は助けを求めていたようだが、助けを求めるべき相手はウェズン達ではなくアンネだろう。

 アンネが許すと決めたなら、女も助かるはずだ。まぁ、許すつもりはないだろうなと思うのだが。



 というかだ。


 一見するとおとなしそうで、暴力なんてとてもとても……とか言い出しそうな見た目をしているアンネだが、しかし女をボコボコにしていた時の動きを見ると中々の手練れであることがわかっている。

 ウェズン達だって学園でそりゃもうテラにしごかれヒィヒィ泣いたり吐いたりしそうになる事はしょっちゅうだが、そんなウェズン達から見てもアンネは中々の実力者であるとわかるのだ。


 確かに学院の生徒なので戦う事もあるだろう。

 だが、今回アンネと遭遇したとはいえ、ここで確実に遭遇した学園の、または学院の生徒を殺せなんていうオーダーは出されていないのだ。

 ウェズン達の中の誰かがアンネに因縁があってどうしても見逃すわけにはいかない、だとか。

 その逆でアンネがこいつだけは自分で倒す、と決めたやつがこっちにいるだとか。


 そうでないなら今回わざわざ戦う理由がないのである。


 女はウェズン達が助けるつもりがない事を知ると絶望したような悲鳴を上げたが、しかし可哀そうとも思えなかった。

 魔女に憧れて自分もそうなりたかった、というところまではいいけれど、しかしそれで形から入って結果その責任を本来の魔女に押し付けるような事をしていたのであれば、そりゃあ迷惑を被った魔女だっておい馬鹿やめろと言いたくもなる。

 そこで反省すればともかく、邪魔な相手を排除して自分がそいつに成り代わろう、なんて考えたのだから、魔女の友人や家族などがいたのなら、そういった人たちにボコボコにされたところでそれはもう、当然の帰結ではないか? と思うわけで。



 そういった事情も何もわからない状況だったなら、もしかしたら助けようと思ったかもしれない。

 けれどこちらも事情を知っているとなれば、その事情を考慮した上でそれでも助けようとならなかっただけの話だ。


 まぁ運が良ければ死ぬ一歩手前くらいには解放されるんじゃないかなぁ……とウェズンは思ったのである。

 生憎とウェズンは聖人君子ではないので、誰彼構わず助けられる人はみんな助けよう、とは思わなかった。これがゲームの中であるのなら、助けたらもしかして何かあるかなー、くらいのノリで首を突っ込んだかもしれない。ゲームの中なら、ありとあらゆる困っている人を助けるくらいはしただろう。もしかしたら何らかの称号とかトロフィーとかあるかもしれないし。

 けれどもここは現実なので。


 そういった図鑑コンプリート、みたいなものなんてあるわけがないのだ。



 なので女を引きずっていくアンネを見送るのは、至極当然の流れでもあった。


 ただ、別れる前に一つだけ聞いていいか? と質問はしたのだけれど。



 アンネはここの魔女と知り合いであったから、女が魔女を名乗った時に偽物であると気付いた。

 だが、もし、アンネもまたここの魔女と知り合いですらなかったのなら、きっとあの女は魔女に成り代わっていたのだろう。


 あの女が魔女ではない事を知っているのは、地下に落とされた本当の魔女だ。


 だが、魔女を知り合いに持つアンネならば、もしかしたら。


 人と魔女の見分け方とかそういうのを知っているのではないか? と思ったのだ。

 学園の授業ではそういった事をやった覚えがない。けれども、学院では授業で習った、なんて事もあるのかもしれない。そう思って。



 アンネは恐らくそんな質問をされるなんて予想もしていなかったのだろう。

 ほんの一瞬だけぽかんとした表情を浮かべたが、その隙にどうにか逃げ出そうとした女がもがいた事で即座に女をぶん殴った。がつっ、と鈍い音が響く。


 そうして痛みに悶えている女を虫けらを見るような目で見下して、アンネは答えてくれたのだ。


「生まれついての魔女も、あとから魔女になった奴も。わかる奴にはわかるしわかんない奴にはわかんないよ。明確に見た目に特徴があるわけじゃないからね」


 ウェズンは薄々そんな気がしていたので、特に文句を言う事もなかった。


「魔女ってのは肩書に近い。けれど、生まれついてのそれもある。魔女が魔女になるための試練なんてものがあるけれど、あれはクリアしたら必ずしも魔女になれるわけじゃない。

 魔女になるための心構えだとか、代々伝えるべき知識だとか。

 試練をせずとも魔女であるやつもいる。逆に、いくら試練をクリアしても魔女になれないやつもいる。

 理解できるかどうか。至れるかどうか。

 感覚的なものであり、概念的なものである。


 まぁ、自分が魔女だと思えばそうかもしれないが、それだけではなく周囲が魔女と認めた場合。この場合、は魔女以外がというわけではなく、他の魔女がという意味合いだな」


 そういう意味でならわたしも魔女だよ、と言われて。


 ウェズン達はとても微妙な顔をするしかなかったのだ。


 なんというかとても抽象的だったので。


 明確にこれがこうであったなら魔女! と言い切れるものが何もない。

 ただ、あの女は魔女に成り代わろうとしたけれど、しかし成り代わろうとしていた魔女本人からあれは魔女などではないし魔女になれぬと言われたので。

 いくら自分が魔女だと宣言したところで魔女ではないのだとか。

 地下にいた魔女だけではない。アンネも魔女であるというのなら。そしてそのアンネもこの女を魔女となど認めてはいなかった。

 一人だけならともかく二人の魔女に否定された以上、資格というか適正というか、ともあれそういった何かが明らかに不足していると思った方がいいのだろう。


 さっぱり理解できなかったけれど。


 感覚的には、まったく理解できないわけではなかった。だが、それをしっかりと言葉にして何も知らぬ者にもわかりやすく説明せよ、と言われたならば。


 ウェズンはまぁ無理だなとなったし、ルシアもヴァンも何やら難しい顔をしているのできっと自分が理解するので精一杯だろうし、イルミナに関しては完全に理解できていない顔だった。


 例えば。


 芸術は何をもってして芸術とするか。


 だとか。


 哲学とはどういったものであるのか。


 だとか。


 なんというかそういった疑問に近い何かをウェズンは感じた。


 芸術に関しては多くの人がこれは芸術だと認めたからとて、世界中のすべての人がそれを認めるとは限らない。アンチはどこにでも湧く。

 技術的な部分に目を向けたとして、芸術的だと言われてもそれが確実に芸術品であるとは限らない。

 この技術を使って、この技巧を使って完成したものが必ずしも芸術か、となるとそうではない。


 哲学もまた、人によって異なる。

 ハッキリとした線引きができないものを、とにかく明確にしようとしたところで境界が曖昧になるのはどうしたって仕方のない事だ。



 どちらかと言えば。


 明らかに強い相手と対峙して、強者の気配を感じ取った時のように。

 魔女と出会った時に、あぁ魔女だ、と知らず察するのがきっとそうなのだろう、とウェズンはとりあえず自分をそうやって納得させた。

 完全に考えるな感じろの世界じゃないか、とも思ったのだけれど、それを仲間と共有できるはずもなかったので。


 ウェズンは女を引きずりながら出ていったアンネを見送るしかできなかったのであった。



「それはそうと、今回の依頼って結局は未達成だよね」

「というかそもそも使い魔がいなかったんだから、依頼にもなってないだろ」

「あっ、それじゃ成績に響いたりはしないね。良かったぁ」


 遠くの方から引きずられつつも命乞いをしている声が聞こえたが、ウェズン達がそれを聞いて今からでも助けよう、なんて思う事もない。

 お前らならクリアできるだろう、と思われて与えられた課題。それが依頼を達成する事ができませんでしたー! なんて事になれば成績に響くのである。

 だが、今回の場合は使い魔が強すぎて勝てませんでした、とかそういう意味での失敗ではなくそもそも依頼が嘘だったのだから、こちらの責任にはならないと言える。


 とはいえ、何がどうしてこうなったのか、というのをしっかりレポートに纏める必要は出てくるのだが。

 面倒ごとの大半はとうに片付いたとも言えるので。


 ウェズン達もまた、学園へと戻る事となったのである。

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