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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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隠れていたもの



 そこそこの距離を進んできた。

 けれども特に何があるわけでもない。

 通路はまだまだ先に続いている。


 先の方に黒い何かが時たま蠢いていて、こちらに気付いた途端にざっと音を立てて逃げていく。

 転がっていた石の下だとか、壁の亀裂っぽい部分だとかに入り込んでいくあたり、どうにも虫めいた何かを感じさせる。ふわふわ漂ってくれていたなら、まっ●ろく●すけっぽいなぁ、で受け流せたのだが。


 石の下に潜り込んだらしきそれをあえて引きずり出すのはどうかな、と思ったのだけどそれでも気になったので通りがかったついでにその石を軽く蹴飛ばして移動させる。


「……うわ」


 一瞬。


 石が移動するとは思わなかったのか、動きを止めた黒い物体がウェズンの視界に晒される。

 とはいえそれも一瞬だった。

 身を隠すものがなくなったと理解したのだろう。凄まじい速度で黒い物体はざっ、と音を立てて逃げていった。


「……割とさっきから見えてはいたけど、あれが使い魔の可能性ってあるかな……?」

「どうだろ……依頼は使い魔の討伐なんだろ? あれがそうならそこそこの数がいるの確定だよな……数が多いし逃げ回るしで倒すのが大変だから依頼を出した、と考えられなくもないけど……」

「ただ、こっちを見て逃げ回るようなのを、あえて倒さなきゃいけない事ってある? って感じだよね」


 ヴァンが他にもまだ近くに隠れていないかと見回して、ルシアは黒いのが今しがた逃げて行った方向をじっと見ている。


「ねぇウェズン、貴方今、石の下に隠れてた黒いのを見たのよね? どんな感じだったの?」


 後ろを歩いていたイルミナからは見えなかったらしく、恐らくは好奇心から問いかけられた。


 一瞬足を止めそうになったウェズンだが、それでもどうにか止めずに移動したままで先ほど見た黒いのを思い返す。


「えぇと……パッと見丸い感じだったんだけどさ。

 ケセランパサランとかああいうのの黒いバージョンとかじゃなくて」


 まっ●ろ●●すけ、とは流石に言えない。何故ってこっちの世界でそれが通用するとも思っていないので。

 だがしかしケセランパサランは確かあったな、と思ったのであえてそちらを口にしたのだが。


 あれの黒いバージョン、と言うにはどうしても抵抗があった。

 どちらかといえばあれは……


「僕たちが手を握った……握りこぶし大くらいの、真っ黒いダンゴムシって言われたらまぁ、何か、そうだよなぁ……って感じがしてたかな」

「うわ」


 別にこちらの世界の虫はそこまで大きいわけではない。南の方は気温が暖かいのもあって割と大きく育つ事もあるようだが、しかしこの世界のダンゴムシはウェズンの前世で見たダンゴムシとそう変わらないと思われる。というか、そもそも滅多に見かけないのだが。


 だがしかし先程見たのはウェズンが自分の手を握り締めた時くらいの大きさだった。

 倍、とかで済むレベルではない。


 虫が嫌いな者が見たら間違いなく悲鳴を上げるレベルだとウェズンは断言できる。


 普通のダンゴムシが転がったりしているのを見る分には、あー、まるくなってるなぁ、転がってるなぁ、で済むけれど、流石に大人の握りこぶし大サイズのダンゴムシっぽいもの、となると微笑ましく思えるはずもなかった。逃げる時に転がって移動するものもいたようだが、大半は転がるどころか普通にササッと移動するのだ。

 色合いと大きさからダンゴムシというよりゴで始まりリで終わるあいつの動きに近い。素直に丸くなって移動してほしい。大きさにヒくけどまだ我慢できるので。


「それ、結局なんなのかしら。虫? それならまだ、正直同じ空間にいるって考えるととてもイヤだけど、でもまだ諦めがつくのだけども」

「普通の虫ではない、と思っている?」

「可能性はあるでしょ」


 何故ってここには魔女がいて、その使い魔もいるというのだから。


 イルミナの静かな声に、あぁそういやそうなんだよな……と改めて当たり前を突きつけられる。


「あれ?」

「今度は何よ」


 おもむろに足を止めたルシアに、置いてかれたいの? なんて言いつつイルミナも足を止めた。

 最後尾を歩いていたヴァンもそうなれば自然と足を止めるしかなかったし、ウェズンも二歩ほど歩いてから誰もついてきていない事に気付いて足を止め振り返った。


「いや、あのさ。この通路、やたら長いじゃん? でもまぁ、それはいいんだよ。舗装されて明るいからまだ」


 舗装されているならこの先どこかに通じているだろうと思えるし、明るいからこそそこまで不安にならない。

 最初から真っ暗な道を行くよりは圧倒的にマシではある。


 だが、あまりにもずっと続いているのでほんの少しだけいつまで続くんだろう……という不安もほんのりと持ち始めていたのだ。


「今、なんか壁の一部が歪んだ気がしたんだよね。気のせいかもしれないけど」


 そう言われたからとて、そう、じゃあ気のせいだよ、とは言えない。

 大体ちょっと思い返してみれば、この通路を進むに至ったのだって……


「どのあたり?」

「そこ、だったかな」

 ルシアが指差した方へウェズンは一先ず移動した。ランタンが等間隔で並んでいるだけで、何か珍しいものがあるわけでも、妙だな、と思うようなものもない。


 けれど、ルシアが指差した場所へ近づけば。


 ぐにゃり、と壁の一部が歪んでまたも別の通路が現れた。


「もしかして、この通路ずっと真っ直ぐ進んでてもゴールなんてなかった……?」

 無限ループって怖くね? と言いたい気持ちはあれど、この場の誰にも通じない気がしたので言い方を変える。


 勿論、もっとずっと先に出入口と呼べるような場所があるのかもしれない。だが、あまりにも代わり映えのしない通路を延々進んできたのだ。地下にあえてこんな空間を作るにしても、長い長い通路を作ってまでここにこういった空間を作る必要性がわからない。そう思える程度には通路が長すぎたのである。


 新たに出現した通路は、今いる通路と比べると若干荒れているように見える。

 こちらの通路は舗装されているし、壁も綺麗なものだ。だが新たに見つけた通路は足元は舗装されているが、壁まで手をかける余裕がなかったのか、ゴツゴツしている。


 しかしそれでも壁にランタンが取り付けられているので、真っ暗だとかではない。

 ただ、ゴツゴツした壁なのでランタンが照らすにしてもそれが妙な影を作り出して、なんとなく不気味な雰囲気を漂わせている。


 視界の隅を何かが横切った気がして思わずそちらにウェズンが視線を移動させると、先程見た真っ黒な何かが転がっていくところだった。

 たびたび見かけていたし、てっきり壁の亀裂だとかに無理矢理入り込んでいるものと思っていたがもしかしたらこちらの通路に普通に移動していたのかもしれなかった。


「とりあえず、こっち進んでみる?」

 今いる通路をずっと進んでも何かありそうな気配がしない。

 だからこそウェズンはどうする? と他の意見はあるかとばかりに尋ねた。


 こっちの通路に何かがあると決まったわけではない。

 けれどもずっと同じにしか見えない通路を行くよりは……と思ったのもまた事実。


 一同がそうしようか、と頷いたその時、これから行こうとした通路の先から物音が聞こえた。

 全員が咄嗟に口を閉じて、音がした通路の先を見る。

 下手にこちらが何か音を出したら。

 向こうもこちらと同様息を潜めて気配を殺してしまうのではないか、と思ったのだ。


 先程以上に声を殺して、行こう、と言えば皆こくりと頷いた。


 そうして新たに出た通路を進んで行けば、段々と人の声らしきものが聞こえてきた。


 とはいえ、誰かと会話をしているというようなものではない。

 呻き声のようなそれに、ウェズンは足音を極力消した状態で少しばかり急いだ。


 進むにつれて、声がよりハッキリ聞こえてくる。


 そうしてどんどん進んで行けば。


 通路の先はどうやら行き止まりのようで、そこで身体を丸めるようにして蹲る何者かの姿が確認できた。


「…………」


 呻き声の主である、というのは確認するまでもなかった。今もなお、苦痛をどうにか逃そうとするかのように声は漏れている。いっそ大声で叫んでしまえばもう少し気がまぎれるかもしれないが、それができない理由でもあるのか、漏れ出た声もかなり押し殺したものだった。それでも、そこそこ離れていたウェズン達のところまで聞こえていたのだから、仮に思う存分声を上げていたのであれば聞こえてきたのは呻き声どころか絶叫であったのかもしれない。


 大丈夫ですか、と声をかけようとしたウェズンはしかしそれを躊躇った。


 人、の姿ではあるのだ。

 ただ、その人が全身真っ黒なペンキにでも浸されたのかというくらいに真っ黒だったので。


 思わずウェズンはどうしたものかと他の皆へ「どうする?」と口パクだけで問いかけたのであった。


 とはいえ、他の三名もある種異様とも言える真っ黒人間に。

 ウェズン同様困惑したままだったのであった。

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