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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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仲間割れという程ではないけれど



 分かれ道でどちらに行くか悩んだ時、たまたまその辺にあった木の枝を倒してみて、倒れた方に行く、なんていう方法はどうやら異世界でも普通に存在しているらしい。

 といっても、別段珍しい方法でも手段でもない。道具だってその辺に木の枝が落ちていれば誰だってできるようなものだ。木の枝がない場合は他の物で代用するか、はたまた他の方法でどちらの分かれ道を選ぶか。


 倒れた方向に必ずしも進まなければならないわけでもない。

 とりあえずどっちにしようかなー、どっちでもいいけど最初にどっちにするか選ぶの面倒だからとりあえずで選んどこうかなー、というくらい軽いノリだ。

 右に行くと最初から決めているなら枝なんぞに任せる必要はないし、左に行くと決めている場合であっても同様に。


 とはいえ、そのどちらでもない場所を示す結果となったので、本当に軽いノリというか冗談のつもりだったのだ。

 壁ぶち破る? は。


 そう、別に何かを深く考えていたわけではない。


 だというのに。


 枝のかわりにルシアが使ったナイフが示した先の壁。

 そこに近づいてみれば、ふわっと霧が晴れるように壁が消えたのである。


 まさかの第三の道だった。


 壁だと思っていたそこは壁でもなんでもなく、むしろ人工的に舗装された通路が続いていた。先程光の玉を向かわせて何となく確認した通路の先と違ってこちらは通路の上にランタンが等間隔で吊るされていて明るい。

 暗すぎて光の玉が淡く輝いてる程度の情報しかわからなかった左右の通路とは大違いである。


「…………偶然にしてもお前運良すぎないか?」


 ヴァンが嘘だろ……? みたいな反応をする。


「正直ボクも驚いている」


 同じようにルシアもまた嘘だろ……? みたいな反応をしていた。


「向こうの暗くて何があるかわからないところよりは、こっちの方がいかにも、って感じよね。そもそも隠されていた通路なわけだし」


 あとは舗装されているので、歩きやすいのも良い。

 特に舗装も何もされていない場所は、そこまでデコボコしているわけでもないけれど、それでもふとした瞬間靴底が小さな石を踏んだり、砂利がやたら自己主張してきたりで僅かばかりの煩わしさが存在する。

 普通に歩くだけでも、思った以上に体力を消耗するのだ。


 であれば、最初にあまり疲れそうにない場所を見て、そこに何もなかったなら改めて左右の通路へ行く方がいいだろう……と満場一致で決定した。


 とりあえず先頭はウェズンで、最後尾はヴァンとなった。


 横一列になって並んで移動すると、いざ何かあった時に咄嗟に動こうとしてお互いが邪魔をする形になりかねなかったからだ。広い場所ならともかく、この通路はそこまでではない。


 本当なら最後尾はルシアあたりにしておこうかとも思ったのだが、万一背後から何かが奇襲を仕掛けてきた時、そうなったらボクは間違いなく深手を負うぞ! いいのか!? いいんだな!? ととても情けなく抗議されたのである。


 ルシアがレッドラム一族である、というのは一応仲間内――クラス全員というわけではないが、とりわけよくルシアと行動を共にする者たちには一応知られている。


 そして、ヴァンが瘴気耐性が低い事も。



 つまりは、万一ボクに何かあったらこの中で誰が一番お困りになるんですかねぇ!? という脅しが発生したのである。


 お前な……と呆れたように言うヴァンであったが、しかし同時にその脅しが有効である事もまた事実だった。


 うっかり怪我をされて体内にあるだろう瘴気が溢れでもしたら、次に危険なのは間違いなくヴァンなのだから。

 今回はウェズンがいるので、何かあっても即座に浄化魔法で助けが入るだろうけれど、だからといって瘴気汚染されて倒れたいわけではない。


 ヴァンの体質と自分の体質を弁えた上での無駄のない脅しであった。



 もし使い魔とやらとの戦闘になったとして、その場合ヴァンは状況によってはルシアも守らないといけなくなる、というのもわかっているのだろう。


「どうせ守らないといけないのなら、せめて可憐な乙女が良かった」

「可憐だけど野郎でゴメンネ☆」

「ヴァン、落ち着け、殴っても何も解決しない。殴ってスッキリするなら止めないが、多分殴ってもすっきりしないどころか余計イライラするだけだぞ」


「ちょっとウェズン、そこは暴力は良くないっていう方向性で止めるべきじゃないの!?」


「お前が自分の美少女フェイスをあますところなく有効利用しようとしてるから、何かイラッとした」

「ひっどーい」


 いかにも傷つきました、みたいな顔をしているが、声の様子からして実際そんな事は思っていないのがまるわかりである。


 とはいえ、まぁ。


 ルシアの様子が空元気なのか何なのかはわからないが、まぁ、ふさぎ込まれるよりはマシかな、と思わなくもないので。

 ウェズンとしてはそれ以上何かを言うつもりもなかったのである。


 ともあれ一定間隔でランタンに照らされた通路を進んでいけば、少し先の方で黒い何かがざっと動いたのが見えた。


 ここに落下してきた時に足元にいたらしき物体と同じもの、に見えなくもないがしかし遠くの方にいたので、本当にそうかはわからない。


「そういえばさ、ここに落ちて来た時に何か足元にいたじゃん? あれ結局なんだったんだろうね?」


 黒いし、着地する時の衝撃をどうにかするべく魔術を地面にぶち当てた時にぷちっとやられたようだけど。

 使い魔、ではないのだろうなと思えた。

 あれが使い魔なら、その時点で依頼終了である。


 まっ●ろ●ろすけと言われればそれっぽいが、そんなものがここにあるとも思えない。

 けれども潰れていたのはそれっぽく見えなくもなかった。大量に潰れていたわけではなかったけれど、正直じっくり観察したいとも思わなかったのである。

 明かりで照らされた状態で見る分には埃にちょっと油が混じったものが潰れただとか、もしくは墨汁でも零したような黒さではあったのだが、それ以上詳しく知りたいとは思わなかったので。

 下手に潰れたその部分から、何らかの体組織に通じる何かを見てしまったら、色んな意味でイヤすぎるので。


 そして今しがた、それっぽいのが通路の先に見えたのもあって、忘れたままでいられなかっただけの事であった。


「黒いのの正体はわからんが。そんな事より今ふと思った事を言っていいか?」

「なんかあった? ヴァン」


 どこか思案気な声に、何かに気付いたか、はたまた思いついたのだろうかと思ってウェズンは勿論先を促す。


「いや、大したことではないのだが。

 ルシアは怪我をすると、そこから体内の瘴気が漏れ出たりするわけだろう?

 正しい儀式とやらで殺せばそういうの一切無く浄化できるとはいえ、怪我をしただけでは瘴気が漏れるだけ」


「そうだよそれが何」


「怪我をした状態で、その傷口にウェズンが手を突っ込むなりして体内で浄化魔法を発動させた場合、体内の瘴気が浄化されると思うし、浄化してから治癒魔法使えば別にこいつがこの先怪我をしても問題ないのではないか?」

「問題大ありですけど!? はぁ!? 何その提案本気で言ってる!?」

 自分自身を抱きしめて庇うような動きをしながら、ルシアは叫んだ。冗談だとかそういうのではなく、割とガチな悲鳴だった。


「そもそも体内を浄化したとしても、また周囲の瘴気を取り込むんじゃないかな」

「まってウェズン、冷静に返さないで。そうじゃない、そうじゃないだろ!?」

「え? あぁうん、ルシアがそもそも肉体的な苦痛に慣れてないっぽいから、痛いのはやめてあげたほうがいいんじゃないかなぁ、とか?」

「とか? って疑問形で言うのもどうかなって思うのボクは! そりゃあね!? 学園に身を置いてる以上痛い事はあるよそりゃあ。でもさ、こいつの言ってるの、意図的に身体掻っ捌いてそこに手ぇ突っ込んで浄化魔法発動させろだよ!? どこのサイコパスだよ!?」

「我が身の安全確保のための提案だが」

「そのためにボクが犠牲になるのおかしいよね!?」

「そうか?」

「そうか!?」


 あまりにもしれっとルシアの犠牲などどうという事もない、と言わんばかりの態度にルシアも渾身の聞き返しをしたが、ヴァンの態度に変化はない。


 まぁ、どちらも自分の健康状態に関係する事なのでなぁなぁにしておきたくはないのだろう。


「ヴァン、悪いけど治癒魔法でいくら怪我を治せるといっても失った血液とかまでは復活しないし、ましてや怪我をした時に消費した体力も戻らないから諦めてくれ。ヴァンが瘴気にやられた時はなるべく早めに浄化するからそれで妥協してくれると助かる」

「僕に妥協しろって言ったのウェズンが初めてだよ。まぁ、確かにただでさえ体力もロクにないルシアが無駄に消耗していざという時使い物にならないのは困るか……仕方ない、それで妥協しようじゃないか。何より友の言葉だ。よかったなルシア」

「何もよくないよね!? えっ、何これボクが悪いの? なんか我儘言ったみたいな雰囲気だけど!?」


「私からすれば面倒だからここで二人とも始末すればいいんじゃないかしら、って思ったのだけど」

「戦力半分ロストは流石にこの先何があるかわからないからそれも却下かな、イルミナ」

「仕方ないわね」


「とりあえず僕から言う事としては、きみたち一度どっかに捨てたであろう道徳心とか倫理観を拾っておいで、って事かな。なんで軽率に仲間割れに発展しようとしてるんだ」


 背後をちらりと振り返れば、やれやれと言わんばかりに肩を竦めているイルミナが見えたし、釈然としない様子のルシアの表情が視界に入ったし、解せぬとか言い出しそうなヴァンも見えた。


 確かにヴァンからすればルシアが下手に怪我をした場合、周囲に瘴気が出るのでそうなれば自分の健康状態に関わる。だからわかっているなら事前にどうにかしたい。その考えはわかる。

 対するルシアもそのためだけにわざわざ体内に手を突っ込むくらいの怪我をして浄化魔法とか冗談ではないのはわかる。治癒魔法で治るからって痛いのに変わりはないのだから。


 そしてそんな事で仲間割れとまではいかないが、まぁごちゃごちゃうるさいから面倒だしこいつら置いていきたいな、という気持ちになったイルミナの事もわからんでもない。


 ルシアのもヴァンのも体質なのでどうしようもない事であるし、誰が悪いとかではないのだろう。

 ただ、相性が悪かった。


 それだけの話である。

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[良い点] 天然・魔女・過激・貧弱、うーん、解散しよう!
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