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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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魔女からの依頼



 一年生だった時の学外授業は、基本的に魔物退治だとか、遺跡の罠を新しく設置するだとか、一般人が行けないような場所にある貴重かどうかはさておき、素材を集めに行くだとか。

 まぁ、言葉だけを聞けばそこまでとんでもないものはなかったように思う。

 大半はお使いと言い切れるものだ。


 実際にどこそこにお届け物をしてきてね、といった内容だってあった。


 ウェズンからすれば、前世のゲームの中のRPG、それも国内産にありがちな、次のイベントのフラグを起こすためのクエストをクリアする――所謂お使いゲーとやってる事は大差ないんじゃないかな、という気ですらいた。


 二年になってから割り振られた学外授業も、まぁ倒しに行けって言われる魔物の強さが去年に比べれば強めのやつだとか、そういうやつかな、と思った程度だ。


 だからこそ、明かされた内容はちょっとだけ驚いたりもしたのだ。



 依頼者 匿名希望の魔女

 依頼内容 使い魔の討伐



 …………うん。


 うん?


 と、とってもシンプルな内容ではあるものの数秒理解するまでに時間を要した。


 大勢で参加するものなのかと思ったが、割り振られたメンバーはウェズンの他、イルミナとルシア、ヴァンだ。


 ルシアとヴァンは少し前にうっかり魔本の中でも一緒だったのでまたか、という気持ちにもなる。

 そうでなくともルシアはルシアで吹っ切ったわけでもないのだ。その状況でまたウェズンと一緒に駆り出されるとか、多分向こう気まずく思ってるんじゃないかな、とウェズンも薄々そんな気がしていた。


 依頼者が魔女、という時点で何となく今回のチームメンバーでもあるイルミナに目線が向くのは仕方のない事でもあった。


 ウェズン本人は魔女とそこまで関わりがあるわけではない。

 なので、まぁ、知った単語とか関連付けられそうなものがあればそっちに意識が向いてしまう。


「依頼者魔女らしいけど、心当たりある?」

「あるわけないでしょ。私確かに魔女の家に生まれたけど魔女として育てられなかったんだから」


 イルミナが魔女を目指そうとしても基本的に魔女としての教育は受けてこなかったために、学園に入る以前はほとんど独学である。

 一応基本中の基本というか、魔女からしたら当たり前すぎて逆に教えるのもどうなのかな? みたいな本当に初心者向け入門程度の知識しかなかった。

 そこからコツコツ家にあった魔導書だとかを読みふけり、どうにか知識をものにしてきたに過ぎない。


 身も蓋も無くぶっちゃければ、机上の空論が大半。

 それでも学園に入学してどうにかやってこれてるので、全く才能がないとかではないとは思うのだが……


 ともあれ、イルミナに魔女関連の話をしたところで、何の情報も得られないというのは嫌でも理解するしかない。


 となると、この匿名希望の魔女とかいう依頼者について知るのはほぼ不可能とみるべきか……


 他に詳しそうな誰かに聞くにしても、誰が詳しいのか、まではわからない。

 ウェズンには他に魔女の知り合いと呼べる者は、一人、かろうじていないわけではないがしかし名前を把握しているわけでもなし、時たま彼女の館に行ってはたまたま魔法薬を作る際の手伝いをしたりするくらいだ。

 親しい間柄ではないし、まして彼女は願いに対して対価をきっちり徴収するタイプだ。


 この依頼者の魔女について何も知らないウェズンがそれを軽率に問いかけたとして。

 この依頼者の身元次第では対価がとんでもない事になり得る。


 それもあって結局ウェズン達はほぼ何の前情報もないままに、まず依頼者の元へ行く事になったのであった。


 依頼者が待ち構えていた村は、大層寂れていた。

 神の楔があるとはいえ、人の出入りが普段からなさそうなくらい寂れている。


 ぐるりと周囲を見回しても、果たして人が住んでいるのか……と疑問に思うくらいに人の気配がない。

 乾いた土に、木を用いて作られた家。どっちかというと小屋と称した方がいいようなもの。色合い的に薄い黄色というか、藁のような色が多い。

 ゲームの中なら間違いなくド田舎確定の色合いだった。

 ゲームだったら間違いなくこの村には牛か豚が放牧されていたに違いない、と思えるくらいに自然たっぷり。


 そんな寂れに寂れた限界集落としか言いようがない村の中で、唯一煙突から煙が上がっている家があった。

 考えるまでもなくそこで魔女が待ち構えているのだろう。


 ……魔女が住んでいる家、と言われるととても違和感しかないが。

 依頼者なので、顔を合わせるなり突然攻撃はしてこないだろうけれども相手が魔女という時点で、万が一のことを考えてウェズンが矢面に立つ事になった。

 正直ウェズンとしても先頭に立ちたくねぇー! と思っているが、しかし他の誰かを先頭にするとなると、どうにも心細さがある。

 ヴァンとか浄化薬を持ち合わせているけれど、しかし突然の高濃度瘴気とかが襲い掛かったら対処する前に倒れるだろうし、ルシアの防御力は紙装甲だと思っていい。

 野郎三人いてイルミナという女性を先頭に立たせるのはウェズンの気持ち的にちょっと……となってしまう。

 そうなると消去法でどうしたってウェズンしか残らなかった。


 イルミナが力強く雄大なゴリラのような娘であったなら、話は違っていたかもしれないのだが。ゴリラじゃないから仕方がない。


「こんにちはー、失礼しまーす」


 言いつつ家の中に足を踏み入れれば、家の中は大変シンプルな作りになっていた。玄関から居間がすぐ見えて、ほぼ筒抜け状態である。

 居間の中央にはでかい大釜があって、ぐつぐつと何かが煮込まれている音が聞こえてくる。

 外から見たら煙突だと思っていたそれは、実際煙突ではなくこの鍋の煙を家の外に排出するためのものらしい。


「いらっしゃい。学園の生徒さんたちね」

 大釜の中身をぐるぐるとかき混ぜながら、魔女が言う。

 ついでにこちらに視線を向けたのだろう。顔がこちらに向いて――

「ひぇっ」

 ルシアが小さく悲鳴を上げた。


 魔女の顔は、真っ白だった。

 いや、美白とかではなく、仮面舞踏会だとか、アニメあたりでよく見るような白い仮面が顔にかけられているのだ。

 一歩間違ったらスケキヨという単語がウェズンの口から飛び出るところであった。スケキヨはそもそも仮面だったか? 包帯ぐるぐる巻きじゃなかったか? と思わなくもなかったが、それくらい真っ白だったのである。


 まだ昼間だからいいけれど、これ夜だったらルシアはもっと確実に悲鳴を上げていたに違いない。


「えぇと、学園から来ました。使い魔の討伐との事ですが、詳しく聞かせてもらえますか?」


 ウェズンが驚きの声を上げるよりも先にルシアが驚いたせいで、驚くタイミングを失ったウェズンは自分でもびっくりするくらい冷静だった。

 なので、これっぽっちも驚いていませんが? というのを装って魔女に話しかける。


「そう、待っていたわ。待っていたの。

 詳しい話を説明するから、まずは皆さん中に入って座ってちょうだい」


 確かに入り口陣取っての立ち話はな……と思ったし、ずっとドアを開けっぱなしなのももしかしたら今混ぜている大釜の中身に影響するかもしれない。

 そう思ってウェズン達は家の中に入り、ドアを閉める。

 そうして大釜がある居間へと移動しようとして。


「――え?」


 あと一歩で居間に入るだろう、というあたりで。


 唐突に足場が消えた。


 ウェズン以外もワンテンポ遅れて落下しているという事に気付いたらしく、えっ? だのうわ、だのという声が聞こえてくる。


 足元にぽっかりと開いた大きな穴。

 咄嗟にウェズンは風の術で上に上がろうとしたけれど。

 ある程度獲物が落下した時点で塞がるようにでもなっていたのだろう。

 どん、と頭上に床が出現したのもあって、視界が真っ暗になる。


 床板一枚越しに、魔女の声がした。


「その下にいるからお願いねぇ……!」


 いやその前に中に入って座れって言っておいてこれかよ……! ととても言いたかったが。

 上がるために使おうとした風の術をかわりに足元にぶっ放した。どのみち落下する際の衝撃をどうにかしないといけなかったので。


 落ちてくるウェズン達を待ち構えていたのか、下の方で何かが潰れるような音が聞こえた。


「落下に関してはどうにかするから誰か明かりよろしく」

 もう一度風の術を発動させて言えば、ヴァンが任せろと周囲を照らす。


 落下地点までそう距離はない。

 だがこれなら全員怪我をする事なく無事に着地できるだろう。

 足元で何かが弾けたような黒い染みは、見なかった事にした。

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