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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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どちらさま



 学年が一つ上がったとはいえ、大急ぎで片付けなければならない案件というものはない。

 いつかはどうにかしないとな、というものはそれなりにあるけれど、今すぐ解決しなきゃ……! という使命感を持つようなものはない、というか、あったとしてもすぐにどうにかなる話ではない。


 それはたとえばテラプロメの事であったり、イアの料理に関する事であったり。

 魔王にならなきゃ、というのもあるにはあるが、それはどのみち今すぐどうにかなるわけでもなく。


 当面は学園の授業をこなしつつどうにか好成績をとっていくしかないのが現状である。

 強くなるにしても、それだって今日明日にでもどうにかなる、なんてものではないし、いくつかの目標こそあるけれど、今すぐ解決しなければ、というものではなかった。



 イアの料理に関しては、本当にどこから手をつけるべきかもわからない。

 誰かしらの手助けがあれば、イアが料理をしていてもあの絶望的な不味さにはならないとはいえ、いつでも誰かの助けがあるか、となるとそうもいかない。

 一人でも普通に美味しい料理ができるようになっていた方がいいに越した事はないのだ。


 イアが実際にどうしようもないほどに料理がド下手くそ、というのであれば何も言うまい。

 けれど、作り方にも材料にも何も問題がないのに出来上がった料理がアレ、というのは一体何の業を背負っているのだと言いたくもなる。前世で何したらあんな業持って転生すんの? とか言いたくもなる。

 けれども、前世のイアに何らかの業があるか、と問われれば恐らくは無いような気がするのだ。

 ウェズンだって別にイアの前世の話を生まれてから死ぬまで、何一つ取りこぼす事なく教えられたわけではない。大体、あまりにもどうでもよい日常のエピソードとか全部覚えているはずもないわけで。


 けれども、前世のイアの生活を聞く限り、頭の中にサポートデバイスとかいうのがあって、基本的にそれらは暴力行為や犯罪行為を抑止する役目もあったようだし、悪事に手を染めて何かやらかした、とかそういう事があるわけでもなさそうなのだ。

 イアは便利な辞典が脳内にある、みたいな認識だったが行動も言動も監視されつくしたようなところで、何やら怪しげな事ができるはずもないし危ない事だってそうだ。


 なので、イアのあの何故だか絶望的に料理が不味い、というのは前世の業ではないと断言できる。

 大体それで業になるのなら、ウェズンはどうなるという話だ。

 サポートデバイスだとかで管理されてたわけでもない、ごく普通の一般人。あからさまな犯罪に手をつけたりはしていないけれど、一切車が通る気配もない時に赤信号を横断したなんて事もあったし、子どもの頃に公園にあったアリの巣に水を流し込んだりだとかもしたし、あからさまに犯罪として捕まる程の事ではないけれどちょっとした悪事はした事だってある。成績の悪かったテストを隠したりだとか。

 学生時代に肝試しとしてとある廃屋に入り込んだ事もあったし。


 ただ、そこで暴れたり人に危害を加えたりだとかの問題になる事はしてなかったから、周囲だって特にわざわざ何かを言う事もなく終わっただけの話だ。多分自分たちから言わなければ、周囲はそんな事があったかもわかってない説すらある。


 多分若い頃に悪いことしてた自慢とかしても、この程度の内容ならそれはワルと言えるのか……? と突っ込まれそうな微々たるもの。

 なんだったらちょっとグレかけてた弟の方が悪い事やってた可能性が高い。といっても、正真正銘犯罪としてアウトになりそうなところまではやってなかったはずだが。


 だが、明らかにイアと比べれば悪事度合が高いのは前世のウェズンであろう。


 といっても別に警察のお世話になるようなものでもなく、精々ちょっと周囲の大人にこらっ、と怒られる程度でしかないが。



 そんなウェズンに前世の業のような何かが転生した今ある気がしないので、誰がなんと言おうともイアのあれは前世の業ではない。

 ではなんだ、となると全く分からないのだが。



 一時期、ちょっとだけイルミナと似ているな、と思わないでもなかったのだ。


 イルミナは魔女としては落ちこぼれと親に思われ、魔女として育てられたりはしていなかった。そのせいで今になって魔術だとか魔法だとかの習得に悪戦苦闘したりもしているが、入学直後くらいの頃のイルミナの魔術は、何発動させても何かどろっとした闇みたいなのが出てくる感じであった。

 水っぽい泥が襲い掛かってくる、と言えばいいだろうか。

 イルミナ本人の魔力はそれなりにあるので、術の威力だとかは申し分ないのだけれど、属性を正確に発動させるとなるとそれはもう苦労していた。


 その後ウェズンが魔術の師匠みたいな事になって、お手本やら見本やらあれこれやった結果形になってきたけれど、なんとなくそれがイアの料理の一件とダブって見えたのは否定しない。


 とはいえ、イルミナの方は結局のところイメージが弱いというのが大半の原因だったし、本人の想像力次第で解決可能だったので似ているといってもあくまでもガワだけ、みたいなオチになってしまったわけだが。



 イルミナに関してはこの先、余程の事がない限りは魔術や魔法関連で躓く事はないと思われる。

 なのでもう師匠扱いされる事もないんじゃないかなぁ……とウェズンはすっかり他人事だ。


 だがしかし他人事でいられないのである、イアに関しては。


 大体、折角きちんと料理を作っていても味だけが絶望的とか、イアが一体何をしたという話である。

 作業工程一切問題ないのに味だけ大問題とか、一生懸命作ったイアだって色んな意味で絶望するしかない。


 謎の事象が解決すれば、イアの手料理は間違いなく絶品だと思えるのに。スターゲイジーパイは実際絶品なので。かといってそればかり作ってもらうわけにもいかない。

 正直パイ生地の生成ってそこそこ面倒だし、ましてや魚が突き刺さってるあの見た目は何度も頻繁に見たいものでもなかった。


「……いっそ神前試合で神様に頼んだらどうにかならんかな……」


 頼っちゃいけない相手に縋ろうとか考えるレベルで解決策が見えてこない。


 全く気にしていないわけではないけれど、やっぱり美味しくない仕上がりになる料理をイアだってしょんぼりしている事はあるのだ。イアに料理を教えたのはウェズンであるし、妹が困っているならどうにか解決してやりたい。そんな兄心である。

 だがしかし現状なんの取っ掛かりもないのでそりゃあ最終手段 神、とかいう発想になっても仕方がなかった。



 原作がどうこう、とイアの記憶に頼ったあれこれをうだうだ悩むよりは余程有意義。

 いや、有意義と言い切れる程のものでもないが。

 だがしかしこちらの方がまだ建設的にすら思えてくる。


 だって実際どうだったかわからない原作のあれこれなんぞに思いを馳せても今更すぎるし、気にするべきはどれくらい原作から剥離したかどうかだ。

 一切剥離していないとかそんなはずはない。ウェズンもイアも転生者であるという時点で剥離は始まっているも同然なのだから。


 最後が良ければあとはまぁ大体オッケーだろ、くらいに思う事にしたので、それに関して今後そこまで悩むこともないはずだ。とはいえ、ふとした瞬間ちょっとくらいは悩んだりもするだろうけれど。

 どのみちもうなるようにしかならないのだ。



 最終手段 神、とか思い始めたあたりで、いやでも流石になぁ……なんて思いながらもウェズンは学園を出て寮へと向かっていた。

 ジークと別れた後、特にやる事もないしそうなれば後は自室へ戻るしかない。


 その道すがら、イアの料理に関して解決策になりそうな何かを考えていたけれど、結果は何の進展も無しである。


 正直あまりやりたくはないけれど、他のゲテモノ料理を作らせてみる、というのも考えてはいる。

 普通に普通の料理を作って絶望的に不味くなるのであれば。

 あらかじめ最初から不味い料理を作れば……とも考えた事がないわけじゃなかった。

 ただ、マズイ料理を作った結果、因果関係が逆転でもして美味しくなるならまだいい。

 それなら、美味しく作るつもりの料理をあえて逆に、不味く作ろうとすれば解決はする。


 しかし、そうやって本当にひたすら不味い料理にしかならなかったら食材の無駄遣いだ。

 ウェズンは食べ物を粗末にするのはどうかな、と思う派なのでそれは最終手段で他に試すものがなくなってからにしたい気持ちがあった。

 あまりの不味さに捨てるしかない、みたいなのはちょっと。

 食材が傷んでいた、とかで捨てるならまだ仕方ないなと思うけれど、そうでもないのに捨てるのはかなり抵抗があった。


 意図的に不味く作るより、スターゲイジーパイみたいな見た目でちょっと……みたいな感じの料理だとか、世間一般で言われるゲテモノ料理だとかなら、果たしてどうだろうとも思っている。

 とはいえ、ウェズンはあまりゲテモノ料理に関して詳しいわけではないのでそれを試してみるにしても、事前にあれこれ調べなければならないわけだが。


 かつて様々な異世界から人が訪れたこの世界、異世界から流れてきたレシピも当然ある。

 そこに、ゲテモノ料理が伝わっているかは微妙に謎だが……


「試すにしても全部自分で消費は厳しいな……」


 思った事がぽろっと口から漏れた。

 実際に作って、美味しいかどうかを確認するには食べるしかない。

 だがしかし、ウェズンも別にゲテモノ料理は得意なわけではない。作るのも、食べるのも。

 いくら美味しいと言われても、見た目からして食欲なくすやつとかはちょっと……となる。


 いっそ誰か適当に巻き込もうか……なんて画策するも、騙し討ちみたいな形で巻き込むなら一度限りだろうし、そうでなくとも継続的に協力してくれそうな人物に心当たりがない。

 イアの作った料理が絶望的に不味いのは既にクラスメイトの知るところではあるけれど、それを改善するために協力してくれ、という内容で嬉々として手伝ってくれそうな者、となると誰も浮かばなかったのである。


 まぁ仕方がない。

 ウェズンだってイアが身内だからこうしてあれこれ悩んでいるが、イアが妹でもなんでもなく学園に入学してから知り合った単なるクラスメイトだったなら、ここまで思い悩まないし料理の味見とかもできればごめん被るのだから。



 いっそ学院からこっちに襲い掛かってきた相手一人とっ捕まえて……とか割と人権を無視するような事を考え始めたあたりで、ようやく寮が見えてくる。


 ウェズンの向かう先、そこに、一人の生徒が立っていた。


「黒銀の髪……貴方が、ウェズン?」


「え……? そうだけど、君は?」


 この先にあるのは男子寮で、女子寮は反対側だ。

 なので、少女が男子寮へ戻る誰かしらを待ち構えていた、というのはわかる。割と無駄な行為に思えるが。


 鮮やかな赤い髪の少女は、イアやウィル、アクアと大体同じ程度に小柄だった。

 とはいえ、生憎ウェズンには見覚えがない。隣とかその隣のクラス、とかではなさそう。


「わたしはエルア。貴方に会うためにこの学園にやって来たの」

「えっ?」


 真っ直ぐにこちらを見つめて言う少女に、しかしウェズンは全く心当たりがない。

 なので貴方に会うために、とか言われてもきゅんとときめく事もないし、それどころか「なんで?」という困惑の方が強い。


 今になって学園にやって来た、という言葉を言うのであれば、彼女は今年入学した新入生なのだろう。

 となれば、学外のどこかで知り合ったと考えるのが普通だ。


 けれども。


「……えぇと……?」


 どれだけ記憶を探っても、困ったことにこれっぽっちも思い当たらなかったのである。


 いやホント、マジで誰?


 とか本人に面と向かって言えるだけの度胸は持ち合わせていなかった。

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