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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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現状迷宮入り



 ジークにあえて言う程のものではないが、ウェズンもテラプロメに関して父から聞いた時、その場で突っ込むべきかどうかを悩んだのだ。顔に出しはしなかったが。

 同時になんとなく納得もした。


 実家が町から少し離れた場所にあった事を。


 直接的にガッツリ両親に手を出さないようになっているとはいえ、ウェズンやイアはその範囲にない。

 知らないまま巻き込んで、そのままなし崩しに……というのを狙おうと思えばいくらでも狙えた。


 ただ、ウェズン達の家が町の中に無かったことで、ご近所さんを巻き込んでそこから取っ掛かりを作る……といった事は回避できたのだと思う。

 巻き込まれる人間の数が多ければ、最初は『誰が』『誰を』狙っているのかすぐに理解できないし、そこに気付くまでの間に仕掛けようと思えば打てる手はいくらだってある。

 誰のせいで巻き込まれたのか。

 物事の運び方次第では仲間内での疑心暗鬼による争いに持っていきやすいし、上手く誘導できれば目当ての人物を孤立させる事だってできる。


 あまり人と関わらない生活に、世捨て人か何かで? と思った事もあったけれど、ウェズンとしてはまぁ、転生した事実に気付いて見た目同年代のお子様と一緒にまじって遊ぶのは精神的に厳しいなと思っていたので何かを言う必要がなかっただけだ。


 前世の記憶なんてなくて、普通の子どもだったなら。

 もしかしたら幼い時点、それこそイアと出会う前に何らかの事件に巻き込まれていたかもしれない。


 まぁ、父が何かを隠しているのは今更だし、別にそれはどうでもいいのだ。

 隠し事がたっぷりあろうとも、あれはあれで父は一応ウェズンにもイアにも家族として接している。

 正直にぶっちゃけると前世の両親より親をしているように思えるので。

 前世の両親は家族を増やしこそすれど、仕事仕事で子どもとはそこまで関わってこなかったし。生活費払ってくれる大人、という認識がとても近いくらいで、親だと思えた事が薄情ではあるがほとんどなかった。

 親という概念は理解しているし、あの人たちがそう、ともわかってはいるのだけれど。


 なんていうか、テレビの中のドラマを見てるくらいの距離感が存在していた。

 全く会話がなかったとかではないのだが、いかんせん関わる時間が短すぎた。それでいて、インパクトも薄かった。関わる時間が短くとも、人生の一瞬程度の接点しかなくとも、それでも鮮烈に心に残る出来事というのは存在するが、しかし前世の両親に関してはそういった事もなかったのだ。


 インパクト度合ではちょっとグレかけた弟たちと拳でお話合いしたとか、拳骨落としただとか、まぁそっちのが印象が深いし、妹たちの数名がしれっとお腐れ様になってて兄弟喧嘩が発生した時の「うるせぇてめぇを次の新刊のネタにしてやろうか」という脅し文句の方がよっぽど心に残っている。最低な脅しである。


 まぁ、そういった家族像として見るならば、隠し事があろうとも父も母もまだマトモに親をしているとウェズンは思っているので。

 別段言いたくない事をわざわざ暴き立てる必要はないと思ったに過ぎない。

 必要な時がくれば言うだろ。必要になっても言わなかったら文句は拳の一つは出るかもしれないけど。



 という事なので、あえてわざわざまたジークにテラプロメに関する情報を追加で寄越せ、とかそういうつもりはウェズンにはこれっぽっちもなかった。

 そんな事よりも今気にすべきは、イアに関する事である。


 自分よりも遥かに長い年月を生きているドラゴン、酸いも甘いも嚙み分けて清濁併せ吞んだだろうと思われる程度には経験豊富かもしれない相手がいるのだ。

 自分の知らない事を多く知ってるだろう相手。

 ならば、もしかしたら。


 己の抱く疑問の答えを知っているかもしれない。


 そう思って、ウェズンは妹の手作りのお菓子と共にジークの元へ参じたのである。


 そもそも料理、とりわけお菓子は適当に作って出来上がる物もあるにはあるが、それでも大半はきちんと材料を計量しておかないとちょっとした事が原因で失敗、なんて事もある。

 例えば適当に板チョコ割ってレンジで溶かしてそこに生クリームぶちまけて冷やして固めるとかなら、材料を計量しなくてもどうとでもなる。その中に低温でじっくりローストしたナッツとかぶち込んだりマシュマロぶちこんだりするのも、きっちりこの量、と決める必要はない。ドライフルーツもナッツもマシュマロも、なんだったら細かく砕いたクッキーだとかパイ生地だとか、シリアルだとか。

 好きなだけ入れても構わない、なんていう雑にやってできるお菓子は確かにある。


 ただ、全部が全部それで成功するか、となるとそうではないだけだ。


 料理だってお菓子だって材料を途中でこれも追加するか……とやるにしても、明らかにそれはアウトだろ、みたいなものだってある。

 チョコレートの中に納豆をぶち込めば間違いなくとんでもないものになる。納豆じゃない豆ならギリセーフなのもあるけれど。


 もち米とあんこでおはぎにするのはありでも、おにぎりの具材にあんこは無いわ……っていうのだってある。


 多少のアレンジは可能だけれど、けれどもきっちり成功させたいのであれば材料を事前にしっかり用意して、計量しておくのがベスト。


 これは、魔法薬学にも言える事だ。

 錬金術の授業で魔法薬を作る事もあるけれど、まぁどっちも材料を用意して計量するのは変わりない。そこから更に下準備をするだとかの作業もあるにはあるけれど、そういった部分は料理作りも魔法薬を作るのにもどちらにも言える事だ。



 そこでウェズンはふと疑問に思ったのだ。

 妹の――イアの作る手料理はとんでもなく不味いけれど、しかし別に材料を本来使うはずだったものとすり替えて変な物を代用しているわけでもないし、量だって適量だ。馬鹿みたいにスパイスをぶち込むだとか、レシピにない材料を思い付きで入れたりだとか、そういった事はしない。

 材料だって腐る一歩手前とかいうヤバいのは使っていない。


 なのにどうしようもなく不味いのだ。


 近くでウェズンが作り始めから終わるまでを見ていてもおかしな部分は何もない。

 最初の頃はそりゃあ慣れない事にもたもたしていた部分もあるけれど、今となっては慣れたもので、手際だって悪くない。


 製造工程を見ているだけなら、とんでもない不味い飯が出来上がるなど誰も思わないだろうはずなのに。



 絶望する程不味いのである。


 材料にも作り方にも何も問題がないからこそ、その絶望は余計に強くなるのだろう。

 なんで? という思いが消える気が全くしない。

 材料が、たまたま選んだ食材が、その中で一番美味しくないのを選んでしまった、とかそういう事だってあるだろう。スーパーで材料を買う時、野菜や果物ならそういった事はあるかもしれない。外側に問題がなくてもいざ切ってみたら中が傷みかけていた、という事だってゼロではないだろう。見てわかるくらいに傷んでいればともかく、見た目に反映されない程度に傷んでいたなら、場合によっては気付けないかもしれない。


 けれども、そういった事がなくともイアの作る料理は不味い。


 何をどうしても不味くて、ある程度ウェズンや他の誰かが手伝えば普通に美味しいものが出来上がるのだけれど、イア一人でやると何故か不味くなる。なんで? ウェズンは恐らくこの疑問に一生分のなんで? を口に出したと思っている。



 似たような状況で魔法薬を作る際、密かにウェズンは恐れていた。

 魔法薬も同じような結果になったなら。


 飲んだ瞬間あまりの不味さに仮死状態に陥るくらいの薬ができてしまうのではないだろうか……


 そう心配するのは当然の流れとも言えた。


「でも、魔法薬の時は何も問題がなかったんですよ」


 チョコチップクッキーを一口齧って即座に悶絶したジークに、ウェズンは何てこともないように同じくクッキーを齧りながら説明する。

 妹の作ったクッキーが絶望的に不味くとも、ウェズンにしてみれば慣れたものだ。材料は傷んでるわけでもないし、腐ってるとかではないので食べても別に死にはしない。不味いけど。


「おかしいですよね。材料を用意して計量して、そうして手順の通りに作る。

 料理も魔法薬も、やってる事は同じはずなのに。

 魔法薬は問題ないのに料理になった途端こうなるんですよ。何か原因があるに違いない、と思うのは当然じゃないですか」


 サク、サク、サク、とクッキーを食べるウェズンに、ジークは信じられないものを見るような目を向けているが、今更である。それよりも、ドラゴンですら悶絶させるほどの不味さなのかこれ……という思いの方が強い。


「生憎知らん。聞かれても困る」

「そうですか」


 人生経験豊富そうなジークですら心当たりがない、となると、解決の糸口を見つけるのはまだまだ先の話になりそうだ。


「そもそも、何であえてこれをどうにかしようと思ってるんだ……?」

「だって、妹だっていつかは結婚するかもしれないでしょう? その時の事考えたら、スターゲイジーパイ以外の料理が壊滅的に不味いのは問題かなって」

「夫が作る側に回ればいいであろうに」

「いつも旦那さんが作れる状態にあるとも限らないでしょう」


 イアの旦那になる相手がどんな人かは知らない。そもそも今恋人もいるわけではないのだから。

 だが、仮に結婚した相手が料理を作れるとしても。

 何かの拍子に手を怪我して、ポーションや治癒魔法で治しても完治できないだとかの大怪我をした場合。

 それでも料理を作れ、とはならないだろう。完治するまでは安静にするのがベスト。

 その間、毎回惣菜を買ってくるだとかができる環境であるならいいが、そうでなければイアが作るしかなくなるわけで。

 下手をすれば治る怪我も治りが遅くなるのではないか、という心配をしても仕方がない話である。


 衣食住で揉めると引きずる事も多いとウェズンは前世の記憶から知っているし、ちょっとした事で夫婦喧嘩になった時、イアの料理の不味さがやり玉にあげられないとも限らない。

 カッとなった拍子に言ってはいけない事を口走るのはよくある話だ。そして言った直後に後悔するまでがワンセット。


 それでなくともこちらの世界、魔法だとかがあるわけで。


 夫婦喧嘩で魔法が飛び交う戦場みたいになりかねない。


 容易に殺人事件が発生しそうな状況を想像すれば、ウェズンだって今のうちになんとかしておきたいと思うのは当然の流れだった。

 そうでなくとも、学外授業で外に行って食料を調達して自分たちで作らないといけない状況になった時、他の人が手伝えばまだしも、もし何かの拍子にイアだけ孤立して別行動になって自分一人で料理を、となった時。

 リングの中にいくつか食糧を入れておくようにはいっているけれど、その食べ物だっていつ尽きるかもわからない。


 そうなった時、一人で自分が作った激マズ料理を食べなければならないのである。


 ……自分だったらその時点で生きる気力なくす。やる気もなくす。

 周囲に果物が生えてる木でもあるようなところで孤立するならまだしも、そうじゃなかったらもう完全にやる気も何もかもないままだ。その状態で一人魔物と遭遇したりだとか、トラブルを対処しようにも気力が消失しているとなれば、生存率にも影響しかねない。


 魔法薬は問題なく一人で最初から最後までやっても完成するなら、料理だって完成して然るべきはずなのに。

 何故だか料理にはその常識が適用されていないのである。


 ジークなら何か、知ってるんじゃないかな、とか思ったのだけれどそう都合よくはいかなかったらしい。


 まぁ、絶対に何とかなる、と希望を持っていたわけでもなし、もしかしたら何か知らないかな、くらいの気持ちだったのでそこまでがっかりはしていない。


「妖精に呪われているだとか、そういった事も考えられるのだがな……あいつにそういった呪いの気配はない。これだけは言っておく」

「呪われてる方が話が手っ取り早かったな」

「そうだな」


 呪われてるなら解呪すれば済む話だ。

 しかし呪いでないのなら、原因を突き止めてそれを解決しなければならない。

 そして現状その原因は突き止める以前の問題である。


 一口口に含んだだけでもあまりの不味さに酷いダメージを受けたジークは、平然としてクッキーを食べているウェズンを見て、


(やはり兄上の器となった相手は違うな……)


 とか思い始めていた。

 現実逃避である。

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