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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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奇妙な関係



 ジークはあえて一人でやってきたイアを内心ちょっとだけ感心して見ていた。


 なんというべきか、ジークから見たイアの印象は正直ほとんど何もない。

 ウェズンの妹という情報は把握しているがそれだけだ。血の繋がりもないようなので、妹というそれもただの肩書のようなもの。ジークからすれば死のうが生きようが別にどうでもいいかな、という程度にしか認識していなかった。


 少し前にどうやらウェインがわざわざ学園にやって来たというのは把握していたが、自分に会いに来たわけではないようなのでジークとしては静観していたのだ。てっきり文句の百や二百言いにくるかと思っていたのに。


 それどころではない、のかもしれない。


 まぁ、今あいつが何をしてたとしてもそれもジークにとってはどうでもいい事だ。自分の兄に関わる事である、というのならまだしもまずそうではない事はわかっているので。


 ジークからすればウェインは詰めの甘い奴という認識でしかない。

 いや、その詰めの甘い奴にしてやられた過去があるのであまりぼろくそにも言えないのだが。そうしちゃうと自分の事も自分で貶す事になるので。


 確実にテラプロメから逃げるためには、神に願いを叶えてやると言われた時にもっと確実な願いがあったというのにそれをしなかったのだから、結局何を言われたところで詰めが甘いというのは取り消さないけれど。



 ともあれ、イアである。


 一応教師として学園にいる以上、最低限、学ぶ意思があるのなら教える事に否やはない。というか否と言うのならどうしてここに来たと言われても仕方がないので余程の事でもない限りジークが教えないという事もないのだが、それはさておき。


 ウェズンあたりがやってくるだろうかとも思っていたがウェズンではなくイアが来た時点で、ジークはほんの少しイアに対する認識を変えた。


 なにせこのイアという娘、普段を見ているとあまり賢いようには見えないのだ。

 一応授業は真面目に受けているけれど、成績はずば抜けて優秀というわけでもないし、そもそも普段の言動からあまり賢さを感じさせない。


 けれどもウェインが来た時の話の内容をこちらに話して、その上でテラプロメ側が実際何の痛手もない約束をしただけという事実に気付いた。直接的にウェインとファムに関われずとも、それ以外の身内――ウェズンには、直接的に狙う以外の名目で関わろうと思えば簡単にできる状態であるという事実に気付いたのだ。

 そして、だからこそジークがテラプロメの事を語った事に関してじっとりとした目を向けている。


 謎の刺客に狙われるような展開は回避できたかもしれないが、今後もし謎の刺客らしきものが襲ってきたらそれは高確率でテラプロメであると思うだろう事実。

 知った以上、知らなかった頃には戻れないし、ウェズンに至っては見て見ぬふりはできないだろう。そう長い付き合いではないけれど、それでもジークはウェズンがどういった人物であるかをなんとなく把握している。


 だからこそ、事前に調べた上でルシアがウェズンの部屋に行ったというのを察知した上で乗りこんだのだ。

 きっとルシアは、ウェズンを殺そうとしていた理由を話しこそすれ間違いなくテラプロメそのものに関して伝える事はしなかっただろう。とはいえそれも時間の問題だっただろうけれど。

 ウェズンが突っ込めば、きっとルシアは話すしかなかった。けれどもウェズンはどうしてか、変なところで察しの良さを発揮するので。


 ルシアが言葉を濁した結果、そこを深く聞かない可能性だって存在していたのだ。

 実のところ、この学園にはルシア以外にもテラプロメと関わっている人物がいる。そしてそれは、間違いなくウェズンの動向を気取られないよう探っているのだが、ウェズンがテラプロメの存在を知らない以上は、露骨に関わる事ができない。


 ウェズンだけではなくルシアも監視対象に入っているようだが、恐らく二人はそちらに気付いていないだろう。



 だからこそ、殺そうとしていたという事実に良心の呵責を覚えたルシアがそれでもどうにかテラプロメの事を語らなければ。


 まだ、かろうじてウェズンにとっての平穏は続くはずだったのだ。



 そしてジークはそれを知った上でぶち壊した。

 いかな薄氷の上に存在する幻想のような平穏だろうとも、あるのとないのとでは大分違ってくる。

 それがどれだけ頼りなく思われる平和だろうとも、それでもウェインは守ろうとしていたし、ルシアもまた己の都合で巻き込んだとはいえ最悪の地点まで引きずり降ろそうとはしていなかった。


 自分の生い立ちを考えたら、ウェズンに逆恨みをしてあいつも引きずり込んでやる! なんて思ったっておかしくはないのに。



 ルシアは、それでもなるべく表向きのふわっとした部分しか話さなかった。というか、恐らくそこまで深い事情を把握していないのかもしれない。

 けれどもウェインは違う。

 生贄ではなくそれを監視する側だ。本来知るはずのない裏事情だって知っている。

 ルシアが語ったテラプロメに関する情報がどれほどのものかをウェズンの話から即座に判断し、その上でそれでもまだ息子を守ろうと足掻いている。



 ……いっそ、それすらぶち壊してやっても良かったのだが。



 だが、まぁしかし。


 ウェズンを危機的状況に陥らせて再び彼の中に兄上が現れる可能性に期待するのはともかく、ウェズン本人が死ぬような事になるのは避けたい。兄が今どういう状況になっているのか、ジークはそれを知らないのだ。知らないうちにウェズンに死なれてしまえば、手掛かりがなくなってしまう。



 だからこそ、ジークもまたウェズンに何もかもを話したわけではない。

 そもそも長く生きていると、どの情報を伝えてどれを伝えない方がいいのか、なんて事も曖昧になってくるのだ。別に知らなきゃ知らないでいいし、知った時点でもっと早くに知っていれば、なんて後悔だってよくある話だ。知らない方が良かった、なんて事だって沢山ある。


 その膨大な情報のどれをもたらすかなど、そんなもの単なる気分でしかない。



 わざわざ兄を危険な目に遭わせようとしている事に気付いたらしき妹に、兄の代わりに知らなくていい情報も教えてやろうかなんて一瞬意地の悪い事を考えたけれど。

 自分と同じく兄を案ずる立場である、という事に免じて。


 流石にそこまではしない事に決めた。



 ウェインがテラプロメに関して極力語らないのは知らないままでいてほしいというのもあるだろうけれど、同時に関わった時の事を考えてでもあるはずだ。

 もしうっかりウェズンがテラプロメに足を踏み入れるような状況になった時、守護者の存在を知っているかどうかで生存率は大きく変わってくる。


 ウェインは既に知っていたからこそ、テラプロメからファムを連れて逃げ出すだけで精いっぱいだった。


 ジークだって正直あの都市に関しては目障りでもあるし、ドラゴンというだけでもう狙われるのが確定しているような所なので機会があればぶち壊してやりたいとは思っている。

 思っているのだが……自分も知らなくていい事を知ってしまったが故に。

 手を出すのが難しくなってしまった。



 関わらなくてもそれでいいが、関わるのであればどうにかできるだけの状態を――とウェインが思ったとしても気持ちはわかる。

 知らないままならそもそも関わらないので対処も何も、という話ではあるのだけれど。


 これというのもあの守護者の馬鹿みたいな特性のせいだ。



 ……余計な情報を与えたのは確かだが、これ以上はジークとて弁える事にする。



「仕方ないな」

「何が」


「いらぬ情報を与えたのは確かだ。認めよう」

「うん?」


「だが、それをお前ウェズンに言ったか?」

「んえ? 言ってない。とりあえずジークがどういうつもりだったかを聞いてから考えよっかなって」

「そうか。では、そのまま何も言わず無かったことにしておけ。そうでなければ更なる情報投下して本気で奴を不利に追い込む」


「…………脅しにしてはおかしな事言うね?」

「本来情報が明かされるのであれば不利どころか有利になるはずだからな。おかしいと思うのは当然であろうよ」


 さて、どうする?


 そう問えば、イアは数秒だけじっとジークを見つめた。

 ふふ、と挑発でもするように目を細めて笑うジークに、しかしイアは怯える様子もたじろいだ様子もないままで。


「…………わかった。いいよ、言わない。それがおにいのためになるならね。でも、そうじゃないと判断したら言うよ?」

「あぁ、当面はそれでいい。なに、我もあやつにそう簡単に死なれても困るのでな。肝心な事を黙るかわりに、多少の手助けはするとも」


 わざわざ言う事でもないが、テラプロメから送られてきたであろう人物がウェズンに不用意に近づくような事があれば、一応こちらも牽制くらいはしておこう。そういった算段である。

 とはいえ、向こうも軽率に関わりには来ないと思っている。


 わかった、と言いながらも確実に納得はしていない表情を浮かべるイアに、ジークは告げる。


「あぁそうだ。これでそなたも共犯だな?」


 言って、ころころと楽しそうに笑ってみせれば。


「それはそれでムカつくからそのうち背後から奇襲仕掛けていい?」

「おぉいいぞ、できるものならな」


 イアなりの精一杯の反抗なのだろう。

 ま、とはいえ。

 そのうち攻撃を仕掛けますよ、というのをわざわざ宣言しているあたり可愛らしいものである。


 先程とは違う種類の笑みが浮かんだ。

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