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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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何の解決にもならない



 落ち度である。


 そう思った部分はあった。

 知らなければ良かった事実。

 あえての隙を作ってしまっていた両親の落ち度。

 どちらにしても、何も知らないままであれば、ルシアのような刺客、そう何度も送り込まれるはずもないし、ルシアだってもしジークがあの時にウェズンの部屋に来なければテラプロメの事をハッキリと伝えたりはしなかったはずだ。


 ちょっかいをかけるように関わって、結果として手を出してきた相手を調べようとするのは当然の流れというべきか、それとも必然と言うべきか。

 どちらにしても、とんでもない罠であった。


 学園でテラプロメと直接関わる事はないだろう。

 ジークが言わなければ知らないままの話であったなら、それはつまり学園側からテラプロメと関わりを持ったりしないという事。


 ドラゴンの体内にある魔晶核が浄化機に欠かせない物であるだとかの情報は、別にテラプロメとは関係ない。確かにテラプロメにはドラゴンの血を引く種族としてレッドラム一族が管理されている状態ではあるけれど、そこはわざわざ世界に周知させる必要はないのだ。


 テラプロメの存在は限られた者だけが把握していればそれでよかった、ある種の世界の闇みたいな代物で。

 今更ながらにイアはそれがとんでもない厄ネタだと把握したのだ。


 テラプロメ側がちょっかいかけてきても、こっちが一切何も知らないままそれを乗り切ってしまえばそれ以上は手出しも難しくなってくる。

 けれども、知ってしまえば。

 どうにかしようと対処しようと試みたり、なんとかしようと足掻くだろう。


 知った上で関わらない、という選択肢だって勿論ある。

 あるけれど、知らなかった頃と全く同じ対応が通じるとは限らなくなってしまった。



 両親が今までそこら辺詳しく言わなかったのは、まぁ仕方がないと思う。

 誰だって隠し事の一つや二つあるだろうし。

 イアだって、自分が前世の記憶を持ってて転生したなんて話両親にはするつもりがこの先一切ないのだ。ただ、どうしたって一人では抱えきれなかったから、ウェズンにだけは話したけれど。

 隠し事に関しては、信じる信じないは別にしても話してほしかった、と思う者もいるだろう。

 けれど、それを話すかどうか決めるのは抱え込んでいる側だ。


 秘密を明かすというのは、そう簡単にできるものではない。

 信じていたのにいざ明かした後で裏切られたら。そんな風に考えたりしたならば、話すのだって勇気がとてもいる事だとイアはわかっている。


 ウェズンは信じてくれたけど、両親もきっと頭ごなしに否定したりはしないかもしれないけれど。

 でも、ウェズンに明かすのと両親に明かすのとでは、イアの心の中の決意が異なった。結果として両親にはイアが前世の記憶があるなんて話、きっとこれからもできやしないと思っている。

 どうしてだろう、と考えても答えは出ない。



 テラプロメから脱出した時にウェインが盗んだとされる魔晶核をもし早々に返却していたならば、テラプロメは神との約束もあって付け入る隙がなくなっていただろうというのもジークの話で遅れて察した。

 ルシアを使ったやり方が、どうにも妙だなとは思っていたけれどそこはすっかり忘れていたのだ。忘れたというよりは、そっちにまで考えが向かなかったというのが正しい。


 いやだがしかし、あの両親だ。

 テラプロメから脱出する際にどうしたって必要な事だったのかもしれないし、色々な事情があったのかもしれない。その場のノリと勢いだけでやらかして返していないだけ、とかまさかそんな軽い理由ではないだろう。


 まぁでも、そのせいで付け入る隙があったわけだが。



「どうしてわざわざ」

「元々言っているが、我にとって重要なのは兄上であってそれ以外は塵芥だ」


 暴論である。

 そうやって噛みつければよかったが、イアはぐっと押し黙った。


「ウェズンの中に兄上の存在が現れたのは、危機的状況にあったからだ。我との戦いの時に、もしあのままであったなら我は間違いなく奴らを殺していたわけだしな」

 危機的状況に陥ったからといっても、あの時ジークの兄がウェズンの中に現れるかどうかはジークにだって想像していなかった出来事だ。いなければジークがあの場を制して堂々と塔から脱出し、今頃こんなことにはなっていなかっただろう。


「危機に陥るたびに必ずしも兄上がウェズンの中に現れるとは限らない、が、可能性として現れる確率は上がるわけだ」


 そこまで言われれば充分だった。

 イアは普段あまり賢そうな振る舞いをしていないとはいえ、別に馬鹿ではない。そこまで言われれば流石に気付く。


 こっ、このドラゴン親切に色々教えたと思ったらしれっと舗装した地獄への道をエスコートしてやがった……!


 そう言えたらどれだけ良かっただろうか。

 勿論、イアやウェズンが何かを察知して両親からあれこれ聞いて深入りするルートもあったかもしれない。けれど、その存在を知ってしまった以上知らなかった頃と同じではいられない。いられるはずがない。



 テラプロメがこちらに関わった時点で遅かれ早かれ真実に気付く可能性は勿論あるのだけれど、そこはそれ。



 魔晶核を返せ、という名目で襲い掛かってくるにしても、ウェインやファムに直接関わってしまっては神判定でアウトの可能性もある。であれば、狙いは自然とその血縁――ウェズンが狙われる事になる。

 イアも狙われる可能性は確かにあるのだけれど、しかし血の繋がりがない時点で重要な情報を知らせるかどうか、という風に考えたなら。

 イアがテラプロメから狙われるのは、本当に最後の最後あたり、ウェズンを襲撃したにも関わらず何の情報も得られなかったとかそういった時だろう。



 知っていても知らないままだったとしてもウェズンの危険度合いはそう変わらない気がしてくるが、だからといって危険とわかっているものと簡単に関わらせようとしていたジークに、イアは何かを言おうとして――けれども上手く言葉にできなくて結局口の端を引きつらせるだけだった。



 こうなると、ウェインがテラプロメから持ち出した魔晶核の行方もジークは把握していたらきっとウェズンとイアに伝えていたに違いないと思えてくる。

 結局父はあの時そこら辺一切何も話さなかった。

 わざわざ学園に来て肝心な事何一つ話していかないとかお前一体何しに来たん? と言いたくなる気もするけれど、しかし父は父なりにこちらを守ろうとは思っているのだろう。


 たまたまイアがゲーム版主人公に転生していたから父に拾われたのはある意味でゲーム版の原作展開とも言えるけれど、ウェインがその事実を知っているはずもない。彼は本当にたまたま死にかけたこどもを見捨てられずに助けたに過ぎない。

 一応、その程度には善性を持っているのだ。

 だから、というわけではないがイアは父が何も言わないのは不都合な事実を隠したいから――ではないと思っている。



 テラプロメではレッドラム一族を監視する役割を持っていたらしいけれど、それでも惚れた女相手に「世界で一番不幸にできると思ったから」とか言われるような相手だ。

 やってることは後ろ暗い事であっても、多分ウェイン本人はそこまでの悪党でもないのではないかな、というのがイアのウェインに対する評価であった。



 ついでに言うと、仮に歴代最強の魔王と称されていたとしても、決してウェインは全能でも万能でもない。

 恐らくは、ウェインの方でもどうするべきか、もしかしなくても悩んでいるのではないだろうか、とイアは思っていた。


 だって、不都合な事実に気付いてほしくないのであれば、そもそもジークを解放するような事に関わらせるはずがない。タハトの塔の鍵とやらをウェズンに託す必要なんてどこにもなかったし、イルミナはさておきウェズンはあの塔にいかないという選択肢だってあったのだ。鍵を手に入れさえしなければ。

 そして、ジークの事はイルミナの母の願いを汲んで仕留めるようにしたって良かったはずなのだ。


 だがウェインは、ジークを殺さずあえて教師として学園に行くようにとジークに言っていた。


 いくつもの最悪な展開を想像して、そこからどうにか対処できそうなことはしていこうとしていたのだろうな、とはイアも何となく想像がつく。

 ただ、その手を打っておこうとしたそれぞれがいらん反応を起こして結果余計ロクでもない事になってるのではないか、とも思えるのだが。


 恐らくジークが見ているものと、ウェインが見据えているものと、きっと物凄く大きな違いがあるのだろうな、ともイアは理解している。ただ、そこを理解できても詳細まではわからないだろうなとも。


 イアは別に馬鹿ではないけれど、賢いわけでもなかったので。



 ただ、確実に理解できたのは。


 テラプロメは直接的に両親を害そうとする事ができなくても、ウェズンとイアは巻き込もうと思えばいくらでもそういった名目を作り出す事ができる、という最悪の事実だけだった。

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