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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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開けてはならなかった真実



「聞きたいことがあります」


 魔本に閉じ込められた生徒の話が広まって、それから数日後には授業でも簡単ですぐ終わるタイプの魔本を使う事もある、なんて言われて。

 魔本の存在は二年生の間であっという間に広まった。

 新入生が一緒にいるクラスでは直接的に言われたりはしていなかったようだが、二年だけの合同座学などで言われたのもあって授業をサボったりしなければもうすっかり常識、みたいな流れである。


 一応魔本に関わった場合、クリアしたら魔力の量が増えたりするとは言われていたが魔本 勇者物語はどちらかといえば初心者向けのものだったようで、期待していた程魔力が増えたわけではなかった。

 魔力量が低いレイだけは、何となく効果を実感した、みたいな感じだったがそれ以外は「言う程上がった?」と首を傾げる程度のもので。


 授業でやるよりも一足先に魔本に事故とはいえ入ったのだ。

 他の生徒からどんな感じだった? なんて聞かれたりもしていたが、しかしそれは他のクラスで魔本を使った授業が始まればわざわざそんな質問に来る者もいなくなった。



 そんな、ある程度色んな事が落ち着いてきた頃合いを見計らってイアは教師に声をかけた。

 声をかけられた教師はというと、自分に質問がくるとは思わなかったのか一瞬周囲に視線を向けたが、自分以外に該当しそうな者がいないと判断したのだろう。


「なんだ」


 だからこそ、聞き返した。


「えーっと、ここではちょっと」

 一応他に誰が通りかからないとも限らない。できれば、あまり周囲に聞かれたい話でもないな、と思ったのでイアは言いにくそうに周囲に視線を巡らせた。

 それで察しない教師でもなかったので、ふむ、と一つ頷いて。


「よかろう、着いてくるがよい」


 言うなりジークが向かったのは職員室であった。


 防音魔法がかけられた来客用の空間。内緒話をするにはまさに打ってつけである。


 ジークはそこのソファに腰を下ろし、それで? と話の先を促した。


 既に授業ではドラゴンに関する話やテラプロメに関する内容を話した後だ。

 といっても、何もかもを明らかにしたわけではないが。

 あくまでもふわっと程度である。


 そういう都市が上空を飛んでいたりする、という事実だとか、ドラゴンの中にある魔晶核についてであったりだとか。

 レッドラム一族に関しては話したりはしていない。


 正しい儀式のやり方をジークは教えるつもりがなかったし、そうでなくとも間違った知識だろうともレッドラム一族を魔晶核がわりに――使い捨て浄化機として使おうと目論まないなどと断言できるはずもない。切羽詰まった所ほど、たとえ間違った儀式であったとしても万一の可能性に縋ってやらかさないとも限らないのだ。


 大半のレッドラム一族がテラプロメに囚われている状態であるが、例外はいる。

 その例外が無暗に狙われる原因を自分が作るつもりまでは、ジークにはなかったのだ。


 イアは少し考えた末に、ちょっと前にやって来た父親の話をした。

 ジークはふぅん? という態度でそれを聞いていたが、イアの話が終わった時点で再び「それで?」と口にする。


「おかしい、と思う」


 イアの言葉に迷いはなかった。

 何がおかしいと思った? と分かった上で問えば、イアはテラプロメのやり方だと答えた。


「神様が、ダディたちとテラプロメを不可侵状態にしてお互い関わらないようにした。それで、ダディたちがテラプロメに追われなくなった。うん、そこだけ聞けば、別に何も問題はないように聞こえる」


 ウェインの立場がテラプロメでどれくらいの位置であったのか、イアにはわからない。原作にそんな描写があったとは思っていないし、話をされた後になっていくら思い返してみても、それっぽいエピソードがあった気もしていない。

 けれどもファムに関しては。

 実際かなり重要な位置にいるのではないだろうか。


 テラプロメとしては、浄化能力が高いとされているレッドラム一族を手放すつもりはこれっぽっちもなかったのだろう。どうでもいい程度の能力しかない相手なら見逃したかもしれない。けれど、そうではなかった。

 ファーゼルフィテューネに関しては、テラプロメは見逃せない相手だったのではないだろうか。

 であれば、神に言われたとしてもそう簡単に諦められるはずがない。


 ウェインだけなら上手い事出し抜かれて都市から逃げられた、で済んだかもしれない。けれど、一緒に連れて行った相手が悪かった――のだとイアは思っている。


 こっちから関わったらテラプロメ側は嬉々として手を出してくる。

 テラプロメ側から手出しはしない、と言ってはいたがしかし。


「でも、ルシアはおにいを殺そうとしていた。テラプロメの元老院とやらに言われて」


 そうだ。

 ここがおかしい。

 どうしたって引っかかる。


 ウェズンもきっとそこに気付いているはずだ。

 あの時、もし、父が学園にやってきたあの時。

 もしかしたらウェズンだってその部分の不自然さを指摘したかもしれない。

 ただ、あの場にはイアもいた。

 下手に闇の深い話になった場合を考えて、あえて追究しようとしなかった可能性は大いにあった。


 兄は何だかんだ妹に優しい。

 夢見がちなままではいさせてくれないけれど、それでも知る必要がなさそうなイヤな話をその場でするような事まではしなかった。

 勿論、父だってそこまで考えた上でイアを同席させたわけではないだろう。

 実際テラプロメに関わればロクな事にならないのはそうだろうし、だからこそ、知らないままでいてほしかったのも勿論あるだろうけれど、それでも関わる可能性ができてしまったが故に。

 多少の情報開示をする必要が出てしまった。


 テラプロメの存在を知らないまま、知らず関わる機会があるか、と言われれば可能性はとても低かった。

 何せテラプロメは通常の方法で行く事のない場所だ。神の楔を使うにしても、自由に行き来できる状態ではない。テラプロメの存在を知らなければ、行く事も無い場所。行こうとも思わない、というかそもそもその存在を知らないままであれば行こうと思い浮かぶ事もないような場所。


 テラプロメの関係者が仮にウェズンの近くにいたとしても、ウェズンはテラプロメの存在など知るはずもない。

 であれば、自分からその空中移動都市と関わろうと思って行動に出たわけではない、となる。

 ルシアがウェズンを殺そうとしていた事を懺悔した時、イアはその場にいなかった。

 後になってからこういう事があったと言われただけだ。


 原作に関する記憶は相変わらずふわっふわだけど、それでも流石にそんな展開があったとなれば覚えていてもおかしくはない……はずだ。

 だがそうはならなかった。思い出せそうな気もしなかった。


 仮に、原作でもそうだったとして。

 ルシアは自分がテラプロメに所属しているという事実までを明かすつもりはなかったのではないだろうか。知らなければ、これ以上の深入りはできなくなる――そんな風に考えて。


 勿論ルシアの考えをテラプロメも把握したうえで、何か他の罠を、という可能性だって充分にあるのだけれど。



「テラプロメについてのおはなしをしたの、ジーク先生ですよね」

 そしてウェズンは知ってしまった。テラプロメの存在を。両親の故郷にしてどうしようもなくロクでもない場所の事を。

 知った以上、ルシアが下手に隠すのは無理だと判断して便乗してあれこれ話したとしても、不思議ではなかった。知った以上はあまり情報を隠すわけにもいかないだろう。何せ殺すつもりだったと懺悔しに来ておきながら情報を隠すとなれば、逆に怪しさが爆発する。



「ふむ、まぁ、テラプロメに関してではあるが。

 一応約束は守っているのだよ、あれでもな」

「嘘だぁ」

「いいや本当だとも。世の中には嘘も方便だとか、物は言いようという言葉があるがテラプロメは別段ウェズン個人をどうにかしようと思ってはいない。ただ、あのファーゼルフィテューネの血を引いているなら使えるかもとは思っているだろうよ。

 実際連れ戻したいのはあくまでもファーゼルフィテューネの方だ」


 我が子を殺された母の心が折れないと思うか? と聞かされてイアは思わず考え込んだ。

 ファムはイアにとっても母親である。血の繋がりがなくとも。当時、まだ自力でマトモに歩行できなかったり喋れなかったりしたでかい赤ん坊状態だったイアを、ウェズンと一緒に面倒を見てくれて、どうにか普通の人間と言えるようになって。それでもここで役目を終えた、みたいな事はなかったし、今までと変わらず彼女はイアの新しい母親であった。


 優しい人、なのだと思う。

 多分。

 きっと。

 恐らく。

 優しい人、だと思いたい。


 ここで断言できないのは、イアがかつてファムにお父さんとの馴れ初めってどんな感じ? だとか、お父さんのどこが好き? とかちょっとしたコイバナを振ってしまったからだろう。

 馴れ初めに関しては言葉を濁されたけれど、あれは話すとテラプロメの事も言わざるを得なくなるからそうしたのはわかる。


 ただ、どうして父とくっついたのか、という点において。

 彼女の返答は今でもイアには理解できそうになかったのだ。



「きっとワタシだけだから。ウェインの事を世界で一番不幸にできるのは」


 そこは幸せにできる、ではないのか――そう思った。

 けれども、冗談でもなく本当にそう思って言ったのだ。

 好き、なんだよね……? と不安になって確認するように聞いてみれば、愛しているとにこやかに答えられて。


 わっかんないにゃあ! とイアは本気でそう思ったのだ。

 イアが前世で履修した恋愛作品に似たような系統の話はなかったのでなおの事理解できない。


 そんな物騒な事を言う女が、ただ守られるだけのヒロインであるはずもない。

 テラプロメは本気で今でもファーゼルフィテューネを狙っているというのなら、ちょっと色々どうかと思う。


「大体、本当の意味で狙っているならルシアにはウェズンをどうにか言いくるめてテラプロメへ連れてくるように言っていただろうよ。だが元老院は殺せと言った。レッドラム一族として利用しようという心積もりがないわけではないが、本来の目的と異なるが故に殺せとルシアに命じた」

「言われてみれば……儀式で浄化するんだっけ? それ以外で殺したら瘴気が溢れるんだったっけ? あれ? おにいもそうなんだった?」

「奴はウェインの血も濃いめに継いでるっぽいからそこまでレッドラム一族としての能力が高いかどうかは微妙なところだな。だからこそテラプロメは別にウェズン本人に対して何を思うでもなかろうよ」


 言うなれば絶対に手元に連れ戻したいというわけでもなく臨機応変に利用しようとしている。

 そう言われると、とても都合の良い扱いをされそうになっているのだな、と思う他ない。


「え、じゃあなんでルシアは」

「目的が異なる」

「え?」

「ルシアの目的はウェズンを殺す事が本題ではない」

「あれ?」

「その後ウェインないしファーゼルフィテューネを引きずり出す事だ。ウェインが子を殺された仇を討つために出向くならそれはそれで望む所なのさ。

 本来の目的はウェインがテラプロメから脱出する際に盗んだ魔晶核の回収なのだから」


「……あ」


「神はあくまでもウェインとファム、そしてその家族だとかに直接的に手出しをするなと介入はしたが、それ以外までは面倒を見ていない。

 ウェインが早々に持ち出した魔晶核をテラプロメに返していれば、向こうも手を出す口実が消えて本当にお互い不可侵のままだった」



 そう言われて。


 イアはようやく気付いたのである。


「そもそも、世界を滅ぼすと決めた神の気まぐれで願いを叶えるなんて言葉ではあるが。

 その拘束力がどれほどのものかなど……考えれば微妙であるのは言うまでもなかろう。金が欲しい土地が欲しいといった即物的な願いならまだしも、思惑の絡み合うような願いに関する拘束力は驚く程低い」


 ただ、テラプロメはそれでもその約束事をあからさまに破った場合のペナルティを警戒して一応お行儀よく直接は手を出さないだけだ。


 なんて言われてしまえば。


「……やってくれましたね、ジーク先生」

「ははは、人の好奇心というのは厄介なものだな?」


 イルミナにとてもよく似たその顔で、ジークは酷く人の悪い笑みを浮かべたのである。

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