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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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ありがちな導入



 魔物に囲まれている。

 そう考えると中々に際どい状況であるのは間違いじゃない。


 だがしかし。


「え……?」

「なんだ、あれ」

「なんだも何も。魔物だろう」


 確かにウェズンたちを囲むように魔物はいた。

 別々の種類というわけではなく、同一の種だろう。見た目はほとんど変わらない。大きさに多少の差はあれど、一つの群れと言われればまぁ理解はできた。


 今すぐ襲い掛かってくる気配はないが、間違いなく奴らはウェズンたちを取り囲むようにしてじっと見ていた。

 そう、見ているだけだ。

 だからこそ気付かなかったのだろう。


 しかし、事前に図書室で見たセルシェン高地で出没するらしき魔物を図鑑で調べたけれど、今三人を取り囲んでいるやつは見た覚えがない。

 調査した人が見かけなかっただけか、それとも新種か。

 どちらでも大差ないが、情報がないという事は対処するにもかなり慎重にならなければならない。


 相手がどう出るつもりかもわからないが、取り囲まれている時点でこちらから無謀に攻撃を仕掛けようとは思わなかった。


 もっと危険性を感じ取れていたならば、咄嗟に攻撃に移っていたかもしれない。

 だがしかし、見ているだけだった。だからこそウェズンたちも行動に移るべきか悩んでしまっていた。


 魔物の大きさは人間の子供と同じくらいだろうか。多少の個体差はあれど、大体がイアと同じくらいの大きさだと思える。それくらいの大きさの魔物であれば、種類によってはかなり危険な場合もあるけれど今のところじっとこちらを見ているだけなので危険度がどれくらいかはわからない。


 だが――


「なんかすっげぇじっと見てくるな……」

「むしろじわじわと近づいてないか……?」


 ルシアとヴァンの困惑が伝わってくる。


 大きさは大体イアと同じくらい。

 そしてその見た目は鳥に近しい。


 ウェズンはその魔物にとても既視感があった。


 じっとこちらを見ているその目からは、敵意だとかは特に感じられない。だがしかしあまりにも強い目力。

 すっげぇ見てくる、というルシアの言葉以外に出てくる言葉がないくらいに、じっと見ている。


 見覚えがあった。


 そう、あれは前世で――


「……ハシビロコウ……?」


 そうだ、動物番組で見たアイツだ――!!


 そう思った直後、その名を口に出していた。


「……ビロコウ? それがあの魔物の名か?」

 最初の部分が聞き取れなかったらしきヴァンが慣れない単語を口にするように声に出したが、ウェズンはそっと首を横に振った。


「や、前に見たやつに似てる気がしたけど、多分違う」


 大体ハシビロコウは魔物ではない。今自分たちを取り囲んでいる奴らが似ていたとしても。


 それに確かハシビロコウはじっと見ているだけで、じわじわと距離を詰めたりはしてこなかったと思う。少なくとも、テレビの動物番組で見た限りでは。むしろあまり動かないでひたすら目で殺す並みに見てくるだけだったはずだ。

 ここが異世界なのでこっちの世界のハシビロコウはこうです、と言われたら流石にウェズンも否定はできないけれど。


 微動だにしないというわけでもなく、ゆら、ゆら、とかすかだが左右に動いている。

 その動きに合わせてじりじりと距離を縮めているようなのだが。


 ある一定の距離に近づいたからだろうか。


「るー」


 その中の一匹から恐らく鳴き声であろう音が発せられた。


「え、何」

「鳴き声……か?」

「無駄にイケボ」


 困惑した様子のルシア、怪訝そうなヴァン、思わず笑いそうになったウェズン。三者三様の反応だった。


 ビックリするくらい重低音なイケボであった。いやお前らの見た目から出るような音じゃないだろうそれ、と言いたくなる程に。


 そして一匹が鳴いた事で、他の個体も同じように鳴き始める。


「るー」

「るー」

「るー」

「りゅー」


 一匹何か違う感じがしたが、もしかしてまだ幼い個体だろうか。それとも鳴き声が下手くそなだけだろうか。

 気になりはしたけれど、どの個体が微妙に外れた鳴き声をしたのかまではわからなかった。


 ガサ、と手元の袋を咄嗟にリングに収納しようとして、音が出る。


「るー」

「るー」

「るー」


 そしてその音に反応したのか、更に鳴き声があがった。

 じり、じり、と近づいてくるその光景は異様な迫力があった。


「ひっ!?」

 ルシアが悲鳴まじりな声を上げ、手にしていた袋を落とす。その拍子に再び袋がガサリと音を立て――


「るー」

「るー」

「るー」


 メトロノームのように身体を左右に動かして、先程よりも早い速度で近づいてくる。


「ひぃっ!?」

 先程以上に怯えの混じった声がルシアの口から出る。


「もしかしなくても、不味くないか……?」


 ヴァンが視線を左右に移動させながら言う。声には明らかな焦燥が含まれていた。

「……一度撤退しよう」


 相手が一体だとかであればまだ、倒そうとか言えたと思う。

 しかし複数いる時点で、しかも相手の実力が未知数ともなれば、よーし先制攻撃だー! なんてのんきに言えるはずもない。攻撃を仕掛けて思った以上に強くて「あ、これ勝てねぇわ」となった場合すんなり逃げられるかどうかも疑わしいのだ。


 ルシアが落とした袋を拾い上げて、ウェズンはもう片方の手でルシアの腕を掴む。


「ひょわっ!?」

 逃げる、というにしてもどっちに……とか聞く前にウェズンが行動に移ったからか、ルシアからは愉快な悲鳴が上がったものの特に抵抗するでもなく足は走り出していた。

 ヴァンも遅れずにその後ろをついていく。


「るー」

「るー」

「るー」


「るー!」


 背後でやたらイケボな鳴き声が響いているが、振り返ろうとは思わなかった。


 本来ならば来た道を引き返して神の楔があるあたりまで逃げた方が安全ではあった。

 あったのだけれど、そちらを見れば思った以上に数がいたので、流石に突っ込んでいくわけにもいかず。

 あいつらの数が少なくてどうにか突破できそうな場所を、と探ってみれば本当につい先程もう少し奥の方へ進もうか、なんて言っていた方角であった。


 撤退どころかより奥に進む結果になってしまったが、こうなってしまった以上は仕方がない。とにかく足を止めずに進み続ける。

「なっ、なぁ、ちょっ、はやいはやっ……」

 けひゅっ、という咳き込むような音がする。

 見れば既にルシアの息が上がっていた。


「お前体力なさすぎないか……?」


 正直イアだってもっと頑張れるぞ。

 そう思いはしたが、ルシアにとってイアの名を出されてもピンとはこないだろう。

 はっ、はっ、という呼吸音の合間に、まるで喉に皮膚が張り付きました、みたいな感じの咳き込みが入る。


「……追ってきてはいないぞ」


 後ろからついてきていたヴァンが振り返って確認したらしい。

 その声に、ルシアの足がもうダメ歩けないとばかりに止まる。立ち止まると同時に、ずしゃっという音がたちそうな勢いで座り込んだ。はー、はー、と荒い呼吸と同時に肩が上下している。


「大丈夫か?」

「はぁ、はぁ、正直キツイ。普段はインドア派だからな……」

 ひゅーひゅーと何だか危うい感じの呼吸音をさせているので、ウェズンも何となく大丈夫だろうかと気になって背中をさすった。走った事で体力が底をついただけだとわかってはいるが、何というか呼吸器に疾患でも抱えているんじゃないかと思えるくらい不安な音がするからだ。


「これは今すぐ戻るってわけにもいかないよな」

「向こうに戻れば遭遇するだろうな」


 やめておけ、とばかりにヴァンが首を横に振った。途中までは追いかけてきた可能性もある。であれば、来た道を引き返しても再び遭遇するだろうし、仮に追いかけてこなかったとしてもあの場所にいる可能性はかなり高い。


 ちょっと様子を見に戻る、にしても一人で戻って途中で奴らに囲まれたら今度は果たして逃げられるかどうかもわからなかった。


「じゃあ、しばらくはこの辺りで時間を潰してほとぼり冷めたあたりで引き返すか……この辺カミリアの葉あるかな……」


 逃げる時にルシアの袋を持っていたため、とりあえずそれを返す。ヴァンはそれなりに採取したから大丈夫だと思うが、ウェズンとルシアはまだ袋に余裕がある状態だ。これで帰ったとしても、採取量が足りていないと言われるだろう事は簡単に想像できた。


「あぁ、それならさっきからちょいちょい見えてはいた。とはいえ他の植物に紛れてるからそこら辺の草かき分けないと見つからないとは思うが」


 周囲を観察しながらここまで来たという時点で、ヴァンは結構余裕がありそうな感じだった。

 ウェズンも普段であればもう少し余裕をもって周囲を見たかもしれないが、その場合うっかりルシアを置いていきかねないので、とにかく彼の手を引っ張って逃げる方に集中していた。


 先程のハシビロコウもどきがいた場所と違って、今現在ウェズンたちがいる場所は草木が多く生い茂っていた。木々も多くなっているので、何というかうっかり森とか林の中に入ってしまったような気分にさせられる。

 空模様は相変わらずなため、頭上に広がる木々の枝葉のせいでやたらと暗く感じられる。


 いつまでも座っていたらもう立てなくなると思ったのか、ルシアがある程度呼吸を整えて立ち上がる。そうしてついた土ぼこりを払いながら周囲の様子を確認しようとして――


「なぁ、ボクの見間違いじゃなければの話なんだが。

 あれ、建物だよな……?」


 あれ、と言って指差した先に視線を向ける。

 草木が生い茂りすぎてちょっとよくわからないが、それでも何となく人工物らしきものが見える気がした。


「なんだろ、遺跡とかかな?」

 流石にこの辺りに人が住んでるとかそういうのはないだろう。

 そもそも地図で確認した時にそういったものはなかったはずだ。


 あの地図ができた後で、人里が作られた可能性はあるけれどそれにしたってここいらで暮らすと考えると、利点はないような気がする。人目を避けたいだとか、そういった事情でもあるならともかく。


 周囲の気配に警戒しつつ他に行く場所もないし三人はそちらへ向かう事にした。

 途中でまた魔物と遭遇するかもしれなかったが、その時はその時だ。


 気休め程度に足音を消して移動するが、木の枝やら葉っぱやらが落ちているので歩くたびに音がする。この音で魔物に気付かれないだろうかなんて心配しつつも、これ以上はどうやったって足音を消しようがないのでどうしようもない。


 そうして進んでいく事しばし。


 そこに確かに建造物と呼べるものがあった。


「……家だな」

「マジか」


 誰がどう見ても家だ。

 石造りの頑丈そうな家。

 見ればわかるためわざわざ「家だ」なんて言う必要はどこにもなさそうだが、むしろこんなところにあると思わなかったものがあるのだ。見間違いではないだろうか、という気持ちでヴァンも口に出したのだろう。


「どうする?」

「どう、って?」


 ヴァンにちらと視線を向けられ、ウェズンは思わず聞き返していた。


「行くか、見なかった事にして引き返すか」

「……引き返すにしても、さっきの魔物と遭遇する可能性を考えるとな……」


 強そうに見えないとはいえ、あの目力だけはとんでもなかったのだ。

 動物番組で見たハシビロコウのイメージが強いが、もしあいつらがもっとアグレッシブに襲ってくるタイプの魔物であれば、複数を相手取るのは危険でしかない。

 どれくらいの強さかわからないのは中々にこまりものだった。


 実際戦ってみて大したことがなければいいが、そうじゃなければ最悪死ぬ。

 そう考えると気軽に立ち向かおうとは思わない。ゲームなら死んでもリセットするかデータをロードしてやり直すかができるけれど、残念な事にセーブした覚えはないしウェズンにしてみればここは現実であった。

 めっちゃリアルなフルダイブ型VRゲームとかそういうやつだったら良かったのに、などと考えてみるが、まぁただの現実逃避でしかない。


 正直な話、少し休みたいという気持ちもあった。


 あの家が安全な場所であるなら、少し休んでそれからまた行動に移ろうと思えるが、安全だと言える確証もない。あの家を魔物が巣にしている可能性もあるのだから。


「きみの意見を聞きたい」

「正直行きたくはない」


 ウェズンが聞けば、ヴァンは即座に返してきた。


「そうだね。なんかいかにも怪しいし」


 ルシアも気乗りはしないようだ。


 確かにこんな場所にあるという事を考えると怪しい。ウェズンだって嬉々としてあの家に行こうとは思えなかった。


 だがしかし。


 ポツ、とウェズンの顔に冷たい何かが当たる。


 そして直後、ザアッという音をたてて一気に雨が降り出した。


「……行くか」

「そうだね」

「うっわ最悪風邪引きそう」


 幸い今いる場所は頭上に枝葉が広がっている状態なのでいきなりずぶ濡れになったりはしないが、時間差で溜まった雨水が落ちてくるのは間違いない。

 結局のところ、こんな場所にあるいかにも怪しい家に行く事になったのである。

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