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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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勇者物語 参謀ハイネ



 魔王城、突入。


 中に入った途端大量の魔物に出迎えられて初っ端から苦戦を強いられる――とはいかなかった。


 そもそもここに来るまでに一応かなりの魔物を倒してきた、という事になっている。

 なっている、というのは言うまでもない。イアのナレーションで、どこそこにたどり着くまでに多くの魔物を退治しただとか、道中魔物を撃退しただとか、そういうのがちょいちょい挟まれていたからである。


 ウェズン達が何かをした、という感じは一切ない。

 場面カットされてる間にあったらしい出来事なので。



 そもそも魔王城の中に入ったからって魔物の軍勢が出迎えるというのもわかりやすくはあるけれど、実際に考えたらそういう展開は少ないような気がする。

 数ばかり集めたところで雑魚は雑魚。

 精鋭に城を警備させるくらいはするだろうから、確かに苦戦はするかもしれないが軍勢と戦う事はないと思われる。


 まぁ普通の一軒家規模ならともかく城なので、確かにちょっと魔物が多くいたってそれはそれでおかしくはないのだけれども。


 イアのナレーションからどうやら途中そこそこ魔物を倒しながら先に進んで、いよいよ魔王がいるであろう所まであと一歩、というところまでやってきた。

 そしてそこに現れたのは――


「ハイネ……!」

「くっくっく、遅かったな勇者よ……」


「あー、お前そっち側かぁ」

「おう、本当なら別の役だったんだけど、お前らが色々話をこう、アレしちゃうから」

「アレ、って言われてもどれだよって気持ちで一杯なんだわ」


 心当たりがそれなりにあるのでそれ以上何も言えない。


 ハイネの言い分が事実なら、ハイネはもっと早くに登場する予定だったらしい。多分勇者の旅を手助けするような、旅に同行しなくとも役に立つ感じの役どころだったかもしれない。例えば勇者に船を授ける王様だとか。助けてくれた礼に〇〇をやるよ! みたいな感じの。


 ところがウェズン達がかなり好き勝手やらかした事と、イアもさっさと話を終わらせようと思っていたのもあって途中の話は大分端折られる事となってしまった。

 というかウェズン達がやらかした結果、行く必要がなくなってしまった場面がいくつかある。そのせいで四天王以外にも倒すはずだった敵とかかなりスキップされてしまったのだ。


 ある程度アドリブで話を進めなければならない部分は本当に好き勝手自由にやらかしたし、ある程度文字があって一部分だけ空白になっている、みたいなところもイアは強引にどうにかしてきた。

 どう考えてもその空白部分にそんだけのセリフ埋まらないだろう、みたいなのも強引にやったので、いくつかのシーンはさらっと流されてしまったのである。



 ハイネ曰く、そのさらっと流されてしまった部分で本来なら自分は登場するつもりだったのだとか。


 中々出てこないなぁ、と思っていたがその出番を奪ったのはウェズン達だった。


「それで、結局何の役どころに?」

「魔王の参謀かな。そう言われても正直何をしたわけでもないんだけどね」

 肩を竦めて言うハイネに、まぁそりゃそうだろうね、としか言いようがない。


「本来ならここで勇者たちを足止めして、とかそういう事をしないといけないんだろうけどさ。

 参謀一人でやるの、どう考えても無謀じゃない? そんな無謀な事参謀がやると思う?」

「無謀と参謀で韻踏もうとしてない? もしかして」

「そこだけ踏んでもしょうがないだろ」


 何となく突っ込んでみたが、ハイネにはそのつもりはなかったらしい。

 まぁ確かに中途半端に韻踏まれてもな、となったのでそこを更に突っ込む真似はしなかった。


「確かに参謀っていうならわざわざあえて一人で勇者一行の前に出るってのもおかしな話だよな」

「これすら何かの策、という可能性もありますけれども」


 たとえば、この先で魔王が何やら儀式とかやってパワーアップしようとしているところなので時間稼ぎをしなければならない、だとかであれば参謀一人でやって来たとしてもおかしくはない。他の魔物も集めておけよとは思うけれども。


「で、えぇと……そう言ってもここで戦わなきゃいけないんだろうか?」


 ハイネは困ったように上を見た。

 別に天井に何かがあるわけでもない。ただ、ここからでは見えるはずのない天の声――イアへと視線を向けようとしたに過ぎない。


『魔王の参謀を務めているハイネは勇者たちと事を構えるつもりはありませんでした。どうにか話し合いで終わらせようとしています。そんな参謀に勇者は――』


「ここでまさかのこっちにパスか」


 ウェズンもまた困ったようにハイネを見た。

 戦うつもりがない、というのであればそれはそれでいい。

 けれども。


「念の為聞くけれど。

 魔王側についたら世界の半分やるからこっちにくだれ、とか言い出したりしないよね?」

「まさか。相談は魔王についてだ」


 薄々気付くしかなかった。

 本来の役が出番を失った事でハイネに回ってきた役は魔王の参謀だ。多分だけれど、敵側に回される役はそう多くなかったのではないだろうか。レイもそうなっていたはずだけど、ウェズンがさも知己に対するノリで魔王退治に勧誘したからこそ仲間になってしまったけれど、もし勇者が普通の青年で裏稼業的な肩書がなかったならば、間違いなく最初のボスみたいな扱いで倒されていたはずなのだ。


 はたまた、倒した後で改心して仲間に、という展開にも持っていけたかもしれない。


 一応仲間にできるかもしれない程度のボスキャラ、あたりがウェズン達本の中に閉じ込められた者に与えられる役の限界なのだろう。

 あまり強い敵に役を振ってしまうと、うっかり敵側が勝利してしまった場合、物語が終わりを迎える事がなくなる可能性が出てきてしまう。


 勇者物語・バッドエンド。とかそんなタイトルだったら別に負けたところでまぁバッドエンドだからね、と言い張れるけれどそうでなければ最終的に魔王を倒さなければならないはずだ。

 あえてこの勇者物語を魔本にした妖精が何をどう考えていたかはわからないが、バッドエンドで魔王を倒せなかった場合も話を最後まで進めた、という認識になるのかがわからない。

 最悪ナレーションがそんな最悪な未来を予知してしまったのです、とか言ってある程度話を巻き戻してやり直さなければならなくなるかもしれない。


 話の進め方次第では四天王あたりもこちらに寝返るようにできたかもしれない。配役次第ではあるけれど。誰かがその役になっていたなら可能だっただろう。そうでなければ倒すしかない。


「って事は……その、もしかしなくてもウィルが」

「そうなる」


 どうやらこの勇者物語の魔王役になってしまったらしい。


 勇者たちが倒すにしてもだ。


 ちょっと絵面が酷すぎやしないだろうか。


 ウィルは見た目小柄な――それこそイアとそう変わらない――少女である。エルフなので年齢的に少女と言っていいかは微妙なところだけれど、それでもまぁ少女と言っていいだろう。

 それを寄ってたかってボコるのは、いくら魔王を倒さないといけないストーリー展開だとしてもあまりにあんまりではないだろうか。

 まだレイとかなら集団でこっちが向かっていってもレイも好戦的に「かかってこいよオラァ!」とかノリノリで言えるし実際戦えるけれど、ウィル相手に集団で、っていうのはとても気が進まない。

 ウィルは決して弱くはないけれど、それでも見た目がちんまいので。

 たとえ自分たちより年上だと言われても、どうしたって小さい子に見える見た目なので。


 大人げないいじめをしているように見える気しかしないのだ。


 いやまぁ、ウェズンの前世の世界では合法ロリで年齢はともかく見た目がロリっ子であってもとってもつよつよな強キャラはそれなりにいたのだけれど。

 けどいくら強いと言われても、だからといって嬉々として攻撃できるかはまた別の話である。


「一応、魔王としての姿になってるから最初はウィルとはわからないと思う」


 この参謀、しれっとネタバレかましやがった……! と内心でウェズンは叫んだが、その情報がなかったら普通にウィルだと思わず攻撃を仕掛けていたはずなので、むしろ他にもっと情報寄越せと言わんばかりの態度でハイネにあれこれ質問をし始める。



 ――結果として。


「まぁ、うん。どう考えても茶番だけど、エンディングまでの道のりは見えた……気がする」


 気がするだけかよ、とレイに突っ込まれたが仕方がないだろう。

 そもそも上手くいくかどうかはウィルのノリの良さにもかかっている。

 まぁここでの会話がウィルにも筒抜けであったなら、一応ノッてくれるとは思うのだけども。


 だがしかし、もしウィルに割り当てられていた役が魔王よりも美味しい感じだった場合多少の八つ当たりがきてもおかしくはない。

 どうだろう。最後まで抵抗されたりはしないと思うのだけども。


 ともあれ。


「この戦い、勇者じゃなくてお前にかかってるからな、レイ」

「……わーったよ、やるよやればいんだろ」


 ちゃんとした計画なんて話してもいないけれど、それでもポンとウェズンがレイの肩を叩けば、大体の事は察したのだろう。何せ相手はウィルだ。

 そうなれば、ウェズンがやるよりレイがやった方がいい。

 面識のない相手だったならともかく、面識がある相手の方が効果的なのは言うまでもないからだ。



 かくして勇者たち一行は魔王が待ち構えているであろう玉座までやって来たのである。


「……ハイネに言われなかったらアレがウィルとは気付けるはずがない……!」


「ハイネよ、まさか貴様が勇者に与するとはな……見損なったぞ……」


 ゴゴゴ、という一体どこから聞こえてくるかもわからないやたらと重々しい謎の効果音が聞こえる中、魔王の威圧感たっぷりな声が響き渡る。

 ハイネに魔王はウィルだよ、と言われていなければわかるはずがなかった。


 何せ今ウェズン達の目の前にいる魔王は、そもそもウィルの姿をしていない。


 ツノなのかトゲなのかわからない物体が頭から生えてるように見えるし、なんというか全体的に真っ黒いし、目があるだろう部分だけが黄色く光っている。

 なんというかだ。


 魔王が出てくる作品の、最初の頃のまだ魔王のビジュアルが確定していないやつだとかに出てきそうなシルエット状態なのである。

 ツノなのかトゲなのか、はたまたそれが実は奇抜な髪型なのかもわからない尖ったシルエット。

 ウィルの小柄な体躯とは違う、巨大で真っ黒な影。

 ローブあたりを羽織っているのだろうな、とは思う。


 小さな子でも何となく頑張れば描けそうな、概念的な意味での魔王の姿がそこにあった。

 なんだったら声も低く渋くウィルの声とはとてもじゃないが思えない。


 ハイネが教えてくれなかったら、間違いなくウェズン達はここでもある意味ふざけ倒して魔王を倒しにいくところだった。

 危ない、後で魔本から出たあとで、倒し方雑! とかウィルがプンスコする可能性すらあったのだ。


 間違いない。

 まずはこの第一形態をどうにかしないといけないのだ。


 ウェズンが仲間たちに目配せしてそれぞれが行動に移ろうとして。


「裏切り者は死ねぃ!!」

「そうはいくか!」


 魔王の情報を勇者たちにペラペラ喋った事になってるハイネが魔王の攻撃を食らいそうになるも、ハイネは思った以上に軽い身のこなしでそれを回避した。

 ドカン! という音がして直前までハイネがいた場所に雷が落ちる。


 こっちは魔法らしき力はほとんど使えないけれど、魔王にはそういう制限はないらしい。


「アレス!」

「あぁ、わかっている!」


 ウェズンが呼べばアレスは頷いて、そうして仰々しく祈るようなポーズをとる。

 直後、ウェズンが手にしていた武器が輝いた。


 ハイネに攻撃を集中させていた魔王に向かってウェズンが駆けだす。


『人々の平和を求める願いに応えるように勇者の武器が輝きます。そうして多くの希望が集い光り輝いた武器は、かつての伝承に在った聖剣へと変化しました』


 天の声のフォローもあって、今まで普通に暗殺のお仕事に使われていたであろう武器がしれっと聖剣にクラスチェンジするが、これも色んな場面をすっ飛ばした結果である。

 本来の勇者物語では聖剣を手にするためには様々な試練が必要なのだ。やってられっか。

 普通に岩に突き刺さった剣を選ばれた者が抜く、くらいのシンプルさで良かったのに、やたらと試練が待ち構えているとなればそりゃあ展開をショートカットしたくもなる。


 まぁ一応いきなり何の前触れもなくしれっと聖剣を手にするわけにもいかないので、それっぽい感じのワンクッションは入れたけれど。



 ご都合主義もいいところだが、そもそも天の声は圧倒的にこちらの味方なので。


 あとはもうエンディングまで突っ走るだけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この物語は妖精によって撮影・上映されています。 っていう文言が頭に浮かんだ。次回が楽しみですね
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