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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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勇者物語 決戦前夜



『さて、四天王を倒し残すところは魔王だけとなりました。いよいよ、魔王城までたどり着いた勇者たちの最後の戦いが始まろうとしていたのです』


 あっという間に魔王城まで話が進んだ。

 土のゴランを倒した後、水、風、火と他の四天王を倒してきた――というかふざけ倒してきた。


 しれっとアレスとファラムも勇者一行の仲間入りをしている。

 別に、その場でお別れする流れになっても良かったのだがそうなると待機中の時と同じく白いページのどこかで話が終わるのをただ聞いて待つだけとなりかねない。それ故に、アレスもファラムも共について行くと宣言したのである。


 とても勿体ぶった言い方をしてようやく魔王城までたどり着いた、みたいに言われているがしかし実際はサクッと四天王を撃破して即魔王城だったので、体感土のゴランを倒してからまだ三十分くらいしか経過していないはずだ。本来ならもっとタイムを縮められたかもしれないが、しかしイアが音読しなければならない事もあって途中水分補給だったり、トイレ休憩だとかで席を立ったらしく一時的に話が先に進まなかったりしたのだ。


 普通に目だけで話を追うのであれば、もっと早くに終わっていただろう。

 しかしイアが声に出して話を読まなければならないというルールが存在するせいで、通常以上に時間がかかってしまった。


 読んでいる途中でセリフをとちったりしないようにしていたのもあって、ナレーションの声は割とゆったりめである。


 いよいよラストバトルが始まる、というところではあるのだが、いい加減喉が疲れてきたらしいイアは一度席を立って蜂蜜入りの紅茶を飲んでくると言っていた。

 ただの読書ならまだしも延々朗読させられているのだから、休憩は大事だと思う。

 途中変に読み間違えたりして本来の意味とは異なる展開に強制的に突き進まれたらウェズン達にとっても困るのでむしろゆっくり休憩してから再開してほしい所存。


 そういうわけなので、これといって物語が先に進まない状況下、現時点では魔王城手前で野宿とかしてる状態であった。



「いや、しかしまぁ、思った以上にサクサク進んだね」

 ウェズンが言う。


 魔王を倒しに行く旅に出て、普通であれば四天王と戦う時など確実に死闘を繰り広げるような状況だろうはずなのに思った以上にサクッと進んでしまったのだ。

 というか、まぁ本の中だし物語的にどうにかなってればオッケーだろ、みたいなノリでやらかしていたのでほぼおふざけで通してきた。



 余談ではあるが、この世界には実際勇者物語という童話が存在している。

 内容はとても王道で勇者として魔王を倒しに行く話としか言いようがない。

 元の話があるので、それを知っているならばそれに合わせてストーリーを進行させれば確実にエンディングへと辿り着く。

 けれどもその場合、勇者は何度も死にかけるしその分成長もするけれど、魔王を倒すまでにそれなりの時間が経過するのだ。

 長い長い旅が終わりを迎えた、なんていう言葉でエンディングは〆られてめでたしめでたしで終わる。

 けれども、まずもって序盤でイアが勇者に暗殺組織のトップという肩書をつけた事で、それを利用する事に決めたのが本来のストーリーとの違いだろう。

 一応魔王を倒しに向かってはいるけれど、どの部分の話も本来の物語の内容とは異なってしまった。

 むしろこれで同じように進んだらそれはそれで逆におかしいだろと突っ込んだのだけれど。


「あぁそうだな。割とごり押しでどうにかなるってのが大きかったな」

「ですね、実際の勇者物語と同じように進めなければならない、というのであればもっと時間がかかったかも」

「というか、その場合勇者の仲間は全部で三名。勇者含めて四名なので……」


 誰かしらは仲間になれずどこかで待機する事になったでしょうね、というファラムの言葉に誰も何も言わなかった。


 先着順で早々に仲間が集まってしまったので、物語の通りに四人一組であったならアレスとファラムはついていけなかったのである。



「四天王がそこまで強くなかったってのも大きいな。毎度死闘を繰り広げなければならない、なんてルールがないだけでかなりマシ」

 強敵と戦い勝利する事で強くなる、みたいなのはわかりやすいけれどもしかし実際にそれを自分たちがやらなければならないとなると、途端に遠慮したい展開である。


「土のゴランは遠距離狙撃でトドメ刺せたし、他の四天王も割と力技でどうにかできたのが大きいよね」

「えっと、水の四天王名前なんだっけ?」

「なんだっけ? 覚えてないや。ヌ……ぬ? ヌなんとかヌ、みたいにぬで始まってぬで終わる名前だった気がするけど……」


 なんと土のゴラン以外の四天王、あまりにもあっさりと終わってしまったせいで名前すら記憶にない。

 本来の童話としての勇者物語ですら、四天王の名前は実は記されていない。土の力を持つ四天王、とかそういう表記である。長い。


「まぁいいや。水の四天王は結局たまたまその町の特産だった液体窒素で凍らせて倒したし」

「そもそも特産が液体窒素ってどうなってんだよ」

「いやこっちに言われても。そりゃ適当に指定したのは僕だけどさ。でもイアだって何も言わなかっただろ」


 あまりにもあまりな展開になればイアだって天の声として物申したかもしれない。

 けれどもイアは土産物屋にある液体窒素、とかいう明らか突っ込みどころしかない状況を作り出したというか言い始めたウェズンに否とは言わずそのまま話を進めたのだ。


 自らの身体を液状にして襲い掛かってきた水の四天王は液体窒素で瞬間冷凍されてそこを物理的に砕かれたのである。


 水の四天王の敗因は、よりにもよって土産物屋でそんな物を売ってる事にされた町で勇者たちに戦いを挑んでしまった事だろう。



 ちなみにこの勇者物語、魔術など本来ウェズン達が使える能力はどうなっているのかというと、ほぼ使い物にならなかった。

 一応使おうと思えば使えるけれど、あまりにも弱い力しか出ないのだ。

 炎を出そうとしても精々蝋燭に灯せるくらいの火しか出せない。本来ならば炎の玉である程度火だるまにできるだけの威力があったとしてもだ。

 そのくせちょっと使ったらとんでもなく疲れた気がしてくるので、試しに一度使って以来ここでは使ってすらいない。

 それ故に、基本は物語の中で与えられた自分たちの肉体的なスペックのみで勝負している。


 まぁ、割と高スペックな身体能力を与えられているのでほとんど困る事なく魔王城手前まで辿り着いているわけだ。


「風の四天王とかもどうかと思ったけどな」

「あれは直接近づけなくて困ったよね」


 風の四天王は自分の周囲に風のバリアを張り巡らせて物理的に接近されないようにしていた。かといって遠距離攻撃ができる武器――弓矢だとかボウガンだとか――で攻撃しても風の強さで弾かれて攻撃が通らない。

 どうしたものかと思っていたのだが。


「たまたま領主の息子が金に物言わせて作ったクレーン車が役立ちましたわね」


 風のバリアがあろうとも、重量のある鉄球でバリアごとぐしゃっと押しつぶしてしまえば問題なかった。

 確か本来のストーリーにそんな展開はなかったと思うのだが、利用できそうな部分は遠慮なく利用した結果である。


 領主の息子がたまたまこんなこともあろうかと思って作らせておいたのさ、とか言い出した時は恐らく別の何かが出てくるはずだったとは思うのだが、そこでウェズンがふざけ倒して、

「そ、それは伝説のクレーン車! 建物を効率的に破壊するための鉄球は最早他の追随を許さない、まさにこの場で求められていた至高の一品!」

 とか言い出したのが原因だった。


 そのクレーン車が変形して巨大ロボットになる可能性も下手したらあったかもしれないが、一応そこまではしないようにウェズンも自重はしたのだ。全く自重されたように思えずとも。


「風のバリアが解除された後は普通に囲んで殴るだけで終わったもんな」


 とんでもねぇ暴力での解決である。それも取り囲んでる時点で集団リンチと言ってもいい。

 お前ら本当にそれ勇者の所業か? と聞かれそうだが、この勇者は暗殺組織に所属しているし、なんだったら仲間の一人は盗賊団のトップである。

 逆にその程度で済んでると言ってもいい。


「炎の四天王に関しては楽と言えば楽だったよな……」

「最初は水で消そうとしたけど結局燃やし尽くした方が手っ取り早いってなったもんな」


 最後に残っていた四天王なくらいだから、相当苦戦を強いられると思っていたのに蓋を開けてみれば一瞬で終わった。最初は纏っていた炎を消そうと試みたが全く効果がなかったので、逆に考えようか、消すより燃やし尽くせばいい、とか言い出した結果だった。


 自らが出していた炎は四天王自身を燃やさなかったが、しかし後から追加された炎は最初のうちこそ四天王の力に取り込まれその威力を増すかと思ったが、結局キャパオーバーを起こして最後はその自分の炎でもって焼かれたのである。末路が酷い。


 ウェズン達からすればこんな力技ごり押しで勝ち進んで大丈夫なのか? という気がしないでもなかったが天の声の勇気と知恵で乗り越えたという一言で大体丸く収められたのである。

 イアがもっとこの勇者物語に対して情熱を持ち原作基準で進めなければいけない、というこだわりがあったならこうはいかなかっただろう。


 そもそも今回の件に関しては自分たちが望んで魔本を使ったわけじゃない。

 気付いたら取り込まれていたのである。

 強制的に相手のルールに巻き込まれているのだから、そのルール内でやらかしているうちは文句など言わせてたまるか、という気持ちもあった。


 そうやって少し前までの四天王戦を思い返していれば、どうやらイアが戻って来たらしく天の声が告げた。

『一夜明けて、勇者たちはいよいよ魔王の城へ足を踏み入れる事になりました』


 おっ、最終決戦が始まるのか。

 感情の違いはあれど、一同大体そんな風に思っていたしとりあえず後は魔王を倒せば物語は終わりを迎える。


 ただ――


「いまだにウィルとハイネが出てきてないんだけど、これどう思う?」

「ここに来て仲間フラグは無いだろ……」


 ウェズンの問いにレイはうんざりした顔をした。

 どっちかが魔王として出てきても何もおかしくはない。

 そして、どちらが魔王であったとしても。

 今までのノリでどうにかできるか、となると微妙だし恐らく苦戦は必至だろう。


 しかしここで嫌だ戦いたくないとごねたところで何も始まらないし終わらない。

 一同は、改めて気合を入れて魔王城へと臨んだのである。

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