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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
六章 広がるものは

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勇者物語 旅立ち



 ナレーションの声は本の中の登場人物たち――つまりはウェズン達にきっちりと聞こえていた。たまにナレーション……? と言いたくなるような言葉も聞こえたが、それがウェッジとの会話である事が発覚した。

 どうやらウェズン達が本の中に閉じ込められた後でやって来たようだ。


 とはいえウェッジの声は本の中には聞こえなかったので、あくまでもイアの言葉から何となく何を話したのか想像するしかない。と言っても、そこまでぶっ飛んだ会話はしていないようだが。



 あまりにもイアがおかしな方向にストーリーの舵を切りだしたらウェッジが軌道修正してくれる事を願うしかない。



 とりあえずは。



 王様を真ん中に挟むように両隣にはヴァンとルシアがいた。

 最初、二人の姿は学園の制服を着ていたというのに二人の役柄が判明した途端ポンと軽い音がして衣装が変わった。実のところウェズンもそうだったので、驚くタイミングはとっくに過ぎていたのだけれど。


 てっきり二人は王様の護衛騎士とかそういうアレだと思っていたウェズンは、二人の衣装を見て「えぇ……?」と戸惑ったような声を出した。

 いや、わかるよ?

 見りゃわかるよ?


 でも、なんていうか。


『王様は旅立つ勇者に当面の路銀と、仲間として王子を連れていくがよい、と告げました。王様の言葉に従うように、すっと一歩前に出たのはヴァン王子です』


「王子役かぁ……てか、役、ねぇ……?」


 天の声でもあるイアの言葉にヴァンは苦笑を浮かべるだけだ。

 けれどもとりあえずは一歩前に出て、

「貴方と共に必ずや魔王を打ち倒しましょう」

 と一応それっぽいセリフを口にする。


 言いながらヴァンはふと、ナレーションは恐らく全員に聞こえてるとは思うけど、でもまだ出番じゃない他の人たちはどこでこれを聞いているのだろうか、と思った。本の中なのだから、きっと先のページのどこかだろうとは思うのだが。

 出番がまだの人は白いページのどこかでただ音だけを聞いているのかもしれない。

 ……そう考えると、音だけでどこまで状況を把握できるのだろうか、とも思ってしまう。


 天の声だけしか聞こえなかったら一部話の内容理解できない部分ができそうである。


 他の誰かと合流したら是非とも確認したいところだ。


『早速勇者は王子と共に城を後にしようとしましたが、そこに待ったがかかりました。

 そう、ルシア姫です』


「ひ、め……!」

「確かにその顔面は圧倒的姫だけど……!」


 笑い混じりに二人は危うく転げまわるところだった。

 ネットの某掲示板だとか、それ以外でも緩い場所なら間違いなく草が生えまくっていたに違いないと思われるくらいに笑いが含まれていた。むしろ笑いの合間にかろうじてセリフがあると言う方が適切だろう。


 顔面だけならいつ見ても圧倒的美少女フェイスなので、姫と言われても二人はそうだねわかるよ、と言ったとは思う。しかし、今はそうではない。

 普段はいくら美少女ヅラしていたって、ルシアの性別が男であるのは間違いないのだ。

 学園の制服だって男性用のものを着ている。女装すれば似合うだろうとは思うけれど、好き好んで自分からそうするような奴ではない。

 似合うから、で女装する程ルシアは酔狂ではないし、自分は男であると断言している。時と場合によっては女性の振りをして騙す事もあるけれど、しかし普段は別に女性の振りをする事もなかった。


 だがしかし。


 今のルシアはいかにもなお姫様っぽいドレスを着ているのだ。

 それこそ、着せ替えアバターみたいに気軽にポン、と一瞬でお姫様の姿にされたルシアはびっくりするくらいの美少女だった。


 ……嘘だろ、これで下についてんのかよ、とか思ったとしても決して口に出してはいけない言葉である。


 とはいえ、ルシアは実際男なので勿論の事胸はない。豊満でたゆんたゆんするようなおっぱいなど存在はしていないし、ましてや鍛え上げた雄っぱいなるものも存在していない。

 まぁそのせいでとてもスレンダー体型の美少女に見えるのだが。


 確かによく見れば女性とは異なる体格というか骨格だなとは思うのだ。

 女性であればもうちょっと丸みがあるように見える部分だって骨でカッチリしているし、そういう部分を見ればスレンダーで済ませていいのか? と疑問に思う者も出るだろう。

 だがしかし、ルシアの顔は圧倒的なまでに美少女なので。


 その顔を見た瞬間骨格がちょっと女性とは違う気が……? と思われたとしてもその顔面の美少女力によって単なるスレンダー美少女へと変換されてしまうのがとても恐ろしいところであった。


 そんなルシアがウェズン達に待ったとナレーション通りに声を上げ呼び止める。


 とはいえ、ルシアも一瞬「えっ?」と戸惑ったのだ。その次に来るであろうナレーションの声がいつまでたってもやってこなかったので。

 えっ、ここからアドリブ? 自分でセリフ言わないとだめなの? と一瞬でパニクりそうになったものの、しかしすぐに冷静さを取り戻す。


 これくらいで慌ててたら、命がいくつあっても足りない環境で生きてきたのだ。絶対に混乱しないとまでは言いきれなかったけれど、けれども冷静さを取り戻すのは以前に比べればかなり早い方だった。


「国の方針でこのような姿をしてはいましたが、しかしボクも王子。国王は魔王退治に王子を共にと言った以上、ボクも行くべきでしょう!」


 だーれがお姫様なんぞやってやるかよ! と言わんばかりに自分もまた王子の一人だと宣言する。

 そうしてバサリとドレスを脱ぎ捨てる――普通に考えたらこんな風に脱ぐのは不可能っぽい構造だがしかし舞台衣装だからか、簡単に脱ぎ捨てる事ができた――と、次の瞬間ルシアの衣装はヴァンのものと似た王子っぽい衣装へと変わる。


『王様は流石に二人同時に行くのはちょっと、と難を示しましたがしかしルシア姫――いえ、ルシア王子も退きません。結局勇者ウェズンと共に魔王を倒しに行く仲間として、二人の王子が加わったのです』


「えっ、確かに王子一人だけとか人数指定してなかったけど、でもこれ大丈夫なの?」

「普通に考えて不味くないか?」

「知らないよ。ボクがお姫様役とかするくらいなら後継ぎの王子二人くらい国から出ても当然の帰結だよ間違いない」


 最早王子二人が参加するのは決定事項となったので、王様はおろおろしているがしかしモブなのでその表情はよくわからない。何となく困ってるんだな~という雰囲気はしているが、顔の部分はぼやけていてハッキリしていないのだ。


 けれども恐らくはこのモブにも天の声が誰かキャストをあてた途端、その誰かの顔になるのだろうなとも思っている。


 魔王を倒して帰ってくる事ができればいいが、そうでなければこの国いきなり王子二人失う事になるのでマジで国大丈夫? としか思えないが、ヴァンもルシアも全く気にした様子がなかった。

 まぁ本の中だし別に本当に自分の故郷というわけでもないので、王子二人、とてもドライ。


「大体下手したら魔王倒して国に凱旋した勇者と姫が結婚するオチとかあるかもしれないんだぞ。ウェズン、話の中とはいえボクと結婚するおつもりで?」

「あー、それはちょっと。そう考えるとファインプレーか」

「そうだよ、この手の話の最後で結婚式とかし始めたら間違いなく二人は幸せなキスをしたとかいうオチになって終わるんだからな、冗談じゃないだろ!?」

「それは確かに」


 いくらルシアの顔がえげつないくらい美少女であっても野郎である事にかわりはないし、劇のようなものであっても流石にエンディングシーンでキスはないなとウェズンだって思っている。

 どうしても避けられない展開であれば軽く触れる程度のものならまぁ、どうにか……と妥協に妥協を重ねてそう思わなくもないが、しかし舌を絡ませて濃厚なのぶちかませとか言われたら二人は現実に戻った時点でナレーションとはよぅく話し合わなければならなくなるだろうし、場合によってはナレーションを無視してとんでもないエンディングを新たに作り出すしかなくなってしまう。


 妹が一応頑張って話を終わらせるために進めているのはなんとなく声からもわかるのだけれど、しかし場合によってはそのナレーションを無視する展開もあり得るのだ。

 一応、妹の意思に沿いたい気持ちはあるのだが何事にも限度はある。


 天の声もルシアの事を姫といったもののその後特にブーイングしたり無理にでも姫に戻そうとしたりはしていないので、この展開には何も問題がないものとした。


『さて、城を後にした勇者たちが最初に目指したのは、王国を荒らしまわっている事で有名な盗賊たちのアジトです。魔王を倒す旅に出るとはいえ、それ以外の脅威を放置していくわけにはいきませんでした』


「ふむ、まぁ妥当と言えば妥当」

「確かに魔王倒して帰ってきたら国が盗賊に支配されてた、とか本末転倒もいいところ」

「それ以前にそれくらいは城の兵士で対処しろって話じゃないの?」


 ウェズン達は各々感想を口にしながらも、とりあえずは街を出てその盗賊のアジトとやらへ向かうべく進む。

 といっても、場面転換があるのか街を出たらパッと景色が変わって目の前にそれっぽいアジトが見えた。周囲を見れば大分離れた場所にお城が見える。恐らくはそこからここまでやって来たのだろう。

 道中イベントがなければ目的の場所まではすぐに辿り着けるというのが判明した。


 実際徒歩で移動する時間がかかっていたならば、果たしてこの本が終わるまでにどれくらいの時間がかかるという話だ。


「というか盗賊って」

「俺だ」


 ウェズンの声にこたえたのは、アジトから出てきた一人の長身の男であった。

 というかレイである。


 一同「だろうね」と言いたげな顔をしてレイを見ているし、レイもまたなんとも言えない表情をしていた。


 そりゃあ確かに実家的な意味で盗賊と海賊稼業やってるようなものだけども。

 キャストのチョイスがそのまますぎやしないだろうか、というのがレイの素直な感想である。

 いやまぁ、自分が王子として振舞えとか言われてもできる気がしないのでいっそ演技もなく素で行動できる役柄なのは楽と言えば楽なのかもしれないが。


『早々に現れた盗賊の親分に、勇者は一歩前に進み出て声をかけました』


「行こうぜ、魔王退治」

「オッケー把握」


『こうして国を荒らしていた盗賊の親分が仲間に入りました』


「ざっつ……!!」


 ルシアの草が今にも大量に生えそうな突っ込みが響いたが、しかし今の展開がなかったことにはならない。


「いやでもほら、勇者だけど僕は暗殺ギルド束ねてる立場っぽいし?」

「裏稼業同士で繋がりがないとかそっちの方が可能性として低いだろ。手を組んでるか対立してるかの違いはあるかもしれんが」


 これでウェズンが普通に正義感の強い青年という紹介しかされてなければこの展開はなかったかもしれないが、よりにもよって暗殺ギルド束ねてる立場だと言われてしまえばご近所さんで暴れまわってる盗賊とか間違いなく顔見知りだろう。実際リアルでも顔見知りなわけだが。



「というか、この国マジで大丈夫なんだろうか」


 真顔で呟くヴァンの言葉には誰も何も言えなかった。


 大体王子二人が魔王退治に参加。

 これ負けたら王子二人死ぬわけだし、そうなると跡取り他にいなかったらアウト。

 魔王討伐に勇者を選んで、という点はともかくその相手が暗殺ギルドの頭領。

 まぁロクに戦闘訓練もない志だけがご立派な若者、というよりは実力的な意味で現実的ではあるのだけれど。

 アングラでお互い見知ってる事になってしまったレイとは早々に手を組んでいるが、そもそもそのレイは盗賊として国を荒らしまわっていたわけで。


 多分魔王倒して凱旋した時点で、今まで国を荒らしてたけど魔王倒したから褒賞として今までの悪事は無かったことにしてね、がごり押しできそうなのも困る。

 確かに国を荒らした犯罪者であっても魔王を倒したとなれば世界を救った英雄の一人。

 ある程度期間を置いてから秘密裏に抹殺しようとしても暗殺ギルドの者には頼めない。


 色々と勘繰りも含めて考えると、この国の未来は果たしてどれだけ残されているのだろうか……と思えてくる。

 お話の中だからまぁ、案外どうにでもなるのかもしれないし、どうにもならなきゃ滅ぶだけなのだが。


 ヴァンからすると最初仲間として差し出された王子――つまりヴァンである――は王から疎まれでもしているのかと勘繰ったのだ。

 魔王退治に参加させて箔をつけさせるにしても、危険である事には変わりがない。最悪死んでもおかしくないのにまさかそこに跡取りを送り出すとか、他にスペアがいますよと考えるのが普通だし更にそっちのスペアに期待しているのでお前は最悪死んでも構わんという悪意すら見え隠れしている気になってくる。


 なんだったら魔王倒した時点で勇者の暗殺でもして手柄総取りしてこいとかいうやつかとも思ったくらいだ。


 作中で死んでも物語が終わればきちんと本の外に戻る事ができるとわかってはいるけれど、しかしそれでも簡単に死んでやる気はない。

 なんだったら途中で適当にドラマチックな演出でもして戦線離脱してやろうかとも考えたが、そこら辺はナレーションの采配もあるので何とも言えない。



 あれ、ここから先結構白い部分が多いな、上手い事話つなげろって事? なんていう天の声のぼやきが聞こえた。

 あっ、これ割と自由に話進めていい感じのやつだな、とウェズン達は早々に理解するしかなかった。


 ちなみにレイに確認してみれば、一応魔王を倒してこいと言われたあたりのウェズン達のやりとりも、天の声も普通に聞こえていたらしい。

 いちいち情報共有する必要がないのは何よりである……が、まだ街の外に出たばかりなのにもう勇者含めてパーティメンバーが四人になっているのはいかがなものかなと思わんでもなかった。


 まぁ仲間一人増えるたびに相手のやたら重たい過去編始まったり主人公の秘められし過去回想が始まったりしないだけマシだろう。


 ある程度話の骨組みが決まってるならまだしも、さっきイアが呟いたみたいにほぼアドリブでこちらに任された場合、そんな壮大な過去とか出せる気がしないのでそんな展開が今後もない事を祈るばかりだ。

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[一言] 忍び足使えないと足手まといなりそうなパーティ
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